奇跡の練成、手のひらサイズの希望(4)
西の防御陣営はというと…
血肉の紅で染まりきった大地を踏みしめたのは人間の方。
街の防衛という名を借りた、フローラをその他大勢で補助するという異様な“作業”によって魔獣の子1匹すら残っていなかった。
フゥ…
「敵も味方も根性無しばっかりね」
うわぁ…
「本当に全部倒しやがった…」
「サイクロプスの五感を毒で奪って、穴という穴からツタを生やすとか、並の人間がやっていい芸当じゃねぇ…」
うふっ♪
「何か文句でも?」
「い、いえ! なんでもねぇっす!」
「オレ達アンタに惚れたぜ!」
「一生ついていくぜ姐さん!」
「そう、ありがと。 でもあいにく私は旦那と子供がいるの~♪」
熱いラブコールをヒラリといなし、戦士達に後始末の指示を出す。
「それじゃあ、息子達のところに戻るからあとはお願いね~」
「うっす! 任せてくだせぇ!」
「ご家族によろしく伝えてくれ!」
「姐さんもお気をつけて!」
「ええ。」
そう言葉を交わし、次の地点へと走り出す。
(東の魔力反応は…よかった。 済んだみたいね。
今は…そう、エレンと一緒なのね。 …でも)
周囲の惨状を憂う。 今もなお運び込まれ続ける怪我人たちが北の陣営の被害の大きさを物語っていたからだ。
「母さん!」
「アルフ…」
「ここにいるってことは、西側もひと段落ついたみたいだね」
「えぇ。 南の方はまだやってるみたいだから、少しばかり急かしに行かないとだけれど。」
「そっか…」
「なにか問題が起きたようね」
「ちょっといいニュースとすごく悪いニュース、どっちから聞きたい?」
穏やかな口調の中に静かな焦りを感じ取り、母として息を呑む。
「悪いニュースから聞かせてもらうわ」
「クロスが魔力切れでダウンして、それと同時に薬草も尽きた。
回復薬はもう…」
「……そう、いいニュースの方は?」
「クロスが倒れる前に回復薬を錬成してくれた。 これを。」
そう言ってアイテム袋を母に手渡す。
「すごいよね、僕より5つも下なのに弱音もはかず、自分にできることを全力でやってた…兄として素直に頭が下るよ」
「ありがとう。 大事に使わせてもらうわね。」
「それと、コレ」
「これは?」
アルフレッドが差し出したソレは、小学生向けコミックに登場するような2頭身半ほどのロボット。
一見コミカルで、オモチャにしか見えない全高十数センチの人形を見たフローラの顔にも思わず『?』が浮かぶ。
しかし、クロスエイドのことを1番理解していると豪語している兄は勝利を確信した顔をしてたったひと言。
「クロスが作り出した切り札さ。」
「はぇ?」
と、言われても流石になんのこっちゃ状態の母親に苦笑い。
「まぁ、見てて」
小さなロボットの背面の蓋を開き、子供の小指ほどの筒状の金属を入れて蓋を閉じる。
筒状の金属…電池を入れられたロボットは瞳に光を灯し、まるで周囲の情報を処理しながら準備運動をするかのようにウィンウィンと駆動音と共に首や腕を動かす。
「いけ!」
アルフレッドの命令を受け、手の上からタタタッ ピョインッと飛び降りたと想うと、足の裏の噴射口から轟音と炎を噴きながら北に向かって飛び立った。
「今のなんだ?」
「鳥か?」
どこかから聞こえてくる轟音は、なにも知らない者には追えるはずもなく、何かが通った音と、2本の細い煙の跡に首を傾げることしかできなかった。
ワァーーーッ ワァーーーッ
「守れ! ここだけはなんとしても守れ!」
「立てる者は武器を拾って応戦しろ!」
「くっ…倒しても倒しても数が減らねぇ」
限界などもうとっくに超えていた陣営
互いに倒しては倒されての均衡状態を保つのがやっとで、突破されていない方が不思議なほどだった。
グォォーーーーーーーーーーッ!!
魔物を統率するボスが標的を威嚇しつつ同胞を奮い立たせる雄叫びをあげる。
するとこれまで一切衰えなかった魔獣の波がさらに荒く、そして激しくなる。
「なんっ がはっ!?」
「魔獣の動きが…!」
状況のさらなる悪化に10人、20人と薙ぎ倒されていく。
「もう…だめだ」
誰かがそうこぼし、それがドミノ倒しかのように大勢を絶望に叩き落とした。
武器を落とし、膝を落とし、戦意なんて戦場の泡沫に散った。あとは魔物たちに蹂躙されるのを待つだけとなった。
そんな時、人間たちが守る街の街壁の上から希望の光はやってきた。
ピュン! ズドォォン!!
右手に構えた銃身から放たれた光線によって一体の魔物の首から血飛沫があがる。
さらに次、次、次・・・・・・と正確で無駄のない射撃によって魔物の数と勢いを落としていく。
「な、なんだあれは!?」
まったく意識していない方角からの援護により人間、魔物ともに戦況が一時停止。
騎士の1人の魔力感知によりその発射元に気付くも…
「小さい何か…遠過ぎてよく見えん!」
子供の手に乗るサイズでは、なんのこっちゃ分からない。
「あいつは味方なのか!?」
「一撃であの魔物どもを次から次へと…」
「ギルマス! こんな秘密兵器があるなんて聞いてませんよ!」
「あんな兵器置いてるギルドがあるか…! あんなの用意出来るとしたら騎士団…も無理か。 なら一体誰が…」
「ギルドの長が知らないなんて…」
人間たちが狼狽えている間にも、小さなロボットは無慈悲にも魔物を肉片に変えていく。
はっ!
