白とクロの計算式(4)
「何がどうなってるんだ…!?」
ここでようやく帰還した父、シルバスは早速驚きで思考が完全に止まっていた。
妻から前もって話を聞いていたが、実際に見れば事の異常性に脳天を叩き割られるほどの衝撃を受ける。
「領主さま!」
「よかった! 戻られたのですね!」
「あ…あぁ…。」
領民がいる手前、毅然とした態度を保とうとするが空いた口は塞がらない。
どちらにせよ事の顛末を知るべく、息子達を探す。
「アルフ!」
「父さん遅いよ どこまで行ってたの」
「す、すまん それより状況は!?」
「大量のイナゴに畑は荒らされて3箇所はほぼ全滅、他も被害は少なくない。
怪我人はざっと数えて40人、みんな軽傷だよ。ボクとクロスで十分手当てできると思う。
ただここから逃げ出した個体も結構いるみたいだし、ロボットはさっき強力な魔法を放ったせいでエネルギー切れ。
撃ち漏らしは人力で処理しないといけないようだね」
「分かった 撃ち漏らしの方はオレが引き受ける。 手当の方は引き続き任せるぞ」
「りょーかい」
元の数が減っていたのもあり、魔物を倒し切るのにそう時間は要さずに済んだ。
しかし、この村にとって倒せてよかったねで終われるほど簡単な問題で済まなかったのである。
「こっちは全滅だ。 商品にならねぇ」
「収穫まで後少しだったのに…」
「なんてことだ…豊作だと思ったのによぉ…」
この村は農村。 当然、村の大部分を占めるのは畑、収入源の9割が農産物だ。
そんな村で農産物が食い荒らされるなど死活問題どころではない、次の年に植えるための種も無くなる。
絶望以外のなにものでもないのだ。
「領主さま…申し訳ありません…。 せっかく坊ちゃんに救っていただいたのに、なんとお詫びしたいいか…」
「頭を上げてくれ、自然の脅威は領主であるオレにも責任がある。
むしろ謝らなければならないのはこっちの方だ。 戻るのが遅れて済まなかった。」
「いえ…」
「領主さま! ちょっと来てくれ!」
「?」
農民に呼ばれ、畑の方に寄る。
「どうした」
「ここ、亡骸が4つほど転がってた所なんだが、ちょっとおかしくねーか?」
「おかしい? 魔物が無作為に食い荒らした跡なんだから食べられる部分が残ってたりも…」
「そうじゃなくて、地面が綺麗すぎる。」
「…っ! そういえば確かに!」
ロボットの光線は冷酷無慈悲。 一撃で仕留めるための威力となると貫通は必須。
となると地面にも突き抜けるため、無数のイナゴがいた畑は穴だらけ、途中にある茎や葉が焦げ付いていたりもっとズタズタになっていないのは不自然なのだ。
「おーいクロスー!」
「? はーい!」
「呼びました?」
「あぁ、すまんな。 ちょっと聞きたいことがあってな
お前、例の人形に器用な命令でも出したか?」
「いいえ 特にヘンテコなことは言ってませんが…」
「ちなみになんて命令した?」
「え~っと 『村のみんなと畑を守って』とだけ…」
「村の人と畑…それって地面も込みだったり?」
「さぁ、そのあたりは何も注文してないです」
「そ、そうか。 まだ何かしてるところか?」
「今は残っている実から種を錬成できないか試してるところです」
「なにっ!? そんなことができるのか」
「今のところナスとニンジン、あとカブは大丈夫そうです。
ただイモ系がうまくいかなくて…」
「そ…そうか…。 今日はほどほどにして、暗くなる前に帰ってこいな」
「はーい」
「あ、そうそう 父さんに一つお願いが」
「なんだ 言ってくれ」
「ロボットを人形って呼ぶのやめてほしいです。 僕の相棒なんで」
「それくらいならまぁ…以後そう呼ばないようにする」
それだけ言い残して、文字通りの自由研究へと戻っていく末の息子を見送る父の顔はなんとも複雑だった。
「“また“なんとかなりそうですね…」
「そうかもしれん…。」
「おっ また坊ちゃんが面白いことを考えついたクチか?」
「聞いてくれよ 坊ちゃんが残ってる実から種を作り出せるかもって話だ」
「本当か! そうと分かればここで油売ってるわけにはいかねぇ!
すぐにでも準備しないと! おーい みんなぁーーー!」
「まだできると決まったわけじゃぁ…ちょっ 待てーい!」
「クロスエイド坊ちゃんがまたやらかしてくれるってよ!
「マジか!」
「クロスエイド様が動いてんならなんとかなるなぁ」
「あぁ。 ウチの子を飢えさせずにすむぜぇ」
「それならいっそ、畑の面積を増やすか!」
「それもいいかもなぁ! どうせやるなら寒さに強い品種も取り寄せてみるか」
つい数分前まで絶望していた彼らを照らした小さくて無邪気な希望にもう立ち上がる農民達とは対照的に…
「ダァーーーー! また書類の山と格闘かよぉーー!」
より一層の絶望へと叩き落とされる男が1人いたことは別のお話。




