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第7章 ― アップティア戦争

第7章までお読みいただき、本当にありがとうございます。


また一週間が過ぎ、私は普段の仕事を続けながら、この作品の執筆も並行して進めています。


今回は少し投稿が遅くなってしまいました。


というのも、この章は物語同士の論理的な繋がりを整理するのがなかなか難しく、思った以上に時間が掛かってしまったからです。


さて、本日は皆さんに一曲ご紹介したいと思います。


それはロシア語アレンジ版の「Hardbass Start!」、


『Здесь молча стоят герои』


という楽曲です。


作者は Nonamesteven 氏。


もし読者の皆さんの中にMiG-25がお好きな方がいらっしゃいましたら、きっと楽しめる一曲だと思います。


興味があればぜひ一度聴いてみてください。


改めまして、ここまで作品を読んでくださった皆様へ感謝を申し上げます。


今後とも本作をよろしくお願いいたします。


第一部 ― DM53にまつわる嫌な記憶

BR1.0級ダンジョン第三層――ゲームにおけるBR区分を分かりやすく呼ぶならそうなるその階層は、今や危険度が3.0どころではなかった。

いや、YilfenがDM53弾の薬莢を発見した時点で、その脅威度は11.0、あるいはそれ以上へと跳ね上がっていた。

ダンジョン内部を吹き抜ける風は、まるで息を潜めるように静まり返っている。

T-35の補助灯から漏れる淡い光が岩壁を照らし出し、しわだらけの影を伸ばしていた。その光景は、まるで古びた記憶の壁そのものだった。

引き返してからまだ1kmほどしか進んでいない。

それなのに彼は、何かが静かに自分を見つめている気配を感じていた。

VRモードは常時稼働中。

ミニマップも正常に点灯している。

しかし、危険反応は一切表示されない。

システムが隠しているわけではない。

ただ彼自身が、あれがどのLeopardなのか、あるいはどんな転移能力を持つ存在なのかを解析し、このダンジョンから脱出させてくれるインターフェースなど、もう信用できなくなっていただけだった。

車内には湿気とディーゼルの匂いが漂う。

ふと意識がぼんやりと揺らぎ、軽い酔いにも似た感覚に襲われた。

そして突然、ある記憶が蘇る。

初めてあの状況に遭遇した時の出来事だった――。

→War Thunder、2023年初頭。

彼はただの一般プレイヤーだった。

ようやくRank VIのSquadron VehicleであるT-80UKを入手したばかり。

T-55やT-62など、数々のRank V車両を使って研究を進め、一〇〇万SL以上を貯めていた。

当時の経済システムが酷かったことも、彼は今でもよく覚えている。

一度撃破されるだけでSLがごっそり消える。

Top Tierへ進むなら、苦労を覚悟するか、予備資金をひたすら貯め続けるしかなかった。

ある時、あまり親しくはないが同じゲームで知り合った友人がいた。

再生数の少ない小規模なコンテンツクリエイター。

チャンネル開設から八年。

そして「1412」という妙な末尾を持つニックネームの人物だった。

毎週土曜の夜になると、彼はよく分隊を組もうと誘ってきた。

その日、二人は揃ってT-80UKに搭乗していた。

ERAは未完成。

弾薬はHEAT-FS。

モジュールも初期状態。

上位ランク戦車の倒し方を動画で学びながら、初陣へ挑もうとしていた。

戦場は狭い市街地マップだった。

崩壊した駅舎。

倒壊した高層建築。

立ち込める煙と粉塵。

そして――

>-BATTLE START – REALISTIC BATTLE MODE- RB

Ammo: 30/30 HEAT-FS

SP:100 - Confirming entry into battle…

>なあ、この試合……アップティアらしいぞ……

>どういう意味だ? なんで分かるんだ?

>SPを見ろよ。一番高い車両で100だ。たぶん今回は速攻で負けるぞ……

見知らぬ男はそう言った。

そして実際、その試合は敗北した。

ソ連陣営だけで、ドイツ・アメリカ・イギリス連合軍を相手にすることになったのだから。

試合開始と同時に、真新しいT-80UKがスポーン地点から走り出す。

通りの角を半分ほど曲がった、その瞬間だった。

まだ周囲を確認する暇すらない。

突然、空気を裂くような音が響く。

次いで金属を叩く衝撃音。

そして目の前に閃光が炸裂した。

ドォン!!

ドォン!!

ドォン!!

