白とクロの計算式(1)
「んん…ん…?」
いつもの天井、姉と共有している長い枕とシナシナペラペラのブランケット。
上がりきった太陽の光が差し込む我が家の寝室。
鳥のさえずりとちょっとだけ聞こえてくる誰かの声。
朝か…起きないと。 歯を磨いて顔を洗って、カイデンさん達の朝ごはんを作って… あれ? 今日って朝食いる日だっけ…?
っていうか今日ってなんの日だっけ?
確か昨日は…
少しずつ意識と記憶を呼び出す。
昨日は家族で街へお出かけしてて、僕の錬金術用アイテムを探して、魔物に街を囲まれて、兄弟総出で回復薬をひたすら作り、何かの拍子に魔力を使い切り気を失い、そして今に至る…と。
あれって夢だったり…と、思ったのも一瞬。
枕元に置かれていた白い立方体が現実だと教えてくれる。
あの後…どうなったのかな
回復薬を作っている最中に何かが起きて、紙でできた箱ができたのまではなんとなく覚えてるんだけれど・・・
ダメだ、どうしてもその辺がボンヤリしてる。
どれだけ考えてもどうにも思い出せない…
とにもかくにも喉が渇いた。
オシッコもしたい。
そして腹の虫がグゥゥ~~~~~~っ!
ふぁ~~~~~っ 起きよ。
ギシィ…と不安になる音をよそにベッドから降り、トイレへ向かう。
「クロス!」
トイレから出たところで素振りをしていたのか木刀を持った父さんが僕に気付き、近づいてくる。
「おう、起きてたんだな」
「おはようございます。」
「調子はどうだ? 魔力切れになるのって初めてだろ」
ん~~~…
「言われてみれば少しだるい気もしますが…まぁ、平気ですね」
「しんどいならあまり無理するなよ」
「はい。 それはそうと…みんなは?」
「アルフ達なら山菜を取りに行った、フローラなら村の会合だ。
もうじきに戻ってくる頃だろ」
「そうですか」
よかった みんな無事なんだ
「父さん…あの後って、どうなったんですか」
「あの街のことか」
僕が頷いたのを見て、ふぅっ…と一息吐いた後に、戦いの顔と父の微笑みが混ざった表情に。
「多少の被害はあったが、あの魔物の数から考えれば少なく済んださ。
お前たちの頑張りのおかげでな」
「よかった…」
報告を聴き、胸を撫で下ろす。
ただ、父さんは嘘をつけるタイプではない。
もちろん僕を気遣ってかなりオブラートに包んだ伝え方をしてくれているが、表情と言葉を聞くに、いくつかの犠牲もあったということだ。
「そんな暗い顔をするな。 お前の回復薬がなかったらもっと大勢の人が死んでいた。
エレン…あ~、騎士団の団長も言ってたが、あの規模を思えば被害が少なすぎるくらいだ。
それでも悔やむ気持ちがあるなら、いつかそいつらの分も誰かを助けられるように努力するんだ。」
そう言って僕の頭を優しく撫でる。
父の手の温かさが少しだけ僕の心を溶かしてくれた。
この世界では命というのは日本とは比べ物にならないほど儚い。
魔物や戦さで戦って命を落とすことも、寒さや食糧不足、病気や過労。
この村も決して例外ではなく、毎年何十人も亡くなる。
ただし、人が亡くなることは悲しいことより次に繋げるためのものという考えが生きていくために必要なのだと、父さんは常日頃教えてくれる。
「ク~~~ロ~~~~~ス~~~~~~~!!」
どこか遠くから聴き慣れた『頭にお花が咲いている』ような猫撫でボイスが迫ってくる。
その声の主は僕が振り向くよりも早く、僕を腕の中に収めてしまう。
「むふぁっ!?」
「よがっだぁ~~~! もう目覚めないがど思っだわ~~~!!」
「し、心配かけてごめんなさい 母さん」
「ほんとうにあなたって子は~~っ 子供なのになんで無茶するの~~!」
アニメでしか見ないようなグジュグジュの泣き顔で僕の顔を見ては抱きしめるを繰り返す母さん。
前世の性格のままならただただ鬱陶しいだけだろうけど、今は少し違う。
「母さんも、無事でよかったです。 ついでに父さんも」
「オレはついでかよ!?」
あぁ、この感じ。 ようやく帰って来れた気がした
「いろいろ聞きたい事もあると思うけれど、お腹空いたでしょう?
