耀う美しき奇跡の物語
表彰会を境にして、アナスタシアたちは曇った表情をすることがなくなった。
ベリンダは好きな化粧を心から楽しめるようになり、コニーは照石ランプの研究と開発に力を入れる日々を送っている。ディアドラはデリックの怒鳴り声に怯えなくて済むようになったお陰で背筋が伸び、笑顔も増えた。しかもどうやらディアドラにはデリックが無理矢理婚約を捻じ込んでくる前から親交があった幼馴染がいるようで、最近はその幼馴染であるダリルと仲を深めているようだ。
アナスタシアはアンブローズの弟であるエリオット王子と改めて婚約を結び、陰で王妃教育を受ける傍ら、友人となったベリンダたちと学業に励んでいる。
「フィオナさんのお陰で、万事丸く収まりました。改めてありがとうございます」
アナスタシアが、晴れ空の下で美しく微笑む。
アンブローズに不当な扱いを受けていたときにはほんの一瞬でさえ見せなかった、心からの笑みだ。
「わたしは役目を全うしただけです」
謙遜のつもりはなく本心から答えたフィオナに、コニーが「それでも」と手を取り真っ直ぐに見つめる。
「私たちはフィオナに救われたの。お礼だけでも受け取って頂戴」
「コニーがそういうなら……」
照れながらも皆からの謝辞を受け取ったフィオナを、アナスタシアは微笑ましげな顔で見ていて。それに気付いたフィオナが淡く染まっていた頬を更に赤くした。
「フィオナさんとコニーさんはとても仲がよろしいのね」
「へぁっ……!」
「はいっ」
裏返った声を漏らすフィオナと、うれしそうに頷くコニーのそれぞれらしい反応が重なる。二人の手は、テーブルの上で重なったままだ。
「コニーは卒業後、魔石研究所に勤める予定なのよね?」
「はい、そのつもりです」
ベリンダの言葉に、コニーは迷わず答えた。
家の跡継ぎに関しては兄が請け負ってくれ、父が貴族の横の繋がりは気にしなくていいとまで言ってくれた。母はあなたが生きたいように生きてほしいと背中を押してくれていて、妹は「お姉さまが最悪のババを見せてくれたから、私は顔がいいだけのクズ男には騙されないわ。だから安心して好きなことをして頂戴」と、冗談交じりに激励してくれた。
「私は庶民から貴族になったので、どちらの立場もそれなりに理解しているつもりでいます。庶民の生活に不足しているもの、貴族の生活を豊かにするもの、片方を優先するのではなく、双方の役に立つものを開発したいんです」
「そうね。貴族が高水準の生活を維持して外交や内政を滞りなく行うためには、まず庶民の生活が潤っていなければならないわ。疫病と飢餓が蔓延した土地に建つ絢爛な王城なんて、目も当てられないもの」
嘗て異国で発生した暗君による圧政を思い、アナスタシアが呟く。
人は歴史から学び、未来を選び取らなければならない。民を導く立場にある王族や貴族は尚更である。
そう言えば、とディアドラがクッキーを手に切り出した。
「昨年の表彰者であるジェラルド様のときも、婚約者の方が金属アレルギーでお困りだったのを解決するために行った発明が、庶民にも広まったのでしたわね」
「ええ、覚えていますわ。アクセサリーを特殊な樹脂で覆って、金属かぶれを起こす人にも使えるようにして、その後の開発で樹脂単体でもアクセサリーが作れるようになったお陰で、高価な貴金属や宝石を使わないアクセサリーが街の市場に並ぶようになったのでしたわ」
「私も買ったことがあります。本物の宝石には叶わないけれど、庶民が街でオシャレする分には十分すぎるくらい可愛い作りでした」
「わたしも持ってます。日に当てると意外とキラキラするんですよね、あれ」
当然ながらパーティドレスに合わせると見劣りしてしまうが、庶民の外出着程度の衣装なら十二分に引き立てられる作りをしている。樹脂アクセサリーはいまや庶民の娘なら誰でも一つは持っているとさえ言われる流行品だ。
そしてコニーがクズ石を加工して開発したランプも、きっと同じように。
「そうだわ。ねえコニー、あのランプを広く普及させるために、名前をつけたいって言ってたわよね」
「え、ええ。クズ石ランプなんて名前じゃあ、さすがに庶民向けの商品とはいってもあんまりだと思って……でも私にはいい案が浮かばなくて」
「わたし考えたんだけど、輝石ランプっていうのはどうかな?」
コニーの目が丸く見開かれる。
晴れ空の光を受けて、シャンデリアのように明るく瞬く。
「輝く石って書くの。それと奇跡の意味もあるわ。ずっと廃棄されてきたクズ石が、キラキラ輝いてわたしたちの生活を照らしてくれる奇跡のランプ。どう?」
じわじわと、言葉の意味がコニーの中に染み込んでいく。
フィオナが考えてくれた名前はあまりに眩しくて、コニーは目を細めて目尻に涙を滲ませ、紅潮させた頬を微笑みの形に緩め、そして、お茶会の席であることも忘れてフィオナに抱きついた。
「素敵……! この上ない素敵な名前だわ……ほんとうにいいの……?」
「勿論よ。使ってもらえたらうれしいわ」
アナスタシアとベリンダとディアドラが、まるで二人の姉のような目でほのぼのと眺めている。マナーがどうだとか庶民がなんだとか、そんな場違いな小言を言う人はこの場に一人もいない。
「わたし、もう慈悲の刃としては殆ど動けないから、卒業したらコニーのお手伝いをしたいと思うの。好きなことをして輝いているあなたの隣で生きていけたらどんなに素敵だろうって」
「フィオナ……本当なら私からお願いするべきことだわ。どんな苦難の道もあなたと一緒ならきっと乗り越えていけるって信じられるの」
「ありがとう、コニー」
いつかそう遠くない未来に、市井の店に安価で安全なランプが並ぶことだろう。
クズ石と呼ばれた廃棄品が、庶民と貴族の日常を照らす輝ける石となった、奇跡の物語と共に。