待ち伏せしていた複数のLeopard 2A6。

彼らが放ったDM53が次々と襲いかかる。

一発は側面へ。

さらに二発が砲塔へ重なるように命中した。

―乗員全滅―

車体は乾いた薪のように燃え上がり爆散する。

画面には貫通経路が表示され、弾薬庫への直撃による誘爆が記録されていた。

>やられた……

友人の方も大差なかった。

125mm HEAT-FSを一発撃ち返したものの、弾は弾かれる。

その後すぐにLeopard 2A6とAbramsによってキルログへ送り込まれた。

そんな最悪の幕開けだった。

だが、その経験は後にあれらへ対抗する知識となった。

もっとも――

今の彼が操縦しているのは、小型の魔物を蹴散らすのが精一杯の旧式兵器なのだが。

>初めて遭遇した時……結局一発も撃てなかったな……

彼はかつてそう呟いたことがあった。

記憶はそこで途切れる。

T-35が岩を乗り越えた振動によって現実へ引き戻された。

第三層出口――第二層へ続く陥没穴までは、あと3km。

その遥か後方。

あの存在は今もサーマルスコープ越しにT-35を見つめ続けていた。

>コホッ……コホッ……

黒い怪物の内部から女性の声が漏れる。

学院の制服を纏った女性魔法使い。

彼女は魔力で維持された暗視装置を覗き込みながら、ただ静かに観察していた。

言葉はない。

目の前にいる存在が何なのかも分からない。

映るのは白黒の熱源映像。

そして視界の中に赤文字で表示される“T-35”の文字。

古代遺物なのか。

それとも魔獣なのか。

彼女には判断できなかった。

ただ、白い熱源の点が少し進むたびに、その鉄の塊もまた前進していく。

>もう一マイルもない。でも、そこには既に準備を済ませてある。今日の予感は……やはり当たっていたみたいね……

そんな囁きが漏れる。

漆黒の重機械は静かに後を追い続けた。

>あれは……まだ俺を追っている気がする……

Yilfenは小さく呟く。

T-35のエンジン音に紛れながら、あの存在は隙を見ては少しずつ距離を詰めてきていた。

ミニマップには依然として警告が表示されない。

理由は分からない。

だからこそ、不安は増していく。

車両は進み続ける。

光と闇の境界が曖昧な地下世界。

そこでは、一台の第二次世界大戦時代の重戦車と、一体の現代の怪物との戦いが始まろうとしていた。

そして古参プレイヤーたちは、こう呼ぶだろう。

――この試合、アップティアだな!


第二部 ― 砲身の向こうから聞こえる音楽

T-35は静かに井戸の口のような狭い通路を這い進み、より広い空間へと抜け出した。

岩肌はゴツゴツと突き出し、両側の壁が履帯の縁ぎりぎりまで迫っている。

少しでも操縦を誤れば、車体はその場で立ち往生するだろう。

Yilfenは操縦桿をしっかり握り締めたまま、一瞬たりとも瞬きをしなかった。

背中には冷たい汗が滲んでいる。

>ここ、本当に運転しづらいな……

狭い通路を抜けた先には二つの道があった。

一つはさらに地下深くへ続く下り坂。

もう一つは上へ向かう通路。

――だったはずだ。

しかし、いつの間にかその二つの洞窟は四つへと増えていた。

Yilfenは車両を停止させ、状況を確認する。

ミニマップもここまでしか更新されていない。

>どっちが第二層へ戻る道なんだ……?

迷っていたその時だった。

突如としてミニマップに警告表示が現れる。

無数の赤い点。

それらは減るどころか次々と増えていった。

>なんだこれ……罠か?

もはやこの場所がどうなっているのか分からない。

しかし一つだけ確かなことがある。

誰かが仕掛けた罠だとしても不思議ではないということだ。

なぜなら――

ミニマップに映っているのは数十体どころではない。

数百体にも及ぶ魔物の群れが、こちらへ向かって進軍していたのだから。

>レベル1ダンジョンの報告をギルドへ持ち帰ったら、ここは低級魔物王国として扱われそうだな……

Yilfenはそう思った。

その数は異常だった。

もはやAlien Shooter(Fact: 実在するゲームタイトル)の敵の群れと大差ない。

幸い弾薬消費はまだ7%未満。

だが問題はそこではない。

接近を許さないよう周囲へ絶えず射撃を続けなければならないこと。

しかも一体倒しても報酬はたったの銀貨十枚。

完全に赤字の戦いだった。

Yilfen自身もそれを理解している。

それでも魔物たちは止まらない。

さらに彼が知らないことが一つあった。

ずっと彼を監視している存在が、この低級魔物の群れを利用してT-35の戦闘能力を分析しているという事実を。

>敵を知り、己を知れば百戦危うからず……

再びあの女性の声が響いた。

―Rank II Goblin、Rank I Goblin、Rank I Orc―

>これはまずいな……多すぎる……

Yilfenは歯を食いしばりながら砲塔と機銃システムを再設定する。

>AIに三基の砲塔を任せる。俺は76mm砲とDP機銃だけを操作するか……

>個別砲塔制御モードへ切り替え。

―TURRET SYSTEM SWITCHING TO SEMI-AUTOMATIC CONTROL – ACTIVATED―

彼は同時に各砲塔へ指示を書き込んでいく。

・76.2mm砲(Yilfen操作)

 HE使用。近距離射撃。

・左右45mm副砲

 マーキングした目標へ自動旋回。

・同軸DT機銃および補助機銃塔

 一基は76mm砲に追従。

 AIが自動的に射界を分担。

ドォン! ドォン!

ダダダダダダダダッ!!

ガシャガシャッ!!

―Critical hit… Target destroyed―

砲座から放たれる轟音が洞窟を震わせる。

まるで戦艦。

あるいは第二次世界大戦時代の鋼鉄要塞。

その怪物から全方位へ向けて火力の嵐が降り注いだ。

ドォン! ドォン!

