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番外編 この海が雨になって降り注ぐなら、傘なんて忘れて、裸足で歩いて。 Ⅱ


 五月。学年が変わって、彼は藝大四年になった。六月に展示があるからそれまでは制作する、と連絡が来て、一般教養や物理などの授業を共に受ける事は無くなった。

 メッセージでは声色はわからない。制作が出来るところまで体調が良くなったのか、必須ではない事に手がつけられなくなったのか、そのどちらなのかはわからなかった。


 どうやら建築学科の後輩である薬師寺日向とは仲良くやっているらしかった。何があったのかはわからないが、葵月の背景を軽く知っているようだった。しかし、彼も人を物語にしなかった。それが嬉しかった。一年の学年の差と、自分が後輩の女子に絡まれやすいこともあって、薬師寺日向と急に親密になる事はなかったが、それで構わなかった。


 制作は邪魔できないので、全ては六月の展示で明かされる。それがどうか、彼にとって美しいものである事を願うしかなかった。



***


 六月。彼繋がりで仲良くなった建築の友達である三輪秋斗と共に展示を見に行った。藝大四年の朝日奈葵月が、小鳥遊葵月として絵を残していた事を三輪は知らない。

「これ俺が一年の時に喧嘩した人の作品」と、内部からの紹介に少し笑いながら、「一年の時に何があったんだよ」と訊く。「藝祭の御輿制作でちょっと意見の食い違いがさ」と彼は笑っていた。


 午前十時。順番に見てまわる中で、ある展示で息を呑んだ。何もかも盗作だった。小鳥遊葵月が残した絵が、別の名前と共に並んでいた。『帰雁』だった。犀川先生のところで見た、彼が『自分のもの』だと言った、あの絵。

 最悪な解釈だった。彼の十六年は、生きて美しく花を咲かせる、憧れに似た恋だと題されてイーゼルに置かれていた。


 美しい絵だった。小鳥遊葵月を知らなければ、抽象と具象の間を描いたようなそれを、きっときれいだと思った。


 彼はこれを、どんな顔で見たのだろう。「『帰雁』が盗られたら、復讐のために筆を取るかもしれない」と溢した彼は、これをどう思って、何をここに展示したのだろう。それが怖かった。


「なんか気になるのあった?」


「いや。次行こう」


 扉を開けて、目を閉じた。盗作を見る意味は一つもなかった。



***




「あれ、朝日奈?」


 横から聞こえてきた声に驚いて顔を上げる。水の入ったペットボトルを片手に、自販機の前で佇む姿は、確かに彼だった。


「あ、真琴と三輪」


「休憩?」


「いや、水買いに。出来るだけ在廊したくなくて、細々と抜けてる」


「朝日奈って結構真面目だと思ってたんだけど、意外とそういうことするんだ」


「在廊嫌いなの、俺。絵を訊いてくるのも、俺の連絡先とか訊くのも辞めて欲しくて」


「連絡先は良くないけれど、作品も訊かれたくないんだ。尖ってるねえ。俺は結構作品の事訊いてくれるの好きだけどな」


 彼にしては言葉が強かった。好きじゃない、を言う事はあっても、嫌い、と言う事はほとんどない。

 それに言及はせず、三輪と葵月の会話を黙って聞く。朝日奈葵月として何を展示したのか、わかりたくなかった。何も気にしていないような平然とした姿の裏に何を隠しているのかがわからなくて、余計に苦しかった。誰にも気付かれないうちに掌に力が入る。葵月は軽く笑った。


