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天と凡

マクスウェルとミリアがサモウラと剣を交えてから一週間の時が過ぎた。

そこは中間都市モア近くに聳え立つとある山。

標高はそこまで高くはなく、二時間程度あれば頂上まで登りきれる山である。

そんな山のことをモアの人々は“カラ山”と呼び、そして多くの人はカラ山に近づくことはなかった。

その理由は ────── 何も無いからである。

獰猛な魔獣はいない、貴重な薬草も生息していない、それどころか低ランクの魔獣も低級ポーションに使う薬草すら生えていない。

そして、頂上からの眺めも昼夜問わず絶景とは無縁なもの。

そんな理由で、冒険者はおろか一般人ですらこの山に近づくことはないのであった。


ブンッ ─── ブンッ ─── ブンッ ─── 。


ブンッ ─── ブンッ ─── ブンッ ─── 。



「フゥーーー」



ブンッ ─── ブンッ ─── ブンッ ─── 。


ブンッ ─── ブンッ ─── ブンッ ─── 。


そんなカラ山の奥深くで鳴る空を斬る音。

一定のリズムでブレることなく、素早く、鋭く、力強い音が鳴り続ける。


ガサガサ…ガサガサ…。


茂みの中から一人の女性が姿を現す。



「あっ!いたいた。マクスウェル、アンタいつまでやってんのよ。アタシはそろそろ上がるわよ」


「ハァ…ハァ…ハァ…。先に上がってください。僕はもう少し鍛錬してから上がります」


「あっそ。ところで、アンタ今日はどうすんのよ」


「すみません。今日も・・・」


「分かったわ。でもアンタほどほどにしときなさいよ。怪我したら元も子もないんだからね」


「はい。分かっています・・・」



少し呆れたような表情を浮かべながらその場を後にするミリア。

今日も朝から始めた剣の鍛錬。

今はもう陽も落ち始め、辺りは薄暗くなりつつある。

そんな長時間の鍛錬をマクスウェルは連日昼食も食べず、休憩も取らずに続けていたのだった。

その勤勉さや真面目さというものは彼の長所でもあるのだが、それは時として短所にもなり得る。

そのことを理解しているからこそ、ミリアは大きな溜め息をつくのであった。


ザッザッザッザッザッ ──────── 。



「・・・ル」



ブンッ ─── ブンッ ─── ブンッ ─── 。



「・・ス・・ル」



ブンッ ─── ブンッ ─── ブンッ ─── 。



「マクスウェル!!」



ピタッ ──────── 。



「はい!!」



一瞬で背筋が伸びる。

乱れた呼吸を必死に整えながら直立不動で向き直る。

その相手は ───── 今現在ミリアと共に師事している大陸最強の剣士『剣聖ミロク』その人であった。


バコンッ!



「痛っ!?」



登場と同時に手にした木の棒でマクスウェルの頭を叩いたミロク。

その表情は怒りというよりはミリアと同じく呆れに近いものであった。

しかし、なぜ剣聖であるミロクがこんな何も無い山にいるのか。

その理由は、彼がここに住んでいるからである。

俗世との関わりを極端に避けている彼にとって、誰も来ないこの山はまさにうってつけの場所であり、ミリアとマクスウェルに修行をつける上でも何者にも邪魔されることなく集中できるこの場所は最高の環境となっていたのだった。



「痛いじゃないですか師匠」


「愚か者!ただ闇雲に振るう剣に何の意味がある。そんなことも分からんようであれば、また剣の使用を禁ずるぞ」


「でも・・・いえ…申し訳ありません」


「帰るぞい」


「はい・・・」



この一週間マクスウェルは宿り木のホームには帰らず、師であるミロクの家で寝泊まりをしていた。

明らかに何かに悩んでいる様子の弟子であったが、ミロクはあえて何かを聞くようなことはしなかった。

それは彼自身の問題であり、自らの意思で行動に移すまでは何もしないと決めていたからだ。


チクタク ─── チクタク ─── 。


沈黙の時が流れる。


モグモグ ─── モグモグ ─── 。


二人は言葉を交わすことなく食事を続ける。

そして、食事を終えるとバツが悪そうにマクスウェルが重い口を開いた。



「あの…師匠…」


「なんじゃ?」


「僕とミリアの差とは何でしょうか?」



サモウラとの一戦において、自身とミリアの差を痛感したマクスウェル。

時を同じくしてミロクに弟子入りをして以降、その指導によってますます腕を上げていくミリア。

そんな彼女を横目で見ながら己の力不足を感じていたマクスウェルは、その壁をこれまで以上の努力で乗り越えようと考えていた。

しかし、そんな彼の必死の努力もミリアが持って生まれた天賦の才の前では意味をなさなかった。

その苦悩とずっと戦い続けてきたのだが、先の戦いを通じてその“努力”を彼自身が信じられなくなっていたのだった。



「ミリアとの差?突然どうしたんじゃ」


「僕は七歳の時に初めて木剣を手にしてから一日として鍛錬を怠ったことはありません。聖騎士になるために、常に強くなろうと努力してきたつもりです。それはミロク様に師事してからも変わることなく、必死に剣を振り続けてきました。それなのに・・・先日魔族と戦った時、僕は戦うことだけで精一杯でした。しかし、ミリアは相手を圧倒し手傷を負わせるまで攻め立てていました ───── 。師匠、僕には何が足りないのでしょうか。才能ですか?努力ですか?経験ですか?もう、何をどうしたらいいのか・・・僕には分かりません」



彼が長い間抱えてきた悲痛な叫びがそこにはあった。

全ての努力が報われるわけではない。

そんなことはマクスウェルも分かっている。

しかし、頭では理解していても心が付いてこないことはある。



「ホッホッホッ。お主とミリアの差か・・・。それはお主もよ〜く分かっておるじゃろ。お主はどこにでもおるごくごく普通の人間じゃ。そして、ミリアは間違いなく“天才”と云われる類の人間じゃな」


「彼女は天才 ───── 。僕は凡人 ───── 。最初から埋められない差があったということですね」


「馬鹿者!!凡人が天才を超えられぬなど誰が決めたんじゃ。そのような考えではいつまで経っても半人前じゃぞ」


「でも・・・」


「この馬鹿弟子が!今日はもう休め。明日は朝から稽古をつけてやる。お主には、鍛錬とは何か ───── そこから教え直す必要があるようじゃな」



そして、今日も夜は更けていく。

グチャグチャになった心と感情。

ミロクに言われた『鍛錬とは何か』という言葉の意味。


なぜ ───── 。


どうして ───── 。


どうしたら ───── 。


青年の悩みはさらに深さを増していく。

今日もまた眠れそうにはない。

それでもまた陽は昇り、新しい一日が始まる ──────── 。





最後までお読み頂きありがとうございます。

長年マクスウェルが抱えてきた苦悩。

常に横に並ぶミリアという才能の塊。

己が進むべき道が見えなくなってしまった彼に師であるミロクは何を語るのか。


次回『積み重ねるもの』

お楽しみに♪♪


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