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たった一ヶ月で逆ハーを築いた聖女は、実は※※のスパイでした!  作者: 宵宮祀花


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3/9

黄金の価値を知る少女

 本校舎正面玄関から外に出ると、フィオナに気付いたコニーがパッと笑顔になって近寄ってきた。


「フィオナ、どうしたの? 肩に葉っぱがついているわ」

「やだ、ほんと? 払ったと思ったのに……」


 コニーの小さな手が、フィオナの肩を軽く払う。ひらりと落ちた葉は、先程登った木のものだ。


「そうだわ。フィオナ、今度の表彰会で着るドレスは決まっているの?」


 並び立って歩きながら、コニーがフィオナの手を取った。当たり前に手を繋いで、身分差のない友人のように接するコニーに、フィオナも真っ直ぐ応える。


「ううん。制服でも出られるって聞いたから、そうするつもり。ドレスなんて高価なもの、わたしには買えないもの」

「あら? でも、聖女には学園からの支援金が出るはずよ。学園では社交パーティも実習の一環だから、ドレスも教科書と同じように学術品の一つとして認められているはずだけれど」

「えっ、そうなの? 教科書や制服の支援金は知ってたけど、ドレスもだったなんて思わなかったわ」


 コニーがこくりと頷く。


「良かったらうちが懇意にしている職人を紹介しましょうか? わたしの家が何度かお世話になっているくらいだから、目が眩むような高級品ではないわよ」

「いいの? 良い職人さんの情報も、貴族にとって重要な財産なんじゃなかった?」

「そうよ。だからあなたに紹介するの」


 一切の迷いなく真っ直ぐそう言われ、フィオナは目を瞬かせた。

 コニーの実家である男爵家は、新興の貴族で地位が低い。社交界でも肩身が狭く、まともな会話も出来ないまま嘲笑だけを浴びて帰ることもある。だが庶民から男爵の位を得るだけあって商業の才と根性が素晴らしく、決して心が折れることはない。

 コニーも男爵の血を引いているだけあって、素朴な見た目に反して芯が強い。その強さを常からひけらかしたりしないだけで、人と機を見る力はある一族だ。

 そんなコニーに「だから」だと言われることが、どれほどの誉れであるか。


「じゃ、じゃあ……お願いしようかな。コニーのドレス、可愛くていいなってずっと思ってたんだよね」

「ほんと? うれしい!」


 頬を淡紅に染めて、コニーが笑顔を浮かべる。

 間もなく正門に着こうかというところで、前方に立ち塞がるようにして居並ぶ人の姿を認め、フィオナは足を止めた。遅れてコニーも、その人物に気付いて表情を固く強ばらせる。


「やあ、フィオナ。随分と楽しそうだけれど、いったい何の話をしていたのかな?」


 話しかけてきたその人物は、コニーの婚約者、キャメロンだ。彼の左右と背後には見目麗しい令嬢が侍っており、彼女たちは一様にコニーを嘲りの目で見下している。


「今度の表彰会のドレスのことを……」

「ああ、なるほどね。この学園で最も質素で見栄えのしないコニーが、唯一見下せる相手が庶民であるフィオナというわけだ。全く嘆かわしいよ。見た目も冴えなければ中身も凡人以下。俺に相応しいのは彼女たちのような美しい宝石であって君みたいな石ころではないんだよ。わかるだろう?」

「嫌ですわ、キャメロン様。あまり本当のことばかり仰っては可哀想でしてよ」


 キャメロンの左腕にしなだれかかっている令嬢が、クスクスと笑う。

 先程まで喜色に染まっていたコニーの頬はすっかり白くなっていて、眉も下がり、キャメロンたちから目を逸らして俯いている。


「ドレスなら俺がフィオナに贈ってあげてもいいんだけどね、王子が用意するだとか言っていた気がするから、今回は遠慮しておくよ。その代わり、以前君に合いそうなネックレスを見かけたからそれを今度贈らせてもらおうかな」

「まあ、キャメロン様。聖女様は神に仕えるお方、あまり着飾っては修道院の教えに反するのではないかしら」

「そうですわ。せっかくのお心遣いで聖女様が叱られることになってはお可哀想よ」


 取り巻きの令嬢たちが、口々にフィオナを案ずる言葉をかける。しかしその本心が別にあることは、彼女たちの表情を見れば一目瞭然だ。彼女たちは一様に、平民の女などに贈るくらいなら私にプレゼントしてと言っているに過ぎない。

 キャメロンもそれをわかって試しただけなので、満足そうに口元を歪めて笑う。


「それもそうだね。修道女相当の聖女が宝石を身につけるわけにもいかないか。君も一応社交界に身を置いているとは言っても、将来のための一時的な所属なわけだし。済まなかったね、気がつかなくて」

「いえ……お心遣い、痛み入ります」


 それじゃあ、と言って令嬢たちを引き連れ、キャメロンが去って行く。

 華美がましい後ろ姿が見えなくなると、コニーは足元に涙の雫を落とした。貴族の矜持で彼らの前では決して涙を見せることはしなかったが、嵐が去って耐えきれなくなったのだ。


「コニー、これ使って」


 やわらかなコットンのハンカチを差し出すと、コニーは涙声でお礼を言って目元をおさえた。


「まだまだ全然だめね、私。あれくらいあしらえるようにならないといけないのに、なにも言えなかったわ」

「いいのよ、あんなの。相手にする価値もないわ。腕のいい商人は腐った果実をよく見極めるものだわ。……そうでしょ?」


 フィオナがバッサリ言い切ると、コニーは目を丸くしてフィオナを見つめ返した。そして、ふっと笑うと「それもそうね」と明るく言った。

 涙の痕が残る目元が、ふわりと細められる。

 確かにコニーはキャメロンやその取り巻きたちのような華やかさはないが、素朴な愛らしさがある。過去には無理に釣り合おうと濃い色のメイク道具に挑戦したこともあったが、結果は悲惨なものだった。迷走するコニーを救ったのはベリンダで、顔に合わない華やかな艶色のメイクパレットとコニーに合うものとを交換してくれたのも彼女である。


「ドレス、楽しみにしてるね」

「ええ。今度紹介状を書くわ。フィオナのお陰で、パーティが怖くなくなったのよ。表彰会も楽しみに迎えることが出来そう」

「ふふ、良かった。コニーは笑ってるほうがずっと可愛いもの。それじゃ、またね」

「ええ、ご機嫌よう」


 手を振ってコニーと別れ、フィオナは学園を出て女子寮を目指した。


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