秘剣
「フゥー・・・」
「少しは落ち着いたか?」
「はい。お恥ずかしいところをお見せしました」
鍛錬の最中も、実戦の最中でも、その剣才を遺憾なく発揮するミリアに対していろんな感情が渦巻き、己を見失いつつあったマクスウェルであったが、師であるミロクとの対話を通して落ち着きを取り戻したのであった。
そんな中、ようやく己を取り戻した弟子に対してミロクは自分自身だけの剣を創り上げることを説くのだった。
「マクスウェルよ、今のお主であれば理解できるであろう。他者の剣の中になど答えは存在せんのだ。それは例外なく全ての者に言えること。そして、お主が探し求める答えもまたお主の剣の中にしか見つけ出すことはできんのじゃ」
「僕の探し求める答え」
この時、正直に言ってマクスウェルには師の言葉の真意が理解できていなかった。
王国のため、王国に住まう民のため、それが答えであり、それが全てであると考えていたからだ。
そのために力を付け、王国に仇なす者を討ち倒すことでそれは達せられると思っていた。
しかし、ミロクの言葉の真意はそこではない。
王国を守る、民を守る、それは素晴らしい大義である。
その想いはこの国に属する聖騎士や騎士、各地を警備している兵士に至るまで全ての者が胸に抱いて日々の任務に就いていることだろう。
しかし、真に強大な敵と遭遇した時に、その信念を貫き通せるだけの力を有している者がどれだけいるだろうか。
理想を掲げること・・・それ自体は皆にできることではあるが、その理想を現実にするために行動し実行できる者がどれだけいるだろうか。
ミロクの話の先にはそういった思いがあった。
剣を振るうことは誰にでもできる。
そこから志を持って己の力を磨くことができる者もいるだろう。
しかし、そんな中にあって自分の理想を現実にすることは容易いことではない。
ましてや、それが国や民にまで影響を及ぼすほどに壮大なモノであるならば尚更である。
「ホッホッホッ。あまりピンときておらん様子じゃな。それならば、もう少しお主らの先輩たちの話をしてやろう」
ミロクの言葉にマクスウェルは静かに頷き、真剣な眼差しを向けたまま話に耳を傾ける。
「そもそも剣士というものは、己の大義を現実にするために日々剣技を磨き続けているものだが、その道は一つとして同じものはない。メリッサでいえば、ここガルディア王国内において、何処であろうとも子どもたちが笑って過ごせる場所を作るため、孤児となった者であっても自分の意志で道を切り開いていける世界にするためにと己の剣を磨き続けた。そして、その想いを現実にするためにあやつはたとえどれほど硬い鉱物であろうとも一太刀で斬ることができる剣を目指し、まさに血の滲むような努力の末に、今では“剛剣”の二つ名を持つまでの強さを手に入れた」
「・・・・・」
「そしてゼリックは、当時各地で奴隷のような酷い扱いを受けることも多かった獣人族を守るために剣の腕を磨き、その生まれ持った剣武の才と雷獣という稀有な能力を融合させたあやつ独自の雷の剣を創り上げたのじゃ」
「・・・・・」
「ミリアにしてもそうじゃ。あやつも剣の才に優れておるが、いつの時代も女が剣を持つということに対する偏見というものはあるものじゃ。悲しいことじゃが、皆がお主のようにそれを認めてくれるわけではないからのう。まぁ〜だからこそ、あやつは自身が女であることを誇り、その上で“最強”の二文字を手に入れることを目指し、どんな物事においても男だ女だということなど取るに足らぬ些細なことであると証明しようとしておる。ミリアが実現しようとしておるのは、己の生き様を通して今を生きる全ての者の背中を押すことなのじゃよ。だからこそ、あやつがその歩みを止めることは決してない!」
言葉が出ない。
いや、何と返したらいいのか、その言葉が見つからない。
聖騎士となって王国と民を守るために ──────── 。
ただひたすらに努力することしかできない。
毎日欠かすことなく剣を振ることしかできない。
でも ───── たった一人の魔族にすら敵わなかった。
日々の鍛錬も繰り返される努力も、生まれ持った身体能力や才能の前では意味を成さない・・・。
ミリアは歩みを止めることなくどんどん先へと行ってしまう。
他の仲間たちも自分の長所を磨き力を伸ばしている。
自分だけが・・・取り残されていく・・・。
「僕は…いったいどうしたら・・・」
目の前が暗くなる。
マクスウェルは再び焦りと孤独による闇に襲われて絶望しそうになるが、ミロクの話はまだ終わっていない。
「マクスウェル、地道な努力は誰もが避けたい道である。しかし、お主はそれと向き合い決して折れることなくただひたすらに精進し続けることができる。そんなお主にこそピッタリな技を教えてやろう」
「えっ!?師匠の技をですか?」
「そうじゃ。一度しか見せんからの。しかとその目に焼き付けておきなさい」
そういうとミロクは静かに立ち上がり愛刀である『天羽々切』を手に取る。
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【天羽々切】
木製の鞘と柄によって一本の杖のようにも見えるが、剣聖ミロクが長らく使用する世界最強の太刀として最も有名な武器の一つとされている。
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ミロクが愛用する『天羽々切』は、ガルディア王国で一般的に流通している剣とは異なり、ガルディア王国の東方に位置する大和という島国で作られている刀という代物。
刀は、剣よりも細く薄いことで軽くなってはいるが、それと同等かそれ以上の頑丈さを併せ持ち、より速く鋭い斬撃を繰り出すことができるのだという。
「フゥー・・・」
大きく息を吐き、少し腰を落として構えを取るミロク。
カチッ ──────── 。
鞘と柄がぶつかる小さな音がした。
その間ミロクが動いたようには見えなかった。
しかし、次の瞬間 ──────── 。
グラッ…ギギッ…ギギギギギッ ──────── ドーーーーーン!!!
マクスウェルは目の前の光景に唖然とする。
何が起こったのか分からない。
分からなかったのだが、事実として目の前に立つミロクが構えをみせたと思ったその瞬間に、数十メートルは離れた場所に立っていた大木が綺麗に斬り倒されたのだった。
「秘剣 一の太刀 〜 一文字 〜」
最後までお読み頂きありがとうございます。
悩める弟子に対して剣士たる者について説いたミロク。
その言葉にマクスウェルは何を感じたのか。
そうした中で初めてみせた剣聖ミロクの剣技。
葛藤の末にマクスウェルは次なる一歩を踏み出すことはできるのだろうか。
次回『カリヴルヌス』
お楽しみに♪♪
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