幸せプリンは黒い味!?(2)
「王宮の宰相から、近々シュトニック周辺の魔物の発生状況やダンジョンの有無を調べる調査団を派遣するから便宜を図れってよ」
「便宜って事はこれも麦や野菜をよこせって事ですか」
「村の食料と、近隣の食料に調査団の食料にって振られて…どうすりゃいいんだよぉ~…」
ソファに倒れ込み駄々をこねるシルバスくん30代
「なぁクロス、どうにかならないか?」
「大人が頭を抱える内容を僕に振られても…あと普通に座ってください、子供じゃないんですから」
「だってぇ…」
「まぁ、方法がないわけではないですけど」
「マジで!?」
「あくまで思いつきです」
「なんでもいい! まずは話してくれ!」
「パッと思いつく方法は…3つですね」
方法その1 ファーミーコングと人海戦術で秋冬からでも育つ野菜を育て、とにかく量を確保する
方法その2 環境の違いにも強い品種や個体をさらに短期間で育つよう魔改造し、種か苗で提供する。
方法その3 ファーミーコングを連れて各地を訪問し、土壌改良しつつ不作を一気に取り戻す。
「お、おぅ…」
「聞いておいて引かないで下さい。 撃ちますよ」
ウィン…
「怖ぇよ…ちょっ、おいホントに向けるなっ!」
「まぁそれは冗談として、どうですか」
「正攻法なら方法その1だが、育てる面積も足りないとすればその2もありかぁ…」
「そこからは私も加えてもらうわ」
ガチャっ
書類の束を抱えた母さんが急ぎ足で入ってくる。
「聞いていたんですか」
「広い家じゃないもの、隣の部屋で耳をすませば大体聞こえるわ」
「オレがお前を怒らせんように見張ってたんだよ。」
「な、なるほど…でもその必要なかったですね」
「えぇ。 むしろもう少し大人としてのプライドを持ってほしいモノだわ」
「そんなプライド、今はこれっぽっちもない!」
「言い張らないでくださいよ」
はぁ…
「それはそれとして、今言った方法だけれど…方法その1とその2を半々でやりたいっていうのが私としての結論ね。」
「あの、量を確保しようと思ったらどっちかに集中したほうがいいんじゃ…」
「街は魔物との戦いの被害が残っていて麦は作れない、他の村でも不作か魔物にやられて収穫量3割未満。 対してこの村は子供の思いつきに付き合ったおかげで不作の影響をほとんど受けずに、むしろ例年より少し多めの出荷が可能。けれどその程度というのが世間の認識よ。
仮に成長を促進するなり品種改良なりが十分可能だとして、たくさん作っても価格の高騰を狙って収穫と出荷時期を合わせたと言われ、苗や種を渡すだけだと支援する気がないとか言われて物と恩を売るつもりが、かえって顰蹙を買うわ。」
「どこがどう苦しむかが変わるだけってことですか」
「そういうこと。 あと方法その3だけれど、どちらかと言えばあなたも気が乗らないでしょ?」
「はい…できることなら村から出たくないです」
この世界では移動といえば徒歩か馬か馬車、ほぼ2択だ。 それに対して僕はこの世界では致命的な馬車酔い体質。
当然、近隣の村と言っても子供が徒歩で行き来できるような距離ではなく、距離はだいたい馬車か馬の時速で換算される。
「他の誰かに預ければいいんじゃないか? ほら、魔力切れのお前に代わってアルフレッドが命令して動いてたって話だろ」
「あれはロボットの人工知能が必要だと判断してアルフ兄に起動権限を許可しただけで、命令自体は僕の願いを組み立てる前のコアチップが記録したものです。
比較的相性がいいソラ姉とコングで試しましたけど、起動できませんでした。 僕の命令に関係する『お願い』を聞くことはありますが、それはあくまで『お願い』であって人工知能が必要のないものだと判断したら普通に拒否してました。」
「意外にセキュリティがしっかりしてるのね、まるで勇者の剣みたいだわ」
「剣じゃなくてロボットですし、盗難や悪用防止のそういうプログラム…仕掛けがあるんだと思います」
「まさか性能の良さが裏目に出るとはね…」
『…』『…』
「…」
「クロスエイド、どこか腑に落ちない部分があるの?」
「別に…村の人たちの食糧に影響がない範囲なんで」
母さんに少しばかり痛いところをつかれ、無愛想に返す。
「これだけのことを頼んでるんだ、お前の本音の1つや2つ返してもいいんだぞ。
っていうか、さっき本音でいいならってこの話を続けたところだろ」
「ほら、言ってみなさい」
両親に優しく催促され、それなら…と出ない声を少しこぼす
「見ず知らずのだれかを助けるためって言っても見返りもなく手を貸して、僕がいま目指しているものをしばらく後回しにするのがちょっと…。 僕も貴族の子供なんで損得勘定で考えるものじゃないのは分かっているんですが…」
求める食のためにこれからいろいろ挑戦しようってタイミングに邪魔が入ったと言える。
それに顔も知らないどこぞの誰かのために無償で何かをする理由はない。
ハハハハハハハハっ!
