幸せプリンは黒い味!?(1)
「よっ ほっ」
村は混沌の収穫期も終わりを迎え、土室や野菜の保存、防寒具の作成、その他もろもろ。冬を越すための準備に追われていた。
毎年ある何気ない平和な秋の暮れの光景である。
ドガァーーーーーーン
「うわぁっ!!」
「なんだ!?」
「爆発!?」
「今の方角って…」
「…お、おい!アレ!」
突如として村中に轟く爆発音に村の誰もが動揺し、音のした方を見ればベンドリック家から煙が上がっている。
「領主さま!!」
「無事か! ボウズ!」
「クロスエイド坊ちゃん! アルフレッド坊ちゃん! ソラ嬢ちゃん! キッド坊ちゃん! フローラの姐御! どこだ!」
比較的近所の者達が現場へ駆けつけるも、素人でも身の危険を感じてしまう程の圧と煙が近づくことを阻んでいた。
ドォーーーーン!
最初の程ではない小規模の爆発音が聞こえたと思うと、煙の中から煤だらけのシルバスが飛び出てくる。
「くっ…!」
『「「「 領主さま! 」」」』
「近づくな!! 今すぐここから離れろ…! あいつは今…」
着地を決めた男は誰もが知る戦士の顔になっており、数箇所に滲む血、袖や襟がボロボロになったシャツが状況の把握をさらに困難にさせる。
「領主様があんな状態になるなんて一体なにが…!?」
シルバスの視線の先の煙を風が流し、この状況の元凶の影を少しずつはっきり見えるようにする。
「みんな離れててください…これは僕と父さんの問題です。
できることなら巻き込みたくない。」
「クロスエイド坊ちゃん!?」
「ボウズ!」
口調こそかろうじてクロスエイドを演じているが、1歩、また1歩と標的へと近づくその少年は、まるで別人のように真っ黒な瞳を冷たく鋭く、ただ静かにこう言った。
「それで父さん、どう死ぬ?」
遡ること2週間ほど前
「近隣の村に支援…ですか」
「あぁ。 知っての通り、この村は大打撃こそ受けたがなんとかなる範囲まで持ち直した。
だが、他所はかなり厳しいとのことだ」
机に広がる手紙の1枚を手に取り、開いて読…ダメだ読めねっ!
「そこにある手紙はシュトニックを通してべジッタ村へ届いた…いわば救難信号だ」
きまりの悪い顔であれやこれや取り繕いながら説明してくる。
あ、シュトニックというのは僕たちが先日行ったあの街の名だ。
基本的に村の人たちの大半は村から出なくても生活は成り立つため、シュトニックとかじゃなくて街としか呼ばない。
それに僕は行きも帰りも記憶がないため、恥ずかしながら知ったのは最近の話。
街は村と村を、村と人を繋ぐ役割を担うことで財政的に潤うようになり、街が潤えばそこと取引をする村も自然と安定する。
もちろんその逆も然りで、村からの供給が減れば街の経営も揺らぐ。
すでに影響は出ており、例年の市場では考えられない価格高騰が発生して、日本でいうところの米騒動が起きかけている。
そこで不作の影響が少ないこの村に白羽の矢が立ったというのがこの手紙で、作物をいくつか融通していただきたいとのことらしい。
「というわけだ。 わるいがお前たちが育てた麦を中心に提供することにし」
「…断固拒否です!」
机をバン!と叩き、父さんの言いかけている要求に正面から切り掛かる。
「あの麦は僕を信じて村の皆さんから預かった大切な種を育てたものです…!
あれを渡せばこの村だって冬を越せませんし、その信頼を裏切るわけにはいきません。」
そう、あの麦は来年分の必要量3割から分けてもらった種が育ったもの。
その麦は足りるかすら怪しい食料でもあり財源でもある、村の未来そのもの。
タダで渡すなんて論外もいいところだ。
「クロスエイド、状況を考えろ」
珍しく僕を見る目が強くなる
「今は緊急事態なんだ。余裕がない者に手を貸さなければならない、分かるだろ。」
「…っ」
…『大人』というのはいつもこうだ。
何かと理屈をつけて子供が正しいと思ったことも聞き入れない。
所詮、父さんも『大人』ってことか…
「というのは建前で…」
「え…?」
すると父さんが手をあわせて叫んだ。
「神様、王様、クロスエイド様! なにとぞ力を貸してくれぇ!」
「へ?」
先ほどの表情とは打って変わって、必死にお願いしてくる。
「いや…な? 一応ウチも貴族だし、フリでも嘘でもいいから息子に対してちゃんと言って聞かせたって体裁を整えておきたくってな。
警戒させてすまんな」
「なんで…?」
「なんでとは?」
「あのまま言っても僕から麦を取りあげられたのに、どうして途中でやめたんですか」
「そりゃオレもだいたい同じ考えなんだぞ? ここでケンカしても時間の無駄ってものだろ」
「よかった…良くも悪くも父さんで」
「『悪くも』ってどういう意味だよっ」
僕は安心して座ってるソファの後ろへ目を移す。
「ソルジャー、コング、もう大丈夫だよ」
僕の声に反応してソファの下から歩いて出てくる2体のミニロボット
「おいで」
「そちらはケンカの用意がご立派なことで…」
「だって僕、弱いでしょ? 父さんが力づくの交渉をしようものなら、なす術もなくされるがままですし」
「大量の魔物を相手にできる戦力を父親1人に差し向けるお前が一番こえーわ」
「父さんだって勘を取り戻すって言って1人で盗賊団潰したじゃないですか、ハンデはほしいですよ」
それぞれの方法で僕の横に到着したミニロボ2体に安心感を感じる僕と、冷や汗をかく父。
「それならここからは本音で話させてもらうがいいな?」
「僕も本音でいいなら」
僕の了承を得ると伸ばしていた背筋をヘニャ~と緩め、中堅サラリーマンの疲れた目になる。
「小さい村の領主としては領民の信頼を無碍にするのはなるべくしたくないが、貴族としての仕事もしなきゃならんという板挟み状態でかなり辛くてな…」
「どこぞの錬金術師の信頼も失ったら一巻の終わりですしね」
「そうなんだよ…加減も常識も一切考えないバカチンのやらかしによって支えられているのも事実だしな」
あ、そこノるんだ
っていうか今日の父さん表情忙しいな…
「そこに追い打ちをかけるように今朝コレが来たんだ」
そう言いながら机に広げられたものとは質が桁違いの“書簡“を見せてくる
紙を自作する錬金術師として、コレばっかりは文字が読めずとも流石に分かった。
偉い人からだ。
受け取って一応目を通すが…もちろん読めねっ




