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129話


お客様であるエルフの元へと向かうために大きく歪んだ空間へ魔道車と共に突き進む。

グニャリと歪んだ空間を進むと、徐々に歪みは戻り元に戻る。

そこは森ではあったが大森林とは全く違う場所だった。

爽やかな風を感じる。

大森林とは違い重苦しい空気がない。

とても澄み切った穏やかな空気を感じる。

木々の隙間から抜ける光が特別に輝いているかのようだ。


なるほど、居心地がいい理由が分かった。

よく見れば木々は手入れされて整備されている。

丁寧な仕事ぶりだ。詫びさびを感じる。

その景色を楽しみながら進むと少し広い空間に出る。

そこに見目麗しい女性達が出迎えてくれていた。

これがエルフという人達か。

あらゆる噂と憶測に美人であるという話がでてくるが、偽りではなかった。

耳が特徴的な形をしているが、それ以外はほぼ人の見た目だ。獣人より人に近い見た目をしている。

全員が別嬪さんである。

眼福だ。ただ.......


「ッチ」


その容貌からは想像できない舌打ちが響く。

露骨な敵愾心。

理由は事前に聞いていたがこれほどとは。前回の人はどれほどひどい事をしたのだろうか。


「おら!! 動くんじゃねぇぞ。クソども」


棍棒を持ったエルフに口汚く罵られる。

人数は少ないようだが魔道車を中心に囲われているようだ。

多少のトラブルは予想していたが、すでにクライマックスである。

気分は山賊に襲われた商人だ。

こうなるなら子供達は連れて来るべきではなかったか。

トラウマになってしまうよ。

事前に子供達を魔道車に入れておいたのは、せめてもの救いか。

だけど子供がどうなっているのか確認したいな。怖がってないだろうか。


「なんだ!!? 文句でもあんのか!!?」

「いえ」


魔道車の方を見ていたのだが、エルフを見ていたと思われたようだ。

雰囲気最悪である。

軽い挨拶をしてもヒートアップしそうである。

チラリと近くにいるエルフを見る。

その服装はなんとかならないだろうか。

ボロボロの服が体に引っ掛かっているかのような感じで目のやり場に困る。

色々隠せてないし、ほぼ見えている。


「何見てんだ!? アァ!!? ブスが!」


謝罪を述べる間もなく棍棒で脛を思いっきり叩かれる。

痛くはないが気が滅入る。

そんな暴行を受けているときに別のエルフ側から怒号が聞こえる。


「ち、ちょっと待ってくれ。話を.....」


色々話してくれた責任者のおじさんがエルフの人達に必死に何かを訴えている。

エルフさん達はどんどん口調を強めてヒートアップしている。

あぁ、残念。説得は失敗したようだ。

護衛ごとノーバウンドで吹っ飛ばされて木にぶつかった。


どうするんだよ。これ。

依頼失敗だろ。

本気でここから子供達だけでも逃がせないか模索する。

逃げ道の確保......はダメそうだ。先程まで通ってきた道を見るが歪んでいた空間が無くなっている。

このまま走って逃げるのは無理そうか。


「おぅおぅおゥ!!」


圧が強めなエルフが睨みつけながらこちらへ近づいてくる。


「テメェらは約束すら守れねぇのか!? それとも約束を覚えてられない馬鹿なのか!!? その頭は体が浮かねぇための重し代わりなんじゃねぇのか!!? アァ!!?」


矛先がこちらへ向く。


「忘れたならもう一回言ってやる! 最低限の保証として頑丈な奴を用意しろって言ったよな!? なァ!!?」

「.......えっと」


何も知らないのですけど。

可能な限りの弁明をしようと口を開くが、言葉を発する前にエルフのケンカキックが腹筋へ炸裂した。

話し合いは無理そうだ。

怒りがおさまるまで耐えるしかないか。

このままタコ殴りを覚悟していたが、追撃が来ない。


視線を落とすと訝しむようにこちらを見るエルフと目があう。


暫し見つめ合うと、何かの合図を送り幾人かのエルフと集まって遠くで何か話し始める。

なんだろう。何話しているのだろうか。

何かの話し合いがまとまったようで大きな弓を持ってこちらに近づいてくる。


「おう。ちっと試してやる。これ使えや」


弓と矢をこちらに放り投げる。

大きさは和弓のような大きさ。

素材は木製とは思うが質感が金属なような硬さである。

軽く弦を弾けば張力の強さがハッキリと分かる。

大分強い気がする。


それで受け取ったは良いが、どうすればいいんだ。


「射ろ」


そういい真上を指さす。

頭上に矢を射ればいいのかな。

ひとまず言われたとおりにしよう。


軽く足場を踏み鳴らし場を整える。

背中に力を込めて姿勢を正す。

矢を持ち、弓を構える。

大きくゆっくりと息を吸い、少しだけ息を吐き出して止める。

弓が折れないように気を付けながらゆっくりと力を込めて限界まで引き絞る。

そしてゆっくりと背を逸らす。

真上へ。


木漏れ日の隙間に狙いを定めて矢から指を離す。

矢が悲鳴のような風切り音を上げながら真っすぐに空へと飛んでいった。

矢はすぐに見えなくなった。


いかがでしょうか。


恐る恐る振り返る。

しばしの沈黙。

ヒュー。と小さな口笛が聞こえてくる。


「んだよォ。お前だったのかよ。魔力ねぇから勘違いしたじゃねぇか」


笑い声が響き、空気が弛緩する。

雰囲気が和らいでいるのを感じる。

凌げたか?

