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白百合の烙印  作者: 吹雪やよい
飛蛾赴火篇

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10/14

ありがとう


シンとの情報交換が終わると、烙はビルを後にした。


外は日が沈み始めているがまだ明るい。


これなら今日の夕食に遅れることもないだろう。


そう思いながら真紅の愛車に向かって歩き出す。


そしてふと、頭にある考えが浮かんだ。


白百合は甘いものが好きだと言っていた。


それは烙も同じだった。


2人して甘党なのだ。


ケーキでも買って帰るか、と心の中で呟くと1人でふふっと微笑んだ。




白百合が部屋で数学をやっていると、コン、コンとドアをノックする音が聞こえた。


おそらく怜王や実言ではない。


となればあの人か。


「入って。」


そう声をかけると木製の白いドアが開いた。


そこに立っていたのは、やはり烙だった。


「おかえり、この間より早いね。」


少し揶揄ってみる。


「そうだよー。また寺島さんに叱られちゃうからね。それに君を待たせる訳にはいかないでしょ?」


彼はウィンクすると、茶目っ気たっぷりに笑った。


容姿端麗だからか、こういう仕草もいちいち様になる。


何だか悔しい気持ちがしたが切り替える。


「何か用?夕食ならまだだと思うけど。」


すると彼は相好を崩した。


「白百合とおしゃべりしたくて来たんだよ。もしかしてお勉強してたの?」


部屋の椅子に座りながらそういう。


「うん。学校に行けないから。代わりに家庭教師たちに勉強を教えてもらってるの。今やってたのはその宿題。」


それを聞くと、彼は白百合が座っている椅子に近づき机の上を覗き込んだ。


近い。


白百合は色んな意味で鼓動が速まるのを感じた。


まつ毛、長くて綺麗だな。


そんなことを考えていると、視線に気が付いたのか彼が白百合の方を向いた。


「なぁに?僕のことそんなに見て。」


そう言ってじっと見つめ返してくる。


その美しい瞳に射抜かれると、動けなくなってしまう。


白百合が固まっていると、烙は悪戯っぽく微笑む。


「キスでもしようか?」


その言葉を聞き、はっと我に帰る。


「はぁ!?そんな訳ないでしょ!何言ってんのよ馬鹿!」


ついムキになって彼を突き放す。


すると烙はぷっと吹き出すと、耐えきれなくなったように声を上げて笑い始めた。


「ごめんごめん!白百合の反応が可愛くて。」


まだ肩を震わせている。


調子が狂う。


だが、なぜだか楽しかった。


この男のペースに乗せられて、白百合も思わず笑ってしまった。


それを見た彼は目を丸くする。


「白百合、そうやって素で笑ったの、僕の前じゃ初めてでしょ。これから沢山、その顔を見せてね。」


そう言うと穏やかに微笑んだ。


何だか居心地が悪くなってしまった白百合はそっぽを向く。


その反応を面白がった烙がまた茶化す。


「もうもう白百合ちゃんったら。ツンデレなんだからー。」


ニヤニヤと笑いながら彼女の顔を覗き込む。


「もう!いい加減にしてよ!」


そう突っぱねながらも白百合の顔はどこか楽しそうだった。





烙が白百合の部屋に入ったのを確認すると、怜王ドアに顔をくっつけて聞き耳を立てる。


暫くすると、あの男の笑い声が聞こえてきた。


続けて怒っているような白百合の声も。


だがすぐに、彼女の笑い声がした。


彼女がこんなに楽しそうに笑うのを耳にするのは、本当に久しぶりだった。


怜王はそっとドアから離れると、ギリっと奥歯を噛み締めた。




夕食を終えると烙が何やら立ち上がり、冷蔵庫からミント色の箱を取り出してきた。


相変わらずディナーは2人きりだった。


初めの頃は、緊張で料理をうまく味わえないこともあったがそれも殆どなくなった。


あの日から1ヶ月ほど経っていた。


彼はウキウキとした様子で、テーブルの上に例のものを置く。


そして白百合の目をじっと見つめて言った。


「白百合、この箱開けてみて!」


戸惑いながらも、言われた通り箱を開ける。


すると中には、艶々にコーティングされた苺やマスカットがふんだんに飾られたタルトが輝きを放っていた。


それを見た白百合は目をきらりと光らせる。


甘いものが好きだと言ったのを覚えていてくれたのか。


そう思い、胸がほんのり暖かくなる。


そんな彼女の反応を見ると、彼は満足げに唇の端を吊り上げた。


「今日の帰りにね、買ってきたんだ。僕たちも出会ってから1ヶ月くらい経つでしょ?その記念にね。それに白百合が甘いもの大好きって言ってたから。」


素直に嬉しかった。


買ってきてくれたこともそうだが、そうやって自分が言ったことを覚えてくれていたことが特に。


それに少し意外だった。


いつも人の話など真面目に聞いていなさそうなのに。


やはり底知れない奴だ。


そう思いながら彼女はフォークを2人分取り出すと、彼と一緒にケーキを頂いた。




烙はシャワーを浴び終えると自分の部屋に戻った。


隣の部屋の音を聞くと、とても静かだった。


おそらく読書でもしているのだろう。


そう考え、ふと今日のことを思い出す。


揶揄った時の顔。


あれは面白かった。


また今度やってみるか。


そして素直にプレゼントを喜んでいた顔。


とても可愛らしかった。


普段のクールな雰囲気が一気に和らいで、年相応の表情をしていた。


だが他にやらなければならないことがあるのも事実だ。


そう自分に言い聞かせてベッドに寝転んだその時。


誰かが部屋をノックした。


白百合ではないな、と思った。


それに実言でも鷹野でもないだろう。


彼は「どうぞ。」と声をかけるとベッドから起き上がった。


初めは誰が部屋に入ってきたのか分からなかった。


「九曜さん、話があるんですけど。」


その声を頼りに、目の前の人物を懸命に思い出す。


そして、パッと頭の中に名前が閃いた。


「藤井さん?どうかしたんですか?」


と烙が質問すると、藤井 怜王は答えた。


「あなたには、この屋敷から出ていってもらいたい。」


目の前の青年はそう言った。











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