奇跡の練成、手のひらサイズの希望(5)
魔物の侵攻は完全に止み、後片付けに祝い酒にと月の輝きと共に街は日常に戻り始めていた。
「とんだ休日になっちゃったわねぇ」
「そうだな。 でも、クロスにとってはそれ以上のものを得たと思うぞ」
後ろで仲良く話している長男、長女、次男そして、この街に来た時と同じく兄におんぶされて眠る三男坊を見て微笑む2人。
「ホント、信じられないわ あんな普通の子供が大勢の命を救ったなんて。」
「あぁ 親の知らぬ間に子供は成長するとはよく聞くが、それどころの話じゃないしなぁ…
色んな意味で、先が思いやられる。」
うふっ♪
「そうね とっても楽しみだわ~」
「シルバス!」
「おうエレン、今日はおつかれさん」
「あぁ、おつかれ様。 …じゃなくてだな!」
「どした?」
「お前、腕は治っていたのか」
「さぁ どうだかな」
「おまえは…また剣を持てるのだろ!」
「それもどうだか」
「真面目に答えろ! お前の剣は…もう一度…もう一度…」
エレオノーラの頬を伝う雫が言葉を詰まらせる。
時に競い、時に助け合い、幾千の苦難を乗り越えた戦友の復活を誰よりも望んでいた長年の渇望や、待ち望んだあの時と変わらない剣を感じた喜びと、色んな感情が彼女の中でグチャグチャになっているのだ。
時間にして1分の沈黙を打ち破りなんとか絞り出した言葉は
「…戻ってこい」
シルバスには守るべき家族がいる。守るべき領地がある。守るべき民が居る。
そもそも、待遇の悪い騎士団に戻ってくることはない。
そんなことはとっくに分かっている。 それでも
もう一度剣を共にしたい。
互いの数年間を語り合いたい。
心強い相棒に戻ってきてほしい。
その全てを詰め込んだ一言だった。
「気が向いたらな」
「!」
何も知らない者が聞いたらこれ以上ない冒涜のような返事だろう。
だが、互いをよく知るエレオノーラとシルバスにとっては最大限の気遣いのこもった返事なのだった。
「仕事が落ち着いたら遊びに来い。 茶くらいは出すさ。」
「あぁ。近いうちにお邪魔する。 客間は頼むぞ」
「泊まる気かよ 図々しっ!」
「フローラも、手を貸してくれて本当に感謝している。」
「あら~私じゃなくて私によく似た誰かかもしれないわよ~?」
「分かっている。 王都の貴族連中には君が関わったことは伏せておくつもりだ。」
「さて“今回は“どこまで隠し通せるかしら」
「が、頑張ります…」
そしてフローラとシルバスを通り過ぎ子供たちの元に歩み寄り片膝をつき頭を下げる。
「君たちもありがとう。 君たちが用意した回復薬のおかげで私も含め、部下やたくさんの冒険者の命が救われた」
「「 !!! 」」 「…!」
アルフレッドはもちろん、ソラとキッドも話の流れから目の前の女性がかつての父のライバルで、王都でも偉い人。
つまり回復薬のことを1番知られたくない人物だと理解できていた。
故に感謝の言葉を逆の意味として捉えて必要以上に動揺し、弟をどうあっても守ろうと身体が動いていた。
「あの、今の言葉の意味分かってますか」
「安心してくれ。 救ってもらった恩を仇で返すほど私は欲深くない。
ただ礼も言えないでは私の気が収まらないからいっただけだ。
上には君たちのことは街の住民の誰かが協力してくれたとしか報告しないし、もし不義理を働く者がいた時には遠慮なく我々を頼ってほしい。
騎士の名に誓って助けに行くと誓おう。」
「しんじても…いいのか?」
「もちろんだ。」
「うそ言ったりしない?」
「言わないが…君たち両親にどう教わってるんだ…?」
全く悪気のない回答に苦い笑いを漏らすしかできないエレオノーラだったが、少し遠くから書類を抱えたギルドの職員が見えたことで我に返る。
「どうやら仕事が山積みらしい。 近日中に今回の埋め合わせとお礼はさせてもらう。 背中の彼にもよろしく伝えておいてくれ」
「はい、クロスが起きたら伝えておきます。」
子供達に背を向けて駆け出す…が、おっといけないとまた振り返る。
「またいつか、力を貸してほしい。」
「今のところ、そんな時が来ないことを祈ってます」
フフッ
「その通りだ。 ではまた、今度は村で会おう!」
心の底から満足そうに駆け出すエレオノーラの心は明るく、そして逞しい太陽のように温かかった。
「帰りましょうか~」
「あぁ。」
「帰りは私が御者するからあなたは後ろね~」
「ちょっ! オレが乗る馬車はオレが」
「それだとクロスが酔うじゃな~い 軍馬と馬車を引く馬では扱いが違うのよ~?」
「そ、それぐらいオレだってだなぁ…」
「くどい」
「ハイ…スンマセン…」
こうして、僕たちベンドリック家もいつもの日常へと戻っていくのであった。
だが、この事件は僕の進化の始まりでしかない。
そう気づくのはまた別のお話。