ダダダダダダダダッ!!

ドォン! ドォン!

ダダダダダダダダッ!!

ドォン! ドォン!

ダダダダダダダダッ!!

グェェェェッ……

グェェェェッ……

グェェェェッ……

ウオオオオオオォォォ……

炸裂する榴弾。

死の花火のように瞬く閃光。

76mm砲弾が着弾するたびに、Rank IやRank IIの魔物たちはまとめて吹き飛んだ。

残った者たちは恐慌状態に陥る。

だが群れは巨大だった。

崩壊しても再び集まり、何度でも押し寄せてくる。

Yilfenは歯を食いしばる。

VRシステムは絶えず自動装填を続けた。

76mm砲弾が百体以上の魔物へ叩き込まれていく。

そしてHE弾は残り十六発。

彼は砲塔を再調整し、できるだけ多くを撃破しようと試みた。

砲身は休息を求め始めている。

弾薬も既に半分近く失われていた。

戦闘は三十分近く続いた。

まるで防衛戦イベントそのものだった。

そして――

ガチャン――

ギィィッ――

カランカラン――

ドォン!!

装填機構が唸りを上げる。

スプリングが跳ね返り、砲身が後退して再び前へ押し出される。

ミニマップ上の赤点は徐々に薄れ、

やがて完全に消滅した。

洞窟は静寂を取り戻す。

そして先ほどまで存在しなかった二つの道が、再び目の前に現れていた。

真っ赤に焼けた砲身と機銃も、ようやく休息の時を迎える。

>本当に妙だな……

>罠じゃない。でもこれは……幻術なのか? それともこのダンジョン自体が生きているのか?

魔物の死体は次々と溶けて消滅していく。

残されたのは綺麗な地面だけだった。

本能は右へ進めと告げている。

だがどこか違和感が残る。

>左か……右か……

選べるのは一つだけ。

間違えれば、危険な何者かと共に再びこの地下へ閉じ込められる。

>勘を信じるしかないな……

ブォォォォン……

T-35は右側の通路へ向かった。

その先には、既に次の罠が用意されていた。

暗視スコープの向こう側。

一人の人物がT-35の戦闘能力を書き留めている。

>多砲塔構造。私の知る車両より砲門数が多い。

>ただし火力は弱い。

>装甲は厚そうだが機動力は低い。

彼女は手帳へ記録を続けた。

>青属性の魔物に近い印象。

>鈍重で重装甲。

>弾薬搭載量は豊富。

>大群相手に強い。

彼女は介入しない。

ただ観察し、情報を引き出す。

灰色の瞳には先ほどの戦闘で燃え上がった炎が映り込んでいた。

―VEHICLE IDENTIFIED: T-35. RANK I. BR 1.3… HEAVY VEHICLE―

彼女にはその画面の意味が理解できない。

見たこともない文字。

学んだこともない言語。

それでも確信していた。

あの鉄の怪物を操る男なら理解しているはずだと。

>この説明文は……どんな意味を持っているの?

>きっと……あの男なら知っている……

一方その頃。

右側の通路を進むT-35の車内では、空薬莢が激しくぶつかり合っていた。

ガラン――

ガラン――

凹凸だらけの地面が車体を揺らす。

真鍮の薬莢。

鉄製のケース。

そして火薬の焦げた匂い。

それらが操縦席いっぱいに広がっていた。

Yilfenは大きく息を吐き出す。

そして自動操作キーから手を離した。

>助かった……のか?

小さく呟く。

だが――

その瞬間。

右側の通路は袋小路へと繋がっていた。

出口は存在しない。

ただ広い空間と、中央に整然と置かれた奇妙な物体だけ。

>まずい……罠だったか……

しかし、この巨大なT-35を方向転換させるには、さらに奥へ進まなければならない。

後退速度の遅さがそれを強制する。

まるで最初からこの車両専用に設計された罠のようだった。

車両は部屋の奥へ進入する。

向きを変えようとした瞬間。

履帯が何かに引っ掛かった。

進まない。

動かない。

Yilfenは確認のため車外へ降りる。

>くそっ……引っ掛かった!

次の瞬間。

岩の突起が地面からせり上がった。

先ほどまで魔物の大群と戦っていた鋼鉄の巨獣を持ち上げる。

履帯は空転するだけ。

そして――

T-35は完全に身動きが取れなくなった。

>終わったな……

>2100GEがこのダンジョンで立ち往生かよ……

Yilfenは苦笑するしかなかった。

こうなれば残る選択肢は一つ。

車両放棄。

「J - 3s(秒)」を押すべきか迷っていた、その時――

音楽が流れ始めた。

ノートPCではない。

スマホでもない。

VRシステムでもない。

遠く。

ダンジョンのどこかから聞こえてくる。

Yilfenは反射的にK-59へ手を伸ばし、その音の方へ近づいていった。

>BGMはずっと前に全部オフにしたはずなんだが……

>この音……まさか、あの石板から?

