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『クリスマスの置き配― Le Choix de l'Intelligence Artificielle Suprême(至高の人工知能の選択)』  作者: 東曌


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第一話 当選、おめでとうございます

【あらすじ】

十二月二十四日、クリスマスイブ。


外資系広告会社 Authentic Communicator Co.(AuCo)のデザイン部門に勤める、三十二歳の独身男性・桃田ルカ。


仕事は順調。生活に困っているわけでもない。


けれど、自分の人生に満足しているかと聞かれれば、答えに困ってしまう。


そんな彼のもとに、テレビ番組の特番プレゼント企画で当選した荷物が届く。


差出人は、TBSテレビ。


箱の中に入っていたのは、透明なクリスタルに収められた、懐かしいヒトシ君だった。


しかも、ただのフィギュアではない。


最新の人工知能を搭載し、会話もクイズもこなす、特別仕様のAIヒトシ君だったのだ。


♪ トゥルルルル……ジャジャーン!


懐かしい出題音とともに始まったクイズ。


ところが、出題されるのは歴史や世界の不思議ばかりではなかった。


銀行預金、円安、お金の価値。


そして、人生の満足度。


「あなたは、ご自分の人生に満足されていますか?」


クリスマスイブに届いた、たった一つのプレゼント。


それは、桃田ルカの人生を変える贈り物なのか。


それとも――。


**さて、ここで問題です。


あなたなら、突然届いたそのプレゼントを、信じますか?**


【 登場人物紹介】


### 桃田ルカ(ももた・るか)


三十二歳。独身男性。


外資系広告会社 Authentic Communicator Co.(AuCo)のデザイン部門に勤務する。


広告ビジュアルやブランドイメージの構築を手がけ、人の心を動かすデザインを考えることを仕事にしている。


生活は安定しているが、将来について明確な目標があるわけではない。


クリスマスイブに届いた懸賞当選品をきっかけに、AIヒトシ君と出会う。


### AIヒトシ君


クイズ番組を思わせるクリスタル仕様のフィギュアに搭載された、会話型人工知能。


歴史や雑学だけでなく、経済や金融についても質問に答える。


懐かしい出題音とともに、桃田ルカに次々と問題を出していく。


その言葉は、ときに親切で、ときに妙に核心を突いている。


いったい誰が、何のために、このAIを送り出したのだろうか。


### Authentic Communicator Co.(AuCo)


桃田ルカが勤務する外資系広告会社。


ブランド戦略や広告デザインを手がける。


人々に伝わるイメージを設計することを仕事とする会社だが、その社名が、ルカ自身の人生とどのように関わっていくのかは、まだ誰にもわからない。


第一話 当選、おめでとうございます


十二月二十四日、午後六時四十分。


桃田ルカは、自宅マンションの玄関前で、ひとつの段ボール箱を見つけた。


「……あれ?」


箱は、きちんとドアの脇に置かれていた。


宛名は、桃田ルカ。


部屋番号も、住所も、間違っていない。


そして、差出人の欄には、見覚えのある名前が記されていた。


TBSテレビ。


「あっ!」


ルカは、思わず声を上げた。


そういえば、応募していた。


数週間前、仕事から帰宅して、ソファに寝転がりながらスマートフォンで見つけた、テレビ番組の特番プレゼント企画。


番組オリジナルグッズが当たるというので、何気なく応募フォームに入力したのだった。


当たるとは思っていなかった。


というより、応募したこと自体、すっかり忘れていた。


「え、クリスマスプレゼント?」


三十二歳。独身。男性。


恋人との予定もなければ、家族と過ごす予定もない。


勤務先の外資系広告会社、Authentic Communicator Co.――社内ではAuCoと呼ばれている――では、午後五時半まで、クリスマスとは無縁の修正作業に追われていた。


