白とクロの計算式(2)
カサカサッ
ビクっ!
「っ!」
「どうしました?」
「今、何か音が聞こえたような気が…」
「いや、特に何も聞こえなかったですけど。」
カサカサっ
「あ…」
「聞こえたでしょ?」
「はい…多分この音って」
音が聞こえた気がする方を恐る恐るみる。
すると台所の壁を横切る黒光りする楕円のシルエット。 奴だ。 Gだ。
「「 出たぁーーー!! 」」
僕はもちろん母さんだって奴の存在は怖い。
人間の遺伝子には奴に対する恐怖が刻まれているのかもしれないと結論づけるほどに、奴の存在はベンドリック家にとっても脅威だ。
「いやっ ちょっとクロスなんとかして頂戴!」
「無理ですよ! 僕が対峙できる訳ないじゃないですか!」
普段言い争いをすることはない母さんと僕もこの時ばかりは逃げ道を取り合う。
「ちょっ! なんでもいいから早く! こっちに来ちゃうじゃない!」
「あぁもうどうしたらっ そっそうだ ロボットおねがい! あいつを撃ち抜け!」
ウィィン ス…
僕の言葉に反応したロボットは顔色ひとつ変えることなく銃を構え、ピュン!と一発。
「…」
「…」
焦げた匂いと沈黙が台所を流れる。
その間にお構いなくと銃口を下ろし、置物のように仁王立ちに戻るロボットのモーター音だけが部屋に響く。
「と、とりあえず…この子には我が家を引き続き守ってもらおうかしら…」
「ですね…」
そんな気まずい母子の間を引き裂く勢いで足音が。
「「クロス!」」
バタバタとその手に摘まれた山菜を投げ捨てる勢いで雪崩れ込んでくるソラ姉とキッド兄、その後にゆっくり入ってくるアルフ兄
「あ、3人ともおかえりなさい」
「ただいま、って言ってる場合じゃないわよ! 普通な顔してるけど具合大丈夫なの!?」
「あ、はい 昨日魔力を使いすぎたせいか少しだけ体がだるいですけどそれ以外は元気です。」
「ほんとう? 我慢してない?」
「まだ寝てた方がいいんじゃねーの?」
「いやぁ 食欲のほうが勝っちゃいまして」
「そか ならいっぱい食ってもっかい寝ろっ あっ、オレの分、半分やるよ」
「抜け駆けは禁止よ! わたしのもあげるからね」
「あ、はい…ありがとうございます」
スッ…
2人と話している横からボクの額に手が伸びてくる。
「どれどれ…熱はないようだね。 クロス、指は何本立ってる?」
「さ、3本です。」
「視界に異常はなし。 あとは…」
「「ちょっとアルフ兄! まだはなし中!」」
「はいはい ごめんごめん。」
「あーなーたーたち? 手は洗ってきたのかしら?」
「うわっ いっけね!」 「洗ってくる!」
帰ってきたときの勢いそのままに井戸に走っていくソラ姉とキッド兄。
それを見届ける母さんと僕、そして…
「手を洗いに行かないんですか、アルフ兄」
「ボクは先に洗ってきてるからね」
しれっと残っている兄に気付かないほど僕の頭脳は幼稚じゃない。
「…もう大体のことは気づいているんですよね」
「あぁ、薄々はね」
無論、家族としては十分に信頼しているし、素直に尊敬している。
だがそれはクロスエイドとしての話。
彼が僕のことを観察しているように、前世の俺としての部分が彼のことを警戒してしまうのだ…
「アルフ兄は…」
「ん?」
「アルフ兄は、僕のことが怖くないんですか」
「そりゃあ全く不安がないとは言えないけど、そこまで心配してないさ。
だって記憶のことをごまかす時のクロスの目には悪意がないからね」
そんな根拠…信じる価値ないのに
「俺はアルフ兄の思っているような善人じゃないよ…」
フッ…
「ようやく聞けた。 クロスの本音」
「あっ」
「もういいんだよ。 いずれボクから聞くつもりではあったし」
「…ならいっか」
今まで張り続けたナニかが解け、少しだけ肩の荷を下ろす。
「ちなみに言うけど、中身はアルフ兄の4つ上だよ」
げっ…
「なんか今までごめん…」
「別にそこは気にしてないよ。 ほっといても4年過ぎたら帳尻合うし…家族のことは大好きだし…」
「ん~? 聞こえなかったなぁ~?」
「明日の朝ごはん用に下剤の錬成でも試そっと。
「ごめんって!」
「近くにトリカブトとか生えてたかなぁ」
「それ死ぬやつだよねぇ!?」
改めての自己紹介の代わりに兄弟漫才を繰り広げる。
「幻滅した?」
「いいや全然 むしろホッとしたかな。
実は悪魔か悪霊にでも半分乗っ取られてるんじゃないかって仮説を立ててたことがあるくらいだから、それと比べたら人間なだけ良かった方だよ。」
「悪魔と悪霊…か、あながち間違ってないかもね」
「それはどういう…」
「俺の世界では」
俺は前世の記憶をかいつまんで話した。
治りもしない病に継ぎ接ぎのような治療でやりたかったことは何ひとつできなかったこと。
友達と『勝手に名乗る』人たちはいたが、所詮は形だけの存在で結局は『ひとりぼっち』だったこと
周りの全てを恨んで妬んで、でも何かを企てる力も度胸もない。
誰かの幸せを蔑むことしかできないただのクソ野郎だということも。
「だからクロスエイドとしての自分は、前世の俺を押し隠すための…母さん?」
ちなみに、このやりとりを間近で見せられている母親はというと…
チ~~~ンッ…
「・・・・」
あはは…
「母さんには刺激が強かったみたいだね」
「そうかも…」
なぜこの場に母さんがいるまま話をしたかというと、薄々違和感こそ持ってはいるだろうけど、肝心なところで親バカを発揮する母さんにも真実を把握しておいてもらうためだったのだけど…ちょっといきなり過ぎたかな。
「だからキッドは雑すぎるのよ」
「そう言うソラ姉こそ時々雑だろうがよっ」
「「「 っ‼︎ 」」」
いつもの真ん中姉兄の言い合いが聞こえ、会話を止める。
コホンッ コホンッ
「この話はまた後にしましょっか ズルフ兄」
「そうだね “ブラックエイド“」
「なんの話?」
「大した話じゃないですよ。 ボクが魔力切れで倒れてからのことを聞いてただけなので。」
「なぁ~んだ、2人でおもしれー話でもしてんのかと思ったぜ」
まだソラ姉とキッド兄に話せなかったけれど、何も知らない2人に話すにまだ少し早い。
いずれ話すことになるかもしれないけれど、今でなくてもいい。
きっと受け入れてくれる。
あれ? 誰か忘れている気が…まぁいいか
ヘックション!
「ん? 誰か噂でもしてんのかな?」