録音用ルーンストーン。

まるでラジオのように音楽を再生している。

響くドラム。

鳴り渡る金管楽器。

まるで古い交響曲のような旋律。

そして彼には聞き覚えがあった。

ドイツツリーのラインナップを開いた時、何度も耳にした曲。

―Advanced Australia―

>先に来たプレイヤーがいるのか……?

彼は石板を見上げた。

手は依然として銃から離さない。

ミニマップも再確認する。

しかし背後に赤い反応は存在しない。

まるで透明化した怪物でもいるかのように。

彼が持つゲームシステムの外側から干渉している何かがいるように。

>この状況……

>俺、高ランク車両を操る連中と戦わされてるってことじゃないのか……?


第三部 ― God Mode Hunter

記憶は再び2023年へと遡る。

―――

>知ってるか? War Thunderには“God Mode Hunter”って呼ばれる連中がいるんだ。

>あいつらの大半は運が良かっただけじゃない。

>コンテンツクリエイターだったり、プロプレイヤーだったりする。

>旧式車両で現代戦車を撃破すれば、一キルで二万SL。

>Premiumを入れてたり、ブースターを噛んでたりすれば三万、いやそれ以上になることだってある。

彼は今でも覚えている。

軍団仲間だったあの男の声を。

再生数の少ない動画を投稿していた小さなコンテンツクリエイター。

確かニックネームの末尾が「1412」だったか。

早々に撃破されるたびにミーム画像を貼りまくる変わった男。

そしてT-80UKで初めてLeopardに叩き潰された時、一緒にいた友人でもあった。

>へぇ……そんなシステムあったのか。

驚いたYilfenに対し、友人はさらに説明を続けた。

>ハッカーだって騒ぐ奴もいる。

>でも違う。

>どんな車両にも弱点はあるんだ。

>みんな気付いてないだけ。

>結局必要なのは一発。

>たった一回の射撃。

>たった一つの致命点。

>一人はブチ切れて、一人は大金持ちになる。

そう言って彼は昔話を始めた。

>俺がBR2.3のT-28ストックを使ってた時の話なんだけどさ。

>76mm砲しかない雑魚だぞ?

>でも敵チームのCenturion Mk 3――イギリスの7.7車両がちょうど側面を見せたんだ。

>角度も完璧だった。

>それで――ドォン!

>一発貫通。

>弾薬庫誘爆。

>車両爆散。

>俺自身、信じられなかった。

>でもキルログにはちゃんと表示されてた。

>しかも相手がチャットでこう叫んだんだ。

“Who wtf u kill me with T-28?!”

>だから俺も返してやった。

“Godmode hunter ez baby.”

>そしたら味方チーム全員大爆笑。

>あの敵、悔しすぎてCAS機で復讐しに来たけど、それも失敗してたな。

二人は一緒に笑った。

DiscordMesの通話画面の向こう側。

安物のヘッドセット。

ラグだらけの回線。

それでも、その記憶だけは確かに本物だった。

Yilfenも忘れていない。

なぜなら彼自身は、一度もその称号を獲得したことがなかったからだ。

せいぜいSkill Master止まり。

God Modeには届かなかった。

T-80UKでの惨敗後――

あの試合では、T-80UKが撃破された後も彼だけが生き残っていた。

搭乗車両はT-55A。

味方の大半は途中離脱。

彼一人でB拠点へ這うように進んでいた。

そこで偶然、単独行動中の敵SPAAと遭遇した。

弾はストック弾。

彼はマウスをクリックした。

――ドォン。

―Target destroyed + 2100SL―

―Skill Master + 5000SL―

それが初めて、自分より高ランクの車両を撃破した瞬間だった。

だが――

拠点占領中。

周囲に敵影は見えない。

そう思った直後。

三方向から飛来したDM53。

三両のLeopard 2A6。

発砲する暇すらなく、正面装甲ごと切り裂かれていた。

―――

現実へ戻る。

Yilfenは音楽を流し続けるルーン石板へ近付いた。

『Advanced Australia』。

War ThunderのBGM。

勇壮で力強い旋律。

だが今の彼にとっては、それ以上に危険な意味を持っていた。

なぜなら――

この曲を知っているのはWar Thunderプレイヤーだけだからだ。

>こんにちは……見知らぬ人。

>誰だ?

石板から音楽が止まる。

代わりに流れ出したのは、一人の女性の声だった。

Yilfenは初めて聞く声だ。

翻訳ルーンの指輪を通して、かろうじて意味だけが伝わってくる。

>私はこのダンジョンのルールを握る者。

>もう十二年。

>私はずっと探していた。

>異界から来た者たちによって血の中へ溶け込んだ、この力の真実を。

>お前……プレイヤーなのか?

Yilfenは躊躇なく尋ねた。

しかし彼女はその言葉を理解できなかった。

>プレイヤー?

>それが何なのかは分からない。

>だが、今の状況くらいは教えてあげよう。

>君は今、私が用意した部屋の中に完全に閉じ込められている。

>つまり……罠か。

>その通り。

女性は即座に肯定した。

そして脅迫と取引を同時に提示する。

>君の命を握っているのは私だ。

>だから抵抗はやめなさい。

>取引をしよう。

>私はいくつか情報が欲しい。

>その代わり、生きる道を与えてあげる。

>どう?

