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鋼鉄の血 ― 異世界のWar Thunder ―  作者: PGGG1214
第2部:Velindiaの地における対決
17/20

第14章:空の戦い


ここまで長い間、待っていてくださった皆さん、本当にありがとうございます。


このアマチュア作品は、相変わらず仕事のほうも忙しい中で、少しずつ完成へ向けて頑張っています。


今回の章では、主人公が現在使用しているTechnology Treeに関係する、新しい人物が登場します。


その人物や背景を少しでも分かりやすく描くため、いくつかの歴史資料や時事的な出来事を参考にしながら、物語用にアレンジして描写しました。


ただし、以前にも述べた通り――この物語はあくまでフィクションです。


作者自身の思想や意見を代表するものではありません。


また、作中で扱われる一部の出来事についても、Platformの規約に抵触しないよう、必要な範囲で再構成・変更しています。


それから、物語を盛り上げるために使用した**「Do not hurry」**の一部抜粋についても、これが適切なのかまだ自分自身では判断しきれていません。


そのため、**Season 3(つまり、将来的には第17章から)**に入った段階で、これまでの古い文体をほぼ全面的に見直し、よりテンポが速く、緊張感のある文体へ変更していく予定です。


その影響で、章によっては長くなったり、逆に短くなったりするかもしれません。


……まあ、翻訳に使用しているSoftwareの文章表現も、章ごとに完全に統一されるわけではないと思います。


少ない執筆時間の中で、少しずつでも作品を完成へ近づけていけるのは、皆さんからいただく応援が大きな励みになっているからです。


いつも本当にありがとうございます。

ご注意

本章には、フォーラムの規約および掲載方針に従うため、一部の設定・描写を再構成した箇所があります。

また、実在する詩や歌詞に由来する表現については、作品の背景や雰囲気を際立たせる目的で、ごく一部のみを引用・抜粋しています。特定の個人・団体を意図的に扱うものではなく、著作権その他の権利を侵害する意図も一切ありません。

なお、歴史上の出来事を一部想起させる描写については、あくまで本作品の登場人物や物語を演出するためのフィクション上の表現です。実際の歴史や現在の情勢を包括的に描写・代表するものではなく、作者自身の現実に対する政治的・社会的な見解を示すものでもありません。


第一部:新たな身分

翌日の早朝。Erikaが昨日休んでいた町にて。

平坦で、離陸するには十分な広さを持つ街道。その上に、鉄十字の紋章を掲げた戦闘機が、一匹の魔獣のように召喚されていた。

ただし、この「魔獣」には意思がない。

あるのは、Erikaの命令に対する絶対的な服従だけだった。

速度計が午前6時を示した、その瞬間――戦闘機は離陸を開始した。

ブロロロ……ウゥゥゥゥゥ……シュッ――

エンジン音が空間を切り裂く。

外から見れば、それはまるで鳥の影のような姿をしている。しかし、この鳥は少しばかり奇妙だった。

鳥とは似ても似つかない音を発している。

それはエンジンの音。

この土地では、まだ何かを空へ飛ばすために使われたことのない技術だった。

Erikaにとって、狩りの新しい一日が始まった。

昨夜、無線機を通して受信した信号。

それによって、今日こそ「彼」を探し出せる可能性は少し高まっていた。

――空の上・獲物を追う追跡者

朝の風と夜明けの光が、白い雲を巻き上げていく。

青く澄んだ空が、Voldaの町全体を覆っていた。

高度計が650~700メートルを示す高度で、Messerschmitt Bf 109 G-6が静かに空を滑っていた。

三枚羽根のプロペラが回転し、その奥ではDaimler-Benz DB-605AM液冷V型12気筒エンジンが低く唸っている。

その音は、金属質で重々しい旋律を奏でていた。

機体に描かれた鉄十字の紋章が、雲の隙間から差し込む朝日に照らされるたび、鋭く光を反射する。

鳥に似ている――そう表現するには、あまりにも違いすぎる。

むしろ、中型の竜。

この世界でいうWyvern――第III級。

かなり珍しい存在であり、飛行騎兵用として飼育されることもある。

だが、もしこの怪物と野生で遭遇したならば――待っているのは、その腹の中で命を終える未来だけだ。

Erikaは操縦席で背筋を伸ばして座っていた。

彼女の視線が、木々に遮られた下方の街道へと流れる。

そして手元の紙に、今日捜索すべき場所を書き込んだ。

――Volda――

――Grenmark中央交易都市――

――港湾地区――

書き終えると、彼女は三つの地点を魔法の地図へと記録した。

それは羊皮紙に薄いRuneの層を施した特殊な地図だった。

複雑なレーダー装置も、周囲を探知するための魔法も必要ない。

魔力さえあれば作動し、空間上の位置を地図へ自動的に反映する。

赤い点が半径10キロ以内にある対象地点を自動的に表示する仕組みだ。

「今日は三回の巡回飛行で、彼を探す。

まずはVolda。昨日、奇妙な信号が確認された場所。

二つ目は東側。大きな港と補助港――海路から逃げた可能性もある。

最後はGrenmark中央交易都市。Velindia中央地域の物流拠点。

さて……この獣が空を飛び続け、お前が一度でも隙を見せれば、百の破片に変えてしまう状況に……どこまで耐えられるか、見せてもらおう」

機体はVoldaの町の上空を旋回した。

その後、ゆっくりと西へ機首を向ける。

飛行中、Erikaは左側に整然と置かれたメモへ視線を移した。

そこには、彼女が長い間追い続けている男――Cyran Yilfenの特徴が記されていた。

彼は、彼女がこれまで探し続けてきた「未知の力」に関する情報を握っている人物だ。

――単独行動を好む。知能は一般人よりやや高い。声はRuneを通して発せられているように聞こえる。

――魔術的な混血要素を持たない鉄の機械。既存のものとは異なる存在であり、原型と考えられる。

回収した個体は1体。現在、調査中。

――以前、あるGroupに所属していた。おそらく冒険者Guild。Dungeonの偵察権限を持っていた可能性がある。

何らかの方法で、機械の操作能力と召喚能力を隠している。

――論理分析:戦闘経験を積んだ熟練者。

12年前、Edhenで追跡されていた人物――「謎の異邦人」との特徴に類似。

――年齢:19~20歳。

場合によっては、さらに1~2歳ほど上、あるいは下の可能性あり。

ヴゥゥゥゥゥゥ……

「昨日、信号が確認された地点には……反応なし。

なら、そのままGrenmarkへ向かう」

プロペラが唸り、風を切り裂く。

Bf-109は速度を上げながら、ゆったりとGrenmark中央交易都市へ向かっていった。

その後方には、雲の上に薄い黒い航跡だけが残されていた。

________________________________________

Voldaの下――町外れの訓練場

「これは……訓練なのか?」

町の外にある訓練場。

その片隅に建てられた、今にも崩れそうな小さな倉庫の中で、Elira、Darios、そしてAlvenの三人は地面に伏せていた。

偵察機が飛び去っていく音を聞き、三人はようやく安堵の息を吐いた。

昨日、YilfenがEliraとDariosへ説明した機械。

それが近隣の第II級魔獣区域を攻撃した際、二人はその危険性を目の当たりにしていた。

そして今日は、病から回復したAlvenも彼らに加わっていた。

かつての「機械」にまつわる嫌な記憶はいったん脇へ置く。

Yilfenからの提案を受け、Alvenは戦車兵の一員となるための訓練に参加することになった。

初めて、乾いた葉に覆われたT-80BVMを見たとき。

履帯には泥が付着していたものの、すでに清掃され、数か月間その場で待機していた。

Edhenで見たときほど恐ろしい「獣」には、もう見えなかった。

それはまったく別のものだった。

ただ、自分が手懐けるのを待っている。

そして、このVoldaの町を守るために。

しばらくして、三人は今日の訓練を再開した。

Eliraが身を低くしたまま、わずかに震える腕を抱える。

「本当に……あの咆哮はWyvern並みにひどいわ。

あの第II級魔獣たちを粉々にしたときの轟音なんて……言葉では表現できない」

Dariosが眉をひそめる。

「まったく悪夢そのものですよ、隊長。

あの咆哮を聞いただけでも、俺は怖くなります」

Alvenはようやく息を止めるのをやめ、這うようにして立ち上がった。

「初日からこんなに危険なのか……。

いったい、Yilfenという人は誰に恨まれるようなことをしたんだ?」

その瞬間。

ブゥゥゥン……

Alvenの耳元で、羽音が響いた。

彼は反射的に飛び上がり――すぐに地面へ伏せ直した。

まるで「あいつが戻ってきた」とでも言うように。

「あ……戻ってきたのか!?」

かつて訓練を受けていた者としての本能は鋭かった。

だが、EliraやDariosほどの経験がなければ――一匹の蚊ですら、十分に警戒対象になってしまう。

EliraとDariosは、その姿を見て小さく笑った。

途切れ途切れの笑い声が漏れる。

「蚊よ。今、あなたの耳のところで血を吸ってるわよ!」

Eliraが笑う。

「次にまた地面へ伏せたら、その原因はそいつですね」

Dariosも腹を抱えて笑いをこらえられない。

Alvenは恥ずかしそうに耳を擦り、蚊を叩き落とすために何度も耳元を叩いた。

パン、パン。

その間にEliraはこっそりDariosの脇腹を軽く蹴る。

三人は再び口を閉ざし、機械に気づかれないように音を抑えた。

T-80BVMは、今日もそこにいた。

新兵Alvenの、最初の訓練の日とともに。

その小さな滑稽な一幕は、若い元兵士と傭兵たちの間に芽生え始めた親しさを象徴していた。

それでも、頭上には危機がぶら下がったままだった。

________________________________________

一方、YilfenはGrenmark中央交易都市からわずか10キロの地点にいた。

しかし、周囲を警戒していた彼の耳には――聞きたくなかった音が、かすかに届いていた。

「……来た」

T-34は茂みの脇で停止した。

Yilfenはエンジンを切り、息を殺す。

そしてCelesへ告げた。

「外へ出て観察しよう。

『あれ』が何なのか確認する」

Celesは少し迷ったものの、頷いた。

Yilfenが先に車外へ降りる。

履帯のすぐ後ろで立ち止まり、キー「I」を押してエンジンを完全に停止させた。

午後の風が吹き抜ける。

その向こうから、エンジン音が徐々に近づいてくる。

Celesも車外へ出て、ゆっくりと空を見上げた。

そこには、轟音を響かせる何かがいた。

「茂みの後ろに隠れて、慎重に観察する」

Yilfenの指示に従い、二人は車両から距離を取り、空を見上げた。

ヴゥゥゥゥゥゥ……ウゥゥゥゥゥゥ……

昨日から泥と数本の枝を使って偽装されていた車体。

さらに緑色の塗装も施されている。

そのため、空からでは非常に発見しにくい。

――熱線映像でもない限り。

二人は、上空を巡回する機械が何度か旋回するのを見つめていた。

そして、それは南へ向かって飛び去っていった。

「Grenmark付近に異常なし。

明日は特殊な暗視照準器を追加しなければ。

効果があるかは分からないけれど……少なくとも、探すべきものの位置を特定できるはず」

Erikaは東へ視線を向ける。

そして機体を翻し、港の方向へ飛び去っていった。

YilfenとCelesは、ようやく息を吐いた。

だが、危険はまだ終わっていない。

今やるべきことは――Grenmark中央交易都市へ入り込むこと。

そこまで到達して初めて、Erikaの追跡から逃れられる可能性が生まれる。

「あれは……鷲にも見えない。

Wyvernにも似ていない。

本当に……恐ろしい」

Celesは、先ほど飛び去った存在を思い出し、不安そうな表情を浮かべた。

Yilfenはただ手を伸ばし、大きく欠伸をする。

そして、昼へと移り始めた空を見上げた。

携帯電話の時計は午前9時15分を示している。

Yilfenにとって、これは見慣れた光景だった。

数え切れないほどの空戦をゲームで経験してきた彼には、一目見ただけで分かる。

百パーセント、ドイツ技術ツリーに属する航空機。

その特徴的な形状からして、Bf-109系である可能性が高い。

ただし、どの型なのかまでは分からない。

そう考えていると、CelesはYilfenの目に宿るものが普通とは違うことに気づいた。

恐怖ではない。

慎重さ。

そして、冷静な分析。

「先へ進もう。

もう行ったみたいだ」

Yilfenはそう言い、Eが離れていったのを確認してから、Celesへ隠れていた場所を出るよう合図した。

二人は再びT-34へ乗り込み、Grenmark中央交易都市へ向かった。

________________________________________

9時48分――Grenmarkまで5キロ

冬の日差しでは、冷気を完全に追い払うことはできない。

空は青く澄み渡っていた。

だが、あと数日もすれば北から雪混じりの雨と寒波が押し寄せ、中央地域全体を覆うことになる。

森の中、街からそう遠くない丘の上。

Yilfenは、長い間使われていない広い検問所がある三叉路を監視していた。

一方、Celesは周囲を歩き回りながらGrenmarkへ向かうルートを確認している。

彼女が悩んでいたのは――どうやって、Edhenから生き残った人間だと悟られずに都市へ入るかだった。

「(この車両をそのまま都市へ入れたら、高確率でGrenmarkの兵士に拘束される。

それに、古い身分証も問題になる。

Edhenから来た人間は常に警戒され、厳しい検査を受けることになる。

こういう状況でも、私とYilfenの間にはすでに信頼関係がある。

もし身分を変えるのなら……完全に別人として作り直さなければ)」

そのとき――

――通知:ミッション報酬を受け取ってください――

Laptopから音が鳴った。

Yilfenは監視中だったため驚き、慌ててLaptopを取り出す。

VRシステムが一時的に停止し、Laptop上のインターフェースが起動した。

しかし、これまでと同じだった。

ゲーム画面以外の場所へは移動できない。

ゲームソフトそのものから脱出することもできなかった。

――Edhen脱出成功ミッション報酬:

ゲームバージョンを10/2020から次のバージョンへ強制アップグレードします。

次のバージョンは未確定。

数時間以内に追加システムを実装します。

アップデート完了後、追加報酬が発生します。――

「数時間後だと?

