魔の伸び代もすごいよねって話(3)
しばらく進んだ行き止まり。
村では立派な方ではある、2階建てごく一般的な民家
その隣に広がる畑とその奥に丸太を組んで建てられた小屋
さらに隣には鶏舎と蜂の巣箱がある。
「コケっ」
「コココォ」
ブゥ~~~ン
「やはり隠していたなぁ! 鶏肉に卵! 田舎貴族よりボクに食べられる方がいいに決まっている!」
「なぁ、あれってよ」
「確実に進化したコッコだよな」
「もう無理だ…オレ、あの方の兵士やめる!」
「ちょっ! お前たちどこに行く!」
仕えている主人と違い、芯は真っ当な私兵たちはこの後の悲劇を悲観しその場から四散する。
そんな部下たちの声も聞こえないほどに完全に目が眩んだバルドは鶏舎にズカズカと踏み入り、メスたちを蹴り上げる。
「どけ!」
「コケェェ!?」
メスは強制的にどかされ、温めていた卵があらわに。
バルドは拳と同等のサイズの卵を見つけて目を輝かせる。
「デカい、そしてこのツヤ…! やはりこれはボクの物にふさわし…あ」
ツルッと手から滑り落ち、卵は無惨に割れた。
「…ふ、フン! ボクの手から逃げ出す卵が悪い!
貴様らもそう思うだろう!」
逆ギレしたバルドはコッコにナイフを見せつけて脅す
「コケェェーーーーエ!」
「コケコケコォォーーー!!」
メスたちはそんな脅しなどお構いなく、翼を広げて威嚇をする。
「うわぁあ! わ、分かった!貴様らを肉にするのはやめだぁ!」
鶏舎から逃げ出す。
ハァ…ハァ…!
「家畜ごときがボクに逆らうなど…ん?」
逃げ出してもたれ掛かった場所にある木箱をみる。
中からは漂う甘い匂いがバルドの脳を誘惑する。
「この香り…蜂蜜かぁ! ボクはなんと運がいい!?
これは誰がなんと言おうと、もうボクの物だあ!」
巣箱を開けようと手を伸ばす…が、人が開けられる蓋はなぜだか開かず、ガコッという固い音と共に侵入を拒む。
「このっ この国でボクの願いが叶わないことなんてあっていいと思うなぁ!」
バキィッ
巣箱を力技でこじ開けようと全力で力を込めた結果、蝶番の側を破壊することに成功。
ーーしかしーー
「…は?」
巣箱の中は空っぽ。 壁や床部分にこびりついた蜜が冷たく侵入者を嘲笑っていた。
「ふっ…ふざけるなぁ…!!! ボクを誰だと思ってるんだ……!!
卵も……蜂蜜も……全部ッ……ボクの物だぁぁ!!」
空っぽの巣箱を蹴り倒し、癇癪を起こした子供のように巣箱を蹴り続ける。
しかし次の瞬間
ガサっ!
茂みが動く音と共に、空気が変わった。
「…!?」
突如現れた白くて丸い影
「コォォ……」
「……コッ……」
「コケコ……」
「コケェ…」
鶏舎の前に2羽、バルドの退路を塞ぐように2羽が位置取り、バルドを完全に包囲する。
「オスの…コッコ…」
ただの鶏風情としか考えていなかったバルドも、自分の身の危険と共に気づいた。
コッコ達は普通ではない、進化した上位の存在だと。
さらに
ブゥゥゥゥゥゥゥン!!
『メープル…オマエ…ユルサナイ…!』
明らかに大きい蜂の魔物、メープルが空気を揺らしてホバリングする。
まぁこればっかりは考えなくても進化した上位存在なのは明白で、青くなったバルドの顔色を完全に真っ白にする。
「ちょ、ちょっと待ちたまえ…! 貴様ら…君たちはボクを誰だと思って…」
「コッ!」
その言葉の途中でリーダー格のカラアゲの合図で4羽のコッコが動き出す。
まずはカラアゲが重心を極限まで落とし、地を滑るように突撃する。
ドゴっ
「ブヒャっ!?」
足を崩され、バルド短い脚が宙を舞う。
その体制が崩れた瞬間をタツタ、ナンバン、ローストは逃さず、上から横から下からと避ける隙もない波状攻撃で袋叩きに。
カラアゲもそこに加わり、転倒させては追撃を繰り返す。
「ギャンっ! グヘッ! ゴフッ! うぎぃ!?」
そこで地獄は終わらない。 勢いが止まったのはコッコ達が意図的に標的を譲ったからである。
「痛いぃ…! 誰か助け…ヒィィ!」
メープルの羽音がより一層激しくなる
『オウチノ…カタキ!』
螺旋状にバルドの周りを高速で飛び回り、羽の共振で発生する衝撃波から激しい斬撃を生み出す。
「ぎゃああああああーーーーー!」
煌びやかな服は裂け、顔や露出した肌に無数の切り傷がつく。
『コレデ…トドメ!』
蜂としての最大の武器であるお尻の針を向ける
「おーいお前ら、そこまでにしとけ」
遠くからシルバスの声がしたことで動きがピタリと止まる。
「まったく…いないと思ったら、やっぱここに来てたなんてね」
「よりによって、コイツらに手ェ出すとか…プフッ」
目の前に転がる愚か者のザマを見て、笑いが堪えきれなくなるシルバス。
「た、助けろォォ! この化け物を殺せぇ!」
「化け物ねぇ…ウチの可愛い従魔に向かってよく言えるわ」
そう言って手を前に出す。 すると先ほどまで殺意マシマシのメープルが差し出された手に乗る
ピト…
『ママサマ…オカエリ』
