凍える村に温もりを(3)
翌日、ベジッタ村の空き地に村人たちが集められた。
「お前ら、分かってるな! この建物は村の生命線になる!
気合い入れていけよ!」
父さんの喝に区画全体に響き渡るほど大きな声の波が返ってくる。「コング、早速だけど基礎工事と地下室用の穴をお願い」
『♪』
「坊ちゃん! 掘り出した土はこの辺でいいですかい」「一旦ここにお願いします!」
コングが猛スピードで地面を掘り進め、その土は余すことなく僕の錬金術でレンガに変えていく。
「設置はマンパワーでするしかなくて。 お二人に取り付けは任せてもいいですか?」
「おうよ。 配管は水道の命だ。 ボウズが作ったこの湯沸器を生かすも殺すも技術者の腕次第だからな。」
「ドワーフの血がたぎるぜ! おっしゃいくぞテッカン!」
「ソルジャー、運搬はゆっくり慎重にお願いね。」
基礎工事、スライム浄化槽、壁ができ、床ができ、脱衣所、風呂場…と順番にレンガや立方体、タイルを並べて…わずか1日でレンガ造りの共同浴場が完成したのである。
「あぁ~……」
「こりゃ、たまらんのぉ…」
あちこちから聞こえる魂の抜けた声
「このドロっとしたのなぁに?」
「これはね、頭をきれいにするためのものよ。洗ってあげるから目を瞑ってるのよ」
「はーい」
ゴシゴシゴシゴシ…
「きもちいい」
「そうでしょう。 クロスエイド様がお作りになった元気の素なの」
初めての物に戸惑いながらも楽しんでくれる声
「おぉ…腰が動く…体が軽いぞ! これはクロスエイド様の若返りの湯じゃあ!」
「大袈裟だってアンタ。 そんな1回入ったぐらいで変わるわけないんだから」
「そういうお前だって昨日まで引きずりながら歩いておったのが元に戻ってるではないか!」
「え? あぁーーっ 膝が痛くない! なんで!? どこ行っちゃったんだい、膝の痛みぃ!」
体の不調がなくなり、早くも常連になりそうな人たちの声
そして
「「「 プハァーッ! 」」」
キンキンに冷えた蜂蜜入り豆乳はあっという間に売れ、みんなが腰に手を当てて幸せを喉の奥に送り込んでいる。
「みんな笑ってるね」
「幸せはみんなで共有することで、新たな力になる。
この冬は厳しいですけど、お風呂がみんなの温かい場所の一つになれたらいいですね」
「もうなってるよ。 みんな元気に春を迎えられそうだ。」
「こうしちゃいられません。 他の区画の共同浴場の予定地も見に行きましょうか」
「やっぱり忙しくなるんだね…」
「ほら、アルフ兄 行きますよー!」
「ハイハイ 分かったよ」
風呂の導入によって、この村にとって冬は厳しいだけのものではなくなった。
そしてこの風呂が、後に村の産業に大きな波紋を呼ぶことになるとは誰も、クロスエイドですら気づいていなかった。
一方その頃、従魔たちはというと…人間で耐えられないものを野晒しと言っていい外に置かれて耐えられるはずもなく、イリスの入浴のご相伴に預かっていた。
「「「「 コケェ~… 」」」
「お主らは鶏としての野生をどこに置いてきたのだ?
とはいえ、こうして誰も使っておらぬ時間に風呂を味わっておる我もこやつらのことは言えんのだがな
ハァ~~~我の楽園はここにもあったのであるぅ~~」
『メープル…シアワセ…♡』
コッコたちは湯に浮かび、メープルは風呂に浮かべた桶の上にタオルを敷いて蒸気浴、イリスは鼻より下を湯に沈めブクブクして遊ぶ。
思い思いの方法で風呂を楽しんでいた。
クンクン…!
「この匂い、どこかで」
「「「「 コケコぉ~… 」」」」
もう一度鼻を利かせると何やら風呂から美味しそうな匂いがしてくる。
「はっ! お前たちダシが出ておる! すぐに出るのじゃぁ!」
「「「「 ケコォ! 」」」」
コッコを両脇に抱えて飛び出すイリス。
どうやら、我が家が騒がしいことには変わり無いようです。




