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積み重ねるもの

チュンチュン…チュンチュン…。


また朝が来た。

頭が重い。

頭の中でガンガンと痛みが響いているような感覚がある。

考えがまとまらない。

いや、むしろ悩みの糸がさらに絡まってもはや打つ手が無いような気さえしている。


ブンッ ─── ブンッ ─── ブンッ ─── 。


昨夜はまったく眠れなかった。



『鍛錬とは何か』



師匠であるミロクに言われた言葉の意味が分からず、それを思い出しては頭を悩ませもがき苦しむ。

そんなことを繰り返しているうちに気づけば朝になっていた。

そして、今日もまた剣を振るう。

何が正解で、何が間違いなのか ───── それすらも分からぬまま己と交わす無理問答を続け、一向に消えぬ迷いを撒き散らすようにただ闇雲に剣を振るっているだけ。

マクスウェル自身もそれが正しいことだとは思っていない。

しかし、彼の中にはそれしか道を切り開く方法が無い。

だから、その無謀であり無意味な行動を続けるしかなかったのだった。


ザッザッザッザッザッ ──────── 。



「またやっとるのか」


「あっ!師匠…おはようございます」


「馬鹿たれ!今のお主が振るう剣に何の意味があるんじゃ。腑抜けた顔をしよって。とりあえず顔を洗って来い!話はそれからじゃ」


「は…はい」



─────────────────────────



バシャッ、バシャッ、バシャッ。



「フゥー・・・」



早朝の冷えた井戸水で顔を洗い、雲ひとつない青天を見上げて己の無力さを実感する。


《僕はいったい何をしているんだろう。ただ闇雲に剣を振って、自分が進むべき道も分からないまま、ただ日課としての鍛錬を続けている。『鍛錬とは何か』 ───── 師匠は何を言いたいのか。強くなるため。成長するため。敵を討ち倒すため。誰よりも強くなるために!己の無力さを振り払い、より大きな力を得るために鍛錬するんじゃないのか。分からない…分からない…分からない…分からない!!》



─────────────────────────



ザッザッザッザッザッ。



「来たか。まぁ〜とりあえずそこに座れ」



師であるミロクに言われるがまま、その場に腰を下ろすマクスウェル。

顔を洗いさっぱりとしてはいるが、表情と心の内は曇ったまま ──────── 。



「マクスウェル、初めて剣を手にした時のことを覚えておるか?」


「初めて剣を手にした時ですか? ───── 僕が初めて手にしたのは、七歳の時にアーサー様より頂いた木剣でした。毎日聖騎士の方たちの訓練を見ていた僕は自然と騎士に憧れを抱いていたので、木剣を手にした時は、これで僕も騎士になれるんだと心躍らせたことを記憶しています。そこから毎日素振りをして、周囲の人たちに褒められたりもして、どんどん剣にのめり込んでいきました。手にできたマメが潰れた時はその痛みすらも誇らしく思えて、その数が増えていくことにも成長を感じていました。そして、それら全てがとても楽しかったことを覚えています」


「恵まれておるな。そのような環境で剣を始められたことに感謝じゃな。では、今はどうじゃ?毎日欠かすことなく剣を振っておるが、今のお主からは楽しさなど微塵も感じられんぞ」


「それは・・・」



ミロクからの問いに言葉を詰まらせるマクスウェル。

剣を振るう楽しさ ───── 最後にそんなことを考えながら鍛錬したのはいつのことだろうか。

そんなことを考えながら次の言葉を探す。



「今の僕は、聖騎士見習いとして、そして冒険者パーティ宿り木の一員として、国と人々を守るために強くならなくてはなりません。どれほどの強敵が現れようとも敗けるわけにはいかないんです!」