「作品を訊いてくれるのが嬉しいのはさ、建築が人のためにあるからなんじゃない?」


「絵も人のためにあるよ、芸術は全部、人のためにある」


「願いみたいだね」


「いや、事実だろ」


「……画家なら、そうかも」


 少し考えてから、彼は軽く笑った。それの意味はわからなかった。芸術は誰のためにあるのか。画家ならば、人のために描くのか。ならば、彼は、誰のために。

 黙った自分を特に気にする事なく三輪が続ける。


「で、朝日奈のは何階? これ学年順に並んでないからわからなくて。有栖川と一緒にお前のを見にきたんだけど」


「そうなの? 他のも見なよ、友達いるでしょ」


「油画の友達お前くらいだけど」


「え、本当に言ってる?」


「藝祭の事忘れたの、お前」


「はあ? 何年前だよ、まだ引き摺ってるわけ? 大体あれは俺らが悪いよ」


「お前は悪くなかっただろ、変な自己犠牲やめな。あと、別に不仲なわけではない。怖がられてるだけ」


「自己犠牲じゃない、便宜上。正しくは油画の一部ね。俺は悪くない」


「はは、間違いない。お前そういうところ意外と言うよな」


 そういえば葵月たちが藝祭で何を作ったのかを彼の口から聞いたことがなかったな、と思う。高校の時に藝祭を見に行ったことはあるものの、彼らが運営する側になった時の話を一つも知らなかった。当時浪人していた自分を気遣って、藝大一年次の話をしなかったのだということは想像に難くなかった。


 なんだそれ、と軽く笑ってから、「じゃあね」とひらひら手を振り、葵月は去っていった。「結局何階のどこなんだよ」と三輪が苦笑する。

 葵月のいなくなった廊下を見てから、三輪と顔を見合わせる。肩をすくめてから、展示に戻ることにした。




「三輪、藝祭で何かあったわけ?」


 階段を登りながら、三輪に訊く。


「藝祭って一年が御輿作るんだけどさ、油画の一部の奴らがあまりにも情熱あるものだから全然まとまらなくて、俺が途中でキレた。有栖川みたいに上手く意見まとめられたら良いんだけどさ、俺言いたいこと全部言うし、人数多いしでめっちゃ大変で」


「あー……なるほどね」


「消極的な奴、滅茶苦茶な事言う奴、ある程度こっちに合わせてくれる奴、で極端すぎたんだよね」


 三輪はかなりはっきりとした性格をしている。駄目なものは駄目だと言うし、良いものは良いと言う。嘘はないが、言葉で人を傷付ける事に全く躊躇がない。明瞭快活で、自分の信念のもとに生きる。ただ、周りはきちんと見るし、計画を立てて実行するのが上手く、リーダーシップがある。

 上司に欲しいタイプで、葵月とは違う嘘の無さだった。


「油画はさ、ああいうの特に本領な訳で。滅茶苦茶な要求をしてでも、良いものを作ろうとするし、あいつらは個人単位でそれが出来るけど、全ての意見を使って全員でやろうと思ったら無理があるんだよな。建築もそれなりに絵は描けるけど、油画は化け物だからレベルが違う。あと単純に協調性がない」


 話を聞いている限り、三輪が途中で怒るのも納得できた。責任感が強いのも三輪らしい。「へえ」と相槌を打って、続きを待った。


「で、全然進まなくて。幹部もお人好しで何も言わないから俺がキレた。向こうも俺も謝ったし普通に話せるけど、友達ではないかな」


「誰かが意見纏めないとどうしようもないもんな。憎まれ役を買って出たんだ、お前結構良い奴だな」


「今更気付いた? 遅くない? 有栖川の絵を添削したの俺のはずなんだけどな」


 三輪が悪戯をする子供のような目でこちらを向く。たまに子供のような一面が見えるところも彼の良さだった。浪人していた時、本当に葵月は建築の友達を自分の前に連れてきた。犀川先生にも相談した上で、「現役の藝大生の意見も訊いてみるのはいいんじゃない?」と言われ、彼にも添削をお願いしていた。


