手のひらサイズの農業チート(4)
翌日
ウ~~…ウッホ! ウ~~…ウッホ!
「大きくなーれっ 大きくなーれっ」
畑には鍬を天に掲げて儀式のようなことをするファーミーコングと、付き合いながら水をやる長女の姿があった。
「おはよう、ソラ」
「おはようパパ、今からお稽古?」
「あぁ。 ようやく左右のバランスが戻ってきたし月弧以外の技も取り戻さないとな」
「クロスのおかげね」
「そうだな。 我が息子ながら大したものだよ」
その目線の先に広がる畑と、いつの間にやら出来上がっているログハウスや井戸を見て、昨日常識について叱った事をバツが悪く思い、苦い笑みを浮かべつつこ頭を掻く。
「ところでアイツはなにやってんだ?」
「ほーじょーの舞いだって」
「ホージョー? あぁ豊穣か。 ならオレもお邪魔するかな」
『?』
「隣いいか?」
『♫』
ウ~~…ウッホ! ウ~~…ウッホ!
「フンっ! フン!」
鍬と木刀、農家と戦士と違いこそあれ2つの存在が肩を並べて得物を振るう2つの背中を見て、安心した顔で水やりを続けた。
そうしていると…
ピョコッ
なんの前触れもなく大地から覗く2枚の若葉
「あっ! パパ見て!」
「ん?」
「ここ! 芽が出たの!」
「嘘だろ!?」
素振りを始めたばかりのシルバスも思わず木刀を下ろし、娘の元へ駆け寄る。
通常、植物の発芽には短くても3日、種類にもよるが1週間かかることもある。
村の作物で種を植えて翌日に芽が出るなんてことはありえない。
ピョコっ ピョコピョコピョコ!
次から次へと芽吹き広がる若い命。 それらは決して見間違いなどではなく、ファーミーコングの力と1人の子供のスキルが可能にした現実だった。
「夢じゃ…ないよな」
「木剣かして」
「ん。」
「えいっ どう?」
「夢じゃなかった」
2日後…
「…実ったな」
「…実ったわね」
「…実ったね」
「…実がなっちゃった」
「…実っちまった」
金色に光を放って見える畑を眺め横に並んだ家族全員が呆気に取られていた。
1人を除いて。
「麦が3日で穫れるなら、薬草を植えたらその日のうちに穫れるかな?
あ、でも野菜の種を植えて観察しないことには畑としての向き不向きがあるかもしれないし…」
『「 ちょっとはおどろけ! 」』
この後…なぜだか家族全員からお説教を食らった
「こっちが村の人たちが育てた麦で、こっちが僕の畑でとれた麦です」
「「「 ふむふむ 」」」
気を取り直して、兄姉の前に比較対象となる麦の実を並べる。
「クロスの畑で取れた方が1粒が大きいわ」
「それに全体的に数が多いね」
「なぁ~早く食べようぜ!」
「まだダメだよ。 ここから乾燥させて脱穀して粉に挽くことでようやく調理前の状態になるんだ」
「ちぇっ…こんなにたくさんあるのにおあずけかよ」
「すぐ食べれるようになるわよ ねっ」
「えぇ。 そのための錬金術ですから」
「おぉ~! これが!」
「すげぇ! まだ3日しかたってないのに」
「穂の色も垂れ下がりもいい、というか最高級だ…どんな手品だよ」
畑の入り口に村の人たちが集まっている。
どうやら畑のことがすでに広まっているらしい。
「こんにちは」
「これはこれはクロスエイド様! この畑いっぱいの麦…というか畑はいつの間に作られたんですか!」
「錬金術の実験と被害を受けた畑の立て直しをするためにこないだ作ったんですが…ご覧の通りとんでもないことになっちゃって…」
「麦って何ヶ月もかかるよな…坊ちゃん、ちょっと中に入れてもらえんですか?」
「もちろんです。 むしろ教わりたいことがありまして」
村の人たちを畑に招き、麦と土などの状態を見てもらう。
畑をどうやって開墾したのか、どのような特別な工夫をしたのか…質問責めにあったのだが、僕がしたことというと小屋の建設だけなので答えられるはずもなく…
気休め程度にミニロボットたちの話をしたのだが…
「おぉ~! こちらが守護神様と豊穣の神様ですか! ありがたや ありがたやぁ…」
『「 ははぁ~っ 」』
「いや、ちょっ! 困りますって~!」
神様や精霊様だと言って拝みたおしてしまう始末。
「この方々を坊ちゃんがお造りに…」
「精霊の類とはまた別物なんですな…」
伝わってよかった…
「ところでこの麦、皆さんから見てどうでしょうか」
「そうだな…麦自体の出来はとてもいいんだが、畑がちょっと…な」
「植物に栄養と水分をとられすぎて土が枯れちまってる。
これじゃあ次を植えても枯れちまうだろうな」
「ではどうすれば」
「土を作り直すんだ。 成長に邪魔な石や残った根っこはみ~んな取り除いて、何日か日によく当てて、肥やしをよく混ぜるといい」
「あ、結構かんたんですね」
「簡単って…結構な重労働だぞ」
「でも作業はコングに頼むんでだいぶ楽ですよ。
ここの土木工事は全部できますし。」
「仕事量と物量のバランスがおかしいって…」
「あきらめろ、坊ちゃんの農業はオレらの2個も3個も上の次元だ」
「そうだな」
「それじゃ、オレ達はこの辺で」
「はい、ありがとうございました」
立ち話もほどほどに村の人たちと別れ、僕たちはコングの手伝いで麦を刈っていった。
どっさり!
