小さい部隊の大無双(4)
扉の向こうはやはり暗くて、何も見えない。
だが、そこに“何かいる“ことだけは、はっきりと分かった。
「おい、隠し扉じゃないのか? さっきのデーモンが倒れてから開いたってことはダンジョンの最深部ぞ」
「待って、まずは魔力濃度の観測をーー…な、なにこれ!? 何もないはずなのに進めないわ!」
「魔法の障壁だと!? クソっこのっ…ダメだびくともしない!」
調査員数名が開いた扉に群がるが、闇の向こうに進めるものは誰1人としていない。
次の瞬間、扉が淡く光る。 すると僕と父さん、メープルやカラアゲ達、コングと電池が切れたソルジャーまでもが扉と同じ光に包まれる
「え…なにこの光…」
「要するに入れるのは勝利に大きく貢献したやつだけ、ってことか」
光った僕たちと光らなかった調査団…その違いは明白。
だが調査員にとってその資格の有無はあまりにも大きかった。
「ふざけるなよ…私たちだって命を張って調べてきたんだぞ!
なんで子供と…こんなオモチャみたいなのとチキンと虫が入れるんだよ…!
勝手に選別しやがって!」
「戦況を動かしたから? 分かってるわよ、確かにこの子達には助けられた。
でもそれと入る資格は別でしょ…こんなの、あんまりじゃない…」
「判断基準も示さないで黙って締め出すとか…ボクたちの努力をなんだと…」
「で、でも…! さっきの戦い、あの子達がいなかったら私達はもうここにはいない。
ダンジョンの基準がどうあれ、この結果は否定できません」
「悔しいが、現実として受け入れるしかない。 今は生きて帰れるだけ十分ありがたいのだから、彼らが呼ばれたなら…任せる他ない。」
調査員達は不満の中でなんとか折り合いをつけようとしている様子を見て、少し視線を落とす。
「納得はいかないと思います。
これで代わりになるか分からないですけど…」
白いキューブを取り出し、地面に転がっていた真っ二つの小瓶を吸い込ませる。
「錬成開始」
10秒ほど絵柄が回ったのちに吐き出されたのは、子供の掌にちょうど収まる大きさの澄んだ結晶の玉
それを近くにいた女性調査員の手に握らせ、人差し指を口に当て、軽くウィンクする。
「僕が作ったガラス玉です。内緒ですよ。
あ、ダンジョンのドロップ品ってことにしといてください。 じゃないと…皆さんをバキュンしなきゃいけないかも。なんてね」
女性が戸惑いながらそれを受け取ると、重かった調査員達の空気が、ふっと一段緩んだ。
さっきまで悔しそうだった面々の表情にも、どこか苦笑い混じりの余裕が戻ってくる。
「行ってきます」
一言だけ残し、僕たちは扉を潜った。
扉の向こう側は明かりがないため暗く、静かだった。
「錬成」
木の棒切れに火が灯る
「クロス、火魔法使えるようになったのか?」
「薪が炭になり灰になるまでをしっかりイメージできれば着火は錬金術で代用可能なんです。 火球とかはもちろん無理ですけど」
「お前ってそういうの不便しないよな…」
「器用スキルとひらめきの応用です。 これがフィジカルに一切の恩恵がないのが悲しいところです。」
「チビスケ達いるし別にいいだろ…これで戦えたらもう人間じゃねぇよ」
「僕以外人間じゃないですよ」
「見りゃわかるよ」
父さんと久方ぶりの冗談を言っていると廊下を抜け、ひらけた空間に出る。
薄暗い空間の中央に、巨大な影が横たわっている。
「…腹が…減った…」
グゥォォォオオオオオーーーーー!!
巨体から聞こえた声に、警戒体制をとる。
「おぉ…人の子よ…食べ物を…持っておらぬか…」
「へ?」
「できればパン…願わくばサンドイッチなど…」
「図々しいな!」
そのあまりに現実的な要求に、張り詰めていた緊張が音を立てて崩れる。
「サンドイッチなら…あるけど」
「頼む…サンドイッチを我に…」
ゆっくりと弱々しく手を伸ばすドラゴン。
恐る恐るアイテム袋を開き、木製の弁当箱を取り出し、サンドイッチを1つとって渡す。
指…というか爪…というか、とにかく大きな手の先で慎重につまみ、そーっと口元へ運ぶ。
サイズ感の違いはパクっではない、小指で塩の粒を味見するくらい慎重な一口だった。
「う…これは…! このふわりとしたパンの食感、濃厚な黄身、塩気と油がケンカせず、全部が手を取り合って共存しておる…!