「固いの〜。今のお主が相手ならその辺りの小枝一本で勝てそうじゃ」


「・・・・・」


「マクスウェル、鍛錬とは何じゃと思う?」


「鍛錬とは・・・。そうですね、己を成長させ、自分が守りたいものを守るための力を得るために、日々の研鑽を通して心・技・体を鍛え上げることです」


「なるほどのう。では、今のお主は何と戦っておるんじゃ?」


「えっ!?今の僕が戦っているもの・・・」



=========================


「マクスウェル、アンタいつまでやってんのよ」

「先に上がってください。僕はもう少し鍛錬してから上がります」



「僕とミリアの差とは何でしょうか」



「才能ですか?努力ですか?経験ですか?もう、何をどうしたらいいのか・・・僕には分かりません」


=========================



「今のお主は『力を得る』ということの意味を履き違えた愚か者じゃ。日々の鍛錬の中で、何を考え、何を想定し、どんな意図をもって剣を振るのか。お主が振るうその一振りはいったい何のためにあるのか。その手に持つ剣は誰の剣なのか。そのことを今一度よく考えなさい」


「ウッ…ウウッ…」



ここ最近の自身の行動や言動を思い返し、何かに気がついた様子のマクスウェルが、これまで蓋をしていた栓が抜けたかのように大粒の涙を流す。

そして、ここでミロクは過去に剣を教えた二人の弟子について話し始めるのだった。



「今でこそ、こうしてお主とミリアに剣を教えておるが、以前にもワシには二人の弟子がおった」


「グスッ…メリッサ様と獣王ゼリックですよね」


「そうじゃ。当時のあやつらと今のお主らはよく似ておる。因みに、当時のあやつらはどちらの方が剣の才に優れていたと思う?」


「それは、もちろんメリッサ様なんじゃないですか。今では師匠と同じく四聖剣に名を連ねている方ですから」


「ホッホッホッ。確かに、メリッサは己の剣をよくぞあそこまで磨き上げたものじゃ。それはあやつのたゆまぬ努力と研鑽の賜物。しかし、残念ながらお主の回答は不正解じゃ。当初は一番弟子のメリッサよりも二番弟子であるゼリックの方が才能という面においては優れておったよ」


「まさか・・・。信じられませんね・・・」


「ゼリックは、教えたことはすぐに覚え、そこに生まれ持った戦闘センスを加え、凄まじい速度で成長していった。それに比べてメリッサには剣の才能は無く、物覚えも悪ければ、直感的なセンスも無かったからのう、成長速度は著しく遅かった。 ───── しかし、あやつは決して諦めなかった。言い訳や泣き言を言うことはなく、一切の妥協も許さず、ただひたすらに己の剣と向き合い続けておったわ。隣ではみるみるうちに成長していく弟弟子がいて焦ることもあっただろうが、それでも己の剣を信じ、実直に剣を振り続けていた。それも全ては己が信念のために ──────── 」


「己が信念のため・・・」


「そうじゃ。あやつには何も無かったからのう」


「メリッサ様に何も無かったとは・・・いったいどういうことでしょうか?」


「メリッサは孤児であった。親に捨てられ、行くあてもなく、当時のリザリオにおいて荒くれ者どもが巣食っていた裏街の中で蹲っておったところをワシが引き取ったんじゃ」


「メリッサ様にそんな過去が ──────── 」


「ホッホッホッ。四聖剣とまで称されるような剣士が、実は何の才能も無ければ、生まれや育ちも劣悪な環境だったなどとは思いもよらなんだか?それでは、今でこそ四聖剣などと呼ばれ、冒険者ギルドのギルドマスターをしておる人物がどのようにして己が道を歩んできたか、少し話してやろう」



剣聖ミロクの一番弟子にして、冒険者ギルドのギルドマスターであるメリッサ。

剣を極めし四人の剣豪『四聖剣』にも名を連ねる彼女が、元々は剣の才能も無く、裏街と呼ばれる場所で隠れるように生きていた孤児であったというにわかには信じ難い話にマクスウェルは驚愕する。

そんな彼を前にして、今の彼にとって何かの一助になればと語り始めるミロク。

そして、この時間がマクスウェルにとって、これから己が道を進んでいくための重要な指針となるのであった。





最後までお読み頂きありがとうございます。

悩める弟子のためにひと肌脱ぐミロク。

ミリアという圧倒的な才能を前にもがき苦しむ彼にとって、メリッサの話は意外なものであった。

そして語られる誰も知らない剛剣メリッサの過去とは。


次回『メリッサの過去』

お楽しみに♪♪


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