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126話

看病してからというもの子供たちの距離がグッと近づいた気がする。


恐る恐るではあるが自ら近づいてこようとするし、自分から視界に入って来る回数が多くなった。

視線があっても硬直はすることはあるが震えて縮こまるような事は無くなり、モッルに至っては偶然を装って軽く触ってきてくれるほどである。

間違いなく進展している。

確信がある。

熱が出た時は心底慌てたが、結果として良い方へと向かったようだ。

塞翁が馬である。


ここらで少し踏み込んだ進展を試みたい。

例えば一緒に外出とかどうだろうか。

いいアイデアだ。自分でも驚くほどの程よいアイデアである。

程よく体をほぐしながら日の光を浴びられる。

ここへ来てからずっと部屋の中にいるのは健康面も含めて心配に感じていた。

うむ、我ながらいいアイデアだ。


そうなると一番いいのは街での散策とかだろうか.......。

うん、悪くない。

この国を案内が出来るほどには知っているので迷う心配はないし、子供たちの見識を広めるという意味では最高ではないだろうか。

メリットは大きい。

ただ、見過ごせない大きなデメリットもある。

それは人混みでの迷子だ。

4人を連れて動けば必ず一人は迷子になるものだと心得た方が良い。

あらゆる事を脳内シミュレーションしてみる。

うーむ、結構難しいか。

ここは他と比べれば治安は良いが誘拐が無いとは言い切れない。

防ぎきるのは難しい。


いっそ人混みが一切ないところはどうだろうか。

見識を深めるという意味は失われるが、体を動かすという点は守られる。

見通しが良く対応しやすい外壁の外での軽い散歩と言うのはありか。

うむ、悪くない。一度アゥリスとかに話しを通してみるか。

もし行くことになったらわらび餅も一緒に連れて行こう。

わらび餅の方が子供達に懐いているし、手を繋いで移動すれば外壁の外へ出るまでの間も迷子になる心配も減る。

よし、先にわらび餅と話しておくか。

思い立ってすぐに行動に移そうとしたが肝心の本人がいない。


たまにフラッとどこかへ行ってしまう時があるが、今回もそれだろうか。

帰ってきてから話すかと部屋を出ると廊下にわらび餅がいた。

すぐに見つかってよかったが、なぜかボディビルダーのようなポージングを取っている。


えー、声かけないと.......ダメだよな。

意気込んでいたやる気が萎えていく。


「あー、.......何してるの?」

「見てくれこの体ー。力がなー。溢れて止まらんのよー。」


見た目が変わったようには見えない。プルプルボディだ。

居ない日などは影ながら筋トレでもしていたのかな。

だが残念な事に成果が伴っているようには見えないし、そのボディでは悲しい事に説得力を感じさせない。


「発散されんのよなー」


そうか。

それなら走ってきた方が良いんじゃないか、と思う。

効率的だと思うぞ。


「シヒロやー、今日の夜とか空いてるかー」

「空いてないけど」


子守に食堂と結構忙しい。

まぁ忙しいけど、だ。


「用があるなら空けるぞ」


結構子供達に関しては頼りにさせて貰っている。

そのためのストレス発散を手伝ってほしいというのならやぶさかではない。


「何するんだ?」

「あたしとやー、楽しいことしようやー」


何言ってんだこいつ。



・・・

・・


話して見ればなんという事は無い。

遊びを交えつつ体を動かしたいだけのようだ。

だいぶここに毒されてしまったようで深読みをしてしまった。

反省である。

遊びを交えてか.......いつだったか魔王様の時のリハビリの時を思い出す。

まぁ、あそこまで過激ではないのだが。

それにしてもだ。

ふふっ。と小さく笑う。

遊んでほしいとはなかなか可愛げがあるじゃないか。


そんな事に感心と面映ゆさを感じさせながら中庭で待っているのだが、誘った当の本人がなかなか来ない。

時間を間違えたか?