噛むたびに腹だけでなく心まで満たされる…これは栄養だけではない、生命の源そのもの…!
我、生きておる…生きておるぞ…!」
弱々しく横になっていた真っ黒いドラゴンが雷に撃たれたかのように跳ね起きる。
「人の子よ、感謝する。 もう少しで我はダンジョンの糧になるところであった。」
「え?あ、はい…どうも」
「ところで…今のサンドイッチ、まだ残っておるか?」
「まぁ残ってるけど…人を襲って食べるとかしないんですね…」
「我が人を? 我は肉よりパン派、そしてサンドイッチを好む。
それに人を襲う元気があるなら我は本を読み漁っておるわ」
そう言って壁の方を指さす。
本棚がズラりと並んでいる。ただ本棚といっても比較的平面な岩の上に板を置き、その上に同じような物で作った粗末とも言える物ではあるが、岩との間に板を噛ませて本が傷つかないようにしているあたり、相当に本が好きなのは分かる
「それで、そんなインドア派のドラゴンさんがどうしてダンジョンの裏ボスを?」
「あれは我の意思ではない。」
黒いドラゴンは語り始めた。
つい数ヶ月前、住処としていた洞窟が突然ダンジョン化したこと。
ダンジョンという空間と強い繋がりができてしまった影響で、外に出られなくなってしまったこと。
基本的に引きこもってるため最初は何の問題もなかったが食料がつき、最終的に死を待つだけの状態まで動けなくなっていたこと。
「つまり…住処ごとダンジョンに取り込まれて、身動きが取れないまま餓死寸前だった、ってことだな」
「そういうことになる。何度か我も脱出を試みたが、ダンジョンは生き物のようなもの。我の魔力を奪って再生しよるのだ」
「自分の一撃を自分の魔力で再生されるのは確かにメンタルにくるかも…
ならあの大きい雄叫びは? グォーー!ってやつ」
「あ、あれは…」
黒い鱗を真っ赤に染め、ぼそりとつぶやくように言う
「に、人間だって…空腹になれば鳴るであろうっ…」
「「腹が鳴った音かい!」」
「わ、我も生き物だ! 何ヶ月も飲まず食わずで限界だったのだ!」
「そりゃそうだろうけど…」
「ドラゴンの腹の音が鳴れば、無意識に食欲がダンジョンの外に漏れるのも当然か
まぁ、聞いたところ悪いドラゴンってわけでもないし、さすがに倒すのも気が引けるぞ…」
「そのことだが人の子よ。」
「僕?」
「そなた、名をなんと申す?」
「クロスエイド・ベンドリック。みんなからはクロスって呼ばれてます」
「そうか。 我が名はイリス、今日この瞬間より我はそなたの従魔となろう」
「え!?」
「ハァ!?」
「我はお主の作るサンドイッチに惚れた。 他にも作れるのであろう? そこの小さなサル型のゴーレムも、父君の剣に塗られた油もお主が拵えた人智を超えた力と見える。
であれば我を側においても問題はないであろうよ。」
黒いドラゴン…イリスがそう言い終わると同時に僕の中に何やら繋がりができた感覚が。
「従魔契約、成立である。 これから世話になるぞ、主よ」
「拒否権なしぃ…?」
パリィン!
イリスとさっきの扉の2箇所から何かが割れた音が聞こえる。
「今の音…まさかゴブリンが残ってやがったか!」
「案ずるな。 我と主との間に新たな繋がりができたことで、ダンジョンと我との繋がりが切れただけである。
じきにこのダンジョンは機能停止するであろう。」
「ってことはイリスは自由の身…ってことですか」
「主よ、我に丁寧語を使う必要はない。 そこのコッコと蜂と同格として扱うがよい。」
「そんなこと言われても…ドラゴンと話したことだって初めてなのに」
そんなやりとりをしていたその時、裏ボス部屋の奥の地面に大きな魔法陣が生じる。
「ダンジョンも出ていけといっておるようだ。
主人よ、我の荷物はその本だけ。 そなたのアイテム袋に入るか」
「いや、さすがにこの量は…」
「置いてくか」
「それはダメじゃ! この本たちは我が長年集めてきたコレクション、歴史そのものである! 置いていくなどあってはならぬわ!」
「わ、分かったからそんな怒るなよ…耳が…」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
壁や床が揺れ、ダンジョンの空間そのものが歪み始める。
「マズい…! このままではダンジョンの崩壊とともに我の本が!本がぁ!」




