汚れた小箱と黒い過去
店を出た僕たちは母さんたちと合流すべく街の中心へと向かって歩いていた。
「結局、何も分からないまま買っちまったな
フローラに怒られないといいが」
「…」
ドスっ
「イッテっ 何すんだアルフレッド」
ジトーーーーっ
アルフレッドの目線が父親を冷たく刺す。
「いいんです。 今は分からないだけで、近いうちに分かる気がしますから。」
「お、おう。 クロスがそういうなら、そういうことなのか」
「そうだね。 焦らずに精進するんだよ」
「なぁにを分かった口きいてやがんだ半人前がぁ」
「ひどいなぁ これでも父さんよりまともなこと言ったつもりなんだけど。」
「おめっ 親父に向かってその言い方はダメだろ このぉ」
「痛っ やったなこのっ」
「コンニャロっ」
「あっ 謎の飛行物体!」
「どっ どこどこ、どこだ?」
「隙ありっ」
「イテッ 騙し打ちは卑怯だぞ」
このこのこのこのこの!
このこのこのこのこの!
楽しそうに攻撃しあっている父と兄に苦笑いしながらも、街の外れから大通りに出たところで空気が変わる。
「急げ! 武器を北門と南門に集めろ!」
「戦えるやつはみんな冒険者ギルドに集まれ! 緊急招集だ!」
「女、子供は避難の準備だ! 最小限の荷物を持って向こうへ避難しろ!」
「父さん、これって…」
「だろうな… とにかくフローラ達と合流するぞ」
向かった先は冒険者ギルド。
そこにはもうすでに、たくさんの屈強な戦士達が集められており、騒然としていた。
「みんな聞いてくれ! この街に大量の魔物が向かってきている!
直ちに街を守る準備をするぞ!」
いかにも戦士の統率者という見た目をしたギルドマスターが冒険者達に呼びかけ、それに呼応して冒険者たちが口々に返事をする。
「おもしれぇ 迎え撃ってやらぁ!」
「魔物なんかに好き勝手させるかよ!」
「子供が生まれたばかりなのに、それを壊させやしねぇ!」
「オレたちで街を守るんだ!」
「野郎どもぉ! 気を引き締めやがれ!」
『「「「 おうっ!! 」」」』
「ありったけの武器を集めろ!」
「回復薬の在庫は!?」
「父さんも参加するんですか?」
「あぁ。 すまんが剣を借りるぞ。」
アイテム袋から剣を出して渡す。
本当なら使えない僕より、剣士である父さんが持っている方がいいと思うのだけれど、母さんが自分の物は自分で管理しなさいと言うのでその通りにしている。
実を言うと、父さんは剣を持たせたらすぐどこかへ行ってしまって、陽が落ちるまで帰ってこないからっていうのが本当の理由らしいんだけれど。
チャキ…
「回復薬と付与油は持ってきてるか」
「回復薬は母さんに言われて備蓄がありますが付与油はこれしか…」
[ 付与油 (摩擦÷4) ]
[ 付与油 (重量÷2) ]
「危険すぎて付与油と武器の製造は母さんからストップがかかってるんだよ
その2本も、ストップがかかる前に作った物の残りなんだ」
「そりゃそうなるか」
苦笑いしながら父さんの手持ちのアイテム袋に移す。
手持ちの回復薬の半分と、付与油、そして剣。
「あ、父さん」
「ん?」
「これも持っていってください
もしかしたら役に立つかもしれません」
「なんか臭うが…これは?」
「無農薬農薬の原液を絞った時の布なんですが、燃やせば魔物除けになるはずです。
原液を燻すようなものなので人間にとってもかなりキツイですが」
「お、おう…取扱いには気をつけないとな…」
嫌そうな顔でそう言いながらアイテム袋に放り込む父さんの手は明らかに汚物を持つソレなのはツッコまない。
だってホントに臭いんだもの。
10分ほど待つと母さんたちも合流した。
「街から逃げ出そうとした住民や商会の馬車がことごとくやられたそうよ。
この街は今、周囲の魔獣に大きな餌箱として認識されたとみて間違いないわ。」
「この非常事態だ、家族サービスは後回しだな」
「今頃エレンが騎士団を率いて防衛用の陣形を組んでる頃だと思うけど、物資の面が心許ないわね」
「この街の食糧と武具ならそれなりにもつだろ、具体的に何が足りてないんだ?」
「…回復薬よ」
『「 回復薬… 」』
示し合わせた訳ではないが自然と家族全員の目が1箇所に集まる。
「え…僕…ですか?」
「クロスなら回復薬をつくれるじゃない!」
「そうだよ! クロスの回復薬なら父さんの腕も一瞬で治せるんだし100人や1000人、へーきだろ!」
下の兄姉は勝ちを確信したかのように舞い上がっている。
しかし2人以外の顔は明るくなかった。
そんな両親と兄の顔を見て頭にハテナを浮かべる2人。
「どうしたんだよぉ! まさかクロスにできないとか言わないよなぁ!」
「確かに今の状況でクロスが適任なのはボク達も同じ意見だよ。ただ、それにも問題があるんだよ」
「そもそも薬草が必要な分を確保できるかわからんしな」
「できたとしても、付与が凄すぎて騒ぎになるわね」
そう、回復薬の需要によって街全体で回復薬はもちろん、その材料である薬草も薬師の元に集められる。
そんな中、社会的に信憑性のない錬金術、それも7歳になってスキルを授かったばかりの子供に薬草と人の命を預けられるはずがない。
仮に出来ても…同じ材料で掛け算式で何倍も効力のある回復薬はどこの勢力も喉から手が出る出るほど欲しがり、もっと大きな別問題が生まれる。
「それでも…」
僕の手の中に握られた立方体があの子の影と重なり、僕は…俺は考えてしまう。
あの時は救う事ができなかった。何も出来なかった。
俺が医者でも看護師でもなかったから
けれど今なら…
「目の前に僕の力で助かる人が1人でもいるのなら…助けたいです!」
誰かを助けられるスキルがある。
心強い家族がいる!
「あのっ 僕のわがまま、聞いてくれますか?」
『「「 もちろんっ! 」」』
こうして、僕たちベンドリック一家の戦いは誰にも知られないほど静かに幕を開けたのである




