九 喫茶店にて
「お待たせしました」と言いながら店員がパフェを井福の前に置いた。
色とりどりの霞がきれいに積み重なった断面の上にさらにトッピングされる霞の数々を見て「美味しそう」と歓声を上げる。匙を手に取りえいとばかりに差し入れて掬うと霞を頬張った。
「美味しい」飲み込むとまた歓声を上げる。
「あんたも好きね、ここに来ると毎回じゃない?」目の前の席に座っている山富はそういうと、コーヒーを一口飲んだ。
「私は霞があればそれでいいの」と言うと少し表情を曇らせた。いつもの弾ける笑顔と違うことに山富はおやっと思い「どうした、何かあった?」と尋ねる。
「ううん…… なんでもない」と答えるとパフェに視線を戻す。少し逡巡して山富を見て話を続ける。
「そういえば代わってもらったボランティア、こないだだったよね? 行った?」
「うん、行ったよ、なんで?」山富が質問を返す。
「最初の受付とか大丈夫だったかなって思って…… 参加登録のやり直しとかやらされた?」
「ううん、大丈夫だった、代わりに来ましたって言ったら、私の名前で名札も用意されててすぐテーブルに案内されたよ」
「そっか、良かった、代わるって言ったのがちゃんと反映されたか心配だったから」そういうとパフェを一口頬張る。
「そうだったんだ、ありがとう、ちゃんと反映されてた。その時の転生者を明後日また近所のボランティアで集まっていろいろ案内する予定」
「どの辺に行くの?」と井福が聞く。
「どうなんだろう、繁華街の方かな、たぶん」
「良いな、楽しそう」と井福は少し拗ねた様に言う。
「あれ? まさこはこないだのボランティアでそういうのやってないの?」
「うん、座ったテーブルが全然遠い場所の集まりだったから、誘われたけど行くのも大変で断った」匙を置いて紅茶を一口飲んで続ける。
「なんか変な感じでさ、結構早めに着いたんだけど、最初に案内されたテーブルに座ってたら、なんだか慌てた感じで職員が来て、テーブルを移動させられたの。でもよく考えてみると元々さくらが座る予定の席なら、さくらのご近所さんが集まってたはずだよね?」
「確かにそんな気がするね」
「そう考えると、そのまま元のテーブルだったら隣街の集まりになるでしょ?」と井福が畳み掛ける。
「確かに、まあどの地区の人が集まってたかは今となっては分からないけどね」と笑いながら答える。
不意に井福が上の空になり、また顔が曇ったのを見て「どうした? 今日なんか変だよ」と言った。
「うん……」と口ごもる。山富は心配そうに井福の顔を覗き込む。
「あのね、移動する前のテーブルに座った、たぶん転生してきた人だと思うんだけど、その顔を見た瞬間にこう…… 雷に打たれたっていうのかな、すごい衝撃が走って目を離すことができなくなったの。鼓動もどんどん早くなっていくし、自分の体が自分の体じゃないみたいだった」
「なあに、それ、惚気話し?」と山富が悪戯っぽく聞く。
「どうなんだろう、入り口からテーブルまで歩いて行くのを遠目に見ただけだから、そんなにしっかり見たわけではないんだけど……」困った感じで答える。
「なんだろうね、あんまりこっちで恋愛話しって聞かないし…… そのあと街で見かけたりはしてないの?」
「うん、その時だけ」井福は答えると「ただ…… 和紙って言うの、それがこう手すりみたいなところに結び付けられている映像が時々頭に浮かぶようになった」と続けた。
「和紙? 結ぶ? なんだか引いた後のお神籤みたいだね」
「ああ、確かにそんな感じ、神様でも見えてたのかな?」と言うと井福は紅茶を飲み干した。ふっと一息ついて「そう言えば来月誕生日だね、どうしようか?」と言った。
山富は少し考えると「お花見でも行ってみない? 川沿いの桜並木が綺麗みたいだよ」と返す。
「うん、いいね、また近くなったら連絡するね」と二つ返事で答えた。