>お前が操縦しているのは……

>“豹”――Leopardなのか?

Yilfenは核心を突く質問を投げた。

相手の車両を確認したかったのだ。

しかし女性は答えない。

ただ繰り返す。

>取引か。

>死か。

その時点でYilfenには相手の戦力が全く分からなかった。

だが確かなこともある。

T-35の砲弾ではLeopard 2系統の装甲など傷一つ付けられない。

だからこそ。

生き残ることが最優先だった。

>取引を受ける。

>ただし、生き残れる保証が条件だ。

>いいだろう。

>まずは質問に答えろ。

十二年間。

彼女が胸の奥へ閉じ込めていた疑問。

埃を被るほど長く保管していた問い。

それらが今、Yilfenへ向けられる。

>お前は……どこから来た?

>それは言えない。

>家族を人質にされたら困るからな。

彼女は反応しなかった。

ただ次の質問を投げる。

>あの機械はどこで手に入れた?

>一人で操縦しているのか?

>あるゲームの中だ。

>現実をかなり忠実に再現したシミュレーションみたいなものだな。

Yilfenは隠さなかった。

下手な嘘をつけば何をされるか分からない。

その返答を聞いた後。

彼女は先ほどの音楽について尋ねた。

>さっきの曲を知っているのか?

Yilfenはしばらく沈黙した。

やがて石板の前へ腰を下ろし、手を置く。

>あれはゲームの中の曲だ。

>タイトルは『Advanced Australia』。

返事はなかった。

だが代わりに――

異様な殺気が伝わってくる。

背筋が徐々に冷えていった。

>そのゲームの名前は……

>何という?

Yilfenは直感した。

ここで答えなければ取引は破綻する。

そして最悪の結末になる。

>そのシミュレーションゲームの名前は……

>War Thunderだ。

冷静にそう答えた。

その瞬間だった。

石板の向こう側。

その二つの単語を聞いた女性は、明らかに平静を失った。

長年押し殺していた感情が一気に噴き出す。

余剰魔力症を治した謎の力。

学院最強クラスの生徒へ押し上げた異質な能力。

十二年間追い求め続けた真実。

その全てが目の前に現れたのだ。

彼女の頭に残ったのは、ただ一つ。

――捕まえる。

――閉じ込める。

――情報を吐かせる。

それだけだった。

>まだ足りない……

>足りない……

>情報が足りない……

>もっと必要……

>もっと……

>もっと……

>モットォォォォッ!!

声は次第に狂気を帯びていく。

>くそっ……

>ヤバい奴に当たった。

危険を察したYilfenは即座に岩陰へ飛び込んだ。

動けなくなったT-35だけが部屋の入口へ砲身を向けている。

一方、その女性魔法使いは――

T-35が第一層で騒々しい音を立てた時から気付いていた。

彼女が設置した魔力感知装置。

それは同種の鉄の機械にだけ反応する特殊なものだった。

ルーン通信によって状況を把握し、

幾つもの罠を配置する。

全ては獲物を捕らえるため。

学院へ連れ帰り、

十二年間追い続けた秘密を吐かせるため。

取引もまた時間稼ぎに過ぎなかった。

車両をこの部屋へ接近させるための口実。

そして――

足元で巨大な金属塊が震え始める。

高圧ディーゼルエンジンの唸り。

徐々に近付く轟音。

一頭の鋼鉄の怪物が、この袋小路へ突進してくる。

ヴゥゥゥゥ……

ゴロロロロ……

ブロロロロロロ……

履帯が地面を削る。

その痕跡はT-35の古い履帯跡へ重なっていく。

Leopard。

あるいは、それ以上の何か。

現代の戦闘車両が目を覚ました。

>さあ……

>これで私たちは……

>本当に顔を合わせることになるわね。

彼女はそう呟く。

火薬の匂いが染み付いた車内。

そして足元には――

『DM53』

その刻印が刻まれた砲弾が転がっていた。


第四部 ― 脱出計画

ダンジョンを覆う闇はさらに濃くなっていく。

残されている光は、T-35のライトだけだった。

空気の圧力すら変わったような錯覚。

そしてYilfenは感じていた。

――何かが来る。

金属音が響く。

あの女。

正体不明の存在が近付いてくる。

車両が移動する履帯音。

そして黒い影が部屋の入口へと姿を現した。

Yilfenは思わず目を擦る。

T-35の弱々しい照明の中。

そこに見えたのは――

長い。

あまりにも長い砲身。

黒く塗装された車体。

そして車体側面へ並ぶ増加装甲。

>Leopard 2A6か……?

>2020年10月版のデータか。だからスキャンできなかったのか……

ようやく理解した。

なぜミニマップが反応しなかったのかを。

2020年10月版に存在しない車両。

そのデータがない以上、システムは識別できない。

Leopard 2A6。

外見だけなら普通の現代戦車だ。

だが、その中にいるのは――

自分を捕らえようと狂気へ堕ち始めた人間だった。

一方、彼女もまたT-35を見つめていた。

距離およそ350m。

部屋の奥深くで身動きの取れない鉄の巨体。

だが操縦者の姿は見えない。

暗視装置は透視能力ではない。

先ほど通信に使ったルーン石板もその場に残っている。

その時だった。

Leopardの通信装置へ、突如として異質な信号が入り込む。

>Обнаружен объект — система нестандартного происхождения.