「お前たち! あの小さいのが時間を稼いでくれているうちに怪我人を連れて街に戻れ!」
ようやく我に帰ったギルドマスター、オーガストによって負傷者の救護へと全体の舵が切られる。
「ウソでしょ…」
少しの息切れと共に驚愕の声を漏らすフローラ。
長男の言っていたことを疑っていたわけではないが実際に見るのとは全く訳がちがう。
たかが10数センチの人形が飛行するカラクリもさることながら、その人形が数百にもなる魔物の群れをまさに血祭りにあげているように見える光景は明らかに前代未聞の事態だった。
「10秒で説明して」
「ふ、フローラさん!? え、え~っと…崩壊3秒前ですが、何やら援軍が来たようで…」
「なるほど、大体理解したわ」
「それよりあの小さいのが突然飛んできて攻撃魔法で魔獣をブチ抜いてやがるんですよ!
あれは一体何者なんですか!?」
「あの小さい戦士は私たちの味方よ。とはいえ私も細かいことは聴いていないの。
もっとも…今は考えるだけ時間の無駄なようね」
「おっと…いかん。 首領のお出ましか」
敵陣の最後尾、劇場の暗幕を引きちぎってそのまま着てますと言わんばかりの大きな翼が全てを薙ぎ倒しそうな風の音と共に街に急接近してくる。
「ワイバーン…かなりマズイわね」
「この辺りでは出現報告が出たことがないというのに…どう考えてもおかしい…
生態系が完全に壊れたか何者かによって呼び込まれたとしか考えられん…」
「どうだっていいわ。 早く終わらせましょう。」
ギャォォオオオオオーーー!
超高速で突っ込んできたワイバーンが口から炎を放つ。
「危ない 逃げろぉぉ!」
炎を吹く前の呼び動作にいち早く反応した冒険者の1人がそう叫び、大多数は右へ左へと散って逃げる。
怪我人やそれらを気にして逃げ遅れた者に対しても、炎は容赦なくその手を伸ばす。
ピュン! ピュン! ピュンッ!
小さなロボットも反応して炎に対して攻撃を放つが歯が立たず、飛行体制もフラつき始める。
目に灯っていた光が点滅し、小さく警告音を数回鳴らす。 エネルギーが残り少ないのだ。
ウィ…ン…
飛行を維持するのがやっとな小さなロボットは少しの間だけ首を回し、後ろを見る。
そして再度ワイバーンを見据え、点滅していた目の光を煌めかせる。
足の向きを大きく変え、ジェット噴射を最大出力にして…敵が放った炎の進行方向へ飛び込む!
「あいつ!」
「なにをっ」
やがてコップほどの小さなロボットは大木のような炎とぶつかる。
「炎が…止まってる…」
「急げ! 今のうちに撤退だ!」
通常の物理法則ならば軽く吹っ飛ばされるか、一瞬で焼き尽くされて終いだろう。
だが、一見しただけでは心許ないボディを構成するのは未知の技術によって生まれた合金と、桁外れな付与魔法。
物理法則を超えた奇跡と運命の掛け算は炎に屈することなく街の人々を護りきったのだ。
フラフラ…
宙を踏みしめる力と瞳の光を失い、重力によって地面に引き寄せられていき、誰かの惜しみゆく声も遠く虚しくガシャァン!という音と共に叩きつけられる。
「ちっこいの! いま助けに、うぉっ!?」
「…」
小さな英雄を助けに行こうとするオーガスト。 だがその行動はフローラの、1人の魔法使いが足元を刺々しい菱の実だらけにしたことで阻まれる。
「危ないじゃないか フローラさ…ヒィッ!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ…
「せっかくの休日をメチャクチャにしてくれた罪…子供たちの頑張りに炎を吐いた罪…その命で償いなさい」
自身の周りに木の杭を生成し、さらに追加で生成した毒でコーティングする。
「猛毒槍!」
ワイバーンに向けて放つ。
しかしワイバーンもそう易々とやられる訳がない。 1、2本目は軽々とかわす。
「それで避けたつもりかしら?」
そういう間にも3、4、5本目…と次々放つ。 1、2本目はオトリだったかのように避けた先に放たれた毒濡れの杭は翼を貫き、バランスを失ったワイバーンも重力に逆らえなくなる。
グッ…ガクッガクガク…
未だ戦意を捨てていないワイバーンはなんとか体勢を立て直そうと足掻く。
フローラは臆する事なく歩み寄り、手をのばす。
「よくがんばったわね」
黒焦げのロボットと電池をアイテム袋ではなく懐にしまい、ワイバーンは眼中にも止めずに街の方へと戻っていく。
「あとはそっちで処理しておいてちょうだい」
「と、トドメは?」
オーガストの問いかけにとてもめんどくさそうな顔で一言
「なにか言ったかしら?」
「い、いえなんでも…。 本当に助かりました。」