「ただいま。 加減できてえらいわね」
『メープル…イイコ?』
フローラは指で優しく蜂の魔物であるメープルを撫でる
シルバスはコッコ達に指を振る。
「「「「 コケッ 」」」」
その意図を理解したコッコ達は鶏舎の前に整列し、羽根でピシッ!と敬礼をする。
壊された巣箱と黄色く飛び散った卵と、わざとらしく蹴られたことをアピールするメスのコッコを確認してため息をつくフローラ。
「…被害は卵が1つと巣箱の破損ね。」
「コケコぉ!」
「分かったわよ…卵1つと巣箱とのダシマキが軽傷ね」
「アルフレッドの機転のおかげだな。 アルフレッド、出てきていいぞ」
父の一声を受け、家と鶏舎の間に位置する作業小屋からアルフレッドが出てくる。
「ふぅ…やっと片付いたみたいだね。 もうちょっとでレンガを投げつけるところだったよ」
「ソラとキッドはどうした?」
「いるよ。コッコのコスプレして有精卵を温めてもらってる」
「コスプレまでせんでも…」
そう、バルドが割った卵は無精卵、巣箱が空だったのはこの展開を予測したベンドリック家は、被害を少しでも減らすため、壊されて困る有精卵と蜂の巣を全避難してあったのだ。
村の入り口や集会所のやり取りは蜂達が新設した巣箱に物資や幼体を運ぶための時間稼ぎに過ぎなかったのだ。
「さて、ここまで乱暴狼藉を働いてくれた訳だけど…代表としてどうお考えかしら?」
「ま、誠に申し訳ありません!! この者がやったことについてはすぐに賠償と処分をいたしますぅ!!」
地に頭を埋め込む勢いで土下座する代表のデリック。
その様子を見て、取り巻き達も駆け寄ってきて土下座する。
「賠償は受け取るわ。 けど、問題は領主の私有地へ不法侵入、破壊行為ね。
あともう分かると思うけど、その子達はただの家畜じゃなくて“ウチの子の従魔“よ。
それらを加味しても本来なら拘束して王都に送り返す…いや、あなた達全員を捕らえて王都に突き出す案件ね」
「ヒィィ!」
私兵や調査員達はフローラのオーラに呑まれガタガタと震えていた。
「す、速やかにこの者を連れて行きます! 追って処分はお知らせいたします!」
「あ、そうだ」
思い出したような事を言うフローラがバルドの元に歩み寄る。
黒い笑顔でバルドに耳打ちする
「ワガママ坊ちゃん、あの子たちの主人が誰か知りたい?」
「だ、誰…だと? あんなヤバイのを飼ってる奴なんて…」
フローラは軽く笑って答える
「ーーウチの三男坊よ。 それも、怒ったら旦那が殺されかけるほど手がつけられない子。
ものはついでだから、村を出る前に会っていく?」
「イヤァァァァ!」
バルドの心は完全に折れ、涙と鼻水にまみれ、股間を濡らし、泡を吹いて気絶する。
ポケットに隠し持っていた回復薬を取り出し、墓石にでもかけるかのように優しく振りかける。 証拠隠滅だ。
まもなくバルドは馬車に詰め込まれる
「この度は、本当に申し訳ありませんでした。
奴が取り上げた食料は全てお返ししますし、本隊はすぐダンジョン調査にむかいます。」
「そうね。 無かったことにはならないけど、これ以上の迷惑をかけなければ調査団には追撃をしないわ」
「寛大なお言葉感謝いたします。 モルヴァインの私兵については調査団預かりということで」
「我々はこれにて。 改めて食料の提供、ありがとうございました」
こうして、村の危機は去っていった。
と思っていた。
調査団が去ってしばらく
「これで元通りっと」
壊された蜂達の巣箱を新調し、再度引っ越し作業に追われていた僕たち。
『…!』
『??』
ミニロボが何かに反応する
「どうした?」
『…』
『…?』
ソルジャーとコングからの返事はない。
何か異常を感じ取っているのは確かなようだ。
「コォォ…?」
「コケコ…コッ!」
「コケェ…?」
カラアゲ達も怯えと警戒の混ざった低い声で鳴く
オスメス計8羽のコッコもまるで“何か見えないもの“を探るようにミニロボ達と同じ方角を見つめる。
『ヘンナ…ナニカ…ウゴイテル…』
カタコトではあるが、唯一言語化ができるメープルの震えた声が異常の存在を確かにする。
なんの異常かは分からない。 だが、確実に怯えや警戒でみんな落ち着かない。
「この方角に何があるんだ…?」
村の外、森の奥というと話にあったダンジョンの調査隊が向かった方角もこっちの方面だったような…
ダンジョンという言葉自体は聞いたことがあるが実感はない。
ゲームの中の1つのステージでしかなかった。
なのにーー
胸の奥がザワザワし、理由のわからない不安がじわじわと心を覆い尽くしていく。
僕の声と手が震え、喉が渇き、手がやけに汗ばんで、心臓を何かに殴られてるみたいだ。
理由は分からないけど、風が吹いて森の影がざわめいただけで、たったそれだけで背筋が震えた。
ゲームで不穏イベント前に画面やBGMが変になるあの感じ……そんなの、あるはずないのに
「何か…すごく嫌な予感がする…」




