作戦
荒んだ廃ビルに到着すると、烙はゆったりとしたズボンのポケットからスマホを取り出す。
シンに連絡をするためだ。
ここが、烙とシン達が使っている場所だった。
昔はオフィスビルだったらしい。
目的地に着いたことを報告すると、すぐに既読がついた。
それを確認すると烙は扉をノックした。
コン‥‥コン‥‥コン、コン。
2人の間で決まっている叩き方だ。
すると、ドアが軋んだ音を立てて開いた。
中からシンが顔を出す。
今日は髪の毛をハーフアップにしていた。
「よう、烙。まあ入れよ。」
彼を手招きしながら言った。
「助かるよ、シン。随分早く手に入ったんだね。彼女の情報。」
烙は室内の真ん中に設置されている黒革のソファに座りながら言う。
ところどころ革が剥げて白い部分が見えている。
このソファもそろそろ買い替えないとな。と思った。
「それでだな。結城 白百合とその屋敷の人間についてなんだが‥‥」
そこまで言うと、シンは一旦言葉を切った。
そして缶コーヒーを2本持ってくると、烙の向いに腰掛けながらそれを自分と彼の前に置いた。
「それで?」
烙は続きを促す。
「結城 白百合はお前も知ってる通りの超能力者だ。
『一攫千金』とか呼ばれてるやつだな。その内容については知ってるよな?」
烙は頷く。
それに関しては何度も聞いたことがある上、この間白百合本人から直接教えてもらった。
「じゃ、それはいいとして。」
シンはそう言うと缶コーヒーのプルタブに手をかけ、それをごくりと一口飲んだ。
そしてテーブルの上に置くと、また話し始める。
「彼女は5歳のときに両親を殺されている。姉がいたとかどうとか言う話だが、まあそれはよく分かってない。ただ、どちらにしろこの世にはいない。」
そこまで言うと、またコーヒー缶に口を付けた。
「両親が居なくなってからは、彼からが持っていた別邸に住み始めたらしい。今お前も住んでるところだな。」
烙は静かに頷く。
「そっからは、専属の護衛たちが結城邸に住み込みながら彼女を育てているらしい。基本的にそいつらは皆、政府直属で諜報員やら戦闘員やらをやってた奴ばっかりだとさ。」
それを聞き、烙は寺島実言や鷹野トオルの声を思い出す。
白百合が言っていた。
彼等は元・エリートの戦闘員と諜報員だと。
そしてこの家の人間はそういう奴しかいないとも。
あれはもしかしたら彼に対する脅しだったのかもしれない。
烙はそう思いながら、シンの話に耳を傾ける。
「彼女について分かってるのはそれくらいだな。あと護衛の中には彼女と同世代の男もいるとか。まあそいつも優秀な奴らしいがな。」
そこまで言うと、シンは缶コーヒーを飲み切った。
烙の方はまだ開けてすらいない。
「あとは護衛たちについてだな。こっちは凪も協力してくれたよ。」
佐倉 凪。
烙やシン達と同じ裏社会の人間。
そして日本屈指の有能なハッカー。
彼はLynx 専属のサイバー工作員だった。
しかもたった18歳。
烙たちにとっては、幼い頃から可愛がってきた弟のような存在だ。
おそらく今回もシンに頼まれて色々情報を仕入れてくれたのだろう。
「そっか。凪も協力してくれたんだ。あとで礼をしなきゃだね。」
優しく微笑みながら烙は言った。
それを見たシンも顔を綻ばせながら続けた。
「で、続きなんだが。おそらくあの家で結城白百合が最も信頼しているのは寺島 実言という女性だ。凪によると、彼女は結城白百合が引き取られた時から今まで結城邸に仕えている。おそらく彼女の両親とも面識があったはずだ。」
やはりそうか。
「その寺島実言は、元国家機関の特別戦闘員だ。仕事を辞めたあとは護衛としてあちこちを転々としていたらしいが、結城白百合が天涯孤独になるとそれからは彼女を育ててきた、と。」
烙はとうとうコーヒー缶に手を伸ばした。
そろそろ喉が渇いてきたのだ。
そんな彼をチラリと見ながらシンは続けた。
「あとは、鷹野トオルという男だな。こいつも彼女が引き取られてきてからずっとそばに仕えている。彼に関しては特殊機関の諜報員だったらしいが組織に入った後の経緯はよく分からなかった。そこから紆余曲折あって結城家に仕えることになったんだろう。」
そこまで一息に言って、彼は深く息を吐いた。
流石に話し疲れたらしい。
それにしても‥‥思ったより優秀な人間がたくさんいるらしい。
まあ普段の所作や雰囲気で何となくは分かっていたが、これほどまでとは。
なかなか一筋縄じゃいかないな、と思う。
すると、今度は真剣な顔をしたシンがまっすぐに顔を見つめてきた。
「それともうひとつ良い情報が手に入った。」
そう言うとニヤリと笑う。
「結城白百合が招待されている次の政治資金パーティ。そこで彼女を攫う計画を立てている組織がいるらしい。お前も同行するんだろう?」
それに対して答える。
「彼女の護衛と婚約者のフリをしろってさ。」
「烙、これはチャンスだ。ここでボディガードとして役立つことを証明するんだ。そうすればきっと‥‥」
そこまで言ってシンは不敵に笑う。
次の任務で彼女の懐に入り込む。
そして‥‥
その先を考え、烙はシンに同じ笑みを返した。




