幸せプリンは黒い味!?(4)
昼食を挟んで僕たちは家の隣のさらに隣を開墾していた。
新たな仲間、コッコと蜂の住処を用意するためである。
「ホイっ」
『…』
「おねがい」
『♪』
錬金術で木材を立方体にして建築をするのはもう慣れたもので、子供と小さなロボットのバケツリレーによって建築とは名ばかりに大体の形を作るのに20分もかからない。
あっという間にコッコたちが住むには十分な広さの鶏舎が完成する。
「コケっ! コケコッ」
早速、コッコのリーダーに続いて引っ越しが行われていく。
引っ越し荷物は意外に多いようで、どこで買ってきたのか、風呂敷に包まれた大荷物。
これが人なら泥棒かっ!なんてツッコミたくなるのだが、そこらの動物の中では人との社交性に富んだ彼らの常識ではこれが普通なのだろう。
ブゥ~~~ン
一方、巣箱ごと村に来た蜂たちはというと土台さえ作ってそこに固定するだけなので引っ越しはすぐに完了。
ブゥ~ン
『アルジ…ナカマ』
無数の働きバチが巣箱から出てきて全校集会のように整列し、リーダーのお言葉に耳を傾ける。
『アルジ…ミツ…アゲル』
聞いている限り、この村の注意事項などを教えているみたいだ。
「人間の言葉…話してねぇか?」
「羽音で仲間と意思疎通を図るって聞いたことがありますけど言葉を話す蜂もいるんですね…」
「相当知能の高い個体なんだろうね」
「不思議ぃ…」
蜂たちの蜜源はもちろん花。 母さんやコングに手伝ってもらって家の前に花壇を設営すると、まもなく一匹…また一匹と働きバチが仕事を始める
「急に住民が増えましたけど、なんとかなりそうですね」
「でも大丈夫? 村の人たちビックリしちゃうんじゃないかな?」
「たしかに…虫が苦手な人とか近付かなくなりそう」
「きっと大丈夫ですよ。」
コッコたちの引っ越し作業と、蜂たちの集会がひと段落するのを待って、それぞれの代表者を呼ぶ。
「せっかくこの村に来てくれたわけだし、君たちに名前をつけようと思うんだけどいいかな?」
「コケっ!」 『ナマエ…』
「そうだなぁ…」
ウ~~ン…
ピコーーン!
「君がカラアゲ、君はメープルだ!」
「コケコっ♪」 『メープル…メープル!』
「食べたいものの影響を受けすぎだよ…」
名前を聞いたコッコと蜂…改め、カラアゲとメープルは喜んでいる様子。
すると…
ピカァァァァ!
突然、カラアゲとメープルの体が光に包まれる
「な、なんだ!?」
「どうして光るの!?」
「ま、まさかコレって!?」
「進化の光ですよきっと!」
30秒ほどかけて進化を完了する。
「コケコーー!」
『メープル…オオキクナッタ』
茶色いニワトリとほとんど見た目が同じコッコだったカラアゲは白い騎士みたいな模様をもち、全体的にゴツく一回り大きくなった。
どこかホワイトソルジャーの見た目を次いでいるような…
さらに、カラアゲの進化につられて他に3羽いたオスも同様に進化。
メスも4羽も、オスとは系統こそ違うが丸みを帯びたコッコとして進化したようだ。
また別で名前をつけないと。
5センチくらいだった女王蜂のメープルは姿形はそのままにグンッと大きくなって15センチくらいになった。
こっちは残念ながら他の個体は見た目が変わってない。
「なんかめちゃ強そう…」
「大きい…」
「生き物が進化したところなんて人生で1回見るかどうかなのに…同時に2つ見るなんて奇跡どころじゃないよ」
「村に頼もしい仲間が増えたってことですね。 みんな改めてよろしく!」
『「「「 コケっ! 」」」』
『メープル…アルジ…チュウセイ』
カラアゲに続いて進化したこともあり、オスにはナンバン、タツタ、ロースト。メスにはオムレツ、ダシマキ、イリタマ、カルボナと名前をつけた。
メープルが言うには蜂たちは全にして個。 パッと見は変わっていないが、メープルの進化の恩恵は十分に受けているらしい。
ゴチンっ!
『メープル…オウチ…ハイレナイ…』
どうやら進化したことによって発生するのはメリットばかりじゃないようで…結局巣箱はメープル基準に増築する形で作り直すことになった。
そしてそして…
「「「 おやつだーー!! 」」」
待ち侘びていた3時もやってきて、僕たちは家の中へ雪崩れ込むように入る。
「取りに行ってきますね、みんなは楽しみに待っててください。」
「ワクワク♪」
「どんな味すんだろうなぁ」
「村で初めてのスイーツ…こればかりはボクも興奮を抑えられない!」
もうすでにスプーン片手に待っている兄たちに声をかけ、台所に向かう。
「プ~リンッ♪ プ~リンッ♪ しあわせプ~リンッ♪」
初めてのプリンでもあり、恋焦がれた何年振りかのプリンに心が躍る…が
「プ~リンッ♪ プ~リンッ♪ しあわせ…」
踊っていたはずの足が思わず止まってしまう。
開きっぱなしの冷蔵庫、不自然に漂う甘い香り、そして誰かがいる気配、うっすら聞こえる声とスプーンが器に当たる音
「うめぇ…やべぇ止まらん…これがプリ…ん」
「…父さん…何してるんですか…」
ボクと目が合った父さんは顔面蒼白、冷や汗ダラダラ
父さんと目が合った僕はどんな顔をしていただろう、とりあえず分かったのは心の中に黒い火が灯ったことだけ。
「い、いやぁ…味見、っていうか毒味ってああああ…あるだろ? 領主としてのアレコレや、父親としての…」
「食べた…?」
「ちち違うんだ! これは仕事! 大事な仕事で」
「仕事…? 子供が楽しみにしていた物を…初めての幸せを奪うのが仕事…?」
「別に1個くらい食ったっていいだろ…あ…」
そう言い逃れする父さんの足元には空になったガラス容器がいくつも転がっている。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
「テメェ…プリン全部食ったな…!」
「クロス…? なんかすごい怖いぞ」
「………」
手近にあった鍋の蓋を掴む
「 付与! 」
[ 鍋の蓋(付与:粉砕×5) ]
それをためらいもなく投げる!
