従魔の伸び代もすごいよねって話(2)
村の入り口には、普段見ない人だかりができていた。
王都の紋章が入った馬車が連なり、十数名の学者顔の集団、そしてなぜだか偉そうに先導する華美な装いのわがままボディの青年とその関係者としか思えない私兵や取り巻きの集団。
「思ったとおり多いわね」
「17人どころか40人くらい居るだろこれ」
予想していたことが1つ現実となり、2人揃ってため息を漏らす。
「ここが最近噂のべジッタ村かぁ 空気“だけは“いいところだねぇ」
そして金色の生地や糸をふんだんに使った外套を着た青年ーアルフレッドより一回りほど年上の少年が、あたかも当然のように前に出てくる。
ゆったりした足取りと、自分がこの場の全てを掌握していると信じて疑わないその態度で。
(うわ~…出たよ典型的なタイプ)
両親とは離れた位置から様子を伺うアルフレッドも内心で頭を抱えていた。
「ボクはバルド・モルヴァイン。 モルヴァイン侯爵家の嫡男だ。
まぁ、名前は覚えておくといいよ? こんな田舎で王都の貴族であるボクの役に立てるんだからねぇ」
目の前の夫婦を舐めるように見て、鼻で笑いながら声高らかに名乗る。
王都近郊の下級貴族であればイヤイヤながらも媚を売るところだが…
「へぇ、そう。 それじゃあ村の広場に案内するからついてきて」
フローラは礼儀ゼロで流す。
だがそれに気づけるほど、バルドは空気の読める存在ではなかった。
広場には村の総力で集めた食料品が並んでいた。
塩漬けにした野菜、干し肉や保存パン、どれも冬ごえに必要な大事な蓄えだ。
調査団の代表と担当調査員が手分けをして内容を確認して、眉を寄せる。
「代表のデリック・ローデンと申します。此度は食料の提供ありがとうございます。…予定外の増員で十分な量とは言い難いですが…まずは最大限集めて頂いたことに心よりの感謝を」
まともそうな代表がシルバスたちに礼を言う。
しかし、あの男は当然…
「足りん!」
穏やかにことを進めようと必死な人の気持ちなど知ったことではない。
その場に容赦なく横槍を突き立てる。
フローラとシルバスのこめかみに怒りマークが浮き出る。
無論、アルフレッドも奥歯を噛み締めて耐えている。
「食料は調査団の17人分とその予備3人分で計算しているの。調査員だか重役だか知らないけど私兵や取り巻きまで面倒見る理由はないわ」
「はぁ? ボクの従者は伝えるべき調査員に含まれていないが?」
「いや、食うだろ普通に」
(バカなのかなぁ?)
矛盾を矛盾とも思わない発言にアルフレッドも頭の中身を心配し始めた
「というか貴様ら、さっきから口の利き方ってものがなっていないなぁ、ボクは王都の貴族様だぞ?」
「偉いのはお前じゃなくてお前の家だ、間違えんな」
「それに貴方は食料の提供を受ける調査団の一員であって家の名代としてきていない。
少しは自分が置かれている状況を理解した方がいいわ」
バルドの口がひくついた。
「ほぉう? 国王陛下の命を受けている調査団をなんだと思っている! 貴様らからもらえない分はボク自ら村人どもに強制的に徴収することもできるんだぞ!
食べ物なんざ勝手に育つだろ! 血が流れないうちに今ある分を差し出した方が身のためだ!」
鼻をふがふが鳴らし完全に頭へ血が上ったバルドは腕を振り地団駄を踏みながら叫ぶ
「…おい」
荒げた叫び声すらも締め殺さんとする一声が、バルドを含め、その場にいたすべての人間から沈黙を掻っ攫う。
腰にしてた剣に手を置きカチリと2センチだけ刃を見せる。
「いいか。お前らの勝手で村の奴らに手を出すってんなら、お望み通り貴族同士で決着つけようか?」
目の前の男が低い声に乗せた殺意と、刃に反射する太陽の光より強い何かによってさすがのバルドも首を絞められたように動揺する。
「ま、待ってください! バルド殿、ここは抑えて!
領主様、書類の確認があれば参りましょう! ですので剣をお納めいただいて! ね? ね?」
調査団の代表デリックが割って入る。
ため息をこぼしながら今にも抜いてしまいそうな刃を鞘に戻す。
「さっさと集会所に行って済ませましょう。 焦らなくても書類は山ほどあるわ。」
(あー…母さんも爆発一歩手前だ…)
天を仰ぎながら様子を見守るアルフレッドの心の持久力はジリジリと減り、子供ながらに胃の痛みを覚えた。
集会所では村の代表であるフローラとシルバス、調査団の代表であるデリックと数名の担当調査員が淡々と確認作業を進める。
が、バルドは5分も経たずに椅子を蹴飛ばした。
「まだ終わらんのか!」
「バルド様マズイですって! この村に滞在している間だけでも大人しくしていた方がいいですよ!」
「そうです!相手はいつでも王都の経済を堕とすことのできる『鈴蘭の交渉人』です、これ以上わがままを言えば何をされるか」
「うるさい! ボクは外に出てくる!」
「バルド様‼︎ まだ記入事項が!」
「そんなもの必要ない!」
バルドは私兵と取り巻きを引き連れ、堂々と集会所を出た。
「やめてください!これは最低限しかないんですって」
「うるさい! ボクは国王陛下の命を受けているんだ! 拒否は許さん!」
バルドは街を歩き回り、食料を徴収…いや奪っていた。
脅し、壊し、殴って、横暴の限りを尽くしていた。
「フン! 下々なんぞ多少飢えても知ったことではない。
最初から黙ってボクに捧げていればよかったものを」
(あの外道…!)
目の前の光景に思わず前に出たくなるが、グッと堪えて怪我をした村人のケアに回るアルフレッド。
「これを」
「アルフレッド坊ちゃん…ありがとうございます」
前もって弟から受け取った回復薬を渡し、どうにかやりきれない怒りを落ち着ける。
「くそっ! あの貴族め、うちの1週間分の食料みんな持って行きやがった」
「安心して。 あのボンボンがいくら暴れて回ろうと、こっちにはクロスがいるから食料と家の修理ならきっとなんとかなる。
というか、集めるだけ集めても村から持ち出す前にことは済むと思うよ」
「まさかアルフレッド坊ちゃん…」
「ここまでぜ~んぶ予定通り、敵は自ら罠にかかるはずさ。」
口角をあげ、笑みを見せる。
妹弟たちが『ズルフ兄』と呼ぶ、勝利を確信したスマイルを。
「ん? この道の先には何がある?」
「バルド様、さすがにこの道はダメですって。 ここ領主の家に繋がる専用道ですよ」
「ボクは侯爵の嫡男であるぞ? 格下がどう怒ろうが喚こうが関係ない!」
この男を止められる者は誰1人としていなかった。