「言葉強すぎて葵月が頭抱えてたけどな。あいつが良かった所を一言追加して添えるようになった」


「へえ、それは知らなかった。朝日奈らしいね、あいつそういうところ丁寧だからな」


「三輪にも勿論感謝してる。意外と画力は理工学部でも役に立ってるし」


 三輪も人を物語にしない。言葉は強く、思ったことを何でも言うものの、他人の努力を馬鹿にしたりする事はない。熱心で、責任感があり、しかし言葉を包まないせいでたまに人と摩擦を起こす。だけれど、そういう細かな言葉の強さの裏に悪意はないことを知っていたし、それを上手くやるのは自分の得意分野だった。

 何より、自分の居場所が増えたのが嬉しかった。結局藝大には行けなかったけれど、今もこうやって友達を続けている。

 それは、葵月も三輪も、自分が藝大に心残りが無い事を知っているからであり、彼らが他人を好き勝手に使う事がないからだった。


「それは良かった。まあ、建築だと行き着く先は同じだもんな」


「そうそう。あと、お前らと友達やれてるのが嬉しいし」


 三輪は目を見開いてから笑った。


「有栖川、お前結構そういうの真っ直ぐ言うよな。やっぱそういうの言えるとモテる?」


「優しくて勉強できるセンスいい先輩として噂されてるよ」


 冗談交じりの軽口に、お手上げと言わんばかりに笑って三輪が答えた。


「はは、だろうね。そんな感じする」




***





 午前十一時過ぎ。人が多くなってきたな、と思いながら列に沿って教室の扉を開けた。


 息を呑んだ。一枚の絵が置かれていて、それが全てだった。指先が冷える感覚がした。何か見てはいけないものを見たとすら錯覚するほどの、灰色と白のまだらな抽象画。筆致が荒れていた。恐ろしいほどの、重たい灰色。

 少しずつ酸素が減っていくような、指先からゆっくりと蝕まれるような、そんな。




 未完成の雨。


 きれいだった。きれいだったけれど、くるしかった。

 

「……良い文章だな」


 黙って見ていた三輪が低く声を出した。


「文?」


「キャプションに詩がある、ほら」


 指し示されるがままに視線を向ける。

 答えがあった。盗作への、小鳥遊葵月の言葉が。


 

 目を逸らせなかった。身体が固まって、息すら出来そうになかった。

 多分、盗作を知らない三輪はきっと本当の意味をわからない。ただ、自分には理解できた。


 誤読されないように、必ず伝わるように。

 わたしはあなたを絶望させる事ができるけれど、それはしない。なぜなら、わたしは、大切なものをすでに持っているから、と。



 彼は、ずっと、雨の中を歩いている。傘を持たずに、終わらない雨を、生きている。


 


「……有栖川?」


 三輪の声で我に帰る。数分のようにも数十分のようにも思えた。扉を開けた時に見えた人影は無くなっていた。

 時計はちょうど正午を指していて、人の流れが止まる時間帯だった。


「あ、ごめんごめん。つい」


「昼食べに行こうぜ、学食でも、その辺の店でも」


「いいね」


 葵月の事が多少気掛かりではあったが、彼の在廊のスケジュールがどうなのかは知らなかったので、なす術はなかった。上野周辺の店に行くことになり、三輪と共に教室を出た。廊下の空気は重苦しい絵と違って少しだけ軽かった。


「……あ、葵月。いるじゃん」


 入り口の方の廊下で、鬱陶しそうに首から下げたストラップを外しながら、誰かと会話している姿が見えた。三輪と目を合わせて、首を傾げる。「うわ」と三輪が苦い顔をした。どうやら葵月と話している相手が誰なのか見えたらしかった。


「在廊も休憩あるから昼誘うか」


 三輪の声に頷く。葵月はこちらに気付いていない。誰と話しているのかはわからないが、それが最悪の可能性を秘めている事に気がついた。三輪はこちらの迷いを知らずに声をかける。


