凍える村に温もりを(2)
石や土、木材を僕の錬金術で立方体に加工し、図面の通りに積んでいく。
あのゲームを真似した建築方法はこれで3度目。 僕たちにとっては雪遊びをするより慣れたものである。
「アルフ兄、そこは窓をつけるので両サイド1列だけ積んで、間の縦5ブロック、横10ブロック分開けてもらえますか」
「りょーかい」
「クロス~、鍛冶工房のおっさんから空いた酒瓶もらってきたぞ~」
「ここの壁を積み上げたら加工するので、とりあえずこの辺にお願いします」
「お~う」
「おサルさん、お願いね。」
『♪』
「オーライ! オーライ!」
『…』
「はいオッケー。 ソルジャー、ありがと。 錬成!」
「コケコッ!」
「「コケッ」」
「みんなお願いね」
「錬金術で決まったサイズの立方体を作り、主の錬金術で一つに再度繋げる建築方法であるか…実に興味深い発想である」
「ちょっとぉ! イリスも手伝ってよ~!」
「む…バレたのである」
働かざるもの食うべからず。 イリスをコタツから引っ張り出して作業に加え、作業の効率を上げる。
「ふぅ…浴室と脱衣場は完成ですね。あとは…」
作業スペースに立ち、素材と容器を並べる。
「油、木灰、水、蜂蜜…これで本当にできるのかなぁ」
キィーーン!
『…~~…』
「まぁ、疑ってもしょうがないし…文句を言うのは試してから…だな。 まずはシャンプーを、錬成!」
光が素材を包み込み、溶け合うように形を変える。
するとご丁寧に容器の中に白い液体が溜まっていた。
トロッとする液体を指先で少し取り、水と合わせて擦ってみると…
「おぉ~! 泡立ってる! 思ったよりちゃんとシャンプー!
ならリンスもいっちゃおう! 錬成!」
シャンプー同様に容器に若干黄色がかった液体がトロミの液体が溜まる。
こちらも指にとってみるが…
「さすがにリンスは泡立つものじゃないし、触っただけで分かるわけない…か。
でも、シャンプーができてるってことはできてるよね」
鑑定魔法を持っていない自分を心のどこかで恨みつつ、容器に蓋をする。
しっかり用途を想像して錬成すれば必ず使える、それだけ分かっていれば、今は十分だったから。
「あ、ボディソープも作らないと」
そして夕暮れ時、ベンドリック家の…いや、村で初めての風呂場に湯が満ちていく。
脱衣所で服を脱ぎ、タオル一枚となった僕とアルフ兄。 かけ湯をして、いざ入水。
「すごい湯気だ…火傷したりしないよね」
「最初は熱く感じるかもしれませんが肩まで浸かれば慣れますよ」
チャポン…
「…あちぃ~~っ…」
「…ぁ~~~~っ…」
初めての風呂と、少なくとも7年ぶりの風呂。
若干の差異はあれど、肩まで浸かれば冷えきっていた細胞の一つ一つが歓喜の声を上げるのは同じだった。
「これは、沁みますねぇ~~」
「はははっ なんだいその反応。 オジサンみたいだよクロス」
「いいんです…元日本人の血が風呂を求めてたんですから、誰だってこうなりますぅ…」
「たしかに、これは無性に入りたくなるのも分かるよ。
体の隅々まで温められてる感じ、生まれて初めてかも」
「それが風呂の魔力というものです」
僕は手でお湯をすくい、手から流れ落ちていくのを眺める。
「前世では…ね」
「ん?」
「こんな風に、ゆっくりお風呂を楽しむことなんてなかったんだ。
この世界より何百倍も技術は発展してるのに、ずっとベッドの上で、体は管に繋がれて。 未来どころか今を楽しむ余裕がないほど退屈で、毎日が窮屈だった。」
俺の言葉にアルフ兄が沈黙する。
「でも今は違う。 正直言って周りはないものだらけだし、毎日忙しないし、トラブルばっかりだけど、不思議と毎日が満たされてるんだ。
生きててよかった…今はそう思えるし、誰かの幸せを願うだけの余裕が…ちょっとだけある。
だからこの村を、誰もが帰って来たいって思える温かい場所にしたい…なんて、生意気ながらに考えてる。」
「そっか。 なら長生きしないとね。 ボクがこの村を継ぐようになったら、生産部門を引っ張ってもらわないといけないし」
「ご心配なく。 引っ張るどころか振り回しますよ」
「それは先が思いやられるなぁ」
湯気のせいか、それとも別の理由か、少しだけ目の前が温かい何かで曇った。
体をふき、着替えて脱衣場から出ると、入れ違いで待ちきれない様子の父さんとキッド兄が飛び込んでくる。
「やっと上がったかお前ら! 次はオレたちの番だ!」
「一番風呂は逃したが、一番泳ぎはいただくぜ!」
「こらキッド! 走ると転ぶぞ! ヒャッホーウ!」
ドッボーン! バシャァーン!!
