小さい部隊の大無双(1)
「何か…すごく嫌な予感がする…」
よく晴れた空なのに、森の色が、いつになく灰色がかって見えた。
「コケコココっ!」
『ツヨイ…ナニカ…オキタ』
カラアゲ達やメープルも
『…』
『?』
ソルジャーとコングも森から感じる何かに警戒している
「そうだ、父さん達はこれに気づいてるのかな…!」
慌てて家の中に引き返す。
仕事部屋のドアを叩くとただ一言、それもいつになく低く重たい声で
「入れ」
ドアを開くと母さんもアルフ兄もいて、部屋の空気が明らかにヒリついていた。
「ここに来たってことはクロスも感じ取ったみたいだね」
「僕だけじゃありません。 ソルジャー、コング、カラアゲ達、メープルも森の違和感を感じて警戒モードです」
「チビ助達も…」
「父さん、母さん、今…森の方でなにが起きてるんでしょうか」
「分からん。 この村に住んで10年以上たつが、こんな空気が重くなる感じは初めてだ。
戦場でも…ここまでのは滅多になかった。」
父さんの声色に一切の誇張はない。
「最近変わったことで、原因に心当たりがあるとすれば…やっぱりあれだよね」
「ダンジョン…」
ようやく口を開いた母さんの声はこの事態に対する危機感と同時に、なにやら呆れも混じっていた。
「この村は果たすべき責務を全うした。 調査団を助けにいく義理はねぇ。だが、村に被害が出るのは困る。」
「場所の確認だけでもした方がいいわね」
母さんも同意する。
「ダンジョンの確認はオレがいく。 フローラ、大体の場所は絞れるか」
「方角が分かってるから街と村の位置関係と照らし合わせて導き出せるとは思うわ。 でも」
「ダンジョンは洞窟型か遺跡型かも分かってないんだ、正確に当たってなくてもかまわん。」
「分かったわ」
短い打ち合わせを終えると母さんは鉛筆と地図、紙を取り出し、ガリガリと情報を書き殴っていく。
「クロス、剣と回復薬の用意をたの」
「僕も行きます」
父さんが言い終わる前に発した僕の言葉で一瞬、部屋の空気が止まった。
「…は?」
父さんが耳を疑うように僕を見る。
「なに言ってるんだよ…クロス、お前は」
「戦えないのは分かってます。」
逃げずに僕は言う
「僕だって行かないで済むなら行かないですよ。 でも、ここで行かなかったら後悔する気がするんです。
父さんだって、戦えるようになったと言っても魔物が何体いて、ダンジョンにどんなトラップがあるかも分からない状況下で20人だか40人だかを守るのは簡単じゃないはず。
父さんが動くなら、僕のような回復担当は必要です。違いますか?」
僕の言葉に父さんは黙る。
僕を連れていくメリットとデメリットを現場の視点で天秤にかけているのだろう。
戦場で何度も似た判断をし、そして後悔もたくさん経験したはずだ。
「下手すれば命はないぞ」
「そうですね、でも僕が死ぬとしたら父さんよりかは後になるはずです。」
「?」
開けっぱなしのドアの方に視線を誘導する。
お馴染みとなった鳴き声や羽音、ウィンという機械音と共に僕の仲間達がひょっこり顔を出す。
「総力戦で行くつもりですから」
「これは一本取られたね。 これだけ前線要員がいるならクロスが前線に出る意味がない。」
「ったく…とんでもないわがまま坊主をこさえたもんだな。
だが馬車の問題はどうする お前は馬車に乗れんだろ、騎馬だって教えてない。」
「それは簡単です。 陸路がダメなら」
「浮いていきゃいいってもんでもないだろォォーーーーーーーーー!!」
僕は馬車に酔う。 その原因が整備が行き届いていない陸路と父さんの荒い運転にあるとしたら答えは簡単。
馬車がダメなら魔法の絨毯に乗ればいいじゃない…ってね
「なんだろ この感じ…」
風が吹いても落ちそうになることのない確かな安心感
立って歩いてもバランスを崩すことのない安定感
そして遮るものもなく道なき道を行く疾走感
「最っ高ぉ!」
「うわぁぁああああ!!」
馬車に乗っていれば僕は酔って父さんは平然としているが、今日は完全に逆だった。
「コケェ…」
「コココッ!」
カラアゲたちは皆、翼を広げて風を感じている
進化したとはいえ鶏の魔物であるコッコにとって空中は一生かかっても届くことのない領域。
でも、鳥としての血が騒ぐみたい。
「風が強くなってないか!? 落ちる! 落ちるぅぅぅ!」
「魔法の絨毯をみくびらないでください。風の影響を受けないから成立するものです。
それから怖いなら下は見てないで前か上を見ててください。」
「よ、よし…前か上だな…」
恐怖を誤魔化すために仰向けに寝転ぶ。
しかし、風を滑るような飛行音が逆に耳へ流れてくる。
「み、見えないのも怖いぃぃいいいいい!」
父さんの断末魔は森中に響いた。
「あれかな」
「見つけたか!? あ…」
僕が見つけたものを確認しようと絨毯から顔を覗かせる父さんはすぐに引っ込む
「ヒィィ!! お、お前なぁ!」
「別に見てくれと言ってませんって…。 ソルジャー、周りに魔物がいないか確認して」
『…』
自力で飛べるソルジャーに先行してもらう。
『…』
1分ほど周囲を見まわした後、戻ってきて僕に向けて軽く頷く。
「外敵なし…と。 なら」
ゆっくりと高度を下げ、目的の場所に近づいていく。
上からは木で隠れて見えなかったが、テントがいくつか見えてくる。
「父さん、もう地上ですよ」
「や、やっとか…まったく肝が冷えたぞ…」
急な斜面を無理やり抉り取ったような洞窟、寸分先も闇がかって見えない入り口という異様さ
「ここで間違いないだろうな。 調査団の馬車がある」
「ってことはこの洞窟が」
「ここからは歩いていくぞ」
絨毯を丸めてアイテム袋に入れ、今から入ろうとしたその時だった
「た、助け…!」
中から血と土埃にまみれた白衣が転がるように出てくる
「どうした、何があった」
「あなたはベジッタ村の…中でダンジョンボスが…デーモンが…同僚が」
そこまで言いきったところで、男性の意識は途絶えた
「おい、おい! しっかりしろ! くっ…」
「急いで回復薬を」
「いや待て」
目の前で気を失った人を見て動揺しながら僕を父さんの一声が静止し、白衣の裏を確認する。
「気を失っただけだ。 白衣の血はこいつの傷じゃない、ほら」
1番血の面積が多い腰側をめくって見せてくれる。
大量出血するような傷はない。
「ならこの血って」
「他のやつのだな。 だがこの量は…急ぐぞ」
「はい。」