早すぎる……いや、むしろ今このタイミングなのか。

……まさか、誰かが意図的に仕組んでいるのか?」

さらにシステムから通知が届いた。

このメッセージを読めるのは、Yilfenだけだった。

――時間:不確定。通常より長くなる場合、または短くなる場合があります。

アップデート中、システムは停止します。

すべての機能はManual(手動)状態へ移行します。

そのため、Inventory内のアイテム――Backup Vehicleなどは事前に召喚可能です。

また、Backup発動時にAIによって制御されるシミュレート乗員システムも統合されます。

(Backup起動前に事前インストール済み)

「……アップデート完了時間がない?」

Yilfenの顔が引きつる。

「これじゃGaming Laptopが、ただの鉄の塊になるのと変わらないじゃないか……」

自分を救ってきたものが使えなくなる。

Yilfenが不安を抱いていると、さらに一通のメッセージが届いた。

――同時に、いくつかのヒントを追加します。

次のミッション:Grenmark中央交易都市。

中央交易都市付近の酒場内部から手掛かりを探してください。

メインストーリー目標:更新中。

ゲームバージョンのアップグレードを伴うため、安全上の理由からゲームを保存したデバイスを携帯しないことを推奨します。

アップデート完了後、システムは携帯端末へメッセージを送信します。――

「メインストーリーまであるのか?

つまり……ストーリーに沿ってプレイしろってことか?」

Yilfenは、この仕組みがあまり好きではなかった。

自由こそが、彼の望むものだった。

何かに縛られることではない。

ましてや――ゲームそのものが改変されてしまった今となっては。

しかし、通知はさらに続いた。

――訂正します。

メインストーリーミッションは、あなたが故郷へ帰還したいという意思から形成された目標です。

この世界から早期に離脱したい場合、指示に従って行動する必要があります。

最終的な決定権は、あなたにあります。――

「この世界から……離れる。

そのためには、これに従えってことか?」

Yilfenは、続いて表示されたヒントを読み始めた。

――次のヒント:

Grenmark中央交易都市へ安全に侵入し、手掛かりへ接近するためには、外見を変更してください。

異常な物品を所持した状態で出現してはいけません。

また、古い身分証を破棄するかどうかを選択してください。

身分証を破棄するか否かによって、その後のルートが決定されます。

繰り返し警告します。

このゲームは再構築され、プレイヤーが容易に決断できるよう、ガイドミッションが追加されています。

現在、戦闘機を操縦する追跡者に追われている状況を考慮し、システムは空中で撃墜することを推奨します。――

=Pip. アップデートのカウントダウンを開始します。

開始まで:2時間。

アップデート中、Devは一切の情報に応答しません。=

「冗談……だろ?」

Yilfenは呆れたように呟いた。

「このゲームシステム……ただでさえ難しいのに、説明が大雑把すぎる。

どうやって空中で撃墜しろっていうんだ?

遠隔で車両を操縦することもできない。

一つ間違えれば、こっちが死ぬだけだ……」

彼の脳裏に、とある有名Streamerの言葉が響いた。

「……犬にチェスをやらせるようなもんだろ……」

Yilfenは小さく愚痴をこぼす。

声には出さず、ただため息をついた。

2時間後にはゲームシステムのアップデートが始まる。

そして同時に――自動操縦とMinimapのサポートも失われる。

________________________________________

その頃。

Celesは周囲の高所を一つずつ移動し、街道の状況を確認していた。

二人がいる場所は三叉路の近く。

そこには、古い石造りの大きな兵士用監視小屋があった。

長い間放棄されているらしい。

幸い、この数時間、この街道を通る者は誰もいなかった。

T-34もその場で命令を待っている。

Celesは三叉路近くの監視小屋まで移動し、周囲が安全であることを確認した。

人影はない。

彼女は丘へ戻り、Yilfenへ報告しようとした。

だが、そこで見た。

Yilfenが、例の「禁断の石板」を不快そうな目で見つめている。

何とも言えない表情だった。

Celesは彼のそばまで歩み寄り、声をかける。

「三叉路にある石造りの監視小屋を確認しました。

中は十分に広く、この機械を隠すこともできます。

都市へ入る方法を考える前に、まずはあそこへ一時的に移動するのがいいと思います」

Yilfenは不機嫌そうな表情をやめ、Celesへ振り返った。

そして、ゆっくりと落ち着きを取り戻す。

「分かった。

まずはあそこへ隠れよう。

それから、今日の午後に都市へ入る方法を考える。

……彼女がまたこの辺りを狩りに来る前に」

________________________________________

石造りの監視小屋――Grenmark中央交易都市まで約5キロ・正午

T-34は、ちょうど小屋の内部へ収まった。

Yilfenは、アップデートによって消える前にMinimap上のルートを紙へ書き写していた。

そこには、Earthで使われている言語による簡単なメモも追加されている。

一方、Celesは都市へ入る前に、自分の荷物をもう一度確認していた。

彼女のバッグの中には、数着の衣服。

かつてGuild Masterだった頃、偵察任務のために用意していた偽造身分証が2枚。

一本の剣。

本物の身分証。

そして少量の保存食。

荷物を確認し終えると、彼女は新しい服――一般市民の服へ着替える準備を始めた。

その後、Yilfenが何を持っていくのかを確認するため、彼のそばへ向かった。

「あなたは、何を持っていくつもり?」

「外見をほぼ全部変える。

新しい身分に合わせるために」

Yilfenはそう言いながら、Game Inventoryから外へ出せる物品を一つずつ整理した。

残ったのは――

Backup:2

――BTR-152A(Anti-Air)*

――All Vehicles*

――Backup Air Rank III All Vehicles――

――確認:Backup CardおよびBackup CardをすべてInventoryから取り出します。――*

――成功。

――Backpack内のItemを確認してください。――

3枚のカードが取り出された。

黄色いカード。

それぞれに明確な記号と分類が記されている。

Yilfenの財布には、14 Goldと250 Silverが残っていた。

必要になれば、それを使って行政庁へ行き、新しい身分証を作ることもできる。

そしてLaptopは持っていけない。

現在アップデート中だからだ。

ここまでシステムの警告に従ってきた判断は、間違っていなかった。

何より重要なのは、都市の内部にある手掛かり。

それが、Eという存在からの追跡を完全に断ち切り、新たなミッションへ進み、故郷へ帰るための道を示してくれる可能性がある。

ガサッ……

Yilfenは一般市民用の服と、度の入っていない偽眼鏡を用意した。

それを整理済みのバッグの横へ置く。

同時に、指示に従ってT-34の同軸DT機関銃を取り外した。

布と包帯で厳重に包み、63発入りの弾薬箱を二つ添える。

その間、Celesも人目につかない場所で一般市民の服へ着替えていた。

準備を終えたYilfenはT-34を見つめる。

そして――

「Cyran Yilfen」

と記された身分証を手に取り、車内へ投げ入れた。

車内にはすでに、Edhenで使っていた私物がいくつか置かれている。

Celesから受け取ったネックレス。

そして、閉じた状態のLaptop。

Celesは、その行動の意味が分からず、彼へ問いかけた。

「その身分証とペンダントを置いていくの?

それに……この機械も?」

「ほかに何かあるか?

あるなら、ここへ入れていい」

Yilfenは続ける。

「俺たちは、Edhenから持ってきた物をこの機械と一緒に置いていく。

それと、俺のあの大きな石板もだ。

今はもう使えない」

彼は少し間を置いた。

「今の状況では、異質な人間やEdhenから来た者は、すぐに目をつけられる。

いつ捕まって尋問されてもおかしくない。

俺は、二人とも面倒事に巻き込まれたくない」

そして、あの石板が再起動する前に警告してきた内容を思い出す。

「この中央交易都市の警備を抜けるには、そうする必要があるって、あの石板に警告されたんだ」

CelesもYilfenの意図を理解した。

彼女は自分のバッグを砲塔内部へ置く。

そして、YilfenのLaptopが入った医療用バッグの隣へ、荷物をきれいに整理して収めた。

ガンッ。

砲塔ハッチが閉じる大きな音が響いた。

Celesは車両から降り、Yilfenを見ながら言った。

「私もそう思う。

この中央交易都市は、その機械を歓迎しないでしょうね。

古い身分証も同じ。

ちょうど偽造したものが二枚あるから、それを利用して新しい身分を作れるかもしれない」

そう言って、CelesはYilfenへ一枚の身分証を渡した。

Rune Coreはすでに失われている。

それでも、表面には文字が刻まれていた。

ただし、Yilfenにはそこに書かれている名前までは分からなかった。

「分かった。

じゃあ、この先は二人とも歩いて行こう。

……その前に、誰にも見られていないうちに、この機械を完全に隠しておかないとな」

Yilfenはそう言った。


第二部:生き残る術を学ぶ

携帯電話の時計が、午後1時を指した。

街道の三叉路に広がる、低く痩せた森。

そこには、かつて森林監視所として使われていた石造りの見張り小屋が、まるで歴史そのものから身を隠すかのように、ひっそりと残っていた。

木造の屋根は半ば崩れ落ち、昇降用の階段は折れている。

冬に備えて積まれていた薪もとっくに腐り果て、厚く積もった埃と、腐葉の間に混じった小さな獣の骨だけが残されていた。

上階部分は風雨によって大きく朽ちていたものの、下の部屋だけはほぼ原形を保っている。

二人の男女は一般市民の服装へと着替え、石床の上に丁寧に停めていたT-34を隠す作業を終えようとしていた。

車体には防水布をかぶせ、その上から泥を重ね、さらに石を積み上げて偽装する。

履帯の跡も埋めた。

かつて車両を入れるために開いていた監視所の壁も、泥と朽ち木で塞いだ。

遠目から見れば、ただの古びた廃墟にしか見えない。

「とりあえず、荷物はここに置いておこう……少なくとも、誰かに気づかれることはないだろ」

Yilfenは小さく呟き、度の入っていない眼鏡をかける。

肩には荷物の入ったBackpack。

携帯電話はSilent Modeにしてある。

そして手には、布で厳重に包んだDP機関銃。

服装も、国境地帯から移住してきた一般市民の男を思わせるものにしていた。

Celesも一般市民の女性らしい服装へ着替えていた。

小屋の入口を埋める作業をしたせいで服には少し汚れがつき、まるで避難民の一人にしか見えない。

護身用の剣を手にし、荷物も別の地域から移住してきた旅人を装うように整えていた。

あとは出発の合図を待つだけだった。

Celesは、死の地から二人を連れ出してくれた機械が、泥と朽ちた木の壁の向こうへ隠されていく様子を見つめていた。

そこには、旧Guild Houseに残されていた古い品々や、そこで暮らしていた人々の思い出の品も一緒に置かれている。

胸の内に湧き上がる感情は、簡単には言い表せなかった。

ヴゥゥゥゥゥゥ……

「隠れて。……また来た」

Yilfenが隣のCelesへ合図する。

またしても聞こえてきた、空から響く耳障りな音。

Erikaによる二度目の巡回飛行だった。

二人は塞いだばかりの石造りの小屋の陰へ身を伏せ、周囲の様子を窺う。

ドドドドドド……

ヒュォォォォ……

およそ1マイル先。

また一つ、Monster Grade Iの群れが消えていった。

聞こえてくるのは、操縦席にいるErikaの苛立った声だけだった。

「またGrade Iの魔獣……。

無線信号から妙な反応がずっと出ている。しかも、この辺りが最も強い。

彼が本当に近くにいるのかどうか、まだ断定できない。

でも逆に言えば……彼がこの周辺を離れていないことも確認できる。

昨日、南で確認された反応は、やっぱり囮だった可能性が高い。

残るのは港とGrenmarkだけ……」

ヒュウゥゥゥゥゥ……

やがてその音が遠ざかる。

Yilfenはようやく息を整え、Celesへ声をかけた。

「行こう。

また戻ってくる前に」

________________________________________

Grenmark中央交易都市

北方へ続く街道と北西方面の路線。

さらに中央地域の主要港と副港を結び、Edhen方面とも交差する交通の要所。

その中心に位置するのが、Grenmark中央交易都市だった。

都市の周囲はおよそ2キロ。

人口こそ多くはないものの、Velindiaにとって重要な中継地点である。

青緑色の苔に覆われた古い城壁は、数百年前に築かれたものだという歴史を物語っていた。

しかし今、その城壁の前には、長い避難民の列ができている。

その多くはEdhen周辺の村々から逃れてきた人々だった。

一部には、自由に活動する冒険者や、北方へ向かう商隊まで混じっている。

駅を通るはずだった者たちも、混乱に巻き込まれ、Grenmarkの通行許可が下りるまで列に並ぶしかなかった。

長く続く人々の列。

泣き声。

空腹に耐えられず、街道脇で命を落とす者。

冷たい空気の中、それらを目にした誰もが怯えていた。

「止まれ! 身分証明書か通行証を提出しろ。どこから来た?」

「お願いです、兵士様。

私たちはEdhenの外縁部から来た住民です。

あてもなく避難して、ここまで来ました。

どうか、避難民として都市の中へ入れてください。

書類は……途中で失くしてしまいました」

四人家族が呼び止められ、検査を受けていた。

異常物品を確認するため、魔術師も追加されている。

一通り身体検査が行われた後、男の服の中から一個のRune Stoneが見つかった。

それは旧Edhen Merchant Guildに所属していた証だった。

どうにか都市を脱出できた生存者だと判明し、すぐに衛兵へ報告される。

「あの男……Edhenの生存者です。

服の中からRune Stoneが出ました。

正体が露見した可能性があります。

四人とも拘束を推奨します」

衛兵は小さく頷いた。

数分後。

四人は顔を覆われ、そのまま牢獄へ連行された。

「う……うぅ……」

「牢へ連れていけ。

Security Councilの尋問を待て」

「了解!」

ドサッ、ドサッ、ドサッ。

衛兵の一人が、周囲の避難民へ向かって声を張り上げた。

「よく聞け、移民ども!