「あっぶなぃぃ!」
殺意と付与の込められた鍋の蓋は背後の壁に大きな風穴を開ける。
「ヒィィ!」
自分が今までいたいちに開いた風穴を見て、脱兎の如く逃げ出す父さん。
もちろん俺がそんなやつを逃すはずもなく
「ソルジャー…逃すな」
ウィン…ビュン! ズドォ~ーン!
ホワイトソルジャーの銃は父さんの足元を吹き飛ばす
「うわぁあ!?」
父さんの体勢が大きく崩れる。 そこに
「 錬成! 付与! このっ!」
「ガハァ! いてぇ!」
土間と水瓶の水から錬成した泥団子を錬成し、容赦なくぶつける。
「なんだ今の!?」
「泥団子です。 愛情の結晶ですよ!」
「愛情の使い方が違うし、愛情で出していい威力じゃねぇぇ! ガハッ!」
ウィン…ピュン! ピュン! ピュン!
ドガァァアアーーーン!
「や、やめろクロス! 話せばわかる!」
「食べ物の恨み…それもプリンの恨みは万死に値します。」
「たかがおやつだろ! そこまですることは…あっ」
プチン!
「そのたかがおやつに人生かけてるんだよ俺はぁ!!」
手近にあったフォークに付与をして投げる。
フォークは音もなくシルバスの横顔をかすめ、キズ口から血がタラり。
「お許しをぉぉ!」
「プリンの罪を…償え」
そして現在に至る・・・
「領主さま!!」
「無事か! ボウズ!」
「クロスエイド坊ちゃん! アルフレッド坊ちゃん! ソラ嬢ちゃん! キッド坊ちゃん! フローラの姐御! どこだ!」
ドォーーーーン!
最初の程ではない小規模の爆発音が聞こえたと思うと、煙の中から煤だらけのシルバスが飛び出てくる。
「くっ…!」
『「「「 領主さま! 」」」』
「近づくな!! 今すぐここから離れろ…! あいつは今…」
「領主様があんな状態になるなんて一体なにが…!?」
シルバスの視線の先の煙を風が流し、この状況の元凶の影を少しずつはっきり見えるようにする。
「みんな離れててください…これは僕と父さんの問題です。
できることなら巻き込みたくない。」
「クロスエイド坊ちゃん!?」
「ボウズ!」
ニコッ
「それで父さん、どう死ぬ?」
「う…うわぁあーー!!」
両手に持った泥団子、それは砂や土の塊だがもはやその範疇じゃない。
ドガァァン
ほぼ手榴弾である。
「おーおー…思ったよりすごいことになってる」
「すっげ、クロスがブチギレじゃんか」
「滅多に怒らないクロスが怒るとあぁなるのね」
「坊ちゃんたち無事だったか!」
「あ~大丈夫。 父さんがクロスを怒らせただけなんで」
「アルフレッド坊ちゃん! あれは一体何が合ったんですかい!?」
アルフレッドから村人たちに説明が行われる。
「つまり…そのプリンとかいう幸せの食べ物を領主様が勝手に食っちまってクロスエイド坊ちゃんが怒った…と」
「そういうこと。」
「そりゃ領主様が悪りぃよ。 村で初モンの甘味だろ? クロスエイド様が怒るのも当然だって」
「心配して損した…帰ろうぜ」
「そうだな。 シルバスさんは頑丈だし、死にはしないだろ」
パコォォン!
「イデェ!」
「おっ いい音なったなぁ」
「はははっ ありゃ相当痛えぞ」
「痛いどころじゃないって! これ死ぬやつ! 本当に殺る時のやつ!」
「だいじょーぶ、生きとる生きとる」
「声が出とるうちは大丈夫だ。」
「ごめんなさぁぁ~~い!!」
バチコーーン!
「ガハッ」
高く昇っていた太陽が赤く染まり始める平和な村に響く断末魔が響く時…それはシルバスの絶望と村の未来への希望が同時に実った瞬間だった。
その夜…
「プリン…食べたかったなぁ」
「コケコッ」
『アルジ…プリン…マタツクル…』
ウィン…ポンッ
『…』
『♪』
コッコと蜂に優しい言葉をかけられ、ソルジャーに優しく頭を撫でられ、コングは卵と蜂蜜が入った瓶、大豆を鍋に入れて差し出す。
「うん、ありがとみんな…」
はぁ…
「分かったよ、明日からまた頑張ろう」
この世界に生まれ変わって、僕は前を向けるようになったようです。




