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奇跡の錬成、手のひらサイズの希望(1)

「はぁっ!!」

ズバっ

「恐れるな! 数が多いだけで一体一体は大したことは無い!」

「よっしゃぁ! エレオノーラ騎士団長に続けぇー!!」



「きたぞーー! ここは一匹たりとも通すなぁ!!」

『「 ウォオオオオーーーーーッ!! 」』



騎士団と冒険者ギルドの合同による街の防衛作戦が始まった。

街中の戦力を東西南北の4つに分け、北を騎士団長エレオノーラ、南を冒険者ギルドマスターであるオーガスト、西と東は騎士団の中隊長とAランクの冒険者が共同で率いている。








一方、ベンドリック家の父であるシルバスは、とある人物を探して東にある陣営に向かっていた。


「ぅぅ…」

「しっかりして! 誰か! 誰か助けてください!」


「こいつを急いで救護所に運べ!」


「誰か回復薬持ってないか!?」


防衛が始まってさほど経っていないにも関わらず、あちらこちらに怪我人が横たわっていた…



「よし…。 そこの担架ちょっと待ってくれ!」

「なんだアンタ! こいつは命が危うい状態なんだぞ!」

「んなもん見りゃわかる。」


青い液体が詰められた、丸みの瓶をアイテム袋から取り出し、手渡す。


「これ使え。」

「回復薬…! ありがてェ!」


差し出された手から奪うように取り、虫の息となっている戦士の全身に振りかける。

回復薬は温かい光を放ち、全身の傷が塞がっていく


「嘘だろ…致命傷だったのに」

「流れた血はすぐには戻らんらしい。 どこかで休ませてやれ。」

「わ、分かった!」


「ちょっとそこ通らせてくれ」


また別の怪我人の元に駆け寄る。

キュポンッと栓を抜き、雑に瓶をひっくり返す。


「う…あれ…助かった…のか?」

「分かるか?」

「あなたが助けてくれたのか…感謝する…」

「まだ身体を起こすな。少し休んでろ」

「あのっ ありがとうございます!」


怪我人の無事を見届けた後、回復薬を配りながら前線に移動するといくつか懐かしい背中が見えてくる。

その中に目的の人物を見つけ、一気に駆け寄る。


「ハスター!」

「っ? シルバスさん!」

「シルバスさん!」

「先輩!」

「シルバス!」

「おぅ、お前らまだ辞めてなかったんだなぁ」

「東側(こっち)に来てくれたんですね!」

「あぁ。西にはフローラが向かった。エレンとオーガストがいる陣営もなんとかなるだろ。」

「ですが、ここは…」

「それなら大丈夫だ。 じきに回復薬が届く」

「「「 え? 」」」

「いや、なんでもない。せっかく暑苦しい団長様がいないんだ、焦らずゆっくり行くぞ。」


「「「 おーーっ! 」」」




一方、西側に向かった母、フローラはというと


「まったく…情けない連中ね。 魂だの誇りだの言っておいて全然根性ないじゃない」


文句を言いながら敵の攻撃をヒラリヒラリと避けながら倒れた戦士たちに回復薬をかけて回っていた。


「ん…」

「気が付いたならさっさとその槍を持って立ちなさい」

「あ、危ねぇ後ろ!」


ブォォォオオオ!

グギェ!

グギャアア!


「いい度胸ね 鮮血喰滅華(ブラッディ・フラワー) 」


地面から無数の赤い花が飛び出し、5m級にまで大きくなる。

その蕾が開くと、鋭い牙が生えた花の魔物がオークやゴブリンを本能のまま喰らい尽くす。


「すげぇ…」

「魔獣を食い散らかしている間に怪我人を連れてとっとと下がりなさい。

でないとあれらに喰われるわよ」


「「「「 急げぇーーーー!! 」」」」


「西と東は私たちが食い止める。…頼んだわよ、みんな」





そして、街の中に残った僕達はというと


[ 回復薬 ( 付与:効率上昇×1.5 ) ]


