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白百合の烙印  作者: 吹雪やよい
飛蛾赴火篇

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4/14

対話

白百合は、実言から彼を正式にボディガードにする許可をもらった。

そして、実言が部屋を出ていくと、彼の待つ離れへ向かうため支度を始めた。

ネグリジェを脱ぎ、すみれ色の、レースがあしらわれたワンピースに着替える。

すると、部屋のドアをコンコンと叩く音がした。

「どうぞ。入って大丈夫よ。」

そう扉の向こう側へ声をかけると、長身で細身の、若い少年が部屋に入ってきた。

その姿を見た瞬間、白百合は思わず笑みを溢した。

「怜王、おはよう。」

「ゆりさん、おはようございます。それより、体調は大丈夫なんですか?」

少年は、ポーカーフェイスのまま聞いてくる。

だが、白百合には彼がとても心配してくれていることが分かっていた。

藤井 怜王。

白百合が屋敷に来た時から共に育った、いわば家族のような存在だ。

そして、この家の中で特段優秀な護衛でもある。

年が近いこともあってか、彼とはずっと仲が良く、お互いのことが手に取るように分かる。

「大丈夫よ。傷ひとつすらないから。昨日は迷惑をかけてごめんなさい。」

そう彼へ謝った。

きっと昨夜は、怜王にもたくさん迷惑をかけたに違いない。

しかし、彼は首を横に振った。

「とんでもありません。無事で良かったです。それに元気そうですし。」

彼はそう言った。

そして、その澄んだ紅茶色の美しい瞳を、彼女へ向けた。

何か言いたげだった。

おそらく九曜 烙のことだろう。

彼女は、怜王には自分の口から伝えたかった。

だから、彼へ話すことにした。

「昨日の夜、助けてもらったの。元・殺し屋の男に。」

だが、彼はそれを聞いても眉ひとつ動かさなかった。

「知っていますよ。僕もあの工場に駆けつけましたから。それにあの男が言っていました。ゆりさんを助けたのは自分だと。」

そこまで知っていたのか、と白百合は少し驚いた。

ならば、彼が知りたいのはおそらく、ボディガードの件についてだろう。

「そう。実はその彼にプロポーズをされたの。ボディガードにしてくれとも言われた。だから彼を側に置いておくことにしたの。」

すると先程は、ぴくりとも動かなかった彼の表情が、一気に曇った。

どうやら気に食わないらしい。

そう顔に書いてある。

昔から彼は分かりやすい。

「どういうことですか?ゆりさんは、そのプロポーズを許可したってことですか?」

動揺しているのが声で分かった。

そんな彼を安心させるため、彼女は言い切った。

「いや、プロポーズははぐらかしたから。ボディガードにしただけ。流石に結婚なんてしないから。」

それを知ると、彼は安堵したようだった。

家族同然の彼に誤解されるなど、たまったものじゃない。

自分の口から伝えられたことにホッと胸を撫で下ろすと、彼女は怜王に告げた。

「じゃあ、今から彼と話をしてくるから。もし気になることがあったらまた後で教えて。ちゃんと応えるからね。」

すると怜王が言う。

「俺も一緒に行きます。ゆりさん1人じゃ心配ですよ。」

だが、彼女はそれを断ると、部屋を出て行った。

その姿を見送ると、彼は首筋に手を当てた。

悩んでいる時の、彼の癖だ。

白百合は婚約はしていないと言っていた。

それならきっと大丈夫だろう。

でもーー。

あの人を守るのは自分の役目だったはずなのに。

幼い頃からずっと、彼女を想ってきたのに。

1番近くにいるのは、自分だけだったのに。

そう、彼は心の中で呟いた。



白百合は、広い玄関ホールの扉を開けると外に出る。

まだ少し寒さが残っている空気を吸う。

冷たい空気に混じって、沈丁花の爽やかな香りが鼻腔を満たした。

頭が冷えていくのを感じ、心地が良くなる。

辺りには、梅の花弁が散っていた。

もう、この華の季節も終わるのか。

そう思った。

すると、離れまでの小径にある四阿に、烙が座っているのが見えた。

とても静かで穏やかに。

どうやら、読書をしているらしかった。

話しかけてもいいものかと決めあぐねていると、彼は白百合の視線に気がついたらしい。

口元に笑みを浮かべると、手招きをしてきた。

彼女はそれに従い、ベンチに腰掛けている彼の元に行った。

今日は昨日と違い、白シャツに真っ黒のワイドパンツというラフな出立ちだ。

「おはよう。白百合。何か話でもあるのかな?」

彼は声を弾ませながら言った。

とりあえず、彼の正面へ腰を落とした。

そして彼の切れ長の目を見つめると言った。

「あなたを正式にボディガードにすることが決まりました。今日からあなたも屋敷の一員です。」

それを聞くと、彼は美しい瞳をキラリと輝かせた。

「本当に?良かった!寺島さんは特に納得してくれなさそうだったからねー。まあ一安心だよ。」

そう言うと今度は、彼女の目線を捉えた。

「それを報告しに来てくれたの?」

白百合は答える。

「まあ、それもあるけど…。あなたと少し話がしたくて。まだお互いのことを何も知らないでしょう?」

すると、烙は意外そうな顔をした。

「確かにそうだね。でもびっくりだな。白百合の方からそんなことを言うなんて。だけど嬉しいよ。僕に興味をもってくれたってことだよね?」

どうやら、この男はかなりのポジティブシンキングの持ち主らしい。

まあ、いいか。と思い、彼女は尋ねた。

「あなたはどうして、昨日あの場所にいたの?」

「結構直球に聞くね。昨日、僕はあの組織に少し用があったんだよ。そこに君が攫われてきた。そういう感じかな。」

白百合は釈然としない気持ちが残りつつも、これ以上聞くのもどうかと思ったので、一旦納得することにした。

そして質問を変えた。

「烙は今幾つなの?私とそこまで変わらないように見えるけど。」

彼は答える。

「今、21だよ。早生まれで誕生日は2月。だからこのあいだ歳を取ったばっかり。白百合とは5歳差だね。」

21歳。

いや、成人しているのか。

私、未成年なんだけど…と思いつつも、そこは黙っておくことにした。

それにしても、16歳の彼女と5つしか変わらないなんて。

いつから殺し屋をやっていたのだろう。

気になったので、聞いてみる。

「殺し屋っていつからやってたの?まだそんなに若いのに…。」

その質問に、彼は淡々と応えた。

「確か10歳のときかな。でも、親がいなくなってそういう世界の人に育ててもらったから。それより前から訓練は受けてたよ。ずっと。」

10歳。

ということは白百合が5歳の時だ。

5歳。それは両親が殺され、この屋敷に引き取られた時だ。

もしかしたら…そう思い、自分の鼓動が速くなっているのを感じた。

だが同時に、彼女は胸が少し痛むのを自覚した。

そんなに幼い頃から…。

彼に、少なからず同情している部分があった。

「じゃあ、学校も行ったことがない?」

「そうだね。小学校は少しだけ通ってたけど。すぐに辞めちゃった。辞めさせられた、の方が正しいのかな。」

彼は無機質な声でそう答えた。

「そうなの。私も、学校行ったことないの。」

白百合がそう言うと、彼は何故か寂しそうに笑った。






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