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茨木くんと名雪さん  作者: 橘悠


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【断捨離ガチャ】

棚の一角、先輩ゾーンの“積み思い出”にメスを入れることになった。

テーブルに三つの箱を置く——【残す】【電子化】【手放す】。


「判定は“心が三秒で動くか”。動いたら残す、迷ったら電子化、動かないなら手放す」

「いいですね。感情のデバフが強いと判断が鈍るので、テンポ重視で参りましょう」

「では一枚目——過去のライブフライヤー。“尊い”ので残す!」

「三秒で動きましたね。次のうちわはどうしますか」

「推しが裏面に——う、動く……けど嵩張る……電子化!」

「了解です。撮影します。影が入らないように——はい、保存完了です」


ガチャみたいに、次から次へと記憶が出てくる。

缶バッジ台紙、謎の入場リストバンド、通販のオマケステッカー。

「このステッカー、貼る場所がないのが良くない。じゃ、手放す箱へ」

「英断です。ステッカーは“貼らないまま寿命”が多いですから」

「茨木くん、経験者の口ぶり……」

「身に覚えがありますので。欲しい方に有効活用してもらいましょう」


山が半分になった頃、黒い表紙のメモ帳が出てきた。

開くと、先輩と初めて会った日の覚え書きが、雑に鉛筆で残っている。


『新入生・茨木。丁寧語。多分つよい』


「……先輩、これは」

多分つよい、ってなんだ。

「うわ、黒歴史メモ帳……いや白歴史……? えっと、それは——残すで」

「了解です。ラベルを付けて、ここに戻します」


先輩は少し照れた顔で笑い、次の封筒を開けた。

中から、映画の半券がぱらぱらこぼれる。

「半券ってさ、写真に撮ると画質が落ちて“思い出の温度”も下がる気がするんだよね」

「温度は残したいですね。では、選抜で三枚だけ実物保管、残りは電子化でどうですかね」

「名采配。三枚は“刺さり度S”のやつにする」


仕分けが終わると、段ボール一箱ぶんの余白ができた。

空白は気持ちを軽くする。そこに風が通り、新しいことを受け入れる余裕となる。


「断捨離ガチャ、当たりだったね。メンタル石もっと使うかと思ったけど、以外と大丈夫だった」

「では、この状態を長く続けるための、運用設計です。“持ち込んだら元の位置に戻す”を徹底しましょう。棚の見取り図を貼っておきます」


「了解、マップ実装! ——ねぇ茨木くん」

「はい」

「私さ、こうやって“今の私”のために場所を空けるの、けっこう好きかも」

「良い習慣だと思います。掃除は未来の自分へのバフですから」


先輩は頷いて、空いたスペースに小さな観葉植物を置いた。

緑が一枚増えるだけで、部室の空気がまた少し新しくなる。

掃除は終わらない。でも、それでいい。次に散らかる日を、ちゃんと受け止められる準備ができた。

■ メンタル石

名雪さんの造語。メンタルとしての余力を石に例えて、“積み思い出”ガチャからものを取り出すこと。メンタルが尽きると、ガチャが引けなくなるので掃除も止まる。


■ バフ

能力を一時的に強化する効果。ゲームでよく使われる。

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