128話
美味しい話がある。
小金持ちになれる。
胡散臭い話だとは思いつつも、お世話になっているので無下にも出来ず。重い足取りでボスの部屋へと向かってドアをノックして入室する。
「アンタは偉いね。ちゃんと入って来る」
「ありがとうございます」
褒められた。
余程まともに入って来る人がいないのだろう。
「まぁ、茶でも飲んで話を聞きな」
お茶と茶菓子を出される。
良い香りであり茶菓子は上品な見た目をしている。
パクリと一口。
うーむ。これはなかなか。
お茶との相性もいい。
両方とも何処で買えるのだろうか。後で聞いてみよう。
「一応ギルドを通じてアンタのことは調べさせて貰ったよ。依頼の達成率がかなり高いようだね」
「真面目に取り組んだだけです」
「まぁ私が気になったのは、依頼達成率よりも依頼者の評価が異様に高いところさね」
「真面目だっただけです」
「本来ならあり得ない数値だよ。どうしてだろうねぇ」
「頼まれたことより少しだけ良い仕事をする。出しゃばらないでしょうか」
適当にはぐらかす。
「そういう事にしとこうかね」
「.......ボス。明日も忙しいのでそろそろ変な駆け引きは止めましょう。からかっているだけならもう帰りますよ」
「まったく真面目な奴だね」
この人は割とおしゃべり好きなのだ。意味深な事を言ってからかう事が好きなのである。
早めに切り上げるに限る。
ゴソゴソと机から書類を取り出す。
「アンタに指名依頼を出す。受けな。損はさせないよ」
本当に依頼とは。
面倒だと思いながらも依頼書を受け取る。
「内容が犯罪とか国に目をつけられるようなことはしたくありませんよ」
「バカ。そんこと頼まないよ。うちはクリーンでやっているんだ。むしろ国のお墨付きの依頼さね」
それは残念。断る口実が減ってしまった。
詳しい内容を見ていく。
従業員の補助手伝い。
期間は移動込みで10日間。
内容については問題ない。
期間も本来なら悪くないのだろうが子供達を考えると長い。
依頼の目玉であろう報酬にケチをつけて断ろう。
その金額を見て二度見する。
うー。
躊躇する金額が書いてあった。
........ダメだ。逆に金額がデカすぎる。その金額に比例する責任を負わせられると考えると恐ろしくある。
「何考えてるか当てようか?」
思考を遮るタイミングで声が掛かる。
「断る理由を探してるんだろ」
図星である。
「受けなよ。難しい仕事じゃないのにこの金額は垂涎さね。それにアンタが思っているよりお金は大事だよ。子供がいるのならあるだけあって損はない。子供達を入学させたいとか思ってるのなら尚更じゃないかい?」
どこかで聞かれたのかな。良くご存じで。
「入学金、受講費、教材費にその他諸々を4人分。それでも最低限だ。ある程度の保証を考えるならもう少しあった方が心強いさね」
「詳しいんですね」
「こう見えて顔は広いんだよ。それにここで私の高評価を得られれば色々と融通がききやすいさね」
「.......。拘束される期間が長いかなぁ、と思っただけです。マッサージはともかく食堂とか穴を開けると客離れが心配で。それに子供達も心配ですし」
「あぁ、だとするなら尚更受けた方が良いさね」
「なぜです?」
「こっちで大体的な人事異動があるのさ。グループ内で右から左へって感じだがね」
「入れ替えですか。何故それが私に関係してるんですか?」
ズズっとお茶をすすり口を潤し言葉を紡ぐ。
「来る奴がアンタの事を知らないからだよ」
「?」
「今居る連中はアンタが劣人種ってことをある程度察してるし、なんだかんだで認めてるし好かれてる」
「なるほど」
「だが何も知らない奴からすれば劣人種って分かればアンタのことを当然舐めてかかるし、侮った態度を取るだろう。気に入らなくて仕事の邪魔をするのは当然として、矛先が子供達に向くのは容易に想像がつくさね」
「確かに」
「私は誰であろうと利益があれば優遇するし害があれば排除する。そういった意味ではアンタには気持ちよく働いてもらいたいと思っているし、そのために骨を折るのはやぶさかじゃないとさえ思ってる」
「諍いを無くすための時間が必要だ、と」
