入学式 後
入学式当日午前9時。
風音は学園前で詩音と別れた。詩音が通っている中等部は高等部の正門と全く真逆の位置にある。それほどまでにこの学園は広い。
「……改めて見ると、やっぱすげぇな…この学園」
高等部と中等部は全く別れている訳では無いが学校が二つ、隣接して建っていると言ってもいい。更に高等部用と中等部用でそれぞれの施設が別れている。だが、高等部の方が施設の大きさも質も断然違う。まるで一つの町である。
どれだけ金かけてんだ?
単純にその疑問が頭の中に浮かんだ。
「…まぁ…いいか」
風音は入学式の時間と場所が掲載されてある掲示板を見る。掲載されているのは入学式の事だけではなく、これからの日程や日常品の価格、更に風音が目にしたのは、
「ランキング?」
クラス、学年、学園のそれぞれのランキング表だった。
「まぁ、俺には無縁な掲載物だな…。日常品の価格はこれからチェックしないとな…」
何か方向がズレている気もするが、気にはしない。
風音は入学式が行われる体育館へと足を運ぼうとした時、
「いっ、たぁ…」
隣からドテーンという効果音が似合いそうな転び方をしている女子生徒が居た。
女子生徒は転んだ拍子に何かを落としたのか、キョロキョロと辺りを見渡していた。すると、足元に何か当たった。風音は下を見ると眼鏡があることに気付き、これを探しているのかと思い、拾い上げて女子生徒に手渡した。
「ほら、これあんたのだろ?」
女子生徒は風音の手元にある眼鏡に気付き、ワァ~と笑顔になる。
「あ、ありがとうございます。助かりました~、私目が良くないので眼鏡が無いと…」
女子生徒は眼鏡を掛け、風音に頭を下げる。
「私、三木谷雅って言います」
三木谷と名乗った女子生徒は風音に手を差し伸べる。挨拶がわりの握手といったところだ。
肩までかかっている長髪に眼鏡。そして見るからに優しそうな雰囲気を放っている。それと、ついついその豊満な胸に目がいってしまう。風音も一男子なので、仕方無い気もする。
「…俺は水無月風音だ。よろしく三木谷」
握手には握手で返すのが礼儀だろう。風音は雅の手を握る。
「はい、よろしくお願いします。…あの、体育館までご一緒させてもらってもいいですか?」
「構わないよ」
風音は雅と一緒に入学式が行われる体育館へと足を運んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その二人の後ろ姿を見ている人物が一人居た。
木の物陰に隠れながら二人を観察している。二人というより…風音の方を特に意識して見ていた。
「…………」
スマートフォンを取りだし、一枚の写真をタップする。そこには風音を盗撮されている写真があった。
「……水無月、風音……」
声からして少女だろうか?蒼真学園の制服を着ているのでここの生徒だということは分かる。
「……私の、目標対象……」
少女は静かにその場から姿を消した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
二人が体育館の入り口につくと、沢山の新入生で溢れかえっていた。
「凄い人数だな…全員新入生か?」
「多分そうだと思います。毎年、蒼真学園を含む幻獣討伐者の育成学校は希望者が多く、沢山の人が集まると聞いています」
「希望者が多いって…実際、命が関わるような学校だろ?…怖くないか?」
「怖くないと思います。授業は確かに心装武装を取り入れたものもありますし、私達が行う『任務』と呼ばれるものも、少なからず危険はあると思うのですが…実際に命が危険に晒されるような事はほぼ無いと思います」
雅は自分の鞄からパンフレットを取り出す。そこにはこの学園の事についてや、雅が先程口にした『任務』と言う言葉についても説明していた。
「……そうか…」
「どうかしたんですか?水無月君」
「いや、別に…」
確かにこの学園は少年少女達にとってはいい場所なのだろう。魔法や心装武装といったファンタジー溢れる事について学べるし、扱える。それに、少なからず少年少女達はそんなファンタジーに憧れる。
心装武装も魔法もテレビや漫画など空想にしか無かったものが、ここでは学べる、使用できる。期待を込めて誰もがその門を叩く。
だが、風音は違った。根本的に違う。
風音は心装武装を発動出来ない。発動出来ないから魔法も使用できない。
つまり、風音は最初から学園生活に期待して門を叩くなどという思いは一切考えていなかった。それよりも、何故自分はここにいるのか?この学園に来たときからずっとそう思っている。
「(目の前にいる奴等全員この学園に…自分に期待しているんだな…)」
チラリと風音は雅の方を見る。彼女もまた自分の力に期待してこの学園の門を叩いて来たのだな、と風音は思った。
「新入生の皆さん。間もなく入学式が始まるので、外にいる方は速やかに体育館へ入ってください」
アナウンスが鳴り、ぞろぞろと体育館の中へ入っていく。風音と雅も同じように体育館の中へと足を踏み込んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「新入生の皆さん。蒼真学園への御入学、おめでとうございます」
式が始まってすぐに、壇上に上がった人物が居た。右腕に会長と書かれていた腕章をつけている女子生徒。この学園の生徒会長を勤めている夜桜神無と言うらしい。
彼女は司会進行役として壇上に上がったようだ。そこは普通教師がやるんじゃないか?
