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魔族側の動きが静かになってから二ヶ月の時が経った。

その間もガルディア王国軍はいつ起こるかも分からない魔族の本格的な侵攻に備えて各地に軍備を整えていた。



「アーサー、各地の状況はどうだ?」


「今現在は各地の騎士団を中心にいつでも動けるように備えてあります。そして、聖騎士団と魔法師団からも商業都市ロコンと冒険者の街リザリオに派遣しており、いつでも駆けつけられるように準備させております」


「そうか。ただ、魔族側がいつ動くかも分からぬ状況の中でいつまで皆の気持ちが保つか・・・」



レオンハルトが危惧するのも無理はない。

実際魔族が現れて各地で事件を起こしていた頃は騎士や兵士たちの士気も高かった。

しかし、その動きがピタリと止み、一ヶ月…一ヶ月半…と時が経つにつれて彼らの士気も次第に下降気味となっていた。

そのため聖騎士長であるアーサーや十二の剣(ナンバーズ)の面々が時折現場に赴いては激励と共に彼らの気持ちが途切れぬようにと努めていたのだった。



「魔族側がどのように考えているのか。話し合いの場さえ設けることができれば、解決策を見いだすこともできようものなのだが・・・」


「国王様、恐れながらその可能性は低いかと。現に我々が承知しているだけでも奴らは十数回にわたって魔王クロノに接触してきています。それも魔族領に戻り、我々との戦争の陣頭指揮を執るようにというものです。そのことからも今更話し合いでどうこうというのは難しいかと思われます」


「ハァ〜…その要請を全て固辞し続け跳ね除けてくれているクロノ殿には感謝するほかない。恐らくは魔族側がなかなか次の動きをみせていないこととクロノ殿を説得できていないことは無関係ではあるまい」


「そうですね。魔族側としてもどちらにつくか分からない強大な存在を無視することはできないのでしょう」


「なんとか接触してきている魔族の者と会うことができれば・・・」



魔族側はこの二ヶ月の間に延べ十七回にも及びクロノとの接触を行なってきた。

そして、その全てが魔族領に戻りガルディア王国に向けた侵攻のために力を貸してほしいというものであった。

しかし、その再三にわたる呼びかけにもクロノは決して首を縦に振ることはなかった。

事実として、レオンハルトとアーサーが考えていた通り、そのクロノの行動が魔族側の侵攻を抑制し、本格的な侵攻の開始を鈍らせていたのだった。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



魔族領 〜 魔王城 〜



「ザイオン様、サモウラからの報告が来ましたが、残念ながら今回も ──────── 」


「未だ…首を縦には振らんか・・・」


「それからそれとは別件なのですが、魔族領の北東部よりガルディア王国南東部へのゲートが繋がったとのことです。しかし、その影響でミルケは魔力枯渇を引き起こし意識不明の状態で床に臥せており、今後の作戦には参加できなくなりました」


「そうか…大義であった。サモウラには意識が戻ってもミルケをそのまま休ませるようにと伝えておけ。それから、今回の戦いが終わった際にはミルケに十分な褒賞を出すように」


「かしこまりました。それで、待たせているあの者どもはいかが致しますか?」


「ああ、お遊びの時間は終わりだ。作戦を次の段階に移行する。すぐに準備を始めさせろ」


「クロノ様の問題が解決しておりませんが、よろしいのですか?」


「仕方あるまい。いつまでもあやつ一人のために我々の悲願を停滞させるわけにはいかぬ。それにサモウラからの報告の通りであれば、こちらから仕掛けぬ限りは我々の侵攻を邪魔するようなこともあるまい」


「そうですね。それでは速やかに準備を開始致します」



こうしてザイオンによる号令の下、本格的なガルディア王国への侵攻を開始するための準備を開始した魔族。

そして、ミルケによって魔族領とガルディア王国を繋ぐために設置されたゲート。

この時、ガルディア王国の南東部にある小さな山間部の奥深くに直径三十メートルほどの黒い円形の渦が出来上がっていた。

どうやらここ数ヶ月に及ぶ魔族側の行動の全てがこのゲートを繋ぐための陽動であり、その目立つ行動も派手な殺戮も本来の目的を隠すために行われていたのだった。

まさかそのようなことが裏で動いていたなど露ほども知らぬガルディア王国側では、なかなか攻めてこない敵に焦らされ集中を欠く兵がちらほらと散見され始め、国民の中にも魔族の侵攻は終わったのではないかと噂する者さえ出始めていた。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