Edhenの内部から来た者、あるいはEdhenから生還した者が申告せずに侵入すれば――待っているのは同じ結末だ!」

避難民が捕らえられる様子を見て、列全体がざわめき始める。

何人かは危険を感じて逃げようとした。

だが、すぐに周囲へ潜んでいた兵士たちに捕らえられた。

彼らは、帝国の名誉を傷つけようとする勢力にとっても、他国の諜報員にとっても格好の標的だった。

VelindiaのSecurity Councilは情報を可能な限り封鎖しようとしていた。

その裏で、別の者たちは混乱に紛れて潜入し、情報を持ち出そうとしていた。

________________________________________

YilfenとCelesも、ついに夕方の通行待ちの列へ加わった。

城壁の下には何百人もの人々が並んでいる。

避難民。

旅商人。

失業した傭兵。

そして、身元のはっきりしない者たち。

誰もが疲れ切った目をしていた。

半分は恐怖。

もう半分は周囲を探るような警戒。

門の奥から、短い警笛が響いた。

通行受付の終了時間が近づいている合図だった。

「最初に言っていた通りにやれば……いいんだよな?」

YilfenがCelesへ確認する。

かつてGuild MasterだったCelesは、冒険者を装って都市外の広い地域を偵察した経験があった。

今回の潜入計画。

一般市民の服。

偽造した身分証。

そのすべてをCelesが準備していた。

「私の言う通りにすれば大丈夫。

国境地域から新天地へ移住してきた夫婦を装うの。

Guild Masterをしていた頃、そういう人たちを何度も見てきたわ。

Velindiaは国境地域の住民を優先する政策が多いから、少しは通りやすいはず」

「ああ……でも、俺は嘘や演技が得意ってわけじゃない。

だから……この辺りは手伝ってくれないか?」

Yilfenは、今日最後の審査を待つ人々の列の中で、小声で答えた。

「大丈夫。

私に合わせてくれればいいわ」

Celesがそう答える。

遠くから、まだ偵察機の音が微かに聞こえていた。

Erikaの、この日三度目の巡回だった。

兵士たちに追い払われた避難民の多くは、すでに別の方向へ移動していた。

最後の通行許可を求める人々の列の中で、Celesは自らYilfenの手を握った。

Yilfenは少しだけ顔を赤くする。

Earthにいた頃、彼には好きな女性すらいなかった。

この手を握るという行為は、単なる潜入のためではない。

それは二人の間に生まれた信頼の証でもあった。

かつては一人だった二人。

しかし今、状況がそれを許さない。

互いに支え合い、この先の試練へ向き合わなければならない。

一時間以上も列に並んだ後、衛兵たちが人々を急かし始める。

「最後尾! 急げ!

まもなく通行禁止時刻になるぞ!」

門番が怒鳴る。

それでも遠くには、なんとか中へ入ろうとする人々が残っていた。

夕日が徐々に沈んでいく。

その向こうにGrenmark中央交易都市が姿を現した。

まるで煙と埃の中に隠された要塞だった。

巨大な城壁。

長い年月によって黒ずんだ石。

ところどころを覆う苔。

そして、過去の虐殺の痕跡を思わせる灰と煤の匂い。

空には冬の厚い雨雲が何層にも重なっていた。

冷たい風が街の隙間を吹き抜け、低い唸り声のような音を響かせる。

それが自然の音なのか。

それとも――大地の奥で、まだ眠りについていない何かの残響なのか。

誰にも分からなかった。

門では鋳造鉄の鎧を身にまとった兵士たちが、外套を羽織り、剣と槍を携えて一組ずつ人々を検査している。

夕方になっても、最後の列は検査装置を通り続けていた。

魔術師が一人ずつ魔力を確認し、異常な兆候があれば、その場で止められる。

そして、午後の初めに捕らえられた四人と同じように、牢獄へ連行される。

「新規住民。

書類と通行証を提出。

氏名を読み上げろ」

ついに、YilfenとCelesの番が来た。

今日最後の数組の一人だった。

二人より前にも、なんとか列に残ろうとした者たちはいたが、拒否されるか、逃げるしかなかった。

二人はCelesが用意した偽造身分証を門番へ差し出す。

隣では魔術師が、不自然な魔力や異常な反応を探っていた。

「Mira Kellan――職業、Rune Engraver。

Sa Glen出身。Gemanとの国境地域だな。

そして、一緒にいるのは……?」

門番が尋ねる。

「私の夫です」

Celesは即座に答え、Yilfenの手を強く握った。

「名前は?」

「……Erick Bren。

自由業です」

Yilfenは目を逸らさなかった。

事前にCelesと打ち合わせていた通りだった。

兵士は、Rune Coreを失った二枚の身分証をしばらく見つめる。

そして魔術師へ問いかけた。

「魔術師、問題ないか?」

「正常です。

異常はありません。

男性の身につけている装飾品も、ごく弱い魔力を発しているだけです。

おそらく基本的な翻訳用宝玉でしょう。

国境地域の住民と思われます」

門番は眉をひそめた。

灰色の目がYilfenとCelesの顔を素早く往復する。

少し乱れた二人の髪。

首元に見える青いRune Bracelet。

布に包まれた棒状の物体と剣。

背負ったBackpack。

埃で汚れた移民風の服装。

そして、まるで夫婦のように握られた二人の手。

それらを一つずつ確認していく。

男はまだ少し疑っていた。

その瞬間、Yilfenは兵士の手へ金貨を一枚滑らせ、小声で言った。

「どうか……お手柔らかに。

こちらは国境の人間なので……少しばかり故郷からの贈り物です。

別の町へ仕事を探しに向かっていたところ、偶然避難民の流れに巻き込まれて、ここへ来ました」

門番は密かに金貨を受け取り、ポケットへしまった。

だが、それだけでは足りない。

隣には魔術師がいる。

Yilfenはもう一枚、金貨を渡した。

ようやく兵士が小さく頷いた。

赤い封蝋印が通行許可書へ押され、二人の身分証にも取り付けられる。

そして手で中へ進むよう合図した。

「入れ。

明日、必ず行政庁へ行って新しい身分証を作れ。

明日の夜までに手続きを済ませろ。

ここの規則には厳密に従うこと。

異常が確認されれば、今日の午後に捕らえた四人と同じように牢へ入れるぞ」

兵士が手を振った。

二人は素早く城内へ入る。

外では、残された避難民たちがただ二人の背中を見つめるしかなかった。

「次!

今日最後の者!」

門番の声が再び響く。

誰も安堵の息を吐かなかった。

ただ、遠くから聞こえる足音だけが、静かに、そしてせわしなく響いていた。

CelesはYilfenの手をさらに強く握る。

そして初めて、Yilfenはその手に、自分がこれまで知らなかった感触を感じた。

温かさ。

そして、どこか矛盾した感情。

「避難民なら、普通は大した財産なんて持っていない。

だから金を持っていることが分かれば、俺たちがEdhenから逃げてきた住民ではないと証明できる」

城門から離れ、最初の建物が並ぶ通りへ入ったところで、YilfenがCelesへ話した。

「私たち……通り抜けたのね。

ありがとう」

Celesは小さく答えた。

いつの間にか、Yilfenへの呼び方が変わっていた。

かつてのように距離を置いた呼び方ではなくなっている。

彼女は、今回のような事態に備えてもっと多くの金を用意しておけばよかったと悔やんだ。

稼いだ金のほとんどは家へ送ってある。

自分の家族の財産を、しばらく弟に管理してもらうための費用として。

「気にしなくていい。

俺の金だけでも、ここで数週間は暮らせる。

それより……その手、もう離してくれないか?

ちょっと痛くなってきた……」

「え……?」

Celesの顔が一気に赤くなる。

慌ててYilfenの手を離した。

「それに、もう夕方だ。

先に泊まる場所を探そう。

明日は手掛かりを集める」

Yilfenがそう促す。

「……分かった」

Celesも小さく頷いた。

しかし、城壁の外だけではない。

城内の兵士も、住民たちも、不安を抱えていた。

あの衝撃的な事件が――次にどこで起こるのか。

誰にも分からないのだから。

________________________________________

午後7時

すべてが徐々に闇へ沈んでいく。

この街のRune LampはEdhenほど明るくない。

それでも、歩くために最低限必要な明かりは確保されていた。

苔に覆われた石畳は滑りやすく、注意しなければ簡単に転んでしまう。

「宿ですか?

安いところを探しているなら、もう一つ先の通りへ行くといい。

商人街に宿泊区画がある。

この都市じゃ一番安い。

近くにはBeer StandとBread Standもあるぞ。

もうしばらく営業しているから、二人とも早めに登録しておけ。

夜になると兵士が毎晩巡回するからな」

「ありがとうございます。気をつけます」

________________________________________

商人街 ― Grenmark中央交易都市

チリンチリン。

「いらっしゃいませ。

お客様、お部屋をお探しですか?」

「Single Roomを2部屋、借りられますか?」

Celesが尋ねる。

宿を借りる経験がある彼女は、こうした交渉には慣れていた。

「確認いたします」

受付係が台帳をめくる。

「Single Roomは一日20 Silverです。

ですが、申し訳ありません。

Single Roomはすべて埋まっております。

Double Roomなら、もっとお安くできます。

一泊15 Silver。

さらに、邪魔をしないサービスや、お二人の仲を深めるために静かな環境をご希望でしたら、追加で数百Coinほど……」

「あ……いや、結構です。

休める場所があれば十分なので……。

これが今夜の宿泊代です……」

チャリン。

Yilfenは金を差し出した。

受付係が先ほどのサービスを口にしたせいで、Celesの顔が真っ赤になっていることには気づいていない。

まるで頭の上から煙が出そうなほどだった。

「あの……お二人のお名前を教えていただけますか?

少なくとも身分証は必要です」

「Mira Kellan。私の名前です。

そして隣が私の夫、Erick Bren。

私たちの身分証はRune Coreを失っていて……明日、再発行する予定です」

Celesは身分証を受付係へ渡した。

受付係は簡単に確認する。

Runeを失っているものの、特に問題はないらしい。

すぐに宿泊者名簿へ記録を書き込み、二人へ案内を続けた。

「登録は完了しました。

こちらのスタッフについていってください。

地下1階、Room No.3です。

少し変わった場所ですが……ここの宿泊施設は節約のため、ほとんどが地下に造られています。

冬になると、建物や上階の住民へ蒸気を送るボイラー配管が通っているためです。

必要なものはすべて準備していますので、ご安心ください」

「食事もお願いできますか?

今日は何も食べていないんです」

Yilfenが答える。

新しい名前を頭の中で繰り返しながら、同時に空腹も感じていた。

「はい、Bren様。

追加で8 Silverいただければ、お二人分の夕食をご用意いたします」

Yilfenは8 Silverを追加で支払い、食事を注文する。

それから二人は受付係の案内で宿へ向かった。

地下へ続く廊下。

湿った天井。

滴る小さなOil Lamp。

暖炉はない。

ただ、ボイラーから伝わる熱だけが、夜の寒さを和らげていた。

「こちらがお二人のお部屋です。

失礼いたします。

食事が届きましたら、三回ノックいたします」

バタン。

二人は部屋へ入った。

室内を照らすのはOil Lampと小さなRune Stone。

そこには二つのベッド。

枕。

毛布。

外を包み込む冬の寒さに耐えるには十分だった。

受付係が説明した通り、この宿は地下に造られている。

ボイラーから伸びる温水配管が熱を放つことで、冬でも地下の温度はある程度快適に保たれている。

少なくとも、分厚い服を着込まなくても済む程度には暖かかった。

廊下の奥には共同のBathとRestroomがある。

だが、この寒さでは風呂に入らないことも、二人にとっては仕方のない節約だった。

「食事が来たら、俺が取りに行く。

ああ……そういえば、俺たちの名前も変わったんだな。

君はMira Kellan。

俺はErick Bren」

「この都市では、その名前で呼び合うべきね。

これが私たちの新しい身分。

明日、行政庁へ行って身分証を作り直すときも、私があなたの記入を手伝うわ。

それから……ハサミを持ってる?