「その通り。余計な諍いを無くすためにアンタにはちょっと席を空けておいてほしいのさ。それも含めてその値段だと思ってくれていい」
余計な諍いが起こらないようにするための説明やらなにやらするから一時的に離れていて欲しいと言う事かな。
その間仕事が出来なくなるだろうから割のいい仕事を与える配慮であると。
「依頼を受けるなら子供は格安で預かるよ。心配なら仕事の同行も許す。どうするさね」
・・・
・・
・
「ガハハハッ! んで、ボスにそそのかされて受けちまったと」
「........はい」
「説明通り席を空けるつもりではあったが、まさか国から出るほど遠いところへ行くとは思わなかったと」
「はい」
「今度から内容はキチンと確認しなくちゃな」
「返す言葉もなく」
引き受けてしまった。
子供のことで頭がいっぱいだった。
このあたりは親に似たのだと思いたい。
「それじゃ、反省を活かすためにもう一回仕事の確認しとこうか」
「よろしくお願いします」
仕事内容はスタッフの補助である。
今回主導して働くスタッフというのは魔道車で懇切丁寧に運ばれている人たちのことだ。
まぁ、この街のスタッフなので具体的に何をするのかは想像に難くない。
とある人達へ一時の夢を売りに行く。
それを円滑にできるようにサポートするのが自分の仕事だ。
「まぁ、厄介なのは場所じゃねぇ。お客であるお相手だ。王族貴族の遊び相手になるのとは違って今回は種族が違う。そしてなによりも求める目的も違う」
「珍しい種族なんですよね」
「そうだ。歴代勇者もご執心であり、シトゥン王の相棒であった勇者が愛した種族。エルフだ」
そう、お相手はエルフという種族だ。
お会いした事は無いんだよな。
あと、場所が問題にならないのは大森林方面からショートカットとしての魔道具があるからだ。
アゥリスとこの国に来るまでに使ったようなものだ。
「エルフには会ったことないんですけど」
「あったりまえだ。俺だってねぇよ。噂じゃ基本縄張りから出てこねぇ偏屈が多いらしい。だが何よりも特徴的なのはその美貌だ。いちもつが縮み上がるほどの美しさらしいぞ」
「そんな美貌が見れるとは役得ですね」
「役得なわけねぇよ。縮み上ってもらっちゃ困るのよ。だからこっちは冷や汗もんだ。次失敗したら交易断絶は確実なうえに、向こうが何をするか分からねぇ」
話を聞くと今回は前回の失敗の尻拭い。
前回は全員が不能の役立たずとなってしまい先方は怒り心頭だったとの事。
「前回は半殺し。2度目の今回は俺らの首が物理的に飛んでもおかしくねぇや」
ガハハ、と大声で笑い飛ばす。
こっちは笑えない。
命運はスタッフの人達に掛かっていると言う事か。
不安で落ち着かない。
「まぁ......向こうは種の存続がかかってるからな。躍起になるのは仕方ねぇか」
種族の性質とても長命ゆえに性欲が薄い。
そして縄張り意識が強く排他的となれば自然と血が濃くなっていく。
濃くなれば滅びるのは目に見えている。
なので今回のように外から血を薄めるための種を欲するのだ。
娯楽ではなく種を。
前回はその辺りを蔑ろにしてしまって失敗したようだ。
「今回の失敗は許されねぇ。選りすぐりの人材だ。全員人間で最高の醜男達だぜ」
「凄いですもんね」
エルフにとっての美醜の判断は人のそれとは違う。全くの逆だ。
こちらで言う最高の美人は、向こうにとってはそうでは無く。
向こうにとっての最高の美人は、こちらにとってはそうでは無い。
醜ければ醜いほど喜ばれる。
まぁ、容姿については多くは語るまい。
「人材については問題はないんだが........本当にそいつら連れていくのか?」
「ええ、責任もって見ますので」
視線を落とすと、ズボンのすそを掴んでいる子供達をみる。
一応残るか付いて行くかを聞いたが、無言で服を掴んだ。
力強く握るそれは雄弁な答えだった。
「婆さんの口利きだから分かってはいるんだが.........頼むぜ」
「はい」
ちなみにわらび餅は留守だ。いてくれると心強かったんだが、相変わらず大森林には入れなかったので仕方なし。
目の前の空間がグニャリと歪む。
「開きました!! 入ります!」
「おー!!」
エルフの森へと続く道が開かれた。