(異常な起源を持つシステムを検出)

>Леопард, три часа, дистанция 350 метров.

(Leopard、三時方向、距離350メートル)

彼女は眉をひそめた。

理解できない言語。

聞いたこともない言葉だった。

―――

その反対側。

Yilfenは岩の隙間へ身を伏せていた。

ノートPCの入ったバッグを抱え込み、

視線はVRパネルから一瞬たりとも離さない。

彼は理解している。

今ここをスキャンされたら終わりだ。

死ぬのは間違いなく自分。

しかも戦う手段もない。

だからこそ――

脱出。

それが最優先だった。

>こうするしかないか……

彼はインベントリを開く。

Backup欄。

そこには一台の車両が残っていた。

BT-5。

>最低限の装甲。

>高い機動力。

>使うならこれだ。

彼は小さく呟く。

>T-35を囮にして……

>BT-5で逃げる。

―Backup* BT-5を使用しますか?―

―確認。召喚中……―

静寂の中。

小型戦車が姿を現した。

その一方で、T-35は既にAI制御へ移行済み。

後は陽動命令を入力するだけだった。

―BT-5―

最高速度:51km/h

後退速度:10km/h

主砲:45mm 20-K

副武装:DT 7.62mm

>薄装甲。

>高速。

>低シルエット。

>脱出性能は圧倒的に上。

>牛乳配送トラックより危険なのは、たぶんMG-3機銃くらいか……

彼が脱出準備を進める一方で、

Leopardの中にいる学院の少女は依然として考えていた。

T-35のどこに操縦者が隠れているのかを。

>通信失敗。

>通信失敗。

その瞬間。

彼女の意識がわずかに逸れる。

Yilfenは即座に命令を入力した。

T-35。

自動射撃モード起動。

ドォン!

ドォン!

ドォン!

―Hit―

―Hit―

―Ricochet―

砲弾は装甲へ弾かれる。

まるで痒みを与える程度。

しかし、それで十分だった。

彼女は即座に反応する。

>交渉は終了だ。

>お前はもう存在してはいけない。

ドォォン!!

―Critical Damage―

DM53が放たれる。

貫通。

T-35の主要区画を粉砕。

―乗員撃破:4/10―

完璧な貫通だった。

しかし車内の弾薬は既に減っていた。

誘爆は起きない。

被害も限定的。

ただし――

砲手は完全に戦闘不能。

>本当に死んだのか……?

彼女は確認のためLeopardを前進させた。

その時だった。

岩陰から黒い影が飛び出す。

エンジンを限界まで吹かしながら。

ブォォォォォン!!

轟音が地下空間へ響き渡る。

BT-5。

それが全速力で出口へ向かって飛び出した。

―――

異音。

彼女の瞳が輝く。

砲塔が即座に後方へ旋回した。

>生きていたのね。

>でもまずは……

>足を潰してあげる。

指揮官用MG-3。

その銃口がBT-5へ向けられる。

目的は単純。

履帯切断。

ブゥゥゥゥゥゥッ!!

機銃弾が走る。

弾道がBT-5の後部を斜めに切り裂いた。

だが幸運だった。

BT-5にも最低限の装甲は存在する。

重要部品への損傷はなし。

履帯も軽微な損傷だけ。

車両はなおも加速を続ける。

出口までもう少し。

Yilfenは操縦席でEキーを押し込み続けた。

>頼む……

>あと一回曲がれば逃げ切れる……!

その時。

出口の直前で聞こえた。

ゆっくりとした旋回音。

ウゥゥゥゥゥ……

ゴゴゴゴゴ……

ガシャァァッ……

>お前はあの魔物たちと同じくらい弱い。

>だが、あいつらは命令を聞いた。

>お前は違う。

>あの人と同じ世界から来た名も無き異邦人。

>本当なら……

>もっと平和的に尋問できたはずだった。

>でも……

>お前のような存在は生かしておくべきじゃない。

>ハハハハハハハハハ……!

Leopardの砲身が停止する。

照準固定。

完全捕捉。

Yilfenが最後に聞いた音。

それは――

ドォォン!!


第五部 ― 運命の神引き

ドォォォォン――!!

