従魔の伸び代もすごいよねって話(1)
「いいか、お前ら。まず大事なのは“間合い”だ」
シルバスが一本の木の棒を構えると、コッコ4羽が同時に姿勢を低くした。
メープルは空中で静止し、羽音を極限まで抑えている。
今日の稽古は“戦闘の基礎”。 いつもなら人間に教えるところをコッコと蜂の従魔たちに叩き込んでいた。
「まずはコッコども! 4羽まとめて来い」
シルバスが棒を軽く構えた瞬間、コッコ四羽の気配が変わった。
左右に散り、前衛二羽が地を蹴り、後衛二羽が跳躍する――まるで形になった小隊の動きだ。
「コォッ!!」
先頭の一羽が低い姿勢から蹴りを放つ。
シルバスは棒の側面で受け流し、そのまま柄尻で二羽目の脇腹をトンと突き、進路を崩す。
「悪くねぇ……だがまだ読む余地がある!」
上から降りてきた三羽目の回し蹴りを棒の上で滑らせていなし、地面へ誘導。
最後の一羽が後方から突進してくるが、シルバスは一歩踏み込み、棒を地面に叩きつけて踏み込みの軌道を止めた。
ドンッ!
土煙が上がり、四羽が一瞬たじろぐ。
「ほら、動きが止まった。連携はいいが、止まったら終わりだ」
しかしコッコたちはすぐ立て直し、今度は“段差攻撃”を仕掛ける。
二羽が低く潜り、二羽が跳び、四つの攻撃線が同時に迫る。
シルバスの口元がわずかに笑った。
「おう、やるじゃねぇか!」
棒を横に一閃――
低い二羽の蹴りを受け流しつつ、反動で真上へ振り上げ、空中組の体勢を一斉に崩す。
「動きは十分戦闘の“型”になってきた。だが“見てから動く”癖をつけろ。勢いだけじゃ通用しねえぞ」
四羽そろって背筋を伸ばす。
その姿勢を見てシルバスは満足げに頷いた。
「相手の視線、足の向き、重心。それら全部が“合図”だ。
連携するなら、誰か一羽がそれを読み取って合図を送れ。それだけで勝率は段違いになる」
コッコたちは「コッ!」と揃って返事し、胸を張る。
四羽の誇らしげな姿にクロスエイドも思わず笑った。
「よし……次は――メープル、来い!」
『メープル…ヤル!』
蜂の少女がふわりと浮かび、ほとんど音のない羽音で空中に構える。
「メープルは回避だ。刺すのは最後の手段。今日は“死角を消す動き”を覚えろ」
シルバスが手を叩いた瞬間、メープルは一気に速度を上げ、縦横無尽に飛び回った。
その羽音はまるでリズム。シルバスの指先が動くたびに軌道を変え、コッコたちが目を丸くするほど見事な回避を決めていく。
「よし! 今日はここまで!」
稽古の終わり、従魔たちは満足げに胸を張り、クロスエイドは汗だくになった父へタオルを差し出す。
「ふぅ…いい汗かいたな」
「どうですか、僕の仲間達」
期待混じりに聞いてみる。
「コッコ達は随分形になってきた。そこらの人間相手なら充分な集団戦もできるだろう。……だが本当にヤバいのはメープルだ。 見ろ、これ」
父さんは背を向け、ため息まじりにズボンのお尻を指さす。
──ぱっかり。
完璧に半円状に裂けた布地。完全に外の景色が見えている。
風が吹き、さらに広がる。
「…………」
「「「あはははははは!!!」」」
子どもたちは腹を抱えて転げ回り、コッコもバタバタと地面を叩いて笑い、蜂たちも羽音で爆笑に加勢する。
「笑いすぎだ! ぶっ飛ばすぞ!」
父さんは慌てて布を押さえ、恥ずかしさで真っ赤になる。
しかし、ドツボにハマった子どもたちが静まる気配は一切ない。
そこに母さんがやってくる。
「あなた、ちょっと」
「ん?どうしたフローラ、そんな神妙な顔して……まさか」
僕と父さんは母さんの持つ質のいい手紙で全てを察した。
村の近くにダンジョン調査団がやってきていることを――
お尻を押さえながら家に入り、ズボンを履き替えたシルバスはバタバタと足音を立てながら仕事部屋へ向かった。
フローラとアルフレッドがすでに机を囲んでいる、大人の会議をするときのメンバーだ。
「クロスは呼ばなくていいのか?」
「あの子を混ぜるとソラとキッドもついてくるし、これは大人で抱えるべき領域だから呼ばないでおいたの。」
「あまり重荷を背負わせたくもないしね」
「それもそうか」
納得したようで不安の残る顔で席につくシルバス
それを見て、帳簿を開きながらフローラは語り始めた。
「調査団に提供する食料だけど、20人計算で1ヶ月分が限界ね」
「村の消費を考えると余裕があるわけでもないし、向こうには納得してもらうしかないか」
「母さん、調査団の人数って聞いてないの?」
「手紙には17人と書いてあったからその通りなら十分足りるはずよ。 書いてある通りならね」
「増えるかもしれないってこと?」
「えぇ、というか確実に増えるわ。 モルヴァイン家のドラ息子がついてくるもの。」
「モルヴァイン…あまりいい噂は聞かない家だな。 調査団への配属は大きな手柄を立てるためのお飾りってところだろ」
「なら自分の権威を見せつけに人数を増やしてくるのは確定だよね。 こっちの苦労も知らないで」
周囲の村は不作や魔物の被害で大赤字。ベジッタ村も被害としては大きく、本当ならすでに経営破綻していても不思議ではない。
今こうして“ギリギリ何とかなっている“のもこの村に常識をぶち壊す子供が1人いたからだった。
「問題はクロスエイドよ。 調査団の目に触れさせるのは危険すぎるわ。」
「だな。 文明的な価値だとか兵器がどうとか、変な理由でもつけてアイツの逆鱗に触れたらと思うと…」
シルバスは先日のプリン事件を思い出して震え上がる
「なら調査団が出発するまで鍛治工房に避難させよう。 カイデンさんとテッカンさんならうまく話を合わせてくれるだろうし。」
「そうね。調査団もまさか村や街の運命を左右する子供とロボット…小型ゴーレムが田舎の鍛治工房にいるとは思わない。 万が一、接触したとしても『領主家の三男坊が弟子入りしている』としか思わないわ」
“クロスエイドを接触させない“
3人の意思は確認しあうまでもなく合致していた。
「アルフレッド、もしもアイツらが村で変なことをしやがったら…その時はソラとキッド、クロスエイドのことは頼むぞ」
責任と信頼のこもったお願いにアルフレッドは静かに頷く
「任せて。」
真剣な顔をした後、不安を押し殺して強がるように笑う。
「最悪、父さんが捕まるようなことになったら3人を連れて逃げるから」
「お前なぁ」
その後すぐ、村の近くに都会っぽい馬車が数台接近している知らせが入り、シルバスとフローラは対応に追われた。




