奇跡の練成、手のひらサイズの希望(3)
「ボウズども! 次はできてるか!」
「できてますけど…もしかして状況が悪くなったんですか」
「あぁ、サイクロプスとレッサードラゴンが流れ込んで来やがったらしい。
大量の怪我人が運ばれてて、治療が間に合ってねぇんだと!」
『「 !! 」』
ダガルさんが持ってきた悪い速報に僕たちの心の余裕はいとも簡単に奪われた。
備蓄で持ってきていた回復薬は半分は父さんに、もう半分は母さんに渡しており、そこから先はこの工房でなんとか作っている物。
薬草も残りひと抱えほどしかないし、ダガルさんは奥さんとの二人暮らしだから小さな手鍋とフライパンが2つずつあるくらいで、いくら錬金術を持っているとはいえ、一度にたくさんの数を作れないのだ。
ひとまずダガルさんに今できた分を持って行ってもらい、次の準備を進める。
「クロス、魔力はあとどれくらい保つ?」
「うーん…今ある薬草を使い切るくらいですかね」
「そんなにいけるのかい?」
「このままのペースでいったらです、今くしゃみが出ようものならその望みは無くなります。」
「おねがいだから頑張って耐えて…」
「ぼ、僕のクシャミにたくさんの人の命がぁ…」
どちらにせよ長くは保たない。
たとえ父さんや母さんが強くても、4つの陣営から怪我人が途絶えることはない。
下手すると父さん母さんも…
いけないいけないっ僕がしっかりしないと…
「ちょっとキッド! 回復薬1個入れ忘れてるじゃない!」
「あっ! いっけね!」
「どうするのよっ おじさん行っちゃったわよ!」
「ア、アルフ兄の分に入れればいいだろっ」
「そうしたらまた入れ忘れちゃうでしょっ すぐに持っていきなさいよっ」
「はいはいケンカしないよ。 どーどーどー」
「「馬じゃない!」」
こんな状況でもいつもの光景…危機感があるんだかないんだか
薬草も、僕の魔力も長くはもたない。 このままではいずれ…
こうなったら、残ってる魔力で何か作るとか…作るなら何を作ったらいい?
必殺ビームが出る銃?
追尾機能付きのミサイル?
魔獣を楽々斬り裂く勇者の聖剣?
どれだけ攻撃を受けようと傷1つ付かない鎧?
無理だ…僕の錬金術だと回復薬はともかく、固形の物は材料までしか作れない。
紙や鉄のインゴット、粘土、レンガ、麻紐。
ちょっと頑張れば食器やパンの生地、あと鉛筆とかは作れるけど、ロボットとか作れたらなんてちょっとでも考えた僕は夢を見過ぎだ。
僕の力では…
どうせ俺の力では…
ポワポワポワポワァ…!
「…?」
どこから温かい何かが湧いてくるのを感じ、無意識にその力を求めて両手を前に出す。
すると、その温かい何かに呼び出されたかのように、あの道具屋で受け取った謎の汚れた立方体が僕の目の前に現れて、温かい何かは立方体に吸われていく…いや、一つになっていくと言った方がいいのだろうか?
ハッと僕の意識が呼び戻された時、僕の両手の上で浮いている立方体にはまるで卵から何かが孵化するかのようにピシ…ピシピシ…とヒビが入り、パキンっと音と共に工房中に眩い光を放つ。
「うわっ」
「キャッ」
「うぁっ」
「っ…!?」
咄嗟に目を瞑り、光が落ち着いたのを感じて恐る恐る両手の上をもう一度見ると、純白の立方体が緩やかな光を放ちながらゆっくりと回転していた。
「これは…」
どうしてだろう…ついさっき初めて見たはずの物なのに、なんのための物なのかも皆目見当もつかないのに、なぜだか僕と出会う運命にあったのだけは分かる。
キィーンッ
『…~~ーー~~ーー~~…』
そうか、これは『型』なんだ。
頭に響いてくる誰かの声を聞き、僕の先に道が見えた気がした。
アイテム袋から練習に使っていた端材を片っ端から取り出し、頭に浮かぶまま立方体の上にかざしていく。
立方体は真上に置かれた端材たちを僕の魔力ごと吸い込むように取り込み、必要な量が揃ったのか次の行動に移る。
カッシャン… カッシャン…
今度はバランスボールほどに大きくなってルービックキューブと同じ縦横奥行きに3マスずつの線が入り、ルービックキューブの絵柄をずらすのと同じように右へ左へ、上へ下へと己を回し始めた。
チーンッ!
真っ白だから見た目は変ってないけれど絵柄が揃ったのか満足げに光を放ち、電子レンジでお馴染みの音を声高々に発する。
パカっ ペッ!
3×3の立方体が文字通り凹と逆さにした凸に分かれて開いたかと思うと、箱の形をした何かを吐き出した。
「わっ なんか出てきた!」
「なにこれ? 箱?」
「材質は紙で出来ているようだけど…この絵は一体…」
デカデカと絵が描かれた厚紙製の箱を眺めて頭にハテナを浮かべる3人に対し、僕には前世で見たことのある、どう考えても今ここにあるのは場違いに思える物だった。
「どうしてプラモ…」
「「「ぷらも?」」」
ドサッ
力の抜けていく体を兄はとっさに抱き止める。
『「 クロス!! 」』
「大丈夫か!」
「多分…今ので魔力が切れたんだ」
魔法とは魔力だけでなく集中力を要する。
通常の日本人なら最低でも学校に通い授業を受けているか、ゲームや己の趣味などの娯楽にのめり込むことができるため、集中するという能力に長けているのだ。
しかし、僕にはそのどちらもない。
全くないわけではないけれど所詮は病院のヌシ、そして今の体は健康ではあるけど7歳の子供。
学校にも行っていなければ、趣味も大して知らない子供にとって魔力量以前に集中力なんてあってないような物。
ここまで持ち堪えたのは家族の理解と協力に応えたいという想いと、後悔したくないという願いがあったからこそ。
「アルフ兄…ソラ姉…キッド兄…」
ゆっくりと遠ざかっていく意識の中で兄たちに箱の正体を話し伝えた。
とある記憶の中で子供から大人まで愛好家達に愛されているソレは、骨組みからパーツを切り離して組み立てることで形を成す物であること。
このタイミングでコレが生み出されたことにはきっとそれ以上の意味があるはずだということ。
そして
「ごめんなさい…俺…」
"前世の記憶がある、隠していてごめんなさい"
そのひと言を伝えようとした途端、急に言葉が喉から出なくなる。
それが襲ってくる眠気のせいか、秘密を話すことへの躊躇いかは分からないけど、兄達の顔すら満足に視認出来なくなっている。
眠い…気持ち悪い…頭が痛い…
それでも僕は残された全てを、薬草や鍋がある方へと向け、
「れん…せぇ…」
この記憶を最後に、僕は意識を手放した。




