嵐の前の静けさ
サモウラたちがクロノの元を去ってから二週間が経ち、その間ガルディア王国内において事件などは起きていない。
国民の中には未だ不安と恐怖が残っているものの、皆表面上は気丈に振る舞いながらもいつも通りの日常を過ごしていた。
そんな中、スズネたちはというと ──────── 。
「ほら、そっちに行ったわよ」
「任せるっす!」
ドスドスドスドス ──────── ガンッ!・・・ガガガガガッ。
自身の三倍以上はあろう巨体による突進を自慢の大楯で受け止めるシャムロム。
今回相対するは、Bランクの魔獣『灰色熊』。
その名の通り全身に纏う毛が灰色をした熊の魔獣であり、起き上がると三メートルを超える巨体と、それを駆使して繰り出す力技を得意としている。
しかし、灰色熊の面倒なところはそれとは別にある。
三メートルを超える巨体であるくせに一角兎などの小型魔獣よりも素早く、さらに土属性の魔法まで使えるのだ。
ビキッ、ビキッ、ビキッ。
動きを止められた灰色熊の頭上に岩石弾が展開される。
もちろんその狙いは目の前にいるシャムロムである。
「危ない!シャムロム回避して!!」
「今はそれどころじゃないっすーーー」
「援護します」
タッタッタッタッタッ ───── ダンッ!
「次は僕の相手をしてもらいましょうか」
ブンッ ──────── ブシュッ。
グオォォォォォ ────────── 。
仲間の危機を察知して側面から灰色熊に斬撃を放つマクスウェル。
それを受けて標的をシャムロムからマクスウェルへと移した灰色熊が、怒りに任せて岩石弾を発射する。
ビュン ─── ビュン ─── ビュン ─── ビュン ─── ビュン 。
キンッ ─── キンッ ─── キンッ ─── キンッ ─── キンッ 。
しかし、迫り来るその全ての攻撃を剣一本で叩き落としたマクスウェルは、続けざまに目の前の敵目掛けて襲いかかる。
「ラーニャ!コイツの動きを抑えてください」
「任せるのじゃ。少しの間大人しくしておれ ───── 拘束する鎖」
ヒューン、ヒューン、ヒューン、ヒューン ──────── ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン。
ラーニャによる魔法の発動と共に地面から四本の鎖が飛び出し、あっという間に灰色熊の両手足を拘束する。
そして、この機を逃すまいとマクスウェルが敵の首元を目掛けて頭上から勢いよく剣を振り下ろす。
「終わりです」
グウォォォォォ !!
ドーーーーーンッ!!! ────────── 。
「ぐわぁぁぁぁぁ」
討ち取った。
マクスウェルはそう思った。
仲間たちもまた同様に考えていた。
しかし、そうはならなかった。
マクスウェルが灰色熊の首を斬り落とそうとしたその時、突如として彼の足下が盛り上がり土の壁が現れたのだ。
そして、その土壁によって体勢を崩されたマクスウェルは、その勢いのまま後方へと弾き飛ばされたのだった。
ググッ…グググググッ ──────── パリーンッ!!
灰色熊を拘束していた魔法の鎖が引きちぎられて霧散する。
これで戦いは振り出しに戻ったと誰しもが思った。
しかし、この戦いは程なくして終わりの時を迎える。
ヒューーーーーン ──────── ブシュッ!!
!? ──────── グウォォォォォォォ!!!!!
突然右の視界が奪われる。
それと同時に尋常ではない痛みが灰色熊に襲いかかり、そのあまりの激痛に大きな咆哮を上げながら悶え苦しむ。
そして、鋭い矢が突き刺さった右目からは赤い涙が流れ落ちる。
「ナイスよ、セスリー!ホント頼りになるわ〜。アンタもさっさとおちなさいよ ───── 炎転!!」
ズバンッ! ──────── ボトッ・・・。
死角から放たれた炎を纏いし紅の剣による一閃によって巨大な灰色熊の身体が地に伏せる。
激闘といえども、幕を閉じる時はまさに一瞬。
あれだけの力強いエネルギーを放っていた魔獣とは思えないほどに力無く横たわったその姿がこの戦いの終わりを静かに告げる。
「フゥー・・・終わったわね」
「みんなお疲れ様〜」
「いや〜今回はセスリーのおかげで助かったっす」
「僕も一時はどうなることかとヒヤヒヤしましたよ」
「い…いえ、私はただやるべきことをやっただけですので」
「わっちはもっと魔法をぶっ放したかったのじゃ」
今回も無事に討伐対象を討ち取り、見事にクエストをクリアした宿り木。
この日もギルドでクエスト報酬を受け取ると、そのままホームへと帰還した。
それぞれの心のうちは不安を抱えているだろう。
それでもなるべくそれを表に出さぬように努めながらいつも通りの日常を過ごすスズネたちなのであった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
首都メルサ 〜 王城 国王執務室 〜
「アーサー、魔族の動きはどうだ?」
「はい。マクスウェルからの報告を受けて以降、これといった動きはないようです」
「そうか…」
「フンッ、魔王クロノに接触して何を企んでおるのやら。あの宿り木とかいう冒険者ともども監視を付けるか、いっそのこと全員捕らえて王城で監視してはどうだろうか」
「ハァ〜…。ドルーマン、お前は相当な馬鹿だな」
「なんだと!ギュスターヴ。何かあってからでは遅いではないか。そうなる前に先手を打っておくのは当然のことであろう」
「報告にもあった通り、魔王クロノは魔族からの要請を断った。それから、奴に監視など付けたところで意味などないし、いったいどうやって奴を捕らえるというんだ?やりたければお前と側近たちだけで行って捕らえてこい。聖騎士団からも魔法師団からも人員は出さんぞ」
「グヌヌヌヌ…おのれ…ギュスターヴ…貴様という奴は・・・」
魔族側がクロノに接触してきたことは、当然マクスウェルを通じて王宮へと報告されていた。
そして、クロノがその誘いに乗ることなく、ヒト族に対して敵意をみせていないことに国王レオンハルトを始めとした大半の者たちは胸を撫で下ろしたのだが、ドルーマンを含む一部の者たちからはこのタイミングでの接触自体を疑わしいという声が上げられていた。
「フゥーーー・・・。さて、これから魔族はどう動いてくるのか」
クロノとの接触後、これまで連日のように各地で何かしらの侵略行為を行なっていた魔族の動きがピタリと止み、まるで嵐の前の静けさのごとく静寂の時が流れていた。
しかし、その静寂が逆にレオンハルトの心をさらに暗く重くさせるのであった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
魔族からの侵攻を受けていることが嘘のように日常が流れていく。
しかし、その時は刻一刻と近づいていることを多くの者が感じ取っている。
魔族の次なる一手は。
そして、侵攻の首謀者であるザイオンは何を考えているのか。
次回『ゲート』
お楽しみに♪♪
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