【百匹いれば提出できる】
ゼミ室に入ると、名雪さんが机の上に小さな色紙の人形を並べていた。
赤、青、黄。
頭には葉っぱまで付いている。
「先輩、それピクミンですか?」
「そう。赤ピクミンは火に強い。青ピクミンは水に強い。黄ピクミンは電気に強い。そして名雪ピクミンは締切に弱い」
「最後だけ絶滅候補じゃないですか」
机の中央には、厚さ五センチくらいの資料束。
明日のゼミで使うアンケート集計結果らしい。
「これを研究室まで運ぶの、地味に重いんだよね」
「普通に持って行けばいいでしょう」
「ピクミンなら十匹くらいで運んでくれるのに」
「現実には俺しかいませんよ」
「茨木ピクミン、一匹で十人力」
「紫ピクミンのお株を奪ってますね」
「たまに屁理屈で働かない」
「いっつも、ちゃんと働きますよ。。。」
仕方なく資料束を持ち上げる。
確かに重い。
名雪さんは隣で色紙ピクミンを三匹、俺の腕に乗せた。
「応援要員」
「重量が微増しただけです」
「士気は上がった?」
「下がりました」
名雪さんと雑談しながら、廊下を歩く。
「ピクミンって、改めて考えるとすごいゲームだよね。自分より何倍も大きいものを、みんなで持ち上げる」
「人数を割り振るのが重要ですよね。最低人数で運ぶか、余裕を持たせて速く運ぶか」
「あと、夜になる前に呼び戻さないとお亡くなりになる」
「レポートも似てますね。作業を散らしすぎると、締切までに回収できません」
「じゃあレポートを書く私はオリマー?」
「遭難してるところだけ似てますね」
「ひどい」
階段に差しかかる。
資料束が少しずれて、俺は抱え直した。
「やっぱり半分持つよ」
「最初からそうしてください」
「いや、ピクミン的には“必要数に達してる物体に追加投入するのは効率が悪い”かなって」
「俺を最低必要数として計算しないで下さい!」
結局、半分ずつ持つ。
急に軽くなった。
「おお。二人になると半分」
「算数として当然です」
「でもさ、重いものって、重さそのものより“一人で持ってる感”の方が重い時あるよね」
名雪さんは階段を上っていく。
研究室の前に着き、資料を机へ置く。
どさっ、と音がした。
「ミッションコンプリート!」
「たった一階運んだだけですけどね」
「でも運搬って気持ちいい。目的地に物が届くと、世界のパズルが一個はまった感じする」
「ピクミンでお宝を回収した時の感覚ですね」
「そうそう。じゃあ次は、ゼミ室に戻ってアンケートの自由記述を分類する作業」
「まだあるんですか」
「三百二十七件」
「多いですね……」
名雪さんが俺を見る。
「赤ピクミン、青ピクミン、黄ピクミン」
「はい?」
「そして茨木ピクミン」
「だから人間です!」
「私は?」
「締切に弱い名雪ピクミンでしょう」
「覚えてた!」
嬉しそうに言うことじゃない。
ゼミ室へ戻る廊下。
俺たちは結局、ピクミンみたいにぞろぞろとは歩けない。
二人しかいないからだ。
それでも、二人なら一人より少し多く運べる。
資料も。
作業も。
たぶん、面倒くさい一日そのものも。




