手のひらサイズの農業チート(1)
イナゴ事件から早数日。
僕は母さんに仕事部屋へ呼ばれていた。
「というわけで実食部分の錬成は早いうちに断念。 麦の種は必要量の3割、他の野菜も必要量の半分くらい種を回収できていて、各農家さんからもおそらく使えるだろうと確認は取れました。
ただ、3割でどこまで増やせるかはプロから見ても未知数だそうで…実際にやってみないと分からない、というのが今出せる結論です。」
「充分よ、報告ありがとう」
~食い荒らされた作物から種だけでも取り出せないのか~
商品として売れる分や村でなら消費できる分を選別した後、自家消費もできないキズモノとして処分の時を待っていた野菜を見て思いついた何の気もない自由研究…だったのだが、ウチの誰か経由で母さんの耳にそれが入り、ただの自由研究が村の運命を左右する研究として扱われてしまったのだ。
「全滅から3割…か、村の財政を支える作物の中でも出荷が多い麦がやられたのは痛いけど、希望は持てなくもない絶妙なラインだね」
「そうね、私の魔法で多少は生育を補助できるけど、やり過ぎると植物本来の自力で育とうとする力が弱まってしまうかもしれなくて、その辺のさじ加減が難しいのよねぇ」
「あの」
「なに?」
「今、母さんとアルフ兄は村の財政と、品種の存続を気にしていると思うんですけど…」
「えぇ、そうね。」
「もしかして、既に考えてる策があるのかい?」
「策…というには少し理想論がすぎるんですが、錬金術と付与魔法と、前世の記憶を頼りにやってみたいことがありまして」
「前世の記憶…ブラックエイドの記憶だね」
「別に隠語みたいに言い換えなくても、タイチって名前で呼んでくれていいのに」
「いやぁ…実を言うとまだ慣れてないんだ、どうしても事実が衝撃的すぎて」
「そんなにですか? まだ53万ある中の2しか見せてないんですから早く慣れて下さい」
「何その戦闘力強めな例え…」
ちなみに、普通なら同席していないとおかしい領主、父さんがいないのは訳があり…書類の山と月末の母さんに恐れをなして逃げ出した罪で、台所で正座したまま3日という謎の刑罰に処されており…
「くっ…足がぁっ…!」
「ツンっ♪」
「がァァァアア!」
「つんっ」
「うギィィイイ!?」
痺れた足をツンツンされて親の威厳もなく悶絶しているらしい。
こちらとしては秘密を共有している2人と気兼ねなく話ができて助かるけど、本当になにをやっているんだか…
「それはそうとして、やりたいことって?」
「結論から言えば食べたいものがあるのでこの村で作れないものかなと、前々から考えてまして。」
「食べたい物というと食文化の話かしら
たしかに他国の文化を取り込むことで街が発展するケースはいくつかあるし、私個人としてもブラックエイドの世界の食文化や技術に興味はあるわ」
「たしかに興味深いね。 クロス、前世ってどんなものを食べてたんだい?」
アルフ兄の疑問に僕の何らかをせき止めていた蓋が音を立てて吹き飛ぶ。
「白ごはんと味噌汁、卵焼き、カレー、うどん、ラーメン、パスタにピザ、ハンバーガーにポテトにナゲットに…」
「く、クロス?」
「餃子にチャーハン、お寿司、牛丼、チーズインハンバーグ…」
「お…おーい」
「鍋にシチューにTKG…たこ焼きにお好み焼き…!」
「「 わ、わかったから 一旦ストップ! 」」
「ケーキ、あんパン、シュークリーム、アイスやソフトクリーム、アメやポテチやチョコレート…」
飢えた獣の如く目を血走らせた僕はもう止まらない。
今まで押し殺した分の反動で食への欲が噴き出してくる。
「ダメだ、全然止まりそうにないし、甘味っぽいのに突入したけど」
「しばらく言わせてあげましょうかぁ…何年も我慢してたみたいだし、思い出すくらいはね~…」
あ~~~~~~~!!!
「今すぐにでも食べたいのに卵も米も牛乳も砂糖もこの村にないなんてぇぇっ!
こんな村…天空要塞都市に魔改造してくれる…!」
「「 早まるらないで、落ち着いて! 」」
キィーーン…!