少し必要なの」

「ある。

荷物の中に入れてある。

少し待ってくれ」

Bren――YilfenがGrenmark中央交易都市で名乗る仮の名前。

彼は、亡くなった鍛冶職人Brellが作ったハサミを取り出し、Mira――Celesの仮名――へ渡した。

Celesは受け取ると、自分の長いオレンジがかった金髪を、その刃へ近づける。

Yilfenは、彼女が何をするつもりなのか理解した瞬間、思わず声を上げた。

「君、それ……」

シャッ、シャッ……

Celesは髪を短く切り始めた。

すでに彼女の横には、切り落とした髪を包むための布が敷かれている。

「少し外見を変えるの。

明日は行政庁で立つことになるから。

私は元Guild MasterとしてEdhenでは知られている。

誰かに気づかれたら、私たち二人とも危険になるわ」

誰も何も言わなかった。

Miraは、そのまま髪を短く切り続けた。

そして食事が届くころには、作業を終えていた。

二人は夕食をとった。

BreadにBeef。

そこへ少し辛いSauceが添えられている。

味はYilfenの好みにはあまり合わなかった。

食事を終えた後も、しばらく静かな空気が続く。

やがて二人は互いの新しい名前で呼び合いながら話を始めた。

Miraがベッドの向かい側に座り、Yilfenへ尋ねる。

「あなた……こんな生活を、どれくらい続けてきたの?」

「俺にも分からない。

半年以上……いや、それより長いかもしれない」

Yilfenは隠さなかった。

二人はもう、同じ船に乗っている。

隠す必要もなかった。

「Guild Houseにいた頃、あなたの魔力値を一度見たことがある。

あなたには……魔術の才能がまったくないの?」

Miraはさらに問いかけた。

彼女はもっとYilfenのことを知りたかった。

二人はすでに何度も生死を共にし、まるで長年の仲間のように息を合わせてきた。

それでも最近、彼女の中で芽生えた感情は、少しずつ、そして確実に強くなっていた。

Edhenで起きたことの後、隣にいるこの男は彼女へ希望を与えてくれた。

少なくとも今、二人が夫婦という偽りの身分で同じ部屋にいる状況の中で、彼女はもっと彼のことを知りたかった。

それだけなのに。

心臓は落ち着くことなく、何度も高鳴っていた。

「そうだ。

正確に言うなら……俺にはできない。

それどころか、この世界の言葉を話すことも、文字を書くことも……。

だから、この首にあるBraceletを使わないと会話すらできない。

それでも欠点はあるけどな」

Yilfenが答える。

「文字が読めない……ってこと?」

「まあ、そういうことだ」

Miraは、この問題について深く考えなかった。

そして、さらに尋ねた。

「あなたは、この土地の人間ではないと言っていたわよね。

では、あなたが暮らしていた場所には……綺麗な女の子はいるの?」

Yilfenは隠すことなく答えた。

「それは当然いる。

俺が暮らしていた場所にも、綺麗な女性はいる。

それどころか、俺たちより強い人だっているよ」

「じゃあ……あなたの好きなタイプは?」

Miraが尋ねた。

Oil Lampの淡い光の下。

Yilfenは、どんな言葉を選べばいいのか少し考えた。

まるでMiraの意図に気づいているかのように、彼は静かに答える。

「好きなタイプ……。

今は、いない。

でも、いないというわけでもない。

ただ……その人たちは、俺が置いてきたあの石板と同じように、冷たいガラスの向こう側にいるんだ」

その答えに、Miraは一瞬、気を失ったように気持ちが沈んだ。

今これ以上聞いても、彼は何も答えない。

それが分かった。

「……それじゃ、おやすみ」

Yilfenはそう言ってベッドへ横になり、毛布をかぶると眠りについた。

Miraはそれ以上、何も聞けなかった。

ただ彼が、翌朝の情報収集に備えて眠りへ落ちていくのを見つめていた。

そして彼女も隣のベッドへ横になる。

強いと思っていた自分の心を揺らした男。

その姿が、ゆっくりと深い眠りへ沈んでいく。

二人。

二つのベッド。

新しい身分。

そして――これから始まる、新しい戦い。

________________________________________

翌朝・午前8時

Grenmark内部・酒場

中央地区に近い、低い天井の酒場。

システムのガイドが情報収集の場所として指定した場所だった。

淡い紫色に輝く魔法照明のRune Stoneが、黒い木製のテーブルと苔むした石壁を照らしている。

そこは異様なほど静かだった。

怒鳴り声もない。

笑い声もない。

あるのは、グラス同士が触れ合う音。

低く掠れた、どこか悲しげな囁き。

そして、人を探すための紙をめくる音と、その依頼料を確認する声。

本来なら夜だけ営業する店だった。

しかし、日を追うごとに人が増え続けたため、店は昼間も営業せざるを得なくなっていた。

壁中。

酒場のカウンターの裏。

窓際。

そこら中に、粗末な紙がびっしりと貼り付けられている。

何種類ものインクで、乱雑に書かれた手書きの文字。

――Hanneという母親を探しています。最後に消息が確認されたのはEdhen南門――

――第6護衛隊の情報を知っている者を求む。Edhenへ貨物車列を護衛する任務についていた――

――茶色の髪をした8歳の少女Oparaを探しています。移住の途中で行方不明になりました――

――冒険者Radamtを捜索中。Gold Rank。Edhenで任務に就いて以来、現在まで消息なし――

――現在のEdhenを偵察できる者を求む。報酬は最高額。Edhenへ向かった際に行方不明となった家族を捜索中――

……

酒場いっぱいに貼られた、家族を探すための紙。

ここにあるのはその一部に過ぎなかった。

町の至る所にも、同じような捜索依頼が貼り出されている。

これからさらに増えていく。

移民が増えれば増えるほど。

そして、別の土地から行方不明者を探しに来る家族が増えれば増えるほど。

酒場の中では、何人かの泣き声が響き始めていた。

白い髭を生やした老人が、酒で赤くなった顔を隅の席に伏せている。

彼はグラスを持ち上げ――また置く。

涙が頬を伝って流れ落ちる。

「あんたたち……知ってるか……。

Edhenはもう、死の土地になったんだ。

数日前まで……俺には孫がいた。

その前の朝には、まだ手紙が届いていた……。

Edhenでの商売は順調だ、って。

ここにいる妻へ綺麗な服を送るつもりだ、と……。

それなのに……」

ゴクッ……

老人は飲む。

飲むほど、涙が止まらなくなる。

幼い頃から大切に育ててきた最愛の孫。

もう、いない。

老人の友人も、調査隊から届けられた知らせによって、恐ろしい事実を知っていた。

Manaの突然の爆発によって、Edhen全体が死の土地へ変わったという。

老人の声は震え、手も震えている。

彼は顔を覆った。

誰も口を挟まなかった。

そこへ、長いMustelidの髭を持つBeastmanの商人が、静かに頭を下げ、老人の向かい側へ座った。

彼はその老人の孫と、普段から商売やLetter Communicationを交わしていた人物だった。

別の若い貴族は毛皮の外套を着たまま、懐中時計を握りしめる。

窓の外を見ている。

だが、その目には何も映っていない。

彼もまた、Edhenで妻と子を失ったばかりだった。

別のテーブルでは、店員が黄色いBarley Alcoholの入ったグラスを静かに二つ置いた。

何も言わない。

グラスの縁から立ち上る酒の香りは、凝固した血のように濃い。

壁に埋め込まれたMagic Stoneの明かりでも、人々の顔に張りつく闇を追い払うことはできなかった。

葬送の空気が、湿った布のように、この酒場全体へまとわりついている。

そこにいるのは――

商人。

一般市民。

避難してきた貴族。

Demi-Human。

Beastman。

種族も身分も違う。

それでも、共通するものが一つだけあった。

――誰もがEdhenに家族を残し、その生死を知らない。

新しい客が酒場へ入るたび、一枚の紙が追加される。

踏みつけられた炭の欠片で、急いで乱雑に書かれたものまであった。

そこに書かれていることは、誰にでも分かる。

人探し。

一枚一枚が、時間とともに腐り始める、かすかな希望の痕跡だった。

________________________________________

酒場の隅には、別の男がいた。

擦り切れた古いWool Cloakを身につけた老人。

彼もまた、Edhen周辺の村に住んでいた人間だった。

幸運にも、早い段階で移住していたため、都市の警備を通過できた。

乱れた白髪交じりの髪。

安酒の入ったグラスを前に、身体を震わせている。

顔は酒で真っ赤だった。

それでも、酒よりも強く彼の精神を蝕んでいたのは――あの惨状の記憶だった。

しばらく黙って酒を身体へ染み込ませた後、老人はようやく口を開く。

「ヒック……あんたたち、知ってるか……。

一昨日――Edhenで、とんでもない爆発を見たんだ……。

衝撃波は……もしかしたら、この都市にまで届いたかもしれねぇ……ヒック」

生存者の目撃情報。

それを聞いた周囲の人々は、一斉に耳を傾ける。

もしかしたら、家族が生きているかもしれない。

そんな期待があった。

だが、老人の話を聞き終えた瞬間。

その可能性は、ほとんど消えた。

老人の声は詰まっていた。

酒を握る手が震える。

涙があふれ、白い髭を伝って落ちる。

「俺が見たのは……一筋の光だけだった。

その後に爆発が起きて……全部が消えた。

俺の妻と子供は、瓦礫の下に埋まった。

生き残ったのは俺だけだ。

こうして……ここまで流れ着いた。

妻が死ぬ前に……ヒック……これを北の故郷へ持って帰って、親族へ渡せって……そう言ったんだ……」

酒場が静まり返る。

木の床へ酒が一滴、また一滴と落ちる音だけが響く。

酒場のカウンター近くにいた若い冒険者が、崩れ落ちるように膝をついた。

そして呟く。

「……何を言ってるんだ?

Edhenが……本当に……?

じゃあ、妻は……?

俺の妻と子供はEdhenにいるんだ。

数日後には俺に会いに来るって、手紙にも書いてあった。

それに息子は……ついこの前、新しいブーツを買って、友達に見せるんだって喜んでた……」

別の男も泣き始める。

「そんな……。

妹は……まだ8歳なんだ。

俺が町へ戻って、誕生日を一緒に祝ってくれるのを待っているのに……」

中年の商人が、不安に満ちた声を絞り出す。

「家族を失ったのはあんただけじゃない。

なら、俺が置いてきた商品の代金はどうなる?

宝石も、財産も……全部だぞ。

あれは俺の全財産なんだ……。

Edhenに投資した金まで……神よ……」

そこへ――

一人の中年男が突然、大声を上げた。

「お前たちは何も知らない!

あれは……奴だ。

奴が……戻ってきたんだ!」

その男も、爆発を目撃した一人だった。

震える手を外套の内側へ伸ばし、そこから小さな金属製の物体を取り出す。

そして、それをテーブルの上へ置いた。

カタン。

誰もがそちらへ目を向ける。

それは――

青いMirthilで作られた従者Badge。

12年前、Ramnarsでの大戦に参加したHeroic Knightsの一団。

そのメンバーに属していた者だけが持つことを許された徽章だった。

「その徽章……。

まさか、伝説の『Hero Party』の一員だったっていうのか……?」

「そんな……あり得ない……。

あれは……ただの作り話じゃなかったのか……?」

男は周囲のざわめきを聞き、さらに声を張り上げる。

「もし俺が……12年前の大戦で、Heroたちの従者だったと言ったら――お前たちは信じるか?」

彼は手の中の徽章を見つめた。

「俺は、あの光を知っている。

……見たことがあるんだ。

都市一つを丸ごと消し去った……破壊的な爆発。

Ramnarsのことを知っている者は、この中じゃ少ないだろう。

あそこにはかつて、一つの閉ざされた都市が存在していた」

「Ramnars……?

あのRamnarsか?

伝説じゃなかったのか?」

「Edhenよりも大きかった……繁栄の都市まで……あの爆発に飲み込まれたのか?」

酒場は12年前の事件について一気にざわめき始める。

男はさらに続けた。

「あの時、MaouはHeroたちに討ち取られる寸前、自らを爆発させた。

もし本当に同じものなら……奴は再び転生したということだ。

全人類にとって危険な存在が……戻ってきた。

どういうことだ……。

まさか、この世界は……また終わるのか……」

その言葉が終わった瞬間。

酒場全体が、完全な静寂に包まれた。

誰も反論しない。

誰も言葉を返さない。

何人かはすすり泣き始めた。

別の者たちは顔を伏せる。

それは恐怖だけではなかった。

彼らには分かっていた。

自分たちの希望も――もしかしたら、ここで終わってしまったのだ。

そして、かつてHeroたちの従者だった男の言葉が正しいのなら。

Maouが復活したのなら。

次に危険にさらされるのは、彼ら自身の命なのだから。

________________________________________

酒場の中央にあるいくつかのテーブル。

Edhen外で生き残っていたIron Hand Gangの残党たち。

かつて頑固にも内戦へ参加しようとしていた者たちだった。

彼らはグラスを強く握り、そのまま一気に飲み干す。

そして代金を置き、酒場を後にした。

先頭の男が、残った数人の仲間へ告げる。

「すぐにChancellorへ報告しろ。

Edhenは地図から消えた。

中央地域の外に散らばっている残存部隊を再集結させる。

撤退命令を待つんだ」

別の男も立ち上がった。

長いScarf。

深くかぶったHood。

彼は無言で席を立ち、テーブルの上へ数枚のCopper Coinを置いた。

一瓶分の代金には十分な額だ。

そしてその横には、見覚えのある暗号Badge。

彼は、城外に残されたHoly Lance Alliance最後の生存メンバーの一人だった。

男は酒場の客を一人ずつ見回す。

まるで――まだEdhenに住んでいた知り合いが残っていないか確認するように。

「……どうやら、残っているのは俺一人だけらしい。

なら……またFrontlineのPrincessへ知らせる必要があるな」

ゆっくりと酒場を出ていく。

かつて中央地域を支配していた地下勢力は、今や群れから離れた一匹の蛾のようだった。

……

________________________________________

「(ふむ……。

今週はこの都市へ流れ込む人間が一気に増えた。

行方不明者を探す紙も多い。

何かあったのか……?

それとも……いや。

そんなことがあるはずがない。

もう60年以上も経っているんだから……)」

酒場の一番奥。

一人の大柄で、かなり年老いた男が座っていた。

紫色のRune Language Translator Deviceを身につけている。

古びた青いCotton Coat。

背中にはMosin Nagant。

小さなHammer and Sickleの刻印が施されている。

銃には、はっきりと製造年だけが刻まれていた。

1933。

丁寧に整備されているものの、その外見はまるでMuseumに展示されている銃そのものだった。

老人は弱い酒を飲まない。

注文したのは強い酒だけ。

見た目は、60歳近い老人にしか見えない。

しかし、この酒場の中で彼ほど異様な存在はいなかった。

隣には大量のGold Coinが入った袋。

それを見ても、誰一人として手を出そうとはしない。

若い新人のウェイターが、店主へ小声で話しかけた。

「ねえ、あの変な老人、今日も来てますよ」

Bartenderの男は、老人の酒を置きながら答えた。

「ああ。

以前はいつも夜になってから来てた。

そして必ず、あの席に座る。

週末になると、それを10年間ずっと繰り返してるんだ。

最近は店が混みすぎて、夜も早く閉めるようになった。

だから、今くらいの時間に来るようになったんだ。

特にここ数日は、朝か夕方に来ているな。

いつもMonsterから取ったCrystalがぎっしり入った大きな袋を持ってきて、数日後には大量のGold Coinを持ってくる。

誰も触ろうとはしない。

たぶん、かなりのベテラン冒険者だろう」

新人のウェイターは老人を見ながら尋ねる。

「でも、この人……いつも強い酒ばかり飲んでますよね。

大丈夫なんですか?」

「お前は知らないだけだ。

あの飲み方を10年以上続けてるのに、何ともない。

それどころか、昔、あの老人に勝負を挑んで負けた奴が『呪われた男』と呼んだことすらある」

ウェイターはただ感嘆するしかなかった。

10年間も強い酒を飲み続け、それでも健康に生きている。

そんな人間がいるとすれば――呪われているとしか思えない。

________________________________________

一方、その奇妙な老人。

彼はGold Coinの入った袋を抱えながら、小さなノートを取り出した。

そこには、購入する必要のある商品の一覧が書かれている。

「今の状況なら、Magic Stoneの通貨やMonsterから取れたCrystalはかなり多い。

だが、この都市の商品は少しずつ減っている。

もう数日も遅れたら……Townへ持ち帰る品物が揃わないかもしれん」

老人は立ち上がった。

酒はすでに飲み干している。

そして、その場にいた他の客たちが悲しみに沈む中、彼は何気なく輝くGold Coinを一枚置いた。

「釣りはいらん。

次も同じだ。

この酒も相変わらず強い……だが、それでもVodkaには及ばんな」

「ありがとうございます、お客様」

老人はそのまま市場へ向かう。

必要な物を最後まで買い集め、彼が暮らすTownへ戻るための貨物車を準備する。

「まだ足りません、旦那。

もう2~3日ほど待っていただかないと……」

「そうか。

なら、待とう。

その時になったら全部、俺の貨物車へ積め。

Blyat」

Yilfenとはまた別の――

この都市に存在する、もう一人の奇妙な人間だった。

……

________________________________________

Grenmark行政区

BrenとMiraは、GrenmarkのAdministrative Districtへ到着していた。

二人は新しい身分証を作り直すため、順番を待って列に並んでいる。

「次の方。

番号23」

建物の内部。

白い石壁に囲まれた部屋には、古い魔法の光が淡く灯っていた。

人々の列が続く中、室内に暖炉はない。

冷気が漂い、何人かは身体を震わせている。

一人の魔術師が身分確認を監督していた。

低級身分証を検査し、虫眼鏡のような道具で細部まで確認する。

古い身分証の検査が終わり、二人が国境地域の住民であることが確認された。

Celesが大部分の説明を引き受けたこともあり、再発行の手続きは問題なく受理された。

「向こうの3番窓口へ。

身分証の再発行です」

二人は指定された窓口へ移動する。

「どうぞ。

お二人とも、身分証の再発行ですね?