浴室から豪快な水音が響き渡る。
「父さんが一番はしゃいでるじゃないか…」
「似たもの親子ってやつですね…」
それから10分後
「あぁ~楽しかったぁ」
「風呂ってすげぇなぁ!」
のぼせる寸前まで温まった真っ赤な顔の2人が出てきた。
「ふぁ~あちぃあちぃ」
火照った体を冷まそうと手で仰ぐ父さん
「なぁクロス~ のど渇いた~」
「そういうと思って、ちゃんと用意してますよ。」
ここで僕は冷蔵庫から瓶を取り出す。
「なんだそれ?」
「プリンか!?」
「違いますし、プリンは飲み物ではありませんよ。」
ジャーーン!
「お風呂上りにグビっと一杯! フルーツ牛乳ならぬ蜂蜜入り特製豆乳です!」
「「ウッヒョォーー!」」
蓋を開けるとほんのり甘い香りが漂う。
「いいですか、これを飲む時には作法があります。
まずは肩幅に足を開いて仁王立ち。利き手と逆の手を腰にあてて胸を張り、一気に飲み干す! そして最後に『プハァーっ!』です!
温まった体に冷たい豆乳! これこそ風呂の効果を内側から高めてくれます!」
「そ、そうなのか…?」
「よし、やってみようぜ」
父さん、アルフ兄、キッド兄、そして僕
ベンドリックの男衆が横一列に並び、左手を腰に手を当て、胸を張る。
「「「「 乾杯! 」」」」
グビッ、グビッ、グビッ、グビッ……
冷たい恵みが火照った喉を通り抜けていく。
豆乳のまろやかさと、ハチミツの甘さが僕の全身に染み渡る。
「「「「 プハァーーーーーーーーッ!!! 」」」」
「うめぇぇ!」
「今まで冬に飲んだ冷たいもので、こんなにうまいことはなかったぞ!」
「これは…売れる!」
全員の口元に白い髭ができているのを見合い、僕たちは顔を見合わせて笑った。
「あら~、楽しそうね~」
「男だけズルい!」
そこへお風呂セットを持った母さん、ソラ姉がやってくる。
「心配しなくても全員分用意してますよ」
「そうなの? ならいいけど。 キッド! わたしの分、飲んじゃダメよ!」
「分かってるっての!」
女子チームも浴室へと消えていく。
しばらくするとキャッキャという楽しそうな声が聞こえてくる。
そういえば…
フロアの一角を探す。 あ、いた。コタツムリ
「イリスは入らなくていいの?」
「我は最後でよい、さすがに3人は狭かろうよ。 泳げば母君の怒りを買う。」
「いや、1人でも泳ぐものじゃないよ…」
静かに心を高鳴らせてるイリスに苦笑しつつもコタツに入る。
しばらくするとワッキャワッキャと声が聞こえるようになる。
母さんとソラ姉が出てくる。「あぁ~気持ちよかったぁ~! これが毎日入れるのは最高ねママ!」「そうね~♪ 髪のパサつきが気になっていたけれど10年は若返った気分だわ~」
湯上がり美人となり幸せのオーラに包まれた女子たちは吸い寄せられるようにハチミツ豆乳の元にいき、腰に手を当て一気に飲み干ししっかりプハァ!と言うところまでしっかり済ます。
「く…クロス」
仕事モードと普段モード、どっちとも言えない声で話しかけてくる。
「よかったでしょ? お風呂」
「えぇ…よかったわよ…最高だったわよ…あなたが言い出さなければ一生出会えなかった幸せを今まさに噛み締めてるわよ…これが村にないなんて、もはや考えられないわ。」
風呂という魔窟に陥落した母さんの声を聞いて僕は吹き出さずにいられなかった。
「それで…共同浴場の話だけれど、村の区画ごとにある空き地を提供するわ。明日には取り掛かってくれないかしら」
「あ…明日ですか!? まだ風呂の構造しか決まってないですよ!?外見とか内装とか、詰めるべきところはいっぱいあるのに!」
「今から詰めましょう!
あなた独自の建築方法、シロスケちゃんやサルキチちゃんの能力も計算に入れて、日付が変わるまでには『たたき台』にしてみせる!」
「ぁ…ハイ」
ピンクに火照った頬に熱い闘志を燃やした母さんを止められるものは誰も居らず、僕は生まれて初めての残業に付き合わされることになった。