「朝日奈、それ話終わったら昼行こうぜ。昼休憩いつから?」


 声に気付いた葵月がこちらを見る。一瞬背筋が凍るほどの射抜くような鋭い視線がこちらを認識して、すぐに淡く溶けた。その強い視線に一瞬息が止まり、手のひらに爪が当たった。

 こちらに気付いたのか、葵月と話していたであろう茶髪の女子大生が顔を出す。三輪と自分を見て、明確に顔を歪めた。


「怖がんなって、別に泣かせにきたわけじゃない。俺は朝日奈に用があるだけ」


 三輪が怖がられている事実を認識すると同時に、泣かせにきたわけじゃない、という言葉の意味がわかって軽く顔を覆った。三輪はとことん嘘がない。恐ろしいほどに包み隠さずに伝える。彼に絵を見てもらった時の添削に添えられた言葉がそれを物語っていた。

 数年前の事をずっと引きずる気持ちも分からんでもないな、と思いつつ彼女を見る。しかし、感情を露わにしてはっきりと三輪を睨む姿は、大学生には見えなかった。


 葵月は何も言わない。細められた視線が矢のように彼女を刺している。しかし、それ以上の温度はない。ただ、見ている。


「とりあえずこいつ借りてくから」


 三輪を睨んで動かない彼女を見て、行こうぜ、と三輪が溜息をついた。何か言おうかと思ったけれど、言わなかった。


「朝日奈、休憩何時まで? 俺ら昼ご飯食べに行くけどお前は?」


「行って来なよ、俺はいい」


 こちらに目を合わせずに葵月が答えた。どこか感情を削ぎ落としたような、それでいていつもと変わらないような穏やかな声色で。

 冷えた空気の中で、三輪を睨んでいた彼女が口を開ける。


「憧れるって、良い事だと私は思う」


 呟くようなその声が、葵月とのやり取りの続きなのだと思った。

 セミロングの茶髪がふわりと揺れる。黒曜石に青を混ぜた瞳は動かない。


「……良かったね」


 今度は、どこか他人事のような声だった。突き放すような、何かを諦めたような、感情を見せないようにしている、そんな声。

 そこに何が含まれているのか、何もわからなかった。何もわからなかったから、わかってしまった。

 



***



 なにやら穏やかではない雰囲気を察した三輪が、「いいから」と葵月を連れて一先ずその場を後にした。「食べたら多分吐く」と言って葵月が空き教室から出ないので、三輪と共に近くのコンビニで昼食を買うことにした。この後どうするかはまだ未定だが、とりあえずコンビニの袋を下げて、葵月が無断で居座っている空き教室の扉を開ける。


「葵月、ある程度のものは買って来たけど食べる?」


 机に伏せて反応のない葵月に、三輪と顔を見合わせる。「寝てる?」「寝てるね」と会話をした後に、コンビニで買って来た適当な惣菜を広げた。


「藝祭も卒制もあるのにこの時期の制作だと大変なんじゃない。これ今年だけのちょっと特別な展示らしくて、任意だって言ってたけど、それでも四年は半分くらい出してるって言ってたし」


「へえ。半分って結構いるね。すごい」


「油画は本当に絵に狂わされた奴らしかいないから、描きたいんだろうね。名前知ってもらう機会にもなるし」


「凄いな、確かに今までの軌跡を展示してるのも多かったね。名刺みたいな感じ?」


 かなり多くの枚数を飾っているものもあったな、と思う。今までの制作の中でテーマから外れていたものを集めて、寄り道と題していたり、連作のように同じ風景を何枚も描いていたり、様々だったな、と思う。


「そうそう。その割に、こいつはキャンバス一枚しか出さない強気すぎる事やってたけど」


 三輪がケラケラと笑って、机に伏せて動かない葵月を見た。壁ほどの大きなキャンバスに一枚、という展示はあったものの、確かにイーゼルに置けるサイズのものを一枚見せるだけのやり方は葵月だけだったな、と思う。

 