Leopard内部の少女が狂喜に近い高揚感を覚える中、Rheinmetall製120mm砲から放たれたDM53 APFSDSが超音速で飛び出した。

空気が凍り付く。

そんな錯覚すら覚える一瞬だった。

もしこの光景を表現するなら――

それはスローモーションだろう。

砲身内部で炸裂する発射薬。

魔力によって補助された装填機構。

本来は半自動であるはずの人力装填が、魔力によって事実上の自動装填へと昇華されている。

銀灰色の細長い弾芯。

それは光の刃のように空間を切り裂いた。

弾体を撫でる空気圧。

現代戦争の技術によって鍛え上げられた貫徹力。

全てが停止したかのような世界。

そしてDM53がBT-5の装甲へ触れる、その瞬間――

再び記憶が蘇る。

―――

War Thunder ― RBモード

2023年末。

試合時間:15:05残り

赤チーム:3450

青チーム:1120

その頃のMinhは、ようやくT-80UKでAPFSDSを開発したばかりだった。

アドレナリン全開で丘の頂上を駆け上がっていた時。

彼は一台の見慣れない車両を発見した。

丘の麓を高速移動するアメリカ高ランク軽戦車。

>なんだあの車両……

>初めて見るな……

(後になって、それがM1128だと知ることになる。Rank VII車両だった。)

見た目は大型。

だが地面すれすれを滑るように移動している。

相手はこちらに気付いていない。

>砲塔旋回……

>仰角調整……

>目標ロック……

ドォン……

APFSDSへ切り替え。

キィィ……

カチッ……

ガコン……

装填完了。

砲安定完了。

距離――650m。

ドォォン!!

APFSDSが飛翔する。

完璧な射撃。

弾丸は敵車両の側面を貫通した。

―Hit―

―No damage―

>……は?

装甲は薄い。

それなのに。

なぜか外装を抜いただけで内部損傷が発生しない。

まるで相手がPremiumでも買っていたかのように。

敵は生きていた。

そして即座に反撃する。

ドォン!!

―Cannon breech damaged―

砲閉鎖機損傷。

装填システムエラー。

再射撃不能。

Minは逃げるしかなかった。

敵はそのままB拠点へ向かう。

さらに――

別方向から現れたAbrams。

側面を取られ、そのまま撃破された。

―――

>War Thunderでは何でも起こる……

>現実なら絶対当たるミサイルだって外れることがある……

友人たちの言葉が脳裏をよぎる。

―――

そして現実へ。

DM53はBT-5へ迫っていた。

あの理不尽な出来事が再び起ころうとしていた。

弾丸はBT-5の車体上面へ命中する。

最も薄い部分。

だが――

Leopardが砲を旋回させるのがほんの僅かに遅れた。

わずか1度。

本当にたった1度。

砲身が1度だけ傾いていた。

―Ricochet―

キィィィン!!

金属音が響き渡る。

火花が散る。

DM53はあり得ない角度で弾かれ、別方向へ飛んでいった。

>なっ……!?

>あり得ない……!!

>今まで誰一人としてこれを耐えた者はいない!!

>まして弾き返すなんて……!!

少女は叫ぶ。

狂ったように次弾装填を開始した。

BT-5は激しく揺れる。

だが爆発しない。

そして弾丸の軌道が逸れたことで、

洞窟全体を覆っていた魔力障壁へ直撃した。

パリン――

ガラスが砕けるような音。

彼女が作り出した幻影結界が崩壊する。

隔離空間。

偽りの迷宮。

その全てが消えていく。

そして――

ダンジョン出口への道が開かれた。

>走れ……

>もっと速く……!

Yilfenは叫ぶ。

BT-5へ全力加速を命じた。

>装填。

Leopard内部から機械音声が響く。

重々しい音。

魔力が砲身内部を駆け巡る。

二発目のDM53。

だが今度の弾は少し違った。

ルーン文字が淡く輝いている。

タングステン製ではない。

魔力加工された特殊弾。

ドォォン!!

>外した!?

>クソッ!!

>クソッ!!

BT-5は洞窟出口へ飛び出す。

直前の小さなドリフト。

それが命を救った。

>自爆起動。

>T-35:J3s

即座にYilfenは命令を実行する。

画面に表示されるカウントダウン。

3……

2……

1……

ドォォォォン!!

>なっ……

>今度は何!?

少女は慌てて振り返る。

そこには――

爆散したT-35。

燃え尽きた残骸。

錆びた鉄屑の塊だけが残されていた。

>ぐっ……

>逃がした……!

彼女は歯を食いしばる。

十二年間追い求めた謎。

その鍵が目の前から消えていく。

やがてLeopardから降りると、残骸の調査を始めた。

……

一方。

洞窟の外。

あの情報屋の男はまだ帰らずにいた。

十分な情報は手に入れた。

だがもう少し手掛かりがあれば、

さらに百銀貨くらいは請求できるかもしれない。

そう考えながらルーン石板へ寄り掛かり、

保存食を齧っていた。

その時。

遠くからエンジン音が聞こえる。

>ま……また魔物か……?

男は顔を上げる。

そして凍り付いた。

土埃まみれのYilfen。

ハッチを開けたBT-5。

さらに後方ではスライムたちが履帯に轢き潰されながら追い掛けている。

>な……

>何が起きたんだ!?

男の声は震えていた。

>説明してる時間はない!

>今すぐ離れろ!

>あいつが出てくる!

>途中まで乗せるから早く乗れ!!

Yilfenは叫ぶ。

翻訳ルーンの音声も掠れている。

その表情は真剣そのものだった。

>わ……

>分かった!