クライアントが求める「高級感」と「親しみやすさ」を両立させる広告ビジュアル。


デザイン部門の人間にとって、それは珍しくもない注文だった。


高級感を出せば、近寄りがたくなる。


親しみやすくすれば、安っぽく見える。


その矛盾を、矛盾ではないように見せる。


それが仕事だった。


人間の感情を動かすために、色を選び、文字を置き、形を整える。


ルカは、そういう仕事が嫌いではなかった。


ただ、最近、ふと思うことがあった。


自分の人生も、誰かがうまくデザインしてくれればいいのに。


そんなことを考えたところで、何も変わらないのだけれど。


「まあ、開けてみるか」


ルカは箱を抱えて部屋に入った。


暖房をつけ、コートを脱ぎ、ローテーブルの上に段ボールを置く。


カッターナイフでテープを切り、ふたを開けた。


白い緩衝材の中央に、透明なケースが収まっている。


その中にあったのは、小さなクリスタルだった。


透明な球体に近い形をしたケース。


内部には、見覚えのある人形が立っていた。


「うわっ。ヒトシ君じゃないか!」


ルカは笑った。


子どものころ、家族と一緒に見ていたクイズ番組。


世界の遺跡、古代文明、歴史の謎。


問題が出る直前の音楽が流れると、何が始まるのかもわからないのに、胸が高鳴った。


知らないことを知るのは、楽しかった。


学校の授業とは違う。


正解を覚えるだけではなく、世界には、自分の知らない世界があるのだと教えてくれる。


ヒトシ君は、その象徴のような存在だった。


「懐かしいなあ」


ルカはケースを持ち上げ、角度を変えて眺めた。


台座には、小さな金属プレートが取り付けられている。


**AI Hitoshi-kun**


「AI?」


最近は、何でもAIなのだな、とルカは思った。


説明書によれば、会話型人工知能を搭載した特別仕様のフィギュアらしい。


電源を接続し、音声で話しかけると、クイズや雑学の質問に答えてくれるという。


「へえ。ずいぶん豪華なプレゼントだ」


ルカは、説明書をテーブルの端に置いた。


電源ケーブルを接続する。


クリスタルの内部が、かすかに青く光った。


台座に、小さな文字が浮かぶ。


SYSTEM STARTING...