ちょっと心配になってきたタイミングでぺちぺちと小走りでわらび餅が近づいてくる。


「お待たせー」

「あいよ。何してたんだ?」

「色々ってなもんよー。さてさてー、これ以上待たせても悪いしやー、早速始めようやー」

「明日も仕事があるから短めにな」

「おっけー、どちらかが倒れるまでやろうやー」

「明日もあるって言ってるだろう。ほどほどにな」

「んじゃーはじめー」


ペシリとわらび餅のタッチから始まる。

提案してきた遊びは鬼ごっこに近い。

手の平で体のどこかに触れば交代といったモノではある。

しかし逃げるのはなし。描いた円の中から出るのは無しというルールだ。

なので近距離でタッチを躱す形となる。

まぁ小さな中庭を使わせてもらってるので、そうなるのは仕方ない。


「おうおうー。へいへいー。こっちこっちー」

「お!? このっ!」


意外に躱すのが上手い。

わらび餅のプルプルボディが予想以上の体の柔らかさで上手に躱している。

だが、何度目かで目が慣れた。

もうすぐで捕まえられる。


「おりゃ!」

「なんのー」


グニャリとか体が崩れて、最初に会った時の丸っこいわらび餅になって躱した。

ポインポインと軽く弾んで元の人型に戻る。


「それズルじゃないか?」

「うへへー」


クルクルとの場で踊るように回ってポージングをする。


「へぃいー!」


気の抜ける奇声を上げている。

露骨な挑発であることは承知しているが、どうしてなかなか........腹が立つもんだ。

ここはあえてわらび餅の挑発に乗って無造作に手を伸ばす。

挑発に乗ったことを見計らってわらび餅は悠々と躱す。

それを見越して躱した方向を確認し、タイミングを見計らって足の力を抜く。

伸ばした腕が変則的な軌道を描く。


「おー?」


躱した体では躱しきれず、上手い事わらび餅にタッチする事が出来た。

見事な小技だろ?


「あー、ずるー」

「へーい」


意趣返しにこちらも手招きをする。


「にゃろー」


なんだかんだ楽しくなってきた。

互いに互いの動きが分かってきて徐々にタッチするのが難しくなってくる。

お互いにとても真剣ではあるのだが傍から見ればまるで息を合わせて踊っているようである。


どれぐらい遊んでいたのか。

わらび餅が盛大な尻もちをついてこけたのをきっかけにお開きにする。

心地のいい汗をかいた。


「これ位にしとくか」

「えー、まだやれるってー。っていうかそっちの方が躱す時間長かっただろうー。勝ち逃げはだめー」

「明日もあるんだ。これ位で勘弁してくれ」

「そっかー、じゃー見逃してやるかなー」


ペンペンと尻についた汚れを払う。


「どうよー楽しかったー?」

「ん? それは、まぁ」

「そっかー」


少し優し気な顔で微笑んでいる。

あぁ、そうか。

遊びたがるわらび餅に気を使ったつもりだったが、気を使われてのはこちらだったか。

そう言えば最初に会った時もコップに花を添えるという小粋な事が出来る奴だった。

気配りが出来る奴だ。


「そうだな。楽しかったよ」

「ならよかったやなー」

「そんな気を揉むほど酷い顔してたか?」

「んにゃー、ただ気負ってる雰囲気がしてなー。息抜きしないと息が詰まるし、行き詰るぞー」


確かに気負っていた気がする.........指摘されるまで分からないものだ。


子供に対して完璧であらねばと考え、しなくていい事を押し付けようとしていたのかもしれない。

よくよく考えれば子供らが外に出たいと言ってないのに勝手に話を進めていた。

健康については今も心配はしている。

だが外出などの押しつけは良くない。

日の光を浴びて欲しいともうなら外に出さなくても、この中庭を使わせてもらってもいい。

いっそ、窓際で日向ぼっこでもいい。


「ありがとうよ」

「気にすんなー。それよりも終わりの締めでもするかー」

「締め? 何だよ挨拶でもするのか?」

「それも良いけど最後に気持ちのいい1発がほしいやなー」


ぐにょりと体の一部を変化させる。

地面にドカリと大きなサンドバッグが鎮座する。


「よっしゃー! 月までぶっ飛ばす感じで全力で来いー」


そう言って頭上の月を指さす。


「全力って、大丈夫か?」


流石に全力は不安になる。

中身が飛び散ったりしないだろうか。


「へいきへいきー。これを建物より高く飛ばせたら良いモノをプレゼントふぉーゆー」

「何か飛び散ったら掃除はしろよ」


付き合う事にした。お礼でもある。


大きく息を吐いて集中する。

締めの一発だ。

期待に応えて全力で殴らせてもらおう。


全身を脱力させて、次に軽くステップを踏む。

そして、素早くサンドバッグへステップインする。

一切の力を無駄にすることなく、勢いをそのままに拳を振り上げる。

本来ならしない反撃や防御を気にしない全力の一撃。

全力で握った拳から伝わる確かな感触。

サンドバッグは大きく飛び上がり中庭の端まで飛んでいった。


マジかよ。

月までとは言わずとも、建物ぐらいは悠々と飛び越せると思っていたが。

ギリギリぐらいであった。


アレは何で出来てるんだ。

そんな疑問をよそに、ぺちぺちと黙って拍手をするわらび餅。

茫然とするこちらに近づきピョンと飛び跳ね頬にキスされた。

そして何も言わずにサンドバッグを回収して走り去る。


えー。


しばしの静寂。


「.........寝るか」



◇◆◇


サンドバッグを回収し体へと戻す。

そして誰の目もない事を確認した後、うずくまる。

巨大な衝撃。

あれが体とリンクしており、覚悟はしていたが体がバラバラになったかと思った。

予想以上を想定はしていた。だがそれを悠々と超えてきた。

こんな一撃を隠していたのか。

『要』をぶち壊すのも納得である。


締めにしてはあまりにも重かった。


「きっついやなー」


だが、得られた物も大きかった。

受けた衝撃は体に留めて保存されている。

大きな切り札を得る事が出来た。

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