魔王降臨?ついでに勇者も?
「ええと・・・。目の前にあるのは、果物の木、果樹だな。桃、リンゴ、ミカン、梨、柿、無花果、サクランボウ、パパイヤ、オレンジ・・・。全部実がたわわに実っているのはどういうことだ?次期がおかしいのではないか?それに・・・そもそも今は冬だぞ?寒さが身に染みて・・・ここは寒くないな・・・確かに。しかも、どの果樹もまるで聖樹、神木のような力を感じてのだけど・・・。いや、魔樹のような感覚も・・・後ろの方に・・・。こちらも実がたわわに実って・・・そんなもの見たことがない・・・この実は食べられるのか?毒々しいくらいだが?」
サーケ・スジコの邸宅?の果樹園の前にたたずむ女は、驚きを通り越して呆れてしまったような顔でぶつぶつ呟いていた。
「ええ・・・と。何て声をかけるべきかな?」
とサーケは、黒髪の長身の女性、軽装で体の露出が多い鎧姿であったから、女だということが、なかなか好みの容姿だということも分かった、にどう声をかけていいのか迷っていた。そのあげく、
「ご令嬢。我が邸宅に何か御用ですか?」
と間の抜けた言葉をかけてしまった。
「む?」
と振り返った女は、きつい感じはするものの、知的な雰囲気を漂わせる彼好みの美人だった。が、よく見ると、何となくそのきつさが人間とは異なる・・・、
「魔族のご令嬢・・・ご婦人でしたか?失礼いたしました。では、もう一度伺いますが、我が邸宅に何の用でしょうか?」
とまたしても、間の抜けた言葉を口にしてしまった。当人も、しまった、とは思ったが、どうしようもない。
「ここが邸宅だと?お前、頭は確かか?」
女は、言葉を発してから、しまった、と思った。
周囲を見ても、幾つかの天幕があり、ベンチがあり、テーブル、ベッド、ソファがあり、絨毯が敷いてあり、東屋があり、掘っ立て小屋があり、小さな泉があり、大きい甕やら壺、箱、ポット、ビン、至る所に菜園らしきものがあり、小さいが鳥小屋や畜舎らしきものもあるようだった、がそれだけだ。邸宅と言えるような建物などはない。だから、邸宅かよ、ここが、と言っても当然であるはずだ。しかし、冬なのに、少し遠くを見れば、ここは高台になっているようで、下には雪が積もっているのが見える、ここは全く暑くもなく、寒くもない、快適な温度である。ここは、何かがあると感じるべきである。そして、現れた、長身の黒髪の人間が自分の邸宅と言っているのは、何かしらの意味がある、もしかするととてつもない所にいるのかもしれないと考えるべきだった。それを単純な言葉を返すとは、
「私としたことが何たる馬鹿だ。」
と強く感じた。
「これは失礼した。」
という言葉が出てくる前に、
「お気持ちはよく分かります。私は、サーケ・スジコと申します。人間の、一応伯爵で、この地域の領主をしております。ここは、ちょっと変わっておりますが、ここは私の邸宅なのですよ。」
と何とかサーケは、最小限の説明ができた。
「それで・・・。ここではなんですから、室内に入ってお話をしましょう。では、こちらに。」
こうなると女も彼に従うしかなかった。
「取り合えずこちらに。」
さして大きくもない天幕に案内した。
「そんな狭いところで何をするつもりだ。」
と思ったものの、女はそれに従って身をかがめて天幕の中にはいった。
「何だー?ここはー?」
彼女が叫ぶまでには少しばかり時間がかかった。天幕の中に入ると、天幕の半分くらいは締めているような立派な玄関が現れ、天幕を通り越すくらい長い廊下があった。それを通るのだが、両側に扉があり、少し開いているところから見ると、部屋があるようだった。そして、廊下の先のドアを開けた時に、声が出たのだ。
そこには、天幕をはるかに超えた大きさの居間が広がっていたからだ。
勿論、客をもてなすには十分な家具が揃っていた。三方の壁には、天幕のそれではなく、立派な木造の壁である、ドアがある。外に出るのでなければ、さらに部屋が続いていることになる。
「まあ、お座り下さい。」
「ありがとう。」
と言って彼女は、半ば呆然としつつ、ソファーに座った。
「それでお名前をお聞きしてよろしいですか?」
とサーケはあらためて質問した。
「名乗るのが遅くなって申し訳ない。スジコ伯爵殿。私は、ラベンダ。魔族で・・・魔王だ。正確には魔王の一人だ。」
と彼女は答えた。
サーケが驚くことを多少期待した彼女だったが、意外にも彼は泰然として、
「これはご無礼をしてしまいました。どうかお許し下さい。しかし、魔王様が、どうして拙宅に突然おいでになったのですか?」
とさらに、当然の内容だが、質問をしてきたので、彼女の方が驚いた。
「それが私にもわからない。魔樹に語り掛けていたところ、気が付くとこちらに・・・あなたが私を見つけた場所に立っていたのだ。」
「魔樹なら拙宅の敷地にもありますが、それと関係があるのでしょうか?」
「魔樹のようなものは、あそこにも確かにあったが、それとは異なり。」
「いや、上に登ると魔樹そのものがあります。聖樹も並んでいますが。」
「は?聖樹と魔樹が並んで?そんな馬鹿な?」
「そういう馬鹿なことが起こっているのです。私の庭・・・私だけの楽園では。」
「は?お・・・あなただけの楽園?」
彼女は、何が何だか分からなくなった。