手続きを進めますので、古い身分証を提出してください」

MiraとBrenは身分証を差し出した。

「Mira Kellan――妻。

そしてErick Bern――夫。

お二人とも夫婦で、Gemanとの国境地域の住民……ということで間違いありませんか?」

「はい、その通りです」

「何か証明できるものはありますか?」

「これが私たちのRingです」

二人は指輪を見せる。

「これで大丈夫でしょうか?」

「確認します」

行政職員が二人の指輪を確認する。

実はその前に、CelesはYilfenにも指輪を渡していた。

彼女は薬指へはめるよう指示していたのだ。

だがBrenは彼女の意図に気づいたらしく、口元だけで笑いながら人差し指へはめていた。

女性Guild Master――Celesは何も表情に出さなかった。

だが、顔は少し赤くなっていた。

自分の計画が失敗したことを悟ったからだ。

Bren自身には、それほど深い意味はなかった。

しかし、夫婦用のPair Ringであることさえ分かれば、それで十分だった。

どの指につけているかなど、国境地域の住民にとっては重要ではない。

ただし、生粋のVelindia住民には守るべき風習がある。

夫婦なら、二人とも同じ薬指に指輪をつけなければならない。

幼い頃から教えられている伝統だった。

「確認完了です」

行政職員が告げる。

「30分ほどお待ちください。

お二人の新しい身分証を作成します」

________________________________________

30分後。

二枚の新しい身分証。

そして、二人が夫婦であることを記した婚姻証明書が発行された。

「こちらがお二人の身分証。

そして、こちらが婚姻証明書です。

新しい記録上の姓はMira Kellan–Brenとなります。

都市の外へ出る場合も、都市へ戻る場合も、必要な書類をすべて揃えておいてください」

「ありがとうございます」

二人は新しい身分証を手に、その場を後にした。

Edhenの生存者を探している者たちの目を、かなりうまく避けられる身分だった。

Miraは顔を赤くしたまま歩いている。

一方、Brenは別のことを考えていた。

SystemのGuideに示された、中央の酒場。

そこへ行き、手掛かりを探さなければならない。

「手掛かりは中央の酒場。

でも、日を追うごとに人が増えているから、移動するだけでも大変だな。

……中央市街へ行く道が分からない。

Mira、知ってるか?」

「私も正確には分からないわ。

何度か来たことはあるけれど、毎年少しずつ変わっているから」

Miraは少し考えてから続ける。

「それより、先にこの近くの市場にある古い仕立屋へ行かない?

私、Craft Worker用の服が必要なの。

私の家族はほとんどRuneを使った製造業をしているのに、私は冒険者だった。

でも、Rune Stoneを使った物品のCraftingについては、私もMaster Classの技術を持っている。

あなたは酒場で手掛かり探しを続けて。

私は仕事を探して、生活費を稼ぐ。

そのほうが二人とも動きやすいと思うわ。

それに……」

Miraの顔がさらに赤くなる。

「……私たちは、別人として行動しているんだから。

できるだけ外から注目されないようにしないと……」

Brenは何も言わなかった。

確かに。

金を稼ぐ手段を見つけなければ、そう遠くないうちに、この都市へ長く留まることはできなくなる。

しばらく考えた後、ちょうど市場区域へ入ったところで答えた。

「いいだろ。

何事も一人より二人だ。

君の言う通りにする」

________________________________________

5分後。

BrenとMiraは、古びた仕立屋へ入った。

そこで服装を改める。

MiraはBrenのために、灰色の布製の服を選んだ。

襟は低く、布地は粗い。

国境地域の住民らしく見せるにはちょうどいい。

一方、Mira自身は短く切った髪のまま、熟練したRune Craft Worker用の服へ着替えた。

それは代々受け継がれてきた職人の仕事。

いわば、古参の職人らしい姿だった。

外から見れば、二人は完全な移民夫婦にしか見えない。

Edhenにいた頃の二人とは、もはや誰にも結びつかないほどだった。

Miraが尋ねる。

「どう?

私、Edhenにいた頃と全然違って見える?」

Brenは更衣室から出てくると、何も言わず、しばらく彼女を見つめた。

「……うん」

「なに?

……気にしてないふりはしておくわ」

彼女が尋ねる。

Brenは少し考えた。

「俺が考えてたのは……。

たとえ外見を変えても、昔のGuild Masterだった頃の君を知っている人からすれば、どんな服を着ていても、結局は綺麗な女の人にしか見えないんだろうなって」

「そう……?」

Miraの頬が赤くなる。

「ありがとう。

褒めてくれて……」

「別に褒めたわけじゃない。

君は元々、誰が見ても綺麗なんだろ。

ただ……俺の好みと、君の年齢や今の身分を考えると……合わない。

普通だと思う」

Miraは彼を見つめた。

その瞳の奥には、苛立ち。

驚き。

そして――少しだけ、温かな感情。

どこか、幼い頃に接した誰かに似ている。

だが、その「誰か」が誰なのか。

彼女はまだ思い出せなかった。

「あなたって、本当に……女の子の扱い方を知らないのね」

Miraは怒ったように答える。

だが、Brenから返ってきたのは――相変わらずの淡々とした視線だけだった。

新しい章は、もう始まっている。

だが、その前に。

まずは――

生きるための金を稼ぎ、それをどう使うのかを学ばなければならない。


第三部:空に吊るされた餌

Grenmark中央交易都市・東の空――翌朝早く

「シュゥゥゥ……」

「あっ、しまった……危ない。Flint Stoneを補充するのを忘れてた……!」

カチ……カチ……

ヒュィィィィ……ドォォォン……

(上昇)

「ふぅ……やっと、安全に飛び直せた……」

Nubegは疲れたように息を吐いた。

金髪に青い瞳。

年齢は20歳前後。

彼女はFlight Suitを身につけ、Grenmark中央交易都市から15キロほど離れた空を飛んでいた。

乗っているのは――気球。

Velindiaの首都から、Gemanの都市Amsetsaへ向かう途中だった。

操縦しているのはGeman帝国学院に所属する留学生であり、最終学年の学生。

名前は――Nubeg。

彼女が持ち帰っている研究課題、そのものがこの気球だった。

Gemanで学んだ複数の科学原理。

そこへVelindia帝国学院で学んだMagic Technologyを組み合わせている。

通常のHot Air Balloonと同じように、内部の空気を膨張させる仕組み。

ただし、この気球ではRune Stoneに蓄えられたFire Manaを利用して空気を加熱し、さらに特殊加工されたMagic Fabricを組み合わせている。

これは、学生でも安全かつ簡単に空を移動できる可能性を持つ、最初期の実用的な飛行装置といえた。

特に、初めて空を飛ぶ若いMagic Userに多い――Flight Magic Control Disorder。

Fly BroomやMagic Toolを使った際、うまく飛行制御できない学生を補助するための装置でもある。

「確かに、飛行訓練用の補助装置としてはかなり優秀なんだけど……まだ完成には程遠いな」

Nubegは額を押さえる。

「制御するものが多すぎる……頭が痛くなる。

でも、この画期的な研究なら、きっと高い評価をもらえる。

……そうだといいな」

ヴゥ……ヴゥ……ヴゥ……

「……ん?」

Nubegが顔を上げる。

「今の音……何?」

グルルル……

「え……?」

次の瞬間。

「し……しまった……!」

――Wyvern。

地上から二百メートルにも満たない高度に、青い鱗を持つWyvernが姿を現した。

同じくらいの高さを飛ぶ気球を獲物だと認識したのか、そのままNubegへ向かって突進してくる。

「防御装置……防御装置はどこ!?

い、いや、これじゃない!

これでもない!

もしSpirit Beastを連れてきていれば、逃げられたのに!」

シュッ……ヒュッ……

「きゃっ!」

気球が大きく揺れる。

「は、外した……!?」

Wyvernの一撃が空を切った。

だが、それで終わりではない。

Wyvernはすぐに体勢を立て直し、再びNubegへ真正面から突っ込んでくる。

グォォォ……

ヒュゥゥゥゥ……ヴゥゥゥゥ……

「いやぁぁっ……!」

恐怖に震えながら、Nubegは目を固く閉じた。

次の瞬間――

ドドドドドドッ!

グェェェェッ……!

Wyvernの身体を、20mm機関砲弾が次々と貫いた。

そのまま地上へ落下していく。

「……チッ。

留学生と飛行装置だったのか」

Erikaは少し失望したように呟き、Rear View Mirror越しに気球のそばへ落ちていくWyvernを見た。

Nubegは目を見開く。

「あ……あああ……!」

空を見上げる。

「な、何なの……あれ!?」

「鉄の鳥……?

飛んでる……。

速すぎる……!」

一瞬のうちにWyvernを倒した存在。

それは――

彼女を救ったのだ。

Nubegはしっかりとロープを握り、ゆっくりと気球の姿勢を立て直していく。

一方、Erikaは前方を見ながら考えていた。

「今日は、この辺りで何かが動いている。

……もしかして、彼?

それに、あの留学生の飛行装置……あれは気にしなくていい。

でも、視界を遮られた」

Erikaは一度だけ後ろを振り返る。

「少し別方向を回ってみるか」

彼女はBf-109の機首を再び港の方向へ向けた。

だが、低空で鳴り響いた戦闘音は、多くの人々の視線を空へ引き上げることになった。

________________________________________

Grenmark中央交易都市・一週間後

一週間が過ぎた。

それでも、毎朝になると――

あの奇妙な飛行音が空から響いていた。

「母ちゃん、朝っぱらからまた変な鉄の鳥が吠えてるぞ。

最近は避難民まで増えてるってのに、毎日あんなふうに飛び回って……本当に鬱陶しいな」

ある住民が空を見上げながら、ため息を吐いた。

「あんなに高く飛ぶ上に速すぎる。

Wyvernですら、追いつけないんじゃないか?」

別の住民も答える。

「最近、何人かの冒険者が、何かにMonster Partyを倒されたって話をしてたぞ。

現場には穴だらけの死骸しか残ってないらしい。

……もしかして、あれの仕業じゃないのか?」

________________________________________

Grenmarkに来て、もう一週間近く。

Brenは、聞き慣れてしまった音を毎日のように聞いていた。

Bf-109。

Propeller Fighterのエンジン音が、Grenmarkの空を横切っていく。

Brenが酒場へ情報を探しに行くたび、Eはその周辺を飛び回る。

それが彼にとって大きな不安要素だった。

しかも――

Erikaはすでに、高Rank Vehicleに装備されるThermal Imaging OpticをBf-109の機体下部へ搭載することに成功していた。

魔力によって装置を稼働させている。

それは、本来なら強力なRadarを搭載するHigh-Rank Jet Aircraft級の機能に近い。

だが、その事実をBrenはまだ知らない。

ゲームの所有者が自由にCustomiseできるからこそ生まれた、最も異質な改造だった。

「もう一週間近く経つのに、まだ姿を見せない……」

Erikaはいつものように偵察を続ける。

彼女の前には、第二次世界大戦期の航空機向けに特別調整された、白黒のThermal Imaging画面。

そこに映るのは、Monster。

避難民の列。

そして、ただそれだけ。

T-34があの石造りの監視小屋へ隠されていなければ――それはまさに死刑宣告だった。

一度でもT-34がErikaの画面へ映り込めば。

地上のすべては、彼女にとってMonsterと何も変わらない。

ヒュオォォォォ……

グルルル……ギャアアア……

北から、およそ5体のGrade III Wyvernが飛んできた。

彼らはErikaのBf-109を見つけ、それを巨大な鳥だと思ったのか、そのまま一斉に襲いかかる。

しかし――

ドドドドドドドッ!