「そりゃそうだ。」
フフフフフフフフっ
「そうね、私たち大人が言ったからって他人のためにタダ働きする気は起きないわよね」
突然2人が笑い出したことに戸惑う僕をよそに、何を納得したのかさらに爆笑する両親
「説明してなかったけど、支援っていうのは別にタダってわけじゃないのよ。」
「そうだったんですか」
「もちろん金銭的な取引で済むところは適正価格にすこ~しだけ色をつけて支払ってもらうし、そうでない村は物々交換や私に対する『貸し』で代用するつもりよ。」
「な、なんだろう…ものすごく単純明快でわかりやすい説明なのに、言葉の裏に黒い何かを感じるような…」
ニコッ
「何か言った?」
「イ、イエ…ナンデモ」
ゴホンっ カチャリ…
「それでクロスエイド、私と商談する気はあるかしら?」
母さんが咳をひとつしてメガネを直す。仕事モードにギアが入った音が聞こえた気がして、ベンドリックの血が本能で萎縮する。
だが、今は少しニュアンスが違う。
ブラックエイド…『俺』への取引だ。
「聞きましょう」
「これを見てちょうだい」
母さんが持って入った書類の束から2枚を目の前に並べる。
片方はいくつかの絵と説明書きのようなもの、もう片方は地図かな
「世間は案外せまいというのも嘘じゃないわね、物々交換であなたが欲しそうな物がいくつか手に入るわ。 例えば…タマゴとかハチミツなんてどう?」
「もっと詳しく!」
本日2回目の机バン!して母さんの提案に食いつく。
「ここがエルク村、ここがニーハ村っていう名前のところなんだけどね」
「ふむふむ…」
母さんの説明、いや商談を聞くこと十分…
「ウチから支援するのは全部で3カ所。 量はそれぞれ1ヶ月分くらい欲しいわね。 期間はそうね…2週間以内には届けたいから1週間でできるとこまでやって欲しいわ」
「よし…その依頼、引き受けましょう」
「交渉成立ね。 もちろん協力は惜しまないから人手でも知識でも必要なものがあったらなんでも言ってちょうだい」
「了解です。 それじゃあ早速!」
ドタバタビューーン!
「全員しゅーごー!!」
「なんだい?」
「なぁに?」
「どした?」
「この村の食事に革命が起きるんです! とにかく来てください!」
「わらしべ長者になるぞーー!」
「「「 お、おーーっ! 」」」
「おいおいフローラ、ありゃ熱入れすぎじゃないか?」
「いいのよあれで。 あの子の夢が叶うように少しでも力になりたいもの。」
「クロスの夢…か、そういや聞いたことなかったが、何かなりたいものでもあるのか?」
「まぁ楽しみに見守ることね、あなたが考えてるより身近で壮大な野望よ」




