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カリヴルヌス

綺麗に一刀両断された大木。

斬られた断面には一切の歪みもなく、そこには剣の道を歩む者であれば誰であっても惚れ惚れしてしまうような美しさがあった。



「どうじゃ?」


「・・・・・」



どうだと聞かれても言葉が出てこない。

そもそも何が起こったのかも分からない状況ではどうもこうもないではないか。

そんな表情を浮かべながら一連の光景を思い返していたマクスウェルにミロクから新たな問いが投げかけられる。



「マクスウェルよ、今の技はワシが磨き上げた“一文字”という技じゃ。では、この技はどうして生まれたものだと思う」


「今の技が生まれた理由ですか?」



突然の不意を突かれた内容の問いに困惑した様子をみせるマクスウェル。

元来剣技というものは、ありとあらゆる敵を斬るために生み出されたもの。

そして、もちろん日々行われる鍛錬もまた相対する敵を想定して行われている。

己に集中し、相対する敵に集中することで、間合いを感じ取り次なる一手を決めていく。

そういったことを考えながらマクスウェルは改めてミロクが見せた剣技を思い返すのだった。


一直線に斬撃を飛ばした一閃。

遠くに立つ大木を斬り倒した威力。

そして何よりも、あの目にも留まらぬ早業。

そんな技が生まれた理由 ─────── 。



「遠くいる敵を一撃で討ち取るためでしょうか」


「フム…まぁ〜そういった考え方も一理ある。しかし、そもそもこの技を考えた目的は別にある。それは ───── 間合いを制することじゃ」


「間合いを制する・・・」


「左様。敵に間合いを誤認させ、相手の間合いに入る前に、相手にワシの間合いに入られる前に ───── 斬る。その一点にだけ特化させた技が“一文字”なのじゃ。ただひたすらに速さを追い求め、目にも留まらぬスピードで一直線に斬撃を飛ばす。相手に反撃の機会すらも与えぬ一撃必殺の技じゃ」


「な…なるほど…」



敵が気づいた時にはすでに戦いは終わっている。

目にも留まらぬ速さで敵を葬るために磨き上げられた剣技。

ただそれだけのために極められた瞬速の抜刀術。

それが剣聖ミロクによって生み出された剣技 ───── 『秘剣 一の太刀 〜 一文字 〜』である。



「よいかマクスウェル、剣士において、自らが振るうその一太刀には全て意味がある。何を意図し、何を目的としてその一太刀を振るうのか。一撃必殺の太刀なのか、次の一振りに繋げるための太刀なのか。ただ闇雲に振るう剣に…意思なき剣の先に道など無い。そのことを今一度深く己に刻み込んでおきなさい」


「はい。ありがとうございます」



師であるミロクによって改めて剣を振るうことと向き合ったマクスウェル。

剣を振り始めた頃の楽しさに溢れ夢中になっていた自分、ただただ強くなることだけを目指して無心で剣を振り続けてきた今日までの自分、そこからさらに剣の奥深さを知り一歩踏み出したこれからの自分、それら全てをひっくるめて前を向くのであった。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



数日後 ──────── 。


キンッ ─── キンッ ─── キンッ ─── 。



「マクスウェル、アンタ何かあった?」


「フンッ! ───── 何かとは?別に何もありませんよ」


「あっそ。なんか前よりも剣筋に迷いがなくなってるような気がしたんだけど。気のせいかしらね」



キンッ ─── キンッ ─── キンッ ─── 。



「そんなことよりも、剣を交えている最中だというのに随分と余裕ですね」


「まぁ〜ね〜。アンタには悪いけどまだまだ負ける気はないわよ」



ザッザッザッザッザッ。



「ホッホッホッ。二人とも今日はいつにも増して気合いが入っとるようじゃのう」



まるで模擬戦ということを忘れているかのように激しいぶつかり合いをするミリアとマクスウェル。

そんな二人の剣戟を見るために姿を現したミロク。

そして、二人による模擬戦はミロクの登場から数分と待たずして決着を迎えるのであった。


キーーーーーンッ!!



「ハァ…ハァ…ハァ…。参りました」


「フゥー・・・。今日はちょっと危なかったわね。一瞬炎帝の剣の力を解放しようかと思っちゃったわ」


「ホッホッホッ。両者見事であった。ところでマクスウェル、お主の剣じゃがそろそろ新しいものに新調したほうが良いかもしれんのう」


「剣を新しくですか?」


「ウム。今使っておる剣は、初めて剣を手にする者にも馴染みやすいように打たれた代物じゃろう。クセも少なく使いやすいのが良い点じゃが、さすがに今のお主の実力に剣の能力がついていけておらんように見える。そろそろ自分の実力に合った剣を手にしてみてはどうじゃ」


「この剣は、アーサー様より頂いた初めて手にした真剣なんです。確かにあの頃の僕と今の僕とでは比べ物にならないとは思いますが・・・なかなか手放すというのは ───── 」



幼き日より始めた剣の鍛錬。

七歳の頃より木剣を振り続け、十歳になった時にアーサーよりプレゼントされた真剣。

何処にでもあるような代物であったが、どこかアーサーに認めてもらえたような気がして初めて手にした時のことを今でも鮮明に覚えている。

そこから日々の鍛錬はもちろんのこと、数多くの魔獣との戦いなどいついかなる時も離れることなく共に成長してきた。

世間一般的には名もなき剣なのかもしれない。

それでもマクスウェルにとってはどんな名剣にも勝る一本なのだ。

それ故にその相棒を置いて新たな剣を手にするなど、頭では理解していても感情がついてこないのであった。



「そんなに深刻に考えなくてもいいんじゃない?別に捨てるわけじゃないんだし、新しくすればいいじゃない。大事な物なんだからこれからも大切に磨いて取っておけばいい話でしょ。それにアンタには悪いんだけど、アタシの炎帝の剣の力を解放すれば打ち合いの中でアンタのその剣を真っ二つにすることだってできるわよ」