『…~~~~~~~…』
「っ!」
頭の中へいつもの声が響き飛び起きる。
俺が困った時に聞こえるあの声だ。
「どうしたの? もしかして頭が痛いの!?」
「いや、そういうのじゃなくて。 これも話してなかったけど、どうやらこの白いキューブ、困ったときに助言もくれるみたいで。」
「そ、そうなのね…」
「アルフ兄! 白いミニロボットを錬成した時に出た箱って」
「まだ持ってるよ ちょっと待って」
アイテム袋から出された箱と大きな説明書を受け取り開くと、僕の血の気がサーっと引いていった。
なぜなら…
「え、これ…」
「初めて見た時は衝撃だったよ。 全然見たことない言語が並んでるんだから」
外箱には雪山を背景に躍動感のある白いロボットの絵柄と名称『LXE01 WHITEーSOLDIER』と大文字のアルファベット表記で書いてあるだけのシンプルなデザイン。
ただ説明書は日本語9割、アルファベット1割…要は地球の言語なので、あの場にいたアルフ兄たちにとっては何も手掛かりがないまま組み立てなければならないような鬼畜仕様。
「普通ならあきらめるでしょコレ…」
「分かりやすい絵が描いてあったのと、パーツを指し示す記号があったから分かったら簡単だったよ。」
プラモデルは組み立て方説明書と骨組にAー3、Bー10といった具合にパーツごとのアルファベットや番号が振ってあり、説明書の絵とソレを頼りに組み立てを進めていく。
それをちょっと見ただけで読み解いて組み立てるとは…
でもこの箱と説明書を持って帰ってくれたおかげで少しわかった気がする。
WHITEーSOLUDIERと書いてある一個前、『LXE01』というのはシリーズを通しての品番・型番みたいなことで、02や03以降もあるはず。
たしかに説明書を見るに、このLXEシリーズのミニロボットは頭部、胴体、右腕、左腕、脚部(腰から下)の5つに分かれ、それらを付け替えることができるようだ。
作物は早い話が有機物。
ジェット噴射で移動されると周りに引火しない保証は今のところない。泥とかで噴射口が詰まる可能性も全然ある。
「ってことは腰から下だけ作るってこと?」
「いや、村の戦力と前世の食事の両方を追い求めるためには一体じゃ足りないので、いっその事まるっと一体、農業用に作ろうかと。」
「農業用ねぇ、どんな常識破りの存在になるのかしら」
「クロスのスキルはイメージにほぼ依存してるから、なるべく余計なことを考えないほうがいいかもね
下手したら考えた機能が全部くっついちゃうから…」
ニコッ
「無敵のホワイトソルジャー様に文句でも?」
「あっ…いや、なんでも…ない…です」
「なら遠慮なく」
農業用ってくらいだから、鍬やナタを振るパワーは必須として…
母さんが難しいと言ってた植物の成長に関わる魔法
収穫などの簡単な作業ならできる器用な手
畑や田んぼの他にも足場の弱いところも進める力強い足回りも必要だから…
ピコーンっ!
「キタキタキターーーー!」
「クロスってこんなテンション高いことあったかしら~…」
「父さんにもおんなじこと聞かれたけど、多分スキルを抜きにしても思い浮かんだものが形になるのがたまらないんだと思う。」
「そ、そうね…別人みたい」
「自分と周りを守るために、今まで本当の自分を封じてただろうからね。」
「えぇ、とっても楽しそう」
頭の中に見えてきた新たな機体の背中にワクワクが抑えられなくなった俺はアイテム袋から鉄や酒瓶、木材…とどんどん放り込んでいく
「母さん! 魔力を少々おねがいっ!」
「料理に塩ふるんじゃないんだから…まぁいいけど」
文句を言いながらも手をかざし、魔力を注いでくれる。
「それじゃ、錬成開始!」
カッシャン…カッシャン…カッシャン…カッシャン…
カッシャン…カッシャン…カッシャン…カッシャン…
チーンっ! ぺっ!
キューブが厚紙製の箱を吐き出す。
白いロボットもといホワイトソルジャーと同じ絵のタッチで、無限に広がる畑を背景に長身の鍬を槍のように構えた勇姿の下には大きく『FARMY KONG』と機体名が入っている。
「ファーミー…コング…農家のゴリラくん? なんていうか、かなり安直…」
ネーミングセンスに些かな不満を覚えつつ、それじゃあ早速ご対面と箱を開ける。
横から説明書を抜き取って開く兄を横目に、俺はパーツがひと繋がりになっているランナーを眺める。
「あの、クロス…また言語が違うんだけど」
「だってこの世界の文字の読み書きまだ習ってないし、組み立てるのは俺だから別にいいかなと」
「できればボクも参加したいんだけど…」
「前に1回作ったでしょ」
「そうだけどボクだってこういうのわりと好きだし!」
「はいはい、量産する時は頼みますね~」
「それまだ先の話だよねぇ! ねぇ!」
「・・・・・」
「あ…兄のこと無視して集中モードになった」
兄も母もいることすら忘れて数分後
オーバーオールを模した胴体から伸びる茶色い剛腕
どんな悪路に負けまいと裏からキャタピラが覗く大きな足
頭部は機械的なゴリラ。その頭の上には別パーツで麦わら帽子がちょこんと乗っかっている。
先輩機と違い、地に足をつけて活動するためだろう、少しだけ腰から下に高さがあるためちょうど3頭身。
一体のミニロボットが僕たちの元に、この世界に誕生した。
「本当に農業専用ですって見た目ね」
「でもなんでゴリラ…? しかもちゃんと汚れても大丈夫そうな上下繋ぎの服着てるし…」
「た、多分、赤い帽子の配管工と版権的に近しいドンキーなゴリラが頭の中で混ざったのかも」
「なんだろう…それ以上掘り下げちゃいけない気がする…」
「えいっ!」 「どうだ!」
「ヒギャイッ も、もう…許してくれぇぇぇぇーーーーー!」