そろそろパンが焼きあがる頃よ~」
「やった! ちょうどお腹が空いてたんですよ」
「4日も寝込んでたんだもの~ お腹の1つや2つ減るわよ~~」
「よっかぁ!? 僕っ、4日も寝ていたんですか!?」
「冗談よ~ 本当は丸1日くらいね~」
「なんだ…ビビらせないでくださいよ…」
そんなこんなありつつ、時間的にはおやつらしい大きなパンを頬張る。
幸せだぁ…
「ねぇ、クロス ちょっと聞きたいことがあるんだけれど、いいかしら?」
モグモグ…
「ふぁい? なんうぇす?」
「これのことなんだけれど」
母さんが机に置いたのは黒焦げの金属の塊と…乾電池?
あっこの形、気を失う前に見たプラモデルの外箱に描いてあったやつだ。
なんで焦げてるのかすごく気になるけれど…
欠けていた記憶のピースが脳内でカチッと揃う。
そうか…気を失う前に…
「この人形が…その…無数の魔物を倒したのよ。 それも空を飛んで。」
「・・・・・・・・・へ?」
母さんの言っていることの意味が分からず、変な声が出る。
魔物を倒した?
空を飛んだ?
ナニヲイッテルノ?
「変なキノコでも食べました?」
「食べてないわよっ!」
「なら徹夜してテンションがおかしくなって…」
「おかげさまでグッスリ寝れたわよ!」
「そんな訳ないですよ こんな小さなボディのどこにそんなパワーが…」
「クロスエイド」
「はいスミマセン」
ここで母さんの表情を見てようやく理解する。
あ、これ 知らないうちにやっちゃったやつだ…と
「私もゴーレムは見たことあるけれど、ここまで小さくてあんな機動力をもつ個体は見たことはないわ」
ごー…れむ? あ~、ゲームに敵キャラで出てくるゴーレムね
この世界にはファンタジーな生物もいるのか…いまさらだけど
キィーーン…
『 …~~~… 』
「!?」
頭の中に声が響いてくる。 確か、あの時も聞こえたような…
キィーーン…
『 …~~~… 』
え? ロボットを?
白い立方体を取り出す
「あら、その四角いのは?」
「僕もよく分かってないんですけど、錬金術の『型』みたいなんです。」
「錬金術のためのアイテムってこと? 見つけられたのね」
「父さんとアルフ兄が僕のわがままに付き合ってくれました。」
キューブに僕の魔力を込める。
僕の手のひらから浮かび上がり、上に向いた一面だけが光を放つ。『投入物をここに置いてください』の光だ。
その光に従って黒焦げのロボットと電池を置くと、いくつかのパーツに分離して光の中に吸い込まれる。
「錬成開始」
カシャカシャカシャカシャ…チーンっ!
元々パーツの形自体は出来ているからか、初めて作った時とは見違えるほど速く絵柄が回るキューブ
ぺっ!
3×3の面が開き、完成品が吐き出されるが
「ちょちょちょちょ!」
「あららららら~」
パーツのまま飛び出てきたせいでバラバラバラバラ…!といくつかのパーツが机から落ちてしまう。
母さんに手伝ってもらい机と床に落ちたパーツをかき集める。
幸いにも行方不明のパーツはないようだったので組み立てを開始。
パチ…カチャッ
説明書がないけれど組み立て手順は手にとるように理解できる。
これも器用スキルの効果かな…それとも作成者権限的な?
「できた…」
時間にして5分。なんということでしょう!
黒焦げだった金属の塊が、白を基調として赤、青、金色の塗装が入った2.5頭身のロボットの姿に生まれ変わったではありませんか!
その姿は子供の両手に乗るサイズというコミカルさと、対象を守り抜くという決意と近未来のロマンを共存させ、文字通り今にも動き出しそうな佇まいに仕上がっています!
『…~~』
頭に響く声に促されるまま、背中のパーツを開いて電池を装填して机の上にそっと置く。
ウィン…ウィン
目に黄色く光が灯り、静かなモーター音と共に目覚める。
頭を動かし、周囲を見回したかと思うと僕の前まで歩き、立ち止まって僕側に向いて仁王立ち。
「ってことは…ガチ?」
「えぇ。ガチよ」
「本当に魔物を倒したんですか?」
「倒してたわ」
「空も飛んで?」
「飛んでたわ」
「マジかぁ…」
「マジなのよ」
夢物語だと思っていたことがいざ目の前で起きると人間は思考回路が停止する。
それが半分無意識の自分が関わっており、明らかにサイズに見合っていない成果を挙げたとなれば『信じられない』より『信じたくない』が勝ってしまう。
ふーん
「クロスの反応を見るかぎり意図して作ったものではないようね~」
「そ、そうですね…」
本当は心当たりがないでもない。
もしこの白いキューブがなんでも作れる魔法のアイテムだとして、あのとき必殺ビームとか勇者の聖剣とか、ミサイルだの鎧だのを想像したのがぜんぶ混ざったのなら、このロボットという結論に辿り着いても不思議じゃない。
原理はとても不思議だけれど…考えても分かるものじゃない。
でも今はもう余計なことは言わないでおこう。