前回のMonsterたちと同じだった。

Wyvernたちは速度についていけない。

そして、20mm機関砲から撃ち出されたMagic-Enhanced Ammunitionによって、一匹、また一匹と撃ち抜かれていく。

最後には、蜂の巣のように穴だらけになった死骸が地上へ落下していった。

彼らは知らない。

自分たちが姿を現した瞬間から、ErikaのThermal Imaging Opticによってすでに捕捉されていたことを。

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地上では……

「……また来た」

Brenは小声で呟いた。

朝日を浴び、時おり光を反射しながら空を飛ぶ物体を見上げる。

Grenmarkの住民たちは、それを奇妙な生物だと思っていた。

獣。

巨大な鳥。

避難民が増えるたびに、空から唸り声を上げて飛び回る不思議な存在。

大半の住民は、Monsterを狩るだけで人間に害を与えないものだと考えている。

だが――

BrenとMiraだけは知っている。

あれが何なのか。

あれは、自分たちを追い続ける存在。

その操縦者としてBrenが知っている名前は――E。

そして彼には、一刻も早く彼女をGrenmarkの中立領域から遠ざける必要があった。

これ以上、面倒事を引き寄せないために。

________________________________________

「空からErikaをGrenmarkの外へ誘い出す作戦」――始動

数日前。

Brenはすぐに都市の外を調査していた。

「西側に、ほとんど人が通らないVillage Roadがある。

かなり念入りに調べた。

しかも、平坦で十分な幅がある。

飛行機一機なら……離陸できる」

その道へ到着したBrenは、思わず笑みを浮かべた。

「やっと……準備が整った」

そこにあったのは――

飛行に使える、一本の土の道だった。

Brenは一直線に伸びる道を歩いていく。

幅の広い土地。

全長はおよそ600~700メートル。

十分に平坦。

人通りもほとんどない。

そして――中型戦闘機を離陸させるには、十分な長さだった。

BrenはBackup Itemを使用する。

SystemのGuideには、明確にこう書かれていた。

――Eを空中で撃破せよ。

――Rank III Air Vehicle Backupを使用しますか?――

「使うしかない。

……さて、今度はどの機体が出る?」

――確認完了。

――受領:Yak-9K――

Soviet Union

Engine:Klimov VK-105PF

Fuel:1時間3分

Armament:

1 × 45mm NS-45 Cannon:29発

2 × 12.7mm Berezin UBS Machine Gun:200発

Brenは少し複雑な顔をする。

「召喚にSLがかからないのは助かるけど……Yak-9Kか。

この状況ならAmerican P-47のほうがよかったな……」

小さくため息を吐く。

「まあ、いい。

運が良ければYak-3を引けたかもしれないけど……惜しいな」

するとSystemが続けて表示した。

――性能値を修正してください。――

45mm Cannon ×29発(Default Ammunition)

12.7mm Machine Gun ×150発(Default Ammunition)

Fuel 60%――最大飛行時間27分――

Erikaを空からGrenmarkの外へ追い出す。

その目的のため、BrenはすぐにAI Simulation Systemも起動した。

Manualによる操縦の代わりにAuto Modeを設定する。

これは、アップデート前にSystemが自動的に追加した新機能だった。

――選択してください。

――Operator――

Brenは、Backup CardのVirtual Screenを操作する。

ゲームそのものがUpdate中であるにもかかわらず、このBackup Cardだけは事前調整によって一部Offlineでも動作できるらしい。

さらに、CommandによってCombat Standby Modeへ切り替えることも可能だった。

ただし、小さな注意書きがある。

Operatorから100メートル以上離れた場合、AIが全操作を担当します。

現在、Brenが直接入力できるのはStandby Commandのみ。

「NPC AI――Nigel?」

表示されたのは、その一人だけだった。

「こいつって……Legendary NPCじゃなかったか?

でも、AIが人間ほど柔軟に動くわけじゃない。

結局は……命令通りに動く機械ってことだ」

画面にはさらに説明が表示される。

――特性:Playerの記憶をSimulationし、行動パターンへ反映。

――Auto Sortie Mode:半径5km以内でEnemyと判定されたAircraft Signalを受信した場合、Nigelは自動的に出撃します。

――Combat Vehicleを召喚する前にSettingsから調整可能。――

Brenは少し黙った。

「……もう選択肢はないな」

今日は運が悪い。

Erikaは東へ飛び去ってしまった。

「3日ほどStandbyにしておこう。

彼女が最も警戒を解いた瞬間……そこがチャンスだ」

――確認完了。

――Combat Vehicleを3……2……1……で召喚します。――

ヴゥゥゥゥ……

Yak-9Kが召喚された。

だが――まだ出撃の時ではない。

「AI、エンジン停止。

この道の終端で待機。

偽装しておけ」

BrenはCommandを入力した。

機体から100メートルも離れていない場所にいる間に指示を済ませる。

Yak-9Kを林の中へ移動させる。

その上へ簡単な迷彩を施し、土道の一部へ隠した。

Brenは操縦席を開く。

そこには、すでにNPC――Nigelが待機していた。

信号を受け次第、出撃する。

BrenはT-34から取り外した小さな鉄箱を操縦席内部へ押し込み、再びCanopyを閉じた。

「数日間の偵察で……彼女がこいつを見つけなければいいけど」

Brenはさらに考える。

「それに、もし失敗したとしても……この箱の中身なら、少しくらいEの精神を揺さぶれるかもしれない」

彼は立ち上がる。

「さて……数日後、空戦が始まったとき。

あの人がどう動くのか……見せてもらおう」

BrenはGrenmark西側の土道を離れ、再び中央交易都市へ戻って情報収集を続けた。

その頃、MiraはRune Engraving Shopで働いていた。

彼女はBrenから作戦の概要を聞いただけで、ErikaをGrenmarkの空からどうやって誘き出すのかまでは知らない。

「(あの人……また戦うつもりなの?)

いや……前にEdhenを脱出したときも、彼は囮について話していた。

なら、今回も……前と同じようにするのかしら……?」

________________________________________

現在

すべては、Edhenで行った時と同じように配置されていた。

ただ一つ違う。

これは――

後戻りのできない賭けだった。

残っているRank(*)Backup Vehicleは二つだけ。

もし失敗すれば、Brenは自らErikaと直接戦うしかない。

そして、その状況において勝機がErika側へ大きく傾くことは明白だった。

________________________________________

冬の朝。

冷たい空気に包まれた空の一角には、雪雲が広がっていた。

それでも、まだ半分ほどは澄んだ空が残っている。

だが今日を境に――

雪雲が空全体を覆い始める。

北から吹き下ろす風は冷たく乾いていて、街の屋根を横切りながら吹き抜けていった。

そんな空の上で――

また、聞き慣れたエンジン音が響く。

Erikaが操縦するBf-109。

あの偵察機は、まるで亡霊のようにこの空域へ張り付いていた。

「空が……かなり怪しくなってきたわね」

Erikaは鼻をすすりながら、前方を見る。

「視界が悪くなってきている。

補助装置があっても限界がある……。

今日は……なんとしても彼を見つけないと……」

________________________________________

地上では。

Brenは朝早く起き、あの聞き慣れた音を待っていた。

一方、MiraはRune Craft Shopへ向かっている。

奇妙な老人は今日も、故郷のTownへ戻るために必要な商品を集めていた。

しかし昨日と同じだった。

欲しかった商品は、他の商人たちに先に買われている。

老人は手を伸ばすことすらできなかった。

Brenは宿の窓際に立っていた。

空を見上げない。

だが、耳だけは研ぎ澄まされている。

ヴゥゥゥゥゥ……ウゥゥゥゥ……

もう、すっかり覚えてしまった音。

Propellerが唸り、旋回するときに少しずつ音程が変化していく。

Brenは携帯電話を見る。

7時31分。

「……時間だ。

その時が来た!」

その直後――

グルル……ブルル……ヴゥゥゥゥゥ……

――AI、Positionへ移動。

――Enemy確認。

――Target:Bf-109×1。

――Distance:5km。

――PlayerのCombat HistoryをExtractし、SystemへIntegration。

――Mission設定完了。

――離陸。

――Targetへ接近し、Grenmark空域から離脱させる。

――Intercept開始。

――BGM:Isoguna――

――Ready!――

「了解。

離陸準備完了」

NPC――Nigelが、無機質な声で応答した。

Radioから流れるその声は、まるで意思を持たない機械そのものだった。

________________________________________

西の森林地帯。

平坦な土道の終端。

周囲にはReedや雑草が茂っている。

その中で――

青空色の塗装を持つ一機のAircraftが、静かにEngineを始動した。

バリバリバリ……

枯れ枝と雑草による偽装が次々と落ちていく。

風速が、すでに離陸可能な数値へ達していた。

ヴゥゥゥゥゥ……

ヒュィィィィ……

砂埃が舞う。

金属製の翼が偽装を切り裂く。

AIによって制御された機体が、細い土道を猛烈な勢いで加速していく。

そして――

ヒュオオオオ……

(Landing Gear Retract、Flap 0)

Yak-9K――離陸。

機体内部から、低く深い咆哮が響き渡った。

ただのエンジン音ではない。

それは異様な唸り声だった。

まるで数日間眠り続けていた巨大な金属の獣が、ようやく目を覚ましたかのように。

静寂に包まれていた冷たい朝の空気が、一瞬で震える。

風が引き裂かれる。

土砂が帯状に巻き上げられる。

「……な、なんだ、この音は?」

近くの街道を歩いていた老農夫が、空へ向かって飛び上がる機体へ目を向けた。

「魔獣……?

いや……鳥か?

それともDragon……?」

老人は本能的に地面へ伏せた。

両手を頭の後ろへ回す。

Yak-9Kが頭上すれすれを飛び抜けていく。

主翼が開き、機体が震える。

プロペラが唸る。

最初はゆっくりと。

だが、徐々に回転数が上がっていく。

そして――

すでにMarkされたTargetを追い始めた。

ヴヴヴヴヴヴ……

________________________________________

Grenmark中央交易都市。

西の空から響くエンジン音を聞いた住民たちは、通りの途中で足を止めた。

何人かは荷物を落とす。

若者の中にはWooden Cartを放置したまま、空を指差す者までいた。

「なんだ、あれは!?」

「またBirdに似たDragonなのか!?」

「違う……普通のDragonじゃない!

数日前に見たやつと同じ種類じゃないか!?」

都市の住民たちが次々と外へ出てくる。

避難民も。

Beastmanも。

皆、先日見た奇妙な獣に似た物体へ目を奪われていた。

だが、今回は違う。

青空のような色をした機体が、Grenmark中央交易都市の近くを飛んでいる。

北の方角では――

貨物列車の車両が何両も連なっていた。

そこにはInvestigation Squad No.2も到着したばかりだった。

何人かが、その音を聞き、空を見上げる。

「あれ……彼女のもの?」

Erikaへ伝令を届ける任務を受けた、Disciplinary Committeeの副責任者の少女が呟いた。

「でも……あれは違いすぎる……」

彼女にも、それがErikaのSummoned Vehicleなのかどうか判断できなかった。

________________________________________

空の上。

西から東へ。

地上から約1,000メートル。

NPC AI――Nigelは事前に設定されたCommandに従って飛んでいた。

必要なのはただ一つ。

速く飛ぶこと。

ErikaのBf-109へ接近し、Grenmarkの空域から追い出す。

エンジン音が、どんどん大きくなる。

Engine Power――100%。

Yak-9Kは機首を持ち上げ、高度を上げる。

Erikaがまだ気づいていない位置へ、一気に接近する。

そして、静かに同じ高度へ合わせていく。

距離が縮まる。

まもなく――

両者の姿が互いの視界へ入る。

________________________________________

その頃、Rune Stoneを刻んでいたMiraも、Brenの状況について考えていた。

胸の奥に、嫌な予感がある。

Brenは今日、いつもより早く起きていた。

彼女がまだ眠っている間に、すでに宿を出ていた。

同じ部屋で何日も過ごしてきたが――

こんなに早く起きたのは初めてだった。

Miraは手を止める。

「……どうか、無事でありますように」

________________________________________

一方。

Yilfenとは別の名前――Brenとして生きている彼は、空の上で始まろうとしている戦いを感じ取っていた。

おそらく数分しか続かない。

だが、その数分が――結果を決める。

彼は責任を一つのAIへ預けた。

それでも、不安は消えない。

一つは風。

そしてもう一つは――

あのNPCが、誰かをこの大地に残してしまうかもしれないということ。

彼は誰かを傷つけたいわけではなかった。

それでも――

Edhenへ向かう旅の途中、かつて学んだ言葉が頭をよぎる。

「時には、冷酷さこそが自分自身を守る方法になる。

Simulation Gameの中なら、Level Upのために勝つ必要がある。

でも現実では……勝つ必要なんてない。

ただ、彼女をできるだけ遠くへ引き離せばいい。

そして、俺たちは二度と会わないほうがいい……。

一度でも手を血で汚してしまえば――すべてが終わる」

その瞬間。

どこからともなく、声が聞こえた。

「……そうか?

では――最後まで、お前は自分の倫理を守り切れるのか。

この物語の終わりには、お前の手も血で濡れる。

そしてお前も……俺と同じようにMaouへ堕ちるのだ。

はははははは……」

「……誰だ?」

Brenは反射的に周囲を見回した。

しかし。

耳を撫でていったのは、ただの風だった。

________________________________________

Grenmarkから南へ5キロ――石造りの監視小屋

T-34-1942の車内。

電源を切っていたLaptopが――

小さく震えた。

画面の隅に、青い光が灯る。

――AUTOMATIC BOOT――

――UPDATE COMPLETE CONFIRMED――

――UPDATE DATA LOADING……――

Laptopは閉じられたままだった。

それでも内部では画面が明滅し、数行の文字だけが一瞬ずつ浮かび上がっては消えていく。

そして最後に残った文字。

――HOT UPDATE: WAR THUNDER – NEW POWER(2020 FINAL BUILD)――

――新Versionを開始します。

――Confirmation待機中――

――Reward……Updating――

――Mission:Dungeon内のTownへの経路を探索。

――Main Story――

――Current:Grenmark中央交易都市で手掛かりを探せ――

……

誰も触れていない。

誰も起動していない。

Laptopはただ、Updateが完全に完了したことへのConfirmationを待っていた。

すでに一通のNotificationが送られている。

しかしBrenは、それを見落としていた。

携帯電話へ届いた複数の通知の一角。

彼はYak-9Kと正体不明のBf-109による空戦のことを考え続けていたため、それを一時的に放置していたのだ。

________________________________________

Yak-9KのCockpit内部。

そのとき――

Isogunaが流れ始めた。

戦いのためのBGM。

静かなIntro。

これからErikaとの空戦が始まることを告げるかのように、旋律が少しずつ広がっていく。

「焦るな……」

「速く走るな……」

「振り返るな……」

「矢はすでに放たれた」

「もう止められない!」

冷たい朝の空。

Grenmarkの上空。

二つの戦闘機が、互いへ向かって接近していく。

そして――

空の戦いが、始まった。


第四部:交戦――帰らぬ鉄の竜

「燃料はあと15分。

今日最初の巡回も、いつも通りね……」

Erikaは周囲を見回す。

「今日はMonsterもいない。

残っているのは避難民だけ。

でも、厚い雲が広がっている……。

この寒さじゃ、明日の偵察は難しいわね……」

彼女のThermal Imaging画面では、野生生物の体温反応さえ、次第に薄れていた。

ErikaはGrenmark周辺の巡回を終え、都市から15キロほど離れた空域へ出ていた。

彼女はまだ知らない。

その背後に――

青い機体が、静かに張り付いていることを。

Erikaが高度を2000メートルまで上げようとした、その瞬間。

背後から響いた大きなエンジン音が、彼女の注意を引いた。

ヴゥゥゥゥゥ……

「何……?

