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白百合の烙印  作者: 吹雪やよい
飛蛾赴火篇

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12/14

素直


扉をノックする音が聞こえ、白百合はハッと目を覚ました。


壁に掛かっている年代物の時計を確認すると、長針は6と7の間を指していた。


昨日はあまり眠れなかった。


勿論原因は昨夜のことだ。


彼女は重い体を起こすとベッドから這い出て、自らドアを開けた。


そこには、いつも通りニコニコしている烙が立っていた。


「おはよう。昨日の事、話したいんだけど今いいかな?」


白百合は眠たい目を擦りながら小さく頷いた。


烙は朝が早い。


彼は部屋の中央に置いてあるソファに座り込んだ。


そして白百合の方を向き、座るように促した。


烙は白百合を真剣な目で見つめると、まずは謝った。


「昨日はごめん。今から藤井さんのところにも行くから。それと昨夜話してたことだけど、彼は僕が他の女性と会ってるんじゃないかって疑ってたみたい。」


それを聞いた白百合は目を見開く。


「それって烙がよく1人で外出してるから?」


「うん。でも白百合に説明した通り、友達に会いに行ってるだけだから。それは嘘じゃない。」


実際そうだ。


まあ殆ど情報共有しているだけだが。


その言葉を聞いて、白百合は溜息を吐いた。


「それは分かってる。もし嘘だとしても正直私は別に大丈夫だし。


「白百合は僕が他の子と遊んで平気なの?プロポーズしたの忘れてないよね?」


「忘れてないしそれに関しては返事してないから。」


顰めっ面で答えてやる。


途端に彼はしょぼんとなった。


「僕だけが好きって、それ片思いだよね。白百合は僕のことどうでもいいの?」


無駄に潤んだ瞳でこっちを見てくる。


「もう、その話はいいから。私もついカッとなって酷いこと言ってごめん。烙が悪いなんて決めつけてごめん。」


それを聞くと彼は柔らかく微笑んだ。


「うん、大丈夫。白百合が藤井さんのことを大切に思ってるのも、2人が特別仲が良いのも分かってるから。」


そう言ってから、白百合にグッと顔を近づけてくる。


「でもね、僕だって白百合のこと大好きだから。それはちゃんと頭においてね。」


そして彼女の頭を撫でると悪戯っぽく笑い、手をひらひらと振りながら部屋を出ていった。


あまりのことに思考が追いつかなかった。


またあの男は…


そう思いながら、自分の頬が薄っすらピンク色になっていることに気が付いた。


何乗せられてるんだよ。


心の中でそう呟き頬を両手でパシッと叩くと、彼女は服を着替え始めた。





白百合の部屋を出た烙は安堵していた。


なんとか危機を回避できた。


これからは藤井怜王にもっと警戒しなければ。


彼は食堂に向かいながら大きなあくびをした。




政治資金パーティーが1週間後に迫った日、烙はまたシン達との隠れ家に来ていた。


彼女を狙っている組織の計画をシンに聞くためだ。


どうやら今回の組織はそこそこ大きめの所らしい。


まあ巨大なだけで大した組織でないなら元・伝説の殺し屋にとってはそこまで脅威ではない。


だが、今回はどうやら結構な人数で仕掛けてくるらしい。


結城家からは烙、そして運転手の鷹野トオルの2人だけが同行することになっていた。


人数が多いと不審に思われること、そして烙のことを試しているからだろう。


鷹野トオル。


彼がどれ程の男かは知らないが、今回は烙がいなければ危なかったかもしれない。


一通り確認し終えたところでシンが質問してくる。


「烙、お前の腕が良いのは十分わかってるんだが今回の件、大丈夫なのか?暫くこういうことしてないだろ。」


彼は心配してくれているらしい。


「大丈夫だよ。彼女を助けたときにもそういうことしたし。それにLynx を辞めたってだけで今は自分で上手く調整してるから。」


それを聞くとシンは笑った。


「相変わらずだな。じゃ、検討を祈るぜ。」


そう言って彼に背を向けると、自分の作業に戻っていった。


その逞しい背中に手を振ると、烙はビルを出た。


現役の殺し屋と元・組織の人間が会うのは禁止されていた。


もし、シンが烙と会っていることが組織にバレたら彼はクビになるだろう。


いや、それどころでは済まない可能性もある。


それを分かっていながらも彼は烙に協力してくれている。


そんなシンの為にも、今回失敗することなど許されない。


油断大敵。


その言葉を心に刻み、烙は駐車場に向かった。




パーティー当日。


烙は結城家が用意した真っ黒なスーツを着せられていた。


上等な生地で出来ているのだろう。


着心地も見栄えも素晴らしかった。


そしてボルドーのネクタイと、胸元には同じ色のポケットチーフ。 


髪は使用人が丁寧にヘアセットしてくれた。


見た目だけなら文句なしだ。


彼は横をチラリと見る。


白百合は淡い桜色のワンピースを着ていた。


首元はすっきりとしたデザインで、細身のウエストから柔らかなスカートがふわりと広がっている。


裾には百合の花の繊細な刺繍が施され、長い髪は低めの位置で纏めてあった。


そして首元では一粒の深紅のルビーが揺れている。


よく似合っていた。


より一層美しさが引き立っている。


先程、「よく似合うね、綺麗だよ。」と声をかけるとそっぽを向かれてしまった。


そのことを思い出し烙はクスッと笑う。


だがそれも一瞬のことで、表情を引き締めると彼は深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。


今日の仕事は必ず成功させる。


心の中でよしっ、と気合を入れると鷹野が運転する黒塗りのリムジンに乗り込んだ。






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