中間都市モア近辺の森 〜 宿り木のホーム 〜



「なんか不気味なくらい静かよね。魔族の動きもピタリと止んで、ここ二ヶ月くらいは大きな事件も起きてないし」


「まぁ〜うちには何度も魔族が来てるっすけどね」


「一応その件については逐一王宮に報告はしていますが、あちら側でも今後の魔族の動きが読めずに苦心しているようです」


「ご…ご主人様はどうなされるおつもりですか?」


「どうもしない。俺には関係ないからな。まぁ〜万が一にも俺の気に障るようなことになれば同族であろうとも容赦はしねぇけどな」


「フンッ。わっちは言うまでもなく旦那様と共に在るのじゃ!旦那様の敵は誰であろうともわっちの敵じゃ!!」


「・・・・・」



夕食の最中に起こる些細な日常会話。

それぞれが不安を胸に抱えながらも必死に前を向こうと気丈に振る舞う。

しかし、そんな中でスズネだけは心のモヤモヤを表すように吐き出す言葉に苦慮していた。



「ね…」


「ね…ス…」


「ねぇ!スズネ!!」


「!? ───── はい!!」


「ちょっと聞いてんの?スズネ」


「えっ?えっ?どうしたのミリア。何かあった?」


「ハァ〜…今みんなでこれからのことを話し合ってんのに、何ぼーっとしちゃってんのよ。しっかりしてよね!リーダー」


「アハハハハ…ごめんごめん。ちょっと考え事してた」



不安と心配、そして恐怖に侵されたような引き攣った笑顔をみせるスズネ。

彼女にとってクロノと戦うことも、クロノが同じ魔族と戦うことも、どちらも避けたい未来なのである。

そんな彼女の胸中を察するからこそ、仲間たちもまた今後の方針を決めかねていたのだった。



「おい!お前の無い頭であれこれ考えたところで何も解決しねぇーんだよ。お前はいつも通りその瞬間に最善だと思うことをそのまま行動すればいいだけだろ。馬鹿は馬鹿らしく単純に生きてりゃいいんだよ」


「でも…クロノは ──────── 」


「俺の決断は俺だけのものだ。誰にも文句は言わせねぇ。その俺が今回の争いには関わらないと決めたんだ。他は勝手にやってろ。まぁ〜仮に俺が魔族側についたとしても、不本意ながら今の俺はお前とパスが繋がっちまってるからな。またあの地獄のような目に遭いたくねぇんだよ」


「ププッ…アハハハハ。確かに!あの光景は今思い出しても傑作だわ」


「えっ?なんすか?なんすか?」


「パスが繋がっていると何かあるんですか?僕にも教えてくださいよ」


「ス…スズネ、ご主人様と何を」


「なんじゃなんじゃ!スズネ、貴様わっちの知らぬところで旦那様に何をしたのじゃーーー!!」


「ちょっとみんな待って、待ってよ〜。話すからみんな落ち着いてーーー」


「おい、話すんじゃねぇーよ!わざわざこいつらに説明してやる必要なんかねぇだろ」


「おやおや?魔王様ともあろうお方がとんだ慌てようですな〜。まぁ〜あんな黒歴史を広められちゃ〜、歴代最強の名も汚れちゃいますもんね〜」


「ミリア…貴様…殺されたいようだな…」


「キャーーー!スズネ助けて〜」



ワイワイ ───── ガヤガヤ ───── 。


ガルディア王国の存亡を懸けた戦いが刻一刻と近づく中、いつもの調子を取り戻した宿り木。

魔族の次なる一手を警戒して軍備を整える王国軍に対して、着々と侵攻に向けた準備を進める魔王軍。

そんな緊張感が漂うガルディア王国の中で、暫し心の休息を楽しむスズネたちなのであった。



「も〜〜〜う!みんな落ち着いてよーーーーー!!」




◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


ガルディア王国南東部 〜 魔族潜伏場所 〜



「スゥー、スゥー、スゥー」



ベッドの上で静かに眠るミルケ。

そして、その傍には彼の寝顔を眺めながら優しく頭を撫でるサモウラの姿があった。



「ミルケ、今はゆっくりお休みなさい。あなたが繋いだゲートによってこれから数多くの同胞たちがこちら側に来るのです。そうすればいよいよ私たち魔族の悲願を達する時が・・・。フゥー…それでは、私はもう一度クロノ様の説得に行ってきますね」



ギィーーーッ ──────── バタンッ。






最後までお読み頂きありがとうございます。

今回の作戦における重要な要素であるゲートの開通。

それによって、いよいよ本格的な動きをみせようかと動き出した魔族。

ここから魔族による大侵攻が始まってしまうのか。

そして、ガルディア王国はそれに対抗することはできるのか。


次回『秘剣』

お楽しみに♪♪


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