この音……Dragon?」

ErikaはRear View Mirrorをちらりと見る。

しかし、はっきりとは見えない。

ただ、一匹のDragonのような影が、突然背後から襲いかかろうとしているように見えた。

視界の死角。

そこに、何か巨大な機械が潜んでいる。

「またDragon……?

でも……」

Erikaは耳を澄ます。

「こいつの声……咆哮じゃない」

ヴゥゥゥゥゥ……

ヴゥゥゥゥゥ……

Magicで動作するMini Map。

そこへ小さな点が現れた。

Erikaの真後ろ。

Ground Vehicleなら、Box型のVehicle Iconが表示される。

だが、今回は違った。

表示されたのは――

赤い円形のMarker。

つまり。

敵は――Air Vehicle。

ヒュォォォォ……

「どんどん……近づいてる……」

Erikaは眉をひそめる。

「Dragonじゃ、こんな速度は出せない……」

UpgradeされたBf-109のCockpit。

その中で彼女は、何かが自分へ急速に追いついていることを感じ取っていた。

自分が誇りにしていたもの。

Dragonさえ上回る速度。

それを追い抜こうとしている存在だった。

その時――

Bf-109内部のRadioへ、別の機体から送信された周波数が割り込んだ。

――Attention to the map!――

――Air……140 degree, 1900 meter――

Erikaの表情が変わる。

「この機械的な声……。

この、聞いたことのない言語……」

一瞬の沈黙。

そして――

「まさか……」

彼女は笑った。

「ははははは……。

そういうことだったのね」

Erikaの目に、狂気にも似た興奮が宿る。

「あなたは、本当にいつも私を驚かせてくれるわね……Cyran Yilfen」

ErikaはControl Stickを軽く操作する。

機体を傾け、旋回。

Bf-109は機首を回しながら速度を落とし、上昇する。

その動きによって――

下方から一気に駆け上がってきたYak-9Kが、雪雲に半分覆われた空へ姿を現した。

そしてErikaは見た。

別の機械。

それだけではない。

その中にいるはずの人物。

彼女が長い間探していた男。

Erikaの顔が興奮と狂気に歪む。

隣のMap画面には、機体情報が自動的に表示された。

――Yak-9K――

「見つけた……」

Erikaは目を細める。

「私の力について知っている者……」

その瞬間。

Yak-9Kが彼女の視界を高速で横切った。

そして――

Isogunaの音楽が、一気に頂点へ達した。

「そして今――

名もなき者同士の対決が

世界が変わり始めることを告げる

禁じられた宝を巡る争い

私をDungeonへ導く

そこにMaouは身を潜めている

そして、機械の戦いが始まる

雷鳴のような爆発が空を震わせ

知恵比べは、まだ終わらない

いや――

今、始まったばかりだ」

________________________________________

NPC――Nigel。

Yak-9KのAIは、すぐにはBf-109を追わなかった。

Brenがあらかじめ入力していた命令は――

――彼女をGrenmark中央交易都市の外へ誘導する。

――攻撃を受けた場合のみ、即座に反撃せよ。――

ブロロロロ……ヒュゥゥゥ……

ヒュオォォ……

Yak-9Kは北西へ向かっていく。

Erikaは機体を立て直し、その後を追う。

「逃げるつもり……?」

彼女はRadioへ声を送り込む。

「なら、地面へ叩き落としてあげる」

しかしNigelは何も答えない。

彼にとって必要なのは、ただ一つ。

攻撃の兆候を確認した場合、自動的に反撃すること。

ヒュォォォォ……

ブルルルル……

……

________________________________________

「見ろ……空だ!」

「二羽の変な鳥が、空中で追いかけ合ってるぞ!」

ある辺境のVillageの住民たちが、空を見上げる。

二つの奇妙な鳥の影。

それは何度も互いの周囲を旋回し、空中で絡み合っていた。

「あれ……普通の鳥みたいな飛び方じゃないぞ」

「Monster同士がじゃれ合ってるのか……?」

だが次の瞬間。

静かな空間が、轟音に包まれた。

二機のAircraftが、初めて本格的に交差する。

高速回転するPropellerが空気を切り裂き、エンジンから生まれる気流が渦を巻く。

空そのものが震えているかのようだった。

「なるほど……」

Erikaは荒い息を吐く。

「あなたたちは、いつもこんなに異常な戦い方をするの……?」

手が震える。

呼吸が速くなる。

Erikaにとって、これほど高い強度の戦闘は初めてだった。

地上なら、彼女は圧倒的な能力を持つ。

だが――

空へ上がった瞬間。

その差は消える。

空では誰もが平等だった。

もし、この機体がMagicの補助を受けていなければ、Erikaは最初のDogfight――空中戦に入った時点で意識を失っていただろう。

NigelはBrenのGame Combat Memoryを基に、彼の経験した空戦機動を一つずつ再現していた。

そして、Isogunaの旋律がさらに高まっていく。

そのIntroは、**「Do not hurry」**から着想を得たようなものだった。

速すぎない。

だが、双方へ息を切らすほどの激しいManeuverを強いる。

「“Do not hurry”の歌に身を委ねよう

二人の人間が、機械の力をその手に握る

雲の層を縫うように飛び

神聖なる戦いの光景を再現する

一人はMagicで機械を操り

もう一人はTechnologyで舞う

焦るな……

焦るな……

まだ、始まったばかりだ」

再び――

二機はDogfightへ入った。

ヒュンヒュンヒュン……

ブルルルル……

________________________________________

ヒュォォォォ……

両機のEngineは、立て続けにFull Powerへ叩き込まれる。

Yak-9KのCockpit。

Nigelは、あらかじめProgramされたVoiceを繰り返し発していた。

「ここから離れろ。

余計な真似をするな。

さもなくば……反撃する!」

Erikaには、その言語の意味が分からない。

理解できるのは一つだけだった。

彼女を着陸させる。

あるいは――

空中で撃墜する。

この力の秘密。

それを、彼女以外の誰にも知られるわけにはいかなかった。

Nigelはまだ撃たない。

ただ何度も進路を横切り、彼女をできる限り遠くへ追い出していく。

そして――

Yak-9KがErikaの飛行コースを斜めに横切った。

典型的なStrategic Cut-off Maneuver。

進路を塞がれたErikaは、速度を上げるか、旋回角度を変えるしかない。

だが、もう彼女はこれ以上付き合うつもりはなかった。

Magic Userにも、体力の限界がある。

ErikaはTriggerを強く握りしめる。

Yak-9KがCrosshairの中央へ入る。

そして――

カン、カン、カン……

ドドドドドッ!

「外した……!」

Erikaは躊躇しない。

Heavy Machine Gunと20mm Cannon。

三つのBurstがYak-9Kへ向かって飛ぶ。

ヒュンッ!

そのうち一発のMachine Gun弾がYak-9K左翼のAileron付近へ命中した。

しかしNigelは即座に機体を操作し、Erikaの照準から抜ける。

Yak-9Kの翼が大きく震える。

穴が一つ開いた。

NigelはControl Stickを切り、左へ急旋回。

そしてClassic Rollへ移行する。

その動作。

すべてが――

BrenがGame内で経験してきたCombat Memoryから、AIによって一つずつ再現されていた。

「くそっ……!」

Erikaが驚く。

「やっぱり……中にいるのは本物だ。

こいつ、旋回が鋭すぎる……!」

彼女は感じ取っていた。

これはただの素人ではない。

しかし、もしBren――つまりYilfen本人がこの機体へ乗っていたなら。

結果は最初から決まっていた。

彼にはManualでの完全な操縦ができない。

Auto Pilotがなければ――それは死刑宣告だった。

「あいつ……また回ってくる!」

Yak-9Kが再び旋回する。

速度が明らかに落ちていく。

そして、Stall Warningの領域へ入る。

ドス、ドス、ドス……

ドドドドドッ!

「っ……危ない!」

45mm Cannon。

さらにMachine GunのBurst。

弾丸がErikaの機体をかすめる。

彼女は間一髪で回避した。

Magic強化されたAircraftだったとしても――

体力が完全に回復していない状態で一発でも直撃を受ければ、操縦を失う可能性がある。

Erikaは、そこで初めて本気になった。

邪魔になるTargeting Opticを収納。

機体を少しでも軽くする。

ヒュオォォォォ……

「どちらか一人が生き残ろうと

さらに誰かが戦いへ加わろうと

すべての者よ、焦るな

たとえ女神たちでさえ

どうか、焦らないで」

Bf-109はさらに鋭く旋回する。

一瞬。

Erikaの機体はYak-9Kの後方へ回り込んだ。

そしてYak-9Kは、まさに失速限界へ入ろうとしていた。

「はぁ……はぁ……」

Erikaの呼吸は荒い。

「あと少し……」

視界が一瞬ぼやける。

それでもTriggerを連続して引いた。

カン、カン、カン……ドドドドドッ!

ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ……

ドォォン!

弾丸がYak-9Kの機体内部へ突き刺さる。

一発がFuel Systemを破壊。

もう一発がTail Frameへ深く食い込んだ。

Yak-9Kの機体が激しく揺れる。

「やっ……やった……!

倒した……!」

Erikaが安堵しかけた――

その瞬間。

ドス、ドス、ドス……

ドドドドドッ!

Nigelは残っていたAmmunitionを一斉に撃ち切った。

ちょうどErikaが機体を上昇させようとした瞬間だった。

ドォン!

45mm弾の一発がBf-109*へ直撃する。

機体が大きくよろめく。

――Critical Damage……

――Emergency Evacuation――

NigelはCockpit Hatchを開ける。

そして、操縦席から身体を投げ出した。

その姿は、Soft Armorのような模擬Body。

Fake Blood。

Living Creatureと同じようなThermal Reaction。

まるで本物の人間のように見える。

しかし――

それはただのAIによるSimulationだった。

Yak-9Kは、そのまま森林へ突っ込んでいく。

内部には、Nigelが事前に操作していた強化Iron Boxが残されている。

次の瞬間。

ドォォォォォン――!

森の奥で巨大な爆発が起こった。

まるで巨大な砲弾が炸裂したようだった。

黒煙がまっすぐ空へ立ち上る。

NigelはただParachuteを開き、脱出する。

そして地面へ着地した瞬間――

その姿は消えた。

まるで最初から、Yak-9Kに操縦者など存在しなかったかのように。

________________________________________

一方、Erika。

先ほどYak-9Kから放たれた45mm Cannonの一発が、Bf-109*の右主翼へ命中していた。

機体が大きく揺れる。

そして――

右翼の一部が折れた。

Bf-109*は回転しながら墜落していく。

Magic Layerによって機体表面が覆われていても、もう制御できない。

「私……この機体を……制御できない……」

Erikaは必死にRecoveryを試みる。

だが、失敗した。

「飛び降りるしかない……!」

シュッ……

Erikaは揺れるCockpitから脱出し、森林へ落下していく。

そのすぐ後ろ。

Bf-109*の一部へ火が燃え移る。

炎は瞬く間に広がった。

そして機体は――

Erikaが離脱した直後、森へ墜落した。

ドォォォォン!

