悪い夢だと思って忘れるように➂
「隊長殿は、退役後はやはりご実家の公爵家をお継ぎになられるのですか?」
スジコに部下の一人が大声で、酔いの力もあって尋ねた。少し彼の表情が曇った。彼の棚理に座る小隊長達、王子、王女達は、
「そんなことを言っちゃだめだよ。」
という顔だった。その雰囲気を大半が察して戸惑った。それを見て、スジコはため息をしてから、
「まあ、酒の味を壊して悪いとは思うが、このままでは気が収まらないだろうから・・・。多分、私はスジコ公爵家は継げないと思う。異母弟が剣聖のスキルなんでな・・・、しかも士官学校の聖石も抜群だったし・・・。やはり吾が家は軍人貴族、国の守りてという家柄だからな・・・。私のスキルでは・・・。」
「でも、今の時代、軍人貴族だとかはつまらない・・・。」
と言った男は両方から足を蹴とばされた。国軍が整備されているためそうした貴族の比重、役割はかなり小さくなったのではあるが、そういうことでの自負や誇りがあるのである。それを言っちゃいけないことなのである。
「で、でもスキルとか関係なく爵位とかは・・・。」
「そういう家もあるが我が家はな・・・。それに弟のできが良すぎてな。お前達のお蔭で感状をいくつももらったもののな。」
「スジコ中尉の評定は、悪くないというより高い。が、上の下というところだ。」
と中隊長が割って入った。
「ま、まさか・・・。私達がもっと頑張っていたら・・・。」
と女性伍長が青ざめるように言い出したので、
「勘違いするな。お前達はよくやってくれたよ。それに心配するな。勘当とか、追放とか、幽閉とかじゃないから。ただ、小さい領地を与えられて分家すると言うだけだ。」
とそれでも少し自嘲気味だった。
「それならこのまま・・・。」
「色々あってな・・・。そういうわけにはいかないのさ。今日で最後だ。明日は、忘れろ。ただ言っておくが、幻でも幻覚ではないからな。食べて飲んだものは本物だからな。ゲジゲジだとか汚物だとかいう落ちはないから心配するな。」
と言って彼は笑った。
「ずっと彼のところに入り浸っていた私達が生きているのが証拠よ。」
と王女が笑った。
「でも、隊長殿のスキルは凄いから・・・。」
それでも女性伍長が食い下がる様に言った。
「自分の家しか楽園にできないスキルではどうにもならないんだよな。領地を楽園にできるわけではないからな。いや、広げられないかと思ってやってみたのだが、この兵舎の周辺、自宅の敷地という認識の範囲までしかな・・・。」
「あ、あのリンゴの木も、イチジクも・・・。家庭菜園のような・・・も、隊長殿のスキルだったんですか?」
「まあな。まあ、私に黙ってもいでいた奴がいるようだが、別に気にしてはおらんから心配するな。まあ、とにかく、全ては明日の朝に終わる。選別の菓子も容易しておくから、帰りには忘れずに持っていくように。以上た。後は時間まで楽しめ。」
「はい。」
「明日の見送りはいい。新隊長の訓示をしっかり受けろ。ではさらばだ。今までありがとう。」
とスジコ中尉が敬礼すると全員が敬礼して散っていった。
「はー。」
と流石に彼がためいきをつくと、
「2次会は?」
という顔で並んでいる面々がいた。
「ありません。殿下方もお帰り下さい。」
「ま~ったく。変わりないなあ。」
「もう~。つまらないわ。」
「もう少しいいじゃないか?」
「そんなにだとねあることないこと言いふらして・・・痛い、痛いよ・・・何だよ。」
「冗談でも言っていいことと悪いことがあるわよ。」
「これは言ってはいけないことだよ。」
「このスキルは、誤解されたら彼が危ないからな。」
「ああ・・・そうだな。悪かったよ。」
「分かっていただければいいですよ。あと、殿下方にはこれを。私のことを思いだして、飲んでください。密かに私の部屋で咲かせた聖果樹の実で作った秘蔵の酒ですから。」
とかれが言うと、タイミングを合わせて侍女達がビンを4本差し出した。
「わかったよ。ありがとう。」
「ありがたく受け取っておくわ。」
「美味しくいただくよ。」
「大切に飲むよ。」
と言って彼らは去って行った。
「で、ノム少尉殿は何のようだね?何かご自慢の知的戦術、戦略をご伝授してくれるのかな?」
と彼は振り返った。
物陰からノム少尉、彼の後任者である。
「スジコ中尉。楽園スキルの聖具をしばらく貸していただけませんか?やはり小隊の運営上必要かと思いますので。もちろんお返ししますから。」
「何時返すのかね?」
答えは帰ってこなかった。
「気持ちは分かるが、あれは聖具で発動するものではなく、私固有のスキルだよ。」
「このようなスキル聞いたこともない。」
「ならば、それができる聖具はきいたことがあるのかね?わたしなどのような者には、そのようなスキルがあるはずはないとおもっているようだが、私も不思議でならない時があるが、持っているものは仕方がないのだよ。」
「私の知的。」
「理屈をこねても手に入らないよ、それより、明日からのことを考えるんだね。」
とスジコ中尉は厳しく言い返した。しばらく震えていたノム少尉は、
「つきのように輝くお貴族様には、月見草の雲地は分からないんだ。」
と捨て台詞を吐いて駆け去って行った。
「ふん。自分も貴族のくせに。まったく知的戦略の、兵隊再生工場のノムという噂は・・・自分で作ったんだろうな。部下達の明日からが心配だな。本当に、どうしてあんな奴ばかりがもてはやされるんだよ。」
と彼は吐き捨てるように言った。