「でも、僕はミリアのように召喚の儀も行っていませんし、鍛治師の知り合いもいません」


「まぁ〜そうよね。師匠、師匠は鍛治師の知り合いとかいないんですか?アタシは炎帝の剣があるから興味もないけど、師匠の剣とかは誰かに打ってもらったものなんですか?」


「ホッホッホッ。鍛治師か…遠い昔には一人だけ腕の立つやつがおったがのう。ワシの天羽々切(あまのはばきり)を始め、メリッサの村正(むらまさ)、ゼリックの武御雷(たけみかづち)も其奴に打ってもらった代物じゃ」



ミロクより語られる鍛治師の存在。

メリッサやゼリックもサーバイン戦闘専門学校に通っていなかったため、召喚の儀を受けてはいなかった。

そのため当然自分自身の剣など持っておらず、ミロクの下で剣を学んでいく中で彼の知り合いだったその鍛治師にそれぞれの特性や戦闘スタイルに合わせた一振りを打ってもらったのだという。

それこそが彼女たちにとって唯一無二となる、メリッサの愛刀『村正』とゼリックの愛刀『武御雷』である。



「だったらマクスウェルの剣もその人に打ってもらったらいいじゃない。師匠たちの剣を打った人ならアンタも文句ないでしょ」


「ホッホッホッ。期待させてしまって申し訳ないがのう・・・其奴はもうこの世におらんのじゃよ」


「えっ!?」


「ここから遠く東にある島国におったんじゃが、数年前にこの世を去っておる。そういうわけで新たに剣を打ってもらうことは不可能じゃ」


「ちょっと何なのよ!期待させるだけさせといて。それじゃどうすんのよ」



数々の優れた一振りを生み出してきた鍛治師はもういない。

期待を裏切られた形となったミリアは憤りをみせ、マクスウェルは未だ心の整理がついていない様子。

そんな彼らの姿を前にして笑みを浮かべながミロクは一本の剣を差し出す。


カチャッ ──────── 。



「師匠…この剣は」


「この剣の名は『カリヴルヌス』。ワシが所有する剣の一つじゃ。マクスウェル、これをお主に譲ろう」


「えっ!?でも、そんな…師匠の剣を頂くわけには ───── 」


「ホッホッホッ。ワシは刀の方が扱いやすくてのう。それにこれは昔知り合いが試しに作ってみたと無理矢理渡された物じゃから、そう気にするものでもないんじゃよ。受け取っておくれ」


「良かったじゃないマクスウェル。さっさと貰っちゃいなさいよ」


「えっ…あっ…は…はい…。ありがとうございます」



ずっしりとした重みのあるその剣はどこか不思議な雰囲気を醸し出している。

それがいったい何なのか・・・今のマクスウェルには分かりようもないのだが、剣から漏れ出るその空気にただただ圧倒されるのであった。



「へぇーいい感じじゃない。ちょっと抜いてみなさいよ」


「あっ…はい」



スーーーッ。


ブワァッ!!! ──────── 。


鞘から剣を抜くと、透き通るような美しい翡翠色をした刀身が姿を現した。

そして、それと同時に長い年月封じ込められていた凄まじい量の魔力が一気に解放されたのであった。



ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ ──────── 。


ヒューーーンッ、ヒューーーンッ、ヒューーーンッ ──────── 。



引き抜かれた剣を中心にして強風が吹き荒れる。

その光景を前にマクスウェルは驚きの表情を浮かべてただ立ち尽くすのだった。



「この剣は…いったい・・・」


「ホッホッホッ。そのカリヴルヌスは、遠い昔友である精霊族によって鍛え上げられた代物でな。ワシが刀の話ばかりするもんじゃから、それならば自分で作ってみたくなったと言うてのう、風の魔力を込めながら作ったと話しておったわ」



いやいや、いったいどれだけの魔力を込めればこれほどの剣が出来上がるのか。

マクスウェルもミリアもそんな疑問を心に秘めながら、今なお異様な空気を放ち続けるカリヴルヌスに視線を送る。



「始めは苦労するじゃろう。しかし、それもまた修行じゃ。マクスウェル、その剣を使いこなしてみせよ。そうすれば、お主はさらに強い剣士となれるじゃろう」


「はい!!」



カチャッ ───── 。


使い古された剣を手にするマクスウェル。



「この剣があったからこそ、僕はここまで成長することができました。この傷の一つ一つに思い出があり、ここまでの戦いの記憶を思い出させてくれます。今までこんな僕を支えてくれて本当にありがとう」



十歳の頃から今までありとあらゆる困難を共に乗り越えてきた相棒に心からの感謝を伝え、静かに涙を流したマクスウェル。

しかし、ここからさらに強くなっていくであろう敵を想定するとこの剣との旅路もここまでとなる。

それでもこれまでに経験してきたものが消えて無くなるわけではない。

これからはそこにさらなる経験を上積みしていくのだ。

そして、その中で新たに手にしたカリヴルヌスという力。

ここまで自身を支えてくれた相棒と、これからの道を共に歩んでいく新たな相棒を両手にマクスウェルは大きな一歩を踏み出す決心をするのであった。





最後までお読み頂きありがとうございます。

相棒との別れと新たな相棒との出会い。

今のマクスウェルには過ぎた力なのかもしれない。

それでも彼は大きな決断と共に一歩を踏み出す。

そんな中、宿り木のホームへと話は戻り、新たな来客とクロノとの関係が明かされる。


次回『イライザ』

お楽しみに♪♪


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