メリッサの過去
小さな小屋の前で腰を下ろし、向き合うようにして座るミロクとマクスウェル。
悩める若き剣士を前に師である剣聖が過去に指導した一番弟子の話を始める。
その者の名はメリッサ。
今では師匠であるミロクと並び称される四人の大剣豪『四聖剣』に名を連ね、さらには現冒険者ギルドのギルドマスターの職を任される超大物である。
そんな彼女が実は剣の才に恵まれていない、いわゆる“持たざる者”であったというにわかには信じ難い話であった。
「今を生きるお主たちは本当に恵まれておる。それは現国王の働きによるものなのであろう」
「はい。現国王レオンハルト様はまさに名君であると思います」
「ホッホッホッ。それは今のガルディアに住む者たちの顔を見れば良く分かる。ほんの数十年前には考えられんかったほどじゃ。しかし、それほどまでに異なる時代であるにも関わらず、お主とメリッサはよく似ておる」
「僕とメリッサ様がですか?」
「左様。無骨、実直、不器用 ───── そんな言葉がよく似合う。ただひたすらに真っ直ぐ突き進む剣。しかし、そんなお主らには決定的な違いがある」
「決定的な違い・・・」
「悩みはあっていい、迷いがあってもいい、しかし己の剣だけは疑うな。メリッサはどのような状況であろうと、どのような環境であろうとも自らが振るう剣を疑ったことなど一度もなかった。剣を疑うということは自分自身を疑うこと。どれだけ見せかけの力を得ようとも、そのような者の剣に真の強さが宿ることはない。マクスウェル、今お主は己の剣を信じられておるか?」
「僕の…剣・・・」
傍に置かれた自身の剣をジッと見つめるマクスウェル。
そして、ここ最近の自身を振り返る。
行動、言動、振る舞い、その全てを静かに思い返す。
朝の鍛錬をしている時、ミロクの修行を受けている時、仲間たちとクエストを受けて魔獣と戦っている時、そして先日のサモウラとの一戦の時 ──────── 。
そうした物事を一つ一つ丁寧に振り返る中で、マクスウェルはあることに気づくのだった。
「今の僕はミリアを意識し過ぎていたように思います。常に僕の先を行く彼女の姿に気を取られ、自分自身に目を向けられていませんでした。師匠に教わったことをすぐに理解して自分の中に落とし込み、実践においても迷うことなく剣を振るう彼女の姿に嫉妬していたのかもしれません」
「ホッホッホッ。青いのう・・・。じゃが、いつも隣であれほどの才能を見せられては焦る気持ちが出ても不思議ではない。まぁ〜でも、その点においてはお主とメリッサは似ておらんかもしれんのう」
ミロク曰く、今でこそ大剣豪の一人とされているメリッサよりも、彼女の弟弟子で現在獣王国ビステリアの王であるゼリックの方が剣においても戦闘においても才能という面においては恵まれていたのだという。
一を教えてもその一つを理解することに苦労するメリッサと、その一つを瞬時に理解してすぐさま実践に落とし込むことのできたゼリック。
双方の成長速度の差は火を見るよりも明らかであり、延々と地味な鍛錬を続けるメリッサとより実践的かつ自身の戦闘スタイルに合った剣術の鍛錬を進めるゼリックは、同じ師を持ちながらもまったく異なる日々を過ごしていたのだった。
「先ほど話した通り、メリッサは親に捨てられ裏街と呼ばれた荒くれどもで溢れた場所で育った孤児じゃった。そんな経験を持つからこそ、あやつは国の安寧、街の安寧、人々の安寧を願い、子どもたちが自身と同じような境遇にならないようにするために自身と剣を鍛え上げたのじゃ」
「国の安寧・・・街の安寧・・・人々の安寧・・・」
「初めて剣を手にした時からメリッサの道は決まっておったんじゃ。だからこそ、毎日隣でその才能を遺憾なく発揮し、圧倒的な速度で成長していくゼリックの姿を目にしながらも、そんな眩い光には目もくれずにただ己が目指すべき場所に向かってひたすらに努力を続けられたのであろう」
「・・・・・」
ミロクの口から語られる修行時代のメリッサの姿に言葉を失ってしまうマクスウェル。
才能に恵まれている、才能に恵まれていない、そんな小さなことに気を取られ、さらには隣でキラキラと輝く相手に憧れ、嫉妬し、勝手に劣等感を抱いて自分自身を見失うなど ───── 恥ずかし過ぎて穴があったら入りたい気持ちになる。
「マクスウェル、お主は幸せ者じゃ。そして、ワシからするとお主も十分に才能を持ち合わせた者じゃぞ」
「僕に…才能が?」
「まずは何よりも己の人生を捧げられる、捧げたいと思えるモノに出会えるということは誰にでもあることではない。その点においてお主は『剣』に出会えたのじゃ。その幸運をしっかりと受け取りなさい。そして、それを実直に磨き続けられることもまた才能じゃ」
「続けることが才能なんですか?そんなもの誰にでもできることじゃないですか」
「当たり前のことを当たり前に続ける。継続とは、最も簡単であり、最もシンプルであり、それゆえに最も難しいものじゃとワシは思う。誰にとっても同じことを延々と続けるということは苦痛じゃからのう。お主にしても、メリッサにしても、その才能は他に類を見ない素晴らしいものじゃ」
「継続する才能・・・」
「しかし、だからこそ目的を見失ってはならん。当時のメリッサと今のお主との差はまさにそこじゃ。日々の地味な鍛錬の最中であってもあやつの目は常に目的の場所を見据えておったよ。だからブレない、だから迷わない、そこにメリッサの強さがあった。マクスウェルよ、迷ってもよいし悩んでもよい。じゃが、初めて剣を手にし、王都で騎士たちに憧れ抱いたお主の夢であり生涯の目的を見失ってはならん。お主の剣は何のために、誰のために振るう剣なのか ───── そのことを常に心に留めておきなさい」
「はい…はい…はい…」
ミロクの言葉に心を打たれ再び涙を流すマクスウェル。
ミリアという同年代の才能の塊を前にし、そんな彼女と自身を比べて劣等感を感じ、聖騎士となりガルディア王国と王国に住まう人々を守るという大きな目的を見失っていた。
それによって心ここに在らずという状態に陥り、何よりも大事にしてきた鍛錬にすら身が入らなくなるという彼の中での騎士としてあるまじき行いまでしてしまった。
それでも、今このタイミングで己の過ちに気づき、自身の目的を再認識できたことは良好である。
そして、この涙が止む頃にはまた一段強くなったマクスウェルの姿を見ることができるだろう。
そんなことを考えながらミロクは優しく微笑むのであった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
メリッサの過去に触れ、己の愚かさを知ったマクスウェル。
それでも真正面から自身と向き合った彼はまたひとつ強さを手に入れる。
そんな彼にミロクは新たな力を与えることに。
次回『秘剣』
お楽しみに♪♪
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