「アチチチ…ソラ姉、お願いします。」

「うん。 アイシング!」


父さんたちを見送った後、古い道具屋の情報をくれた武具店に駆け込み、台所を借りてひたすら回復薬を作っていた。


鍋に火をかけ、アクを取りながら僕の魔力を流し入れる。

緑色の煮汁が青い輝きを放つようになったら完成の合図。

出来たら熱々の鍋をソラ姉の魔法で冷まして、キッド兄が小分けの瓶に分けていく。


作った回復薬はアルフ兄、この店の店主であるダガルさんによって各所に配達されている。



「マズイぞ、北と南からの重症者がどんどん増えてやがる」

「次ができてます! 持っていってください」           

「お、おう!」


「戻ったよ」

「アルフ兄、外の様子はどう?」

「今のところ問題なさそうだったよ。 現場の混乱のおかげで回復薬がどこから来たものかを気にしてられる余裕がなさそうだった。そっちはどうだい?」

「薬草より先に薬瓶が足りてません。

キッド兄に空き瓶を集めに出てもらっているんですが…」

「それなら大丈夫。 さっきすれ違ったから、ボクの勘が正しければもうそろそろ」


キキーーッ

「クロス、集めてきたぞ!」

「ほらね」

「すごっ 帰ってくるタイミングピッタリ!」


アイテム袋からたくさんの空き瓶が出るわ出るわ、まだ出るわと溢れんばかりに机に並ぶ。


「ジャーン! どうよ!」

「こんなにたくさん…! しかもこっちの瓶はここから出た分じゃないですよね」

「さぁな、どれがどれだか気にしてらんなかったんで、片っ端から拾ってきた!」

「ナイスよキッド!」

「それじゃあ、ボクとダガルさんは次を持って出るから3人は引き続き頼んだよ」


「「「りょうかいっ」」」





「ダァぁあ!」

「このやろっ!」

「ハァッ!」


「ファイアーボール!」

「雷の矛!」

「アイスアロー!」

「ウォーターシールド!」

「切り裂け! ウインドカッター」

「グランドウォール!」


ここは剣と魔法が飛び交う異世界。

弱者は強者に淘汰され、法など力の前には意味をなさない。


モォォーーーーーーーーォ!


「うわぁぁっ」

「ガハァッ!」


人間の倍の巨体をもつ二足歩行の牛頭(ミノタウロス)

その巨体から繰り出される攻撃は倍だから人間2人で防げるなんてことはなく、簡単に薙ぎ倒されていく。


「エラルド! ミッチ!」


ズシィン!

モォォォォオオオオオーーーーーッ!!


「クッ…」


もう助からない。

誰もが諦め、次々と来る標的に頭を切り替えようとしていたその時だった。


「月弧!」


突然目の前に現れた存在が命を刈り取らんとする大斧を跳ね除け


「おりゃ!」


ズバッと音を轟かせ、軽々と一刀両断して見せた。


「すげぇ…」

「あのデッカいのを一撃で…」


「早く立て、まだまだ先は長いぞ。」


絶対的な強者が味方にいるという事実は冒険者や騎士たちの士気を繋ぎ止め、とめどなくやってくる魔獣の群れに立ち向かう力に変わっていた。


ちなみにその絶対的な強者本人の心の内はというと…


(こわぁ…摩擦減らすってほとんど切れ味強化みたいなものだろ!

でもこれが斬撃強化の付与油だったら…考えるのが怖い…)


「ガハァ!」

「ロックス大丈夫か! このぉっ!」

「ハスター後ろ!」

「っ!」


地上から攻めてくる魔獣、空中から攻撃を仕掛けてくる魔蟲や魔鳥。 次から次へと押し寄せてくる魔物の波は既に第2波を迎え、戦士たちの疲労や消耗も限界を迎えていた。


「伏せろハスター!」

「ぇ…っ? うぉっ!?」


かろうじて反応してしゃがみ込むことで回避した軌道を通り過ぎる三日月を模した銀色の斬撃は、その延長線上にいる魔物たちを削り取っていく。


「す、すみません シルバスさん」 

「謝る余裕があるなら十分だ。 まだやれるな!」

「もちろんです! ここで倒れるわけにはいきませんから!」


(とは言ったものの、戦況はかなりマズい。

クロスから貰った回復薬はもう使い切ってしまったし、アルフレッドが回復薬を持ってくるまでまだ時間がかかる。

このままじゃあ“こっちの陣営でも”犠牲が出るのは時間の問題だ。)


「気はむかんが、仕方ないか…」

「シルバスさん? 何をする気ですか」

「別に。 ちょっと魔物の足を遅くするだけだ」


そう言ってアイテム袋から独特な匂いが漂う布を取り出し、地面から拾った石に来るんで手近で燃える魔物から火をつける。


ゴッフォ ごっふぉ!

「くっっっっっせ!」


鼻だけにとどまらず目や口にもくる匂いのキツさにやられて思わず涙と本音がこぼれる。


『「 くっさ! 」』

「オォエェェェェェ!」

「オロロロロロロロロロロロ」


この兵器の存在を知る由もない周囲の者たちも漏れなく被害を受ける。


「喰らえ魔物ども! うちのチビ助からのプレゼントだっ!」


大ぶりに放られた匂いの手榴弾は、魔物たちのど真ん中少し手前に降り立ち、煙と風に乗せて魔物たちを苦しめていく。


「とんでもない兵器もたせやがって…」


そのあまりにもヒドイ匂いにやられて森に引き返そうとして他の魔物に踏み潰される魔物、半狂乱になる魔物、逃げ惑う魔物、混乱のあまり自らを傷つける魔物、混乱のあまり自らを傷つけ始めたり、同士討ちを始めたり…野菜を守るために使われ処分に困っていたただの出涸らし布には充分すぎる活躍を見せた。


「ウソでしょ…あんなにいる魔物達が布切れを燃やしただけで…」

「魔物の鼻は人間の比じゃねぇからな。

ってか風向きが変わって…くっさぁああああ!」


もちろんその崩れた魔物の勢いを見逃すような人間は誰1人居らず…


『「 今だいけぇええええええーーー! 」』


程なくして西の陣営は静かになったものの、西側の区域と西の陣営で戦っていた者達には悲しくも無農薬農薬の香が根を張ってしまったことは想像に難くない。

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