男も察した。

余計な質問はしない。

ルーン装置を抱え、

BT-5の車体上へ飛び乗る。

その時。

Yilfenは思い出した。

ここまで乗ってきたT-60の存在を。

惜しい。

だが選択の余地はない。

敵に解析される前に処分するしかなかった。

>T-60は諦めるか……

(J3s)

―T-60 destroyed―

ブォォォォォン……

BT-5は全速力でEdhen方面へ走る。

残り5km。

途中で情報屋の男を降ろし、

二人は別方向へ散っていった。

そしてその直後。

少女は洞窟出口へ到着する。

学院の制服を纏った魔法使い。

Leopardから降りた彼女の手には、

録音用ルーン装置が握られていた。

再生される音楽。

『Advanced Australia』

十二年。

ようやく知ったその名前。

>Advanced Australia……

>あいつの言っていた……

>WAR THUNDER……

>アハハハハハハハハハハッ!!

狂気はまだ消えていない。

言葉の意味は理解できない。

だが彼女には分かる。

心の奥底で確信していた。

それこそが、

十二年間探し続けた答えなのだと。

>ついに見つけた……

>召喚される鉄の機械たちの起源……

>さあ……

>狩りの時間よ。

>異邦人。

>私はもう貴方を見つけた。

>印も付けた。

>逃げても無駄……

―――

第7章 完

【総括】

通貨:

4 Gold 140 Silver

(Edhen帰還時 +100 Silver)

車両:

BT-5

45mm弾薬:80発

7.62mm弾薬:1790発

SL:660,000

累積XP:2200

現在SP:200

(Edhen報酬交換時 +100)

GE:?

GJN:?

War Thunder Version:10/2020

Backup*:2

>BTR-152A(Anti-Air)

>All Vehicles

+1 Backup* Air Rank III All Vehicles

+1 Backup* ZiS-30

+1 Backup* GAZA - 7.62mm

(Edhen帰還時、ランダムBooster*獲得)


外伝

『ダンジョン第一階層の小さなスライムちゃん ― 完結編』

私は――もうずっと昔に死んだ者だ。

このダンジョンの中で。

成仏できなかった魂は、やがてスライムとして転生した。

私の仕事はとても簡単。

ゴミの再利用と初心者向けモンスター役だ。

新人冒険者に倒されるたび、私は嬉しかった。

だって、一人の冒険者が成長する手助けができるから。

他の連中は言う。

「人間に何度も殺されて、死んでは蘇る生活なんて嫌じゃないのか?」

「もう成仏した方がいいんじゃないか?」

でも私はそう思わない。

誰かの成長を助けること。

それが小さな生き物である私の役目だからだ。

今日もまた同じ。

昨日、あの青い怪物に一方的に轢き潰されたことを除けば、

平和な一日になるはずだった。

>あはは……

>今日は平和だなぁ。

今日は少し深い階層にスポーンした。

周囲には大量のゴブリンたち。

何やら集結しているらしい。

>何してるんだろう?

特に考えず、

押されるままに転がっていく。

ゴブリンたちに押され、

流され、

どこかへ運ばれていく。

やがてRank IやRank IIのゴブリンたちが百体近く集まった頃。

どこかへ続く通路が現れた。

その先には見知らぬ大部屋。

そして――

何かがいた。

いや。

二体だ。

とても大きな生き物。

>あれ?

>あの青い怪物じゃない?

>それに……

>なんであの黒い怪物はずっと後ろを付いてるの?

考える暇もなかった。

Rank IIゴブリンの一体が叫ぶ。

>Gre gre... ge ge gé...

(お前らぁぁ!!

 獲物だぁぁ!!

 食っちまえぇぇ!!)

その瞬間。

モンスターたちは一斉に突撃した。

そして私も。

後ろから蹴飛ばされて一緒に飛び出した。

>ちょっ……

>お前ら馬鹿なの!?

>あいつ武器持ってるんだぞ!?

>私は二度目は嫌だって――

ドォォン!!

そして私は再び思い出になった。

>危なかった……

>次は別の場所にスポーンしよう……

――Spawn――

そう言った直後だった。

まだ一秒も経っていない。

軽戦車が私の上を通過した。

ゴリゴリゴリゴリ……

>嘘でしょ?

>私まだ一秒も生きてないんだけど!?

――Spawn――

そして。

それが私がスライムでいた最後の日だった。

かつて私を見下していた黒い怪物。

今、その怪物が目の前にいる。

長くて黒い何かを私へ向けながら。

中の少女はぶつぶつ呟いていた。

>どうして当たらない……

>どうして当たらない……

私は悟った。

>ああ……

>このダンジョンともお別れだね。

>来世では……

>ちゃんとした人間になれますように。

>こんな誰にも知られず、

>ダンジョンを彷徨うだけの人生じゃなくて……

ドォォン!!

―Target Destroyed―

―Leopard 2A6* ― DM53 → Slime―

外伝・完




次回予告


第8章 ― 『謎の人物の過去』


次回は、これまで正体不明だったあの人物の過去に迫る物語となります。


次回の更新予定は、これまでと同様に火曜日の午後を予定しております。


ただし、時差の都合により投稿が遅れる可能性があります。


万が一、更新延期などの問題が発生した場合は、改めてお知らせいたします。


最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。


このような拙いアマチュア作品ではありますが、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。


今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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