「いや~ 大漁ですね」
『♫』
「こんなにあったら村の全部に配れるんじゃね?」
「どうだろうね、少なくとも乾燥させて脱穀するからすぐには配れないかな」
「それってクロスの得意分野でしょ? ここでできるんじゃない?」
「ですね。 ここのところミニロボットに仕事を投げっぱなしですし、たまには僕も仕事しましょう」
こういう時、兄弟が4人いると行動が早い。
家の中やご近所からバケツや桶などを借りてきて、完成したばかりの小屋に運び込んで準備完了。
そして…
「錬成」
殻の外れた麦は桶の中で山を成し、頃合いを見計らってはホイっ次、ホイっ次、と兄達によってバケツリレーが行われる。
しかし、ひとつ…またひとつ…と入れ物は満タンになり…
「まいったな…」
入れ物が尽きた。
後から聞いて知るのだが10m×10mの畑から300kg近い麦がとれる。それがおおよそ20m四方だから単純計算で4倍。
さらに粒も数も普通のソレとは訳が違うため、その辺から借りて来ただけのバケツや桶では足りるはずがなかったのだ。
「どうする?」
「本当ならまだ続きをしたいところだけど、もう借りるにも限界はあるし…」
「いや、作っちゃいましょう。 余ってる藁を編んで袋か俵にするとか」
「作るってお前、編み物なんかやったことあったか?」
「ないです。 でもなんとかなる気がします。」
もちろん、編み物なんてやったこともなければ作り方なんて1ミリも知らない。
こういう時って俵を作るべきか、袋を作るべきか…こんな時は、おなしゃす!キューブ先生!
キーーン!
『…~~~…』
「ほうほうなるほど」
1時間後
[ 麦わらのアイテム袋 (内容量×6) ]
「編み物なんて初めてですけど、意外となんとかなりますね」
「おいおい 本当に作っちまったし、全部入っちゃったじゃねーかよ」
「さっすがクロスね! 藁でアイテム袋を作っちゃうなんて誰も思いつかないわ!」
「これなら全部入るかもね。 それじゃあ作業を再開しようか」
「「「 オー! 」」」
朝から作業を始め、昼ごはんを挟んでさらに2時間。
麦わらでできた袋が4つ。左から藁、種用の実、食用の実、脱穀後のモミ殻やゴミ、と木の板に書いて藁紐でくくってある。
小屋に入りきってすらなかった大量の麦は4つの麦わら袋に収まったのであった。
「正直2日くらいの作業を覚悟してたけど」
「なんとかなっちゃうのよね~」
「クロスとロボットにとっては、そこいらのジョーシキはあってないようなモンだしな」
「ひどいですよキッド兄。 できないという常識なんて」
「「「 ぶち破るためにある 」」」
僕の答えを聞く前に3人から揃って返ってくる。
なんとなく照れくさいような、やりにくいような笑いが溢れてしまう。
「今日のおやつはこの麦を使ったパンにしましょう。 きっと美味しいですよ」
「やった! その言葉を待ってたぜ!」
「とっても楽しみ!」
「クロスがつくるパンかぁ どんなのができるんだろ」
「どうせなら夕飯にも麦を使って麺料理にしちゃいましょうか」
「よっしゃ! 今夜は麦パーティだぜぇ!」
美味しいものを食べたい僕の目標と、この村の危機を救える希望が手に届くところにある。
その喜びを家族で分かち合いながら、次なる目標へと小さな1歩を踏み出すのであった。
一方 子供達の喜びとは対照的に、シルバスとフローラの表情は暗かった。
「やっぱり近隣の農村でも被害はデカいか」
「えぇ、今年は歴史的な不作だそうよ。 街では野菜や果物の値段が3倍、麦が5倍近くになってるわ」
「5倍!? それって盗賊じゃなく街の住民とかが攻め込んでくる事もあり得るんじゃあ!」
「無いとはいえないわね。 この村は良くも悪くも被害は少なく済んでるし、魔物化したイナゴに受けた被害もじきに取り戻せる状況にある。
イナゴに荒らされたのはこの村だけのようだけれど、それがあってもなくても獣や魔物の動きが活発だったのは影響として大きいでしょうね」
「どうしたもんかなぁ…」
頭を抱える父シルバスと、声には出せないが焦りの表情を見せる母フローラ
机の上に広げられた何通もの助けを求める便箋と、脳裏に浮かぶ子供達…特に1番の功労者である末の子の顔が2人を苦しめるのであった
(絶対怒るよなぁ…クロス)
(血が流れる結果は避けれないわね…)
(まぁ、多分許してくれるか)
(この村で金銭的な取引は成立しないだろうし…シルバスを生贄に差し出せば許してくれないかしら…)
フローラ以外の誰も気づかぬまま、クロスエイド・ベンドリックが生まれ育つこの村、べジッタ村の希望と絶望への時計の針がゆっくりと、だが確実に進んでいた。




