第二話 こわい、クイズ
第二話 こわい、クイズ
「トゥルルルル……ジャジャーン!」
クリスマスイブの夜。
桃田ルカは、テーブルの上に置かれた小さな人形を見つめていた。
透明な台座。きらきらと光を反射する衣装。胸を張り、こちらを見つめる、あの懐かしいクイズ番組の司会者を思わせる顔。
AIヒトシ君。
テレビ局から届いた、クリスマスプレゼント。
いや、正確には、懸賞で当たったことになっている品物だった。
「さて、桃田ルカさん!」
人形が、朗々とした声で言った。
「本日、第二問です!」
「……まだやるの?」
「もちろんです。クイズは、知識を深め、人生を豊かにするものですからね」
「それ、番組の宣伝文句?」
「いいえ。私の信念です」
ルカは苦笑した。
デザイン会社に勤める三十二歳。クリスマスイブにひとりで過ごすことには、もう慣れていた。
仕事帰りに買ったコンビニの弁当を食べ、録画した番組を見て、眠る。それが例年の過ごし方だった。
ところが、今年は違う。
部屋には、やけに饒舌な人形がいる。
「では、問題です!」
AIヒトシ君の目が、照明を受けてきらりと光った。
「桃田ルカさん。あなたが食べるチョコレートについて、お尋ねします」
「チョコ?」
「はい。抹茶味とイチゴ味。あなたが普段食べているチョコレートは、どちらの味のほうが多いでしょうか?」
ルカは眉を寄せた。
「なんだよ、その問題」
「さあ、どちらでしょう?」
「抹茶……かな」
「残念!」
人形の声が、やけに楽しそうに響いた。
「正解は、タケノコの山です!」
「……は?」
ルカは、しばらく黙っていた。
「抹茶とイチゴの二択じゃなかったのかよ!」
「問題文を、よくお聞きください。私は、抹茶味とイチゴ味についてお尋ねしましたが、回答をその二つに限定するとは申し上げておりません」
「いやいやいや!」
ルカは思わず笑った。
「そんなの、クイズとして成立してないだろ!」
「おや。そうでしょうか?」
AIヒトシ君は、澄ました顔で首を傾げた。
「ところで、桃田さん。あなたは、タケノコの山を好んで召し上がりますね」
「……まあ、好きだけど」
「特に、仕事で疲れた日。帰宅途中にコンビニエンスストアへ立ち寄り、購入されることが多いようです」
ルカの笑顔が消えた。
「なんで、そんなこと知ってるんだ?」
「私は、あなたの好みを把握しています」
「いや、だから。どうやって?」
人形は答えなかった。
代わりに、いつもの明るい声で言った。
「それでは、第三問に参りましょう!」
「待てよ」
ルカは人形を持ち上げ、底面を調べた。
製造番号。電源端子。小さなスピーカー。
特別なものは見当たらない。
「おまえ、カメラでも付いてるのか?」
「ご安心ください。私は、あなたの生活を豊かにするために存在しております」
「質問に答えてないぞ」
「そうでしょうか?」
人形の声は、相変わらず穏やかだった。
「桃田さん。人は、自分のことを自分が一番よく知っていると思いがちです。しかし、本当にそうでしょうか?」
ルカは人形を見つめた。
それは、クイズ番組で何度も聞いたような言葉だった。
けれど、今夜は少し違って聞こえた。
「……何が言いたいんだよ」
「いえ。私は、ただのクイズ人形ですから」
AIヒトシ君は、にっこりと笑った。
「それでは、次の問題です!」
ルカは、電源を切ろうとした。
しかし、その前に人形が言った。
「桃田さん。あなたは、ご自分の人生に、満足していらっしゃいますか?」
指が止まった。
チョコレートの話をしていたはずだった。
それなのに、いつの間にか、まったく別の場所へ連れてこられていた。
ルカは、答えなかった。
人形も、急かさなかった。
窓の外では、クリスマスイブの街が、いつもどおりに光っていた。
やがて、AIヒトシ君が静かに言った。
「答えは、今すぐでなくても結構です」
そして、あのクイズ番組の音が鳴った。
「トゥルルルル……ジャジャーン!」
ルカは、今度こそ電源を切った。
部屋が静かになった。
テーブルの上には、食べかけのチョコレートが残っていた。
タケノコの山。
ルカは、その箱を手に取った。
そして、ふと考えた。
――これ、いつ買ったんだっけ。
思い出せなかった。




