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有閑魔王に温泉を。(7)


「え? やはりって、グレアスにいさんは、これが何か知ってるの?」


 正体不明のモノがあることを予めわかっていたかのような言葉を聞きとがめ、リオが尋ねてきた。


 グレアスは、黒褐色の塊の山へと歩み寄ると、そこから、ひょい、と、ひとつを持ち上げた。


「お前だって見たことがあるのではないか? これは、ストニアの実だ」


「え? ストニアって、あのストニア? 役立たずの木の?」


「ああ、そのストニアだ。正確には、その実の殻だな」


 ストニアの実は割ることが出来ないと思われていたため、真っ二つの状態など、リオは見たことがなかったのだろう。それで、すぐには、そうと気づけなかったのだ。


「ストニアの実の殻……」


 リオは呆然とつぶやいた。グレアスは、山と積まれたそれらを眺め渡す。


「どれもこれも、中味はすでに、きれいに食べられた後だ。これをここに捨てた者は、よほどストニアの実が好きなんだろうなあ」


 目を細めながら、のんびりとした口調で言う。


「ストニアの実……って、言われてみれば、たしかにこんなんだったかもだけど……え? でも、あれって食べられるの? 石みたいに硬くて、割るのも無理だって……でも、実際、これは割れてるし……」


 リオは混乱したように、目を白黒させていた。


「もちろん、殻は硬くとも、割れば中味は食えるぞ。うまいと聞く」


「そ、そうなの……? でも、どうやって割るっていうんだ、あんなもの……」


 まだ信じ難いという表情をする少年の目の前に、グレアスはいま我が手にあるストニアの実――正確には、その殻だけ――を差し出した。


「みていろ」


 短く言うと、てのひらに力を集中させる。


 すると、黒褐色だったストニアの殻が、昏いオレンジ色の光を点した。そして、ぱき、と、かそけき音を立てて、ふたつに割れる。


 リオが目をまるまると瞠(みは)った。


「うわっ……魔法?」


「まあ、似たようなものだ」


「グレアスにいさん、やっぱり実はすごい人?」


「はは。さて、な」


 グレアスは惚(とぼ)けるように言うと、ちらりと苦笑した。


「それで、結局……これってどういう仕組みなの?」


 リオが興味津々といった眸で、グレアスを見上げた。


「この実は、高温で熱することで殻が割れる。それこそ、人智を超えたような、相当な高温で、な」


「人智を超えた、相当な高温……」


 リオが、鸚鵡返しに、ぽつりと口にする。


「そうだ。――それこそ、冷たい地下水も、湯になるくらいの熱さで、な」


 グレアスが続けると、リオは絶句してグレアスをまじまじと見詰める。


「それって……」


「うむ。つまり、このストニアの実を食っていたやつこそ、スプリングスの温泉を沸かしていた、熱源と考えられるというわけだ」


 グレアスはゆったりと口にすると、ストニアの殻が転がる斜面を見渡した。


「……う、うそだ! そんな、魔物みたいな生き物が、この山にいたっての? 温泉が湧き出すようになってから、ずっと?」


「なにもおかしくはなかろう? そもそもストニアは、いまでは魔界と呼ばれる地域の奥、火山地帯に多く見られる木だ。魔界の火山由来の熱で実が割れて、種が落ち、芽吹く……そういう植物なのだからな」


「え? そ、そんなものが、どうしてスプリングスに……?」


「ここからは、単なる推測にすぎんが。おそらく、ストニアの実を食った魔界の生き物が、たまたまここらへ飛んできて、糞と共に種を落としたのではないかな。それがまた、偶然にもここの土壌が合っていたものだから、自生するようになったのだろう」


「そ、そんなこと……ある?」


「ないとはいえまい。事実、ストニアはこの地に生えていたのだろう?」


 グレアスが言うと、それはそうだけど、と、リオは口籠った。


「そしておそらく、ここにストニアを運んだ生き物も……そのまま、この山に居ついているぞ」


 そうでなければ温泉は湧かない、と、魔王グレアスは確信をもって口にした。


「そ、そんな……でも、そんなの聴いたこともないよ! そんな魔物みたいな生き物……」


「ほんとうにそうか? そうでもないと思うがな。あれはまぎれもなく魔鳥だが……お前たちの街では、なぜか、守り神として言い伝えられているではないか?」


「え?」


 リオが目を瞬いた。


「それって――……もしかして……あの、門の上の、カラスのこと……?」


「そうだ」


 グレアスは、に、と、笑った。


「灼熱の火を噴く魔鳥、フレアクロウ」


 グレアスの紅玉の眸が、すぅ、と、細められた。その口許には、どこか愉快そうな笑みが浮かんでいる。


「かつて魔界と人界とは、いまほどはっきりした境界がなかった……いま人界と呼ばれて魔が退いた場所にも、昔は普通に魔物も魔族もいた。そうした太古に、きっと、フレアクロウはこのあたりに飛来していたのだろう。――まさか魔と人とが、こんな形で共生している場所があろうとはな……実に、面白いではないか」


 グレアスがくつりと喉を鳴らした瞬間だった。


 ばさ、と、大きな羽音が響き、巨大な黒い影が頭上に差した。


 グレアスは上を見上げる。そ

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