 一枚だけで良いと思ったのか、一枚しか描けなかったのか、どちらなのかはわからなかった。


 起きる気配のない葵月を横目に、三輪と雑談を開始する。美味しいご飯屋さんがあっただとか、三輪の彼女の機嫌が最近悪いだとか、制作で教授に酷評されただとか、大したことのない話だった。けれど、扉の向こうには知らない人たちが絵を見に来ていて、一枚壁を隔てたところで自分たちがなんでもない話をしているのは、どこか新鮮で、背徳感こそあれど少し楽しかった。


「三輪、見つかったら一蓮托生な」


「はは、勿論。最悪有栖川は病人役にでもなってよ。俺と朝日奈で介抱してた体でやり過ごすからさ」


「馬鹿言うなって。黙って怒られろ」


 冗談だよ、と肩をすくめて笑った三輪は、視線を移動させてから小さく呟いた。


「病人役あいつの方が適任かも」


 どう返答するべきか軽く迷って、曖昧に笑った。彼は葵月が何に迷っているのかを知らない。三輪は気にする様子もなくそのまま続ける。


「油画ってクライアントの要望に応えて終わりじゃないから大変そうだしな。いつの間にか消えてる奴とか多いし」


「へえ」


 何とも言えない気分になりながら相槌を打つと、横から声がした。


「……真琴? 三輪? なんでいるの?」


 話し声で起きたのか、前髪の隙間から瞳が覗いている。まだ眠そうにゆっくりと身体を起こした葵月がこちらを向いていた。


「なんでって言われても、雑談するため?」


 はい、とペットボトルを渡して、戸惑ったままの葵月に目をやる。彼はわかりやすい。特に、盗作でずっと精神を削られてきている今、視線の迷いが全てだった。何も訊かないでおくから、気が向いた時に話してくれたらいい、と思う。彼が自分にそうしたように。



「で、三輪。お前の彼女が何だって?」


「え? あ、そうそう。同棲したいって言われてて、まあそれは良いんだけど、その前に煙草辞めろって言われてて」


「なんだそれ、惚気かよ。なんで吸ってるわけ?」


「まあ、かっこいいかなって」


 あまりの理由の無さに笑った。しかしそれを包み隠さずに言えるのが三輪の良さでもある。大方、冗談交じりに煙草を辞めろと言われているのだろう。


 廊下の人の足音と話し声を聞きながら、くだらない話を続行する。目覚めてきたのか、たまに葵月が返答し、三輪がカラカラと笑う。自分にできる事はここまでだった。そして、それ以上の事を彼も求めない。


 小鳥遊葵月は正しさで生きている。正しさを盾に、彼に眠る弱さを隠して。その上で、盗作を告発しないという正しくない事と彼自身の弱さを天秤にかけて迷っている。



 自分が藝大に落ちた時、高校の友達という関係をこれからどうするのか、彼は自分に委ねた。進路を違えた時、自分が彼と距離を置きたいという意思表示をすれば、彼はあっさりと全てを引き払って、理工学部の有栖川真琴の前には現れなかっただろうと思う。

 天才だと言われ続けて、周りからの妬みと羨望を受け続けた彼のやり方がわからないほど、小鳥遊葵月を知らない訳では無かった。



 だからこそ、忘れないでいて欲しかった。

 自分は彼の全てを知っているわけではないが、彼が何を選んだとしても自分が友達を辞める事はない。それを互いにわかっているからこそ、朝日奈葵月として、盗作の答えに最後の一文を追加したのだろうと思う。

 だけれど、いつかそれさえも迷う時が来たら、その時に思い出して欲しかった。



「……おまえ、四季なんだよな、多分」



 独り言のように呟いたそれが、拾われることは無かった。「なんだって?」と三輪と葵月がこちらを向く。自分の口から出たとは思えない文学的な言葉に軽く笑って、目を伏せた。

 


「なんでもない、独り言」



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