光明が見えた気がする。

立て直すならこのタイミングか。


「えぇ、はい。そうです。いかがでしょうか?」


雰囲気だ。その場のノリで乗り切らねばならない。


「んじゃおっさんは関係なかったのか。不味ったな。死んでねぇよな。悪いことしたな」

「しゃあない。治療してやるか」

「それにしてもお前。何とも奇妙な奴だな。気持ち悪いぞ。あ、良い意味でな」


全員が尻を叩くか撫でてくる。

セクハラではなかろうか。


「ブスって言って悪かったな。よく見りゃ味のある良い顔してる」

「ありがとうございます」


悪意はないようだがフォローにもなっていない。


「大丈夫だとは思うが、前回と同じで役立たずだった場合はアンタに頑張ってもらうから。無理でも頑張れる特別な薬を用意してるぞー。効き目は最高だけど副作用も強烈なやつだ」


白い錠剤を手渡される。

下卑た笑い声が辺りを包む。

嫌だなぁ。仮にこれを捨ててもまだあるんだろうな。

いや、とにかく今はズレた軌道を修正して本題へ向かわねば。


「えぇ、では、皆様が気になっているであろう。今回お相手をするスタッフをご紹介したいと思います。よろしいでしょうか」

「いいぞー」

「早く出せ」

「前は酷かったぞ。お前がマシに見えるぐらいだ」

「全くだよなァ!」


ガハハと笑いあっている。

見た目と中身のギャップが凄いよね。


「今回は選りすぐるの人選を選んできました。喜んでくれると思います」


頼むぞ。

好感触であってくれと祈るように魔道車の扉を開く。

開いた扉から順にスタッフの方たちが現れる。

その堂々とした立ち振る舞いに頼もしさを感じる。

1人1人がランウェイを歩くかのようなエネルギッシュなウォーキングでエルフ達の前へと歩きだす。

そしてそれぞれがアピールをして引き返すして一列にと並ぶ。


プロだ。その出で立ちからカッコよさが滲み出ている。

さてエルフ達の反応はどうだろうか。

様子を伺う。


.......完璧だ。


心の中でガッツポーズする。

下卑たおっさんみたいな反応だったのが、一瞬にして乙女のような顔になっている。

服や髪を慌てて正している者までいるほどだ。

軌道修正は出来たと確信した。


「ご満足いただけるかと思います」


返事はないが照れた顔がそのまま答えだと捉えていいだろう。

ハプニングはあったが、これで一安心だ。あとはプロの人達に任せよう。

このまま丸投げしようとしたところで気が付いた。

スタッフの足が微かに震えている。


ん?


よく見ればスタッフ全員が爪が白くなるまで全力で親指を隠すように握り込んでいる。

事前に知らされていたハンドサイン。


重大な問題発生。

緊急事態。SOS。


これは不味そうだ。

一度仕切り直さねば。


「皆様。より良い一夜を過ごすためのご提案があります。いかがでしょうか」



◇◆◇魔道車の中


ちょっと高級なマイクロバスのような大きさである魔道車。

移動中でも手足が伸ばせるほどのゆとりと広さが確保されているが、停車させればコテージに変形させることも出来る高級な魔道具だ。

その中で緊急会議が開かれた。


「何があったんですか?」

「それが..........」


言いにくそうであり、どこかバツが悪そうな雰囲気を漂わせている。

その言い澱みが、予想を確信へと変えた。


「勃たないと」


全員の顔に影が差すかのようだ。

皆静かに俯く。


なんてこったい。

本当にどうしよう。

いまエルフ達は言い知れない程の期待感で胸を躍らせている。

そんな中でこんな事実がバレれば皆殺し、もしくは自分の貞操の危機だ。

両方とも嫌だ。

特に後半。

正直、最初は好きな人が良い。


「参ったなぁ」


本当に参ってしまう。

一応、仕切り直しのための時間稼ぎとして、エルフ達に親交を深めるための立食パーティーを提案したのだが、無駄になりそうだ。

現状、原因の調査や対策の時間なんて取れるわけがない。

誰もが同じ言葉が頭に浮かぶ。

空気がどんよりと淀む。


そんな息が詰まるような重い空気に子供達が過敏に感じ取ったのだろうか。

ズボンを掴んで引っ張っている。


大丈夫だぞ。

最悪、担いで逃げるからな。


だが、どうやら違うようだ。

エルフに吹っ飛ばされて介抱されているおじさんを指さしている。


「せんせ......呼んでるよ」


え、いま先生っていった?

消え入りそうな声だったが、確かに言った。

心が妙にじんわりと温かい。ちょっと感動している。

先生......か。悪くない。

感動の余韻に浸っているとグイグイと引っ張られる。


もうちょっと浸らせてほしい。


引っ張られておじさんの所へと連れていかれる。

そのおじさんは何やら小さな声で呟いている。

なんだろうか。死期を悟って遺言をつぶやいているのだろうか。

世話になったのだ聞くだけは聞いておこうと耳を傾ける。


「.......分かった。原因が」


素早く近くにあった紙とペンを握りしめて、うなされるかのように呟く言葉をメモしていく。


うーむ。これが本当なら、何とかなるかもしれない。




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