すると、急に背筋に悪寒が走った。風音は悟られないように周りを意識する。
「(…見られてる?…でも、誰から?)」
一つは後ろから、そして三つほど前から感じた。後ろからは多分、新入生の誰かだろう…と予測を立てる。前からは……、明らかにこちらに視線を送っている人物が二人ほど居た。
壇上に上がっている生徒会長と教師陣と一緒にいる女子生徒だ。最後の一つはその女子生徒の隣に立って、ニコニコ微笑んでいる男子生徒だろう。男子生徒は上手く隠しているようだったが、風音には通用しなかった。風音は自分の姉、水無月翠蓮に体術等の基本的な事は学んだので、この手の事には敏感になっている。対して、あの二人は最初から隠す気が無いのだろうか?ジー…っとこちらを見ている。気付く人はすぐに気付く。
「……あ、あの…水無月君…何か、水無月君を見ている人が…居るんだけど…」
隣に座っていた雅がこそっと小声で話してくる。雅も気付いているようだった。
「…ああ、その事についてちょっと俺も悩んでる」
敵意は無いようなのだが…。どうにもやりづらい。
それに、後ろからの視線はもう放置だ。何処に居るのか分からないし、そもそも後ろに居るから探しようが無い。こちらにも敵意が無さそうなので放っておいても大丈夫だろう。
式がどんどん進み、今度は学園長からありがたいお言葉を戴けるらしい。
学園長と呼ばれ、その姿を現す。
コツコツコツ。
現れた姿は本当に大人なのか?と思えるくらい小さい女の子…もとい女性である。この場に居る新入生全員、驚きを隠しきれずに居た。
それに……。
「(……何か見たことがある容姿だ……)」
風音は頭を抱えながらあの学園長を見る。学園長も風音の視線に気付いたのか、風音の方にニコッと微笑んできた。
「(入学試験の時の人だ……。学園長だったのかよ…あの容姿で?おかしくないか…?)」
風音が頭の中で格闘をしていると、学園長はマイクを手に取り喋り始めた。
「皆さん、改めまして蒼真学園の御入学おめでとうございます。私がこの学園の学園長を勤めています…津久宮七夕と言います。……さて、あなた方に一つ問いたいと思います。『心』とはどういうものなのか…考えたことがありますか?まず、『心』と言う言葉じたい曖昧です。身体のどの部分を指すのか分からず、頭なのか…心臓なのか…はたまた別の何処か…か、身体の構造上に心という部分は存在しません。じゃあ、何で『心』という言葉が作られたのか…私はそれが知りたいのです」
風音はここまでの話の内容がよく分からなかった。周りを見ると、皆頭に疑問符を思い浮かべているのがよくわかる。
「『心』と言うのは実際には見ることが出来ません。ですが、心装武装はその人本人の心の形だとよく言われます。じゃあ、『心』は武器そのものを示しているのか…、それは違うと思います。それじゃあ『心』とは言えませんね、ただの『武器』になってしまいます」
一体学園長は何を言いたいのか…風音にはさっぱりだった。
「皆さんにはこの学園に居る間、『心』についてよく考えてほしいと思います。『心』とは一体何なのか?何処から来たのか?そして…『人間』だけが持つものなのか?……ちょっと話が分からなかったですかね、すみません難しい話をして。ああ、後最後にもう一つだけ……
『心』の本当の意味に辿り着けることを願っています
……以上です」
学園長は話を終えると、壇上から降り、そのまま体育館を出ていった。仕事でも残っているのだろうか?
学園長の話に誰もが困惑していた。隣の三木谷もうん?と頭を傾げている。まぁ学園長なりの挨拶なんだろう、と皆は思っているらしい。チラホラそういった言葉が聞こえてくる。
だが、何故だろうか。学園長の話が言葉が…頭から離れない。特に、
『心』の本当の意味に辿り着けること…。
この部分が引っ掛かる。学園長は言っていた、心という言葉が何故生まれたのか知りたい…と。
じゃあ、何故心の意味を知っているのか。単純に言葉の意味ではなく、何か別の意味…。さらに、本当のという部分も気になる。
風音は必死に頭を回転させるが、答えは見つからない。
「(…と言うか…そもそも心装武装を使えないのにこんなに考えても無駄か…)」
風音は自嘲気味に笑い、
「(俺には全く関係の無い話なんだから…)」
学園長の話が最後だったのか、入学式は終了した。次に各教室に向かうらしいが風音はいまいち乗り気じゃなかった。クラスは事前に連絡してあるので、何組かは分かっている。
風音はため息をつき、教室へと移動する。
風音の波瀾万丈の学園生活がここに始まる。
どうだったでしょうか?
誤字脱字、おかしい所があったらご指摘お願いします__
今回の話、最後の方はちょっと何を言いたいのかよく分からなかったですね…すみません、自分の力不足だな~と感じていますが、めげずに頑張っていきたいです。
次も読んでくれたら嬉しいです。それでは__