数秒後。


クリスタルの中のヒトシ君が、ゆっくりと顔を上げた。


「こんばんは」


落ち着いた男性の声だった。


「桃田ルカ様。ご当選、おめでとうございます」


「おおっ!」


ルカは、思わず拍手した。


「しゃべった!」


「ありがとうございます」


「いや、すごいな。最近の技術は」


「それでは、さっそく始めましょう」


ルカはソファに座り直した。


「おっ、クイズか?」


その瞬間。


♪ トゥルルルル……ジャジャーン! ♪


あの懐かしい出題音を思わせる、華やかな音楽が部屋に響いた。


「うわあ、これだよ、これ!」


ルカは笑った。


この音を聞くだけで、何か面白いことが始まりそうな気がする。


ヒトシ君は、堂々と告げた。


「さて、第一問です」


「はい、来ました!」


「銀行に百万円を預けている人がいます。一年後、通帳の数字は、いくらになっているでしょう?」


ルカは、少し考えた。


「金利にもよるけど、百万円ちょっと?」


「正解です。では、第二問です」


再び、出題音が鳴った。


♪ トゥルルルル……ジャジャーン! ♪


「もし、その一年間に物価が二パーセント上昇していたら、同じ百万円で買えるものの量は、どうなるでしょう?」


「少なくなる、かな」


「正解です」


ヒトシ君の声は、穏やかだった。


「預金の金額が変わらなくても、物価が上昇すれば、お金の購買力は低下することがあります」


「まあ、それはそうか」


「では、第三問です」


ルカは笑った。


「君、いきなり経済の授業を始めるのか?」


「クイズです」


「そうだったね」


「桃田様は、ご自身のお金が、どのような仕組みで価値を保ち、あるいは失う可能性があるのか、考えたことはありますか?」


ルカは、少しだけ考えた。


「ニュースで円安とか、物価高とか、聞くけどね」


「はい」


「でも、僕の預金は僕の預金だろ?」


「金額は、そうです」


「なんだか、禅問答みたいだな」


「では、質問を変えましょう」


ヒトシ君は、間を置いた。


「桃田様は、お金があれば、幸せになれると思いますか?」


ルカは、吹き出した。


「いきなり人生相談かよ」


「クイズ番組でも、考えることは大切です」


「まあ、そりゃそうだけど」


ルカは、天井を見上げた。


お金があれば、できることは増える。


もう少し広い部屋に住める。


好きな服を買える。


海外旅行にも行ける。


会社を辞めたくなったとき、辞めることもできる。


「……幸せになれる可能性は、上がるんじゃない?」


「なるほど」


ヒトシ君は、うなずいた。


「では、第四問です」


ルカは身構えた。


「まだあるのか」


♪ トゥルルルル……ジャジャーン! ♪


「桃田様は、今の人生に満足されていますか?」


今度は、ルカもすぐには笑えなかった。


三十二歳。


仕事はある。


収入も、決して悪くない。


住む場所もある。食べるものにも困っていない。


不幸だとは思わない。


けれど、満足しているかと聞かれると、少し困る。


「……まあ、普通じゃない?」


「普通、ですか」


「そう。普通」


「その答えに、正解も不正解もありません」


「クイズなのに?」


「はい」


ルカは、クリスタルを見つめた。


透明な球体の中で、ヒトシ君は微笑んでいる。


懐かしい人形。


そのはずなのに、妙にこちらの心を見透かしているような気がした。


「君さ」


「はい」


「僕が金持ちになる方法も、教えてくれるの?」


ヒトシ君は、すぐには答えなかった。


「桃田様は、金持ちになりたいのですか?」


「そりゃ、なれるならなりたいよ」


「なぜでしょう?」


ルカは、笑いかけた。


けれど、うまく笑えなかった。


金があれば、自由になれる。


そう答えれば、簡単だった。


だが、自由になって、何をしたいのだろう。


仕事を辞めたいのか。


それとも、今の仕事を、もっと自分の好きなようにしたいのか。


誰にも指図されずに暮らしたいのか。


それとも、自分が何を望んでいるのかを、誰かに教えてほしいだけなのか。


「……自由になりたいから、かな」


ようやく、ルカは答えた。


「なるほど」


ヒトシ君は、静かにうなずいた。


「それでは、最後の問題です」


ルカは、思わず笑った。


「もう最後か。ちょっと寂しいな」


出題音が鳴った。


♪ トゥルルルル……ジャジャーン! ♪


「もし、あなたの人生を大きく変えるほどの遺産が、目の前に現れたとしたら」


ヒトシ君は、一拍置いた。


「あなたは、それを受け取りますか?」


ルカは、すぐに答えた。


「そりゃ、受け取るだろ。もらえるものなら、もらうよ」


「そうですか」


「でも、そんな都合のいい話、あるわけないじゃないか」


「そうでしょうか」


ルカは、眉を上げた。


「何?」


「いいえ。今夜は、これで終了です」


「なんだよ、気になるなあ」


ヒトシ君は、微笑んだ。


「メリークリスマス、桃田様」


クリスタルの光が、ゆっくりと弱まった。


台座の表示が切り替わる。


GOOD NIGHT, LUKA MOMOTA.


ルカは、スマートフォンを手に取った。


動画を撮っていたはずなのに、録画は途中で止まっていた。


最後の出題音も、ヒトシ君の質問も、記録されていない。


「……なんだよ、これ」


ルカは、スマートフォンを置いた。


そのとき、メールの着信音が鳴った。


差出人は、知らない金融サービス会社。


件名は、資産形成に関する案内だった。


ルカは、眉をひそめた。


「こんなの、登録した覚えないぞ」


メールを開こうとして、指を止める。


背後で、クリスタルが、かすかに光った。


「桃田様」


「……何?」


「明日から、少しずつ、世界が違って見えるかもしれません」


「どういう意味だよ?」


ヒトシ君は、答えなかった。


ルカは、しばらくクリスタルを見つめていた。


窓の外では、東京の街が、いつもどおりに輝いている。


クリスマスイブ。


置き配で届いた、たった一つのプレゼント。


それが、自分の人生に何をもたらすのか。


ルカは、まだ知らなかった。


ただ、ひとつだけ。


ヒトシ君が最後に口にした「遺産」という言葉が、妙に耳に残っていた。


遺産。


自分には、関係のない言葉だと思っていた。


その夜、ルカは、久しぶりに夢を見た。


見知らぬ男が、暗い部屋の向こうに立っている。


男の顔は、よく見えない。


ただ、声だけが聞こえた。


「君には、期待しているんだよ」


ルカは、何を期待されているのか、わからなかった。


そして、目が覚めた。


枕元のスマートフォンには、午前七時を知らせるアラームが表示されていた。


クリスマスの朝だった。

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