地面へ衝突した瞬間。

内部に残っていたMagic Energyの制御が爆発をさらに増幅する。

巨大な爆炎が森の中で広がった。

Erikaは間一髪でParachuteを開く。

命は助かった。

だが、軽傷を負っている。

そして――

長い年月の中で初めて。

彼女を傷つけることのできる相手が現れた。

それでも彼女の顔に恐怖はない。

あるのは――

重力に押し潰されるような、暗くなっていく視界だけだった。

Academy Uniform。

頭には固定されたMage Hat。

開いたParachuteの下で、一人の人影が森へ降りていく。

Erikaは薄れゆく意識の中で、その姿を見つめた。

「お前は……誰……?」

そして、ようやく違和感に気づく。

「お前……奴じゃない」

Erikaは目を細める。

「なら……どうしてお前が……」

「奴の代わりに……囮になったの……?」

Erikaは信じていた。

Yak-9Kを操縦しているのは――Yilfenだと。

だが、自分が見つけたものは。

もしかすると――

ただの偽物。

本命を逃がすための、身代わりだったのかもしれない。

しかし、いくら豊富なMagicを持っていたとしても。

何日もの間、Flight Assistを使いながら偵察を続けていたErikaの精神力は限界へ近づいていた。

さらに、自動操縦を維持するためのManaも、最初は少しずつ流れていたものが、次第に制御できないほど大量に消費されていく。

そして――

G-Forceによって血液が脳へ圧し付けられる。

視界が黒くなる。

彼女にはもう、Parachuteで降下していく人影が、ゆっくり森の奥へ消えていくのを見つめることしかできなかった。

「私が回復したら……」

Erikaは朦朧としながら呟く。

「お前は、ただの獲物になる……。

その時こそ……奴がどこにいるのか、吐かせてやる……」

ParachuteのLineを操作する。

Erikaは森の中にある、木々の少ない開けた場所へ向かって降下していった。

そして――

「なぜなら……

物語は、まだ始まったばかりだから!」

________________________________________

Isogunaの曲が終わる。

それは、互角の空戦だった。

もしYilfen――現在のBrenが、その時のErikaの目を見ていたなら。

彼にできたのは、ただため息をつくことだけだった。

彼女には、このGameにおけるHigh-Rank Combatの圧力など理解できない。

War ThunderのARB――Air Realistic Battles。

そこにいる古参Playerなら、おそらくこう評価するだろう。

「美味しいAccountを買ったばかりの初心者が、そのまま戦場へ持ち込んだみたいなものだ」

そうでもなければ――

偶然、AIが操縦する強力なAir Vehicleに遭遇し、それを撃墜しようとして逆に撃ち返された。

結局――

もし本物のPlayerが操縦していたのなら。

おそらく一周も回りきる前に――

彼女は落ちていた。

急激なManeuverによって発生したG-Force。

重力という「母なる自然」の力によってControlを失い。

撃墜される必要すらなかった。

そこまで行けば――

最後の仕事は、母なる自然が自ら片づけてくれていただろう。


第五部:かつての者の足跡

その日一日、夕方になるまであのEngine音は二度と現れなかった。

Brenはようやく、胸を撫で下ろした。

結局のところ――Eには、War ThunderのPlayerがどれほどの戦場を潜り抜けてきたのかを理解することなどできない。

「彼女には分からない。

分かるはずもない……」

本物のVeteran Player――

**ARB(Air Realistic Battles)**を何度も戦い抜き、燃料の一滴、翼の角度一つ、弾丸一発にまで計算を巡らせてきた者なら、すぐに分かる。

「この子……たぶん、Accountを買ったばかりなんだろうな。

Lineupが良かったから、そのまま空戦に突っ込んだタイプだ」

「普通のAI相手に触っただけでも、勝てないだろうな」

Brenは、EをGrenmarkの空から引き離すという目的を達成できたことに安堵していた。

だが、Erikaの目を見れば分かる。

彼女は、自分がついに獲物を仕留めたと思っている。

しかし、本当の空戦だったなら――

もしYak-9KがAIではなかったなら。

Erikaは、Magic Armorによる補助を受けたAircraftだったとしても、一度旋回しただけで空から落ちていた可能性が高い。

弱かったからではない。

――Mother Natureは、戦争を自分自身の能力を試す試験だと思っている者には、決して公平ではないからだ。

________________________________________

Grenmark中央交易都市――同日17時50分

夕暮れがゆっくりと街へ降りてくる。

厚い雪雲が地平線一帯を覆い、Grenmarkを闇へと沈めていく。

東の丘陵から吹き下ろす乾いた風が、黄色く枯れ始めた低木を揺らし、カサカサと乾いた音を立てていた。

少なくとも今夜は、Snow Rainになるだろう。

住民たちは厚い外套へ身体を縮こませている。

避難してきた者の中には、まともな寝床さえない者も多い。

彼らは近くのCharcoal Furnaceへ身を寄せ、少しでも暖を取ろうとしていた。

だが、何も持たず、行く場所すらない者たちは――

低体温症と空腹という死の影を目の前にぶら下げたまま、ただ震えている。

Brenは暗い色のCoatを羽織り、額まで隠れる布帽子をかぶっていた。

そして、中央の酒場街へ続く道を静かに歩いていく。

ここ数日は酒場へ来る人間も少なくなっていた。

だからこそ、Brenはついでに立ち寄り、周囲の様子を探ることにした。

歩き方。

呼吸。

足音。

すべてが、この街の一般市民と何一つ変わらない。

ただし――

その目だけは、次の手掛かりを探し続けていた。

手元にある金が尽きる前に。

ドス、ドス、ドス……

(足を取られる)

「うわっ……!」

狭い路地を通り抜けていたときだった。

近くの工事現場からこぼれた小石の山に足を取られる。

Brenの身体がよろめいた。

その拍子に、Wrench Code 321-ISが地面へ落ちた。

チリン……

ちょうどその場所で、配達人を待っていた老人がいた。

Brenが腰を屈めてWrenchを拾おうとすると――

老人が笑った。

彼は石柱へ背を預けながら座っていた。

その目は、まっすぐMinhを見ている。

まるで、ずっと前からそこで待っていたかのように。

「気をつけな、若いの」

老人は笑った。

「ははは。

この工事現場の小石は、よく人の足を引っかけるんだ。

Suka……」

その声は低く、湿った火薬のように重かった。

Brenが顔を上げる。

老人は白髪を肩まで垂らしている。

白い顎髭も風に揺れ、わずかに乱れていた。

背は高く、少し猫背。

痩せた肩には色褪せたMilitary Coatがかかっている。

左肩の縁は擦り切れ、ところどころ破れている。

どう見てもGrenmarkの普通の住民とは少し違っていた。

首には紫色の装飾Rune Device。

そして肩には――

Gun……?

古びたMosin-Nagant。

Trigger周辺には錆が見える。

それでもBarrelだけは丁寧に拭かれていた。

「ありがとうございます。

気をつけます……」

Brenは軽く頭を下げ、礼儀正しく挨拶した。

老人は返事をしない。

ただ、その視線がBrenを一度だけなぞる。

そこには、古い戦場から染みついたもののような警戒があった。

BrenがWrenchを拾い上げようとした、そのとき。

老人が突然口を開いた。

「そのWrench……少し見せてもらえないか?

なんだか、見覚えがある……」

老人の目が鋭くなる。

「これですか?

いいですよ」

Brenは片側がCrowbarになっているWrenchを差し出した。

老人は、それをまるで過去から戻ってきた遺物のように手に取った。

そして微笑みながら尋ねる。

「お前、これをどこで手に入れた?」

「VoldaというTownで。

ある男が、これは自分の祖父から受け継いだ遺品だと言っていました。

それで……俺に合っていると思ったから、譲ってくれたんです」

老人は小さく笑った。

まるで欲しかった情報を手に入れたかのようだった。

指で、薄れて反転した刻印をなぞる。

(間違いない。

これはDivision VehicleのCodeだ。

IS-2、No.321……)

だが、先ほどBrenが「その人が残した遺品だ」と話していたことを思い出した瞬間。

老人の表情が変わった。

「お前……今、そいつはもう死んだと言ったのか?」

「はい。

Gulaという鍛冶職人の話では……亡くなってから、もう一年以上経つそうです」

老人の眉が動く。

「Gula……?

Gulagと同じ響きじゃないか……。

……そうか」

老人の顔に、ほんの一瞬だけ喜びが浮かんだ。

「まさか……まだ生きていたのか。

ここで家族まで持っていたとは……」

しかし次の瞬間には、再び悲しげな表情へ戻る。

「残念だ。

もう一度、あいつに会うことはできないか……」

老人はWrenchをBrenへ返した。

「分かった。

情報をありがとう……」

Brenがその場を離れようとした。

その瞬間――

老人の痩せた古い手が、誰にも気づかれないほど素早くBrenのCoatのポケットへ何かを滑り込ませる。

そして小さく言った。

「俺の名前はStepanovich。

明日の早朝、South Forestの端。

城門で待っている。

知る者は少ないほうがいい。

Blyat!」

その声は低く、Brenの首にあるRune Translatorが翻訳できるぎりぎりの音量だった。

だが――

最後の一言に、Brenは引っかかった。

それは――

Russian Language。

「(もしかして……これが、俺が探していた手掛かりなのか?)」

________________________________________

午後8時――宿へ戻って

二人が借りている宿。

Miraが廊下の奥にあるBathへ入っていることを確認すると、Brenは部屋の中を一通り確認する。

誰もいない。

そして、老人から渡されたものを取り出した。

「これは……写真?」

それは古いBlack-and-White Photographだった。

端は破れ、水に濡れたように紙が滲んでいる。

写真の中には三人の兵士。

一人はDark Blue Coat。

一人はSSh-40 Helmet。

そしてもう一人――

その体格は、あの老人に非常によく似ていた。

肩へ斜めにMosinを担いでいる。

その背後には、一台のIS-2。

車体には――

321

という数字が刻まれていた。

写真の端には、鉛筆で何かが書かれている。

Brenには読めないRussian Language。

だがRune Translatorが翻訳すると、その意味は――

――Prussian――Königsberg――

――1945年4月――

Brenは息を止めた。

「1945……?」

しばらく写真を見つめる。

「この人も……Earthから転移してきた?」

「もし、俺よりずっと前にEarthから転移した人間なら……」

「この世界について、何かを知っているはずだ……」

Brenは写真をしまう。

Miraにはまだ話さない。

そして翌朝を待つことにした。

________________________________________

翌朝

Miraが隣のBedでまだ眠っている間に、Brenは早朝から外へ出た。

South Gate。

午前8時頃。

城門の外には、すでに一人の人影が立っていた。

BrenはGateを通り、老人のもとへ向かう。

「来ました。

Stepanovichさん」

老人がこちらを見た。

「どうやら……」

一瞬、Brenの後ろへ視線を向ける。

「お前には、いつも一緒にいる女がいるんだな?

私の勘が正しければ……お前の妻か?」

Brenは驚いて尋ね返す。

「どうして分かったんです?」

「勘だ。

それに――お前の手にあるRingもな」

Brenは自分の手を擦りながら首を振る。

「彼女はこの世界の住民です。

でも、妻というのは正しくない」

少し間を置く。

「俺たちにも秘密がある。

あなたにも知らないほうがいいことがある……。

それに、この世界の人間には知られないほうがいい話もあるんです」

Ste¬panovichは大きく笑った。

「ははははは!

いいじゃないか」

そして――

「お前は悪意のない男らしい。

ついて来い。

この場所より、少し落ち着いて話せるところへ行こう」

老人は背を向ける。

Brenを連れて南へ進んでいった。

二人は森の中を抜け、小さな土道へ出る。

そこで、一軒の倉庫の前へ止まった。

都市から1キロ以上離れている。

そこはSte¬panovichがTownへ運び込む商品の集積所でもあった。

ギィ……

老人が扉を開ける。

「座れ。

ここには高価なものなんてない。

ただの倉庫だ。

最近、何人か追加で人を雇った。

夕方になればCargo Cartへ積み込んで、出発する」

古い倉庫。

手作りされた木製の机と椅子。

二人は向かい合って座る。

そして、お互いの情報を探り始めた。

「あなたは、この都市に住んでいるんじゃないんですか?」

Brenが尋ねる。

老人は答える。

「最初から、俺はこの場所の人間じゃない」

そしてBrenを見る。

「それに、お前のBrenという名前も偽物なんだろう?

Suka」

「……はい。

そう言ってもいいです」

Brenは改めて老人を観察する。

その顔立ち。

服装。

武器。

どう見ても――

第二次世界大戦期の兵士を思わせる。

あの写真と同じだった。

老人がゆっくり口を開く。

「情報が欲しいか?

これから何が起こるのか知りたいか?」

一拍。

「なら、俺と一緒に来い。

地下のTownへ戻るんだ」

さらに老人は続ける。

「だが、その前に……一つ聞きたい」

Brenは軽く頷いた。

一体、何を聞くつもりなのか。

そして――

「お前は、どこから来た?

今、何年だ?

……俺たちは勝ったのか?」

その質問によって、倉庫の中が静まり返った。

数回の呼吸。

聞こえるのは虫の音。

そして石を擦る風だけ。

Brenは口を開いた。

声は低かった。

「2025年です。

正確に言えば……100年後」

Ste¬panovichは目を見開いた。

返事を聞いた瞬間、手がMosinのStockをわずかに強く握る。

それでも、その目に疑いはなかった。

そこに浮かんだのは――

あまりにも古い痛みだった。

「二千……二十五……」

老人が呟く。

「では、俺はいったい何なんだ?

幽霊か?

最後の戦争のあと、取り残された人間か?

……それとも、呪われたまま生き続けてきた亡霊なのか……」

Brenは答えない。

昨日受け取った写真を取り出す。

そして、静かに隣の石の上へ置き、老人へ返した。

「あなたがなぜここにいるのか、俺には分かりません」

Brenは真剣な顔で続ける。

「でも……運命があなたをここへ残したのなら、きっと理由があるんだと思います」

「俺とあなたも、同じ国の人間ではない。

このTranslator Braceletが自動的に言葉を変換してくれるから、こうして話せているだけです」

「俺たちが本当に同じ場所から来たのかまでは分からない。

ただ――共通する名前が一つある」

「Earthです」

Stepanovichは写真を見つめ続ける。

その目が濡れる。

涙は落ちない。

ただ――風に舞う灰の粒のように、目の奥だけが濡れていた。

「じゃあ……」

老人の声が震える。

「俺たちは……勝ったのか?」

「はい」

Brenは答えた。

「俺たちは勝ちました」

「あなたの国は勝利した。

人々を苦しめた邪悪なものに打ち勝ち、そして……命を捧げた人たちへの答えにもなったんです」

老人の目が震える。

「最後に……」

声が途切れる。

「やっと……俺も、最後の願いを果たせたんだ……」

涙が滲む。

「Misha……。

俺は……お前の仇を討ったぞ……」

Ste¬panovichは、その一言を噛みしめていた。

しかしBrenは、さらに現実を伝えなければならなかった。

「でも……」

一瞬、言葉を止める。

「あなたの国は……崩壊しました」

老人の表情が止まった。

「一つのUnion state としてのまとまりはなくなり、今では別々の国々になっています」

その言葉を聞いた瞬間。

老人の手がわずかに震えた。

カラン……

Mosinが硬い床へ落ちる。

老人はしばらく動かなかった。

やがて涙が溢れ始める。

息をすることすら苦しそうだった。

「そ……そんな……。

お前……今、何と言った……?」

「いや……いやだ……」

「もう……ないのか……?」

「あの国は……もう、存在しないのか……?」

Brenは頷いた。

そして静かに説明する。

「勝利してから長い年月が経った後、かつてのAlliesは敵対するようになりました。

Moneyもまた武器になった。

信頼は裏切られた。

そして、すべてが最後にはその結末へ向かいました」

しかしBrenはそこで言葉を止める。

Ste¬panovichの目をまっすぐ見た。

「でも……」

「崩壊したあと、あなたの国は新しいStateになりました。

今もFederationという形で存在しています」

「かつてのVictoryの後に築かれたSuperpowerではなくなった。

それでも……立ち上がった。

そして、戦い続けています」

老人は少しずつ呼吸を取り戻した。

それでも悲しげな顔のまま、問い続ける。

「彼らは……その国の住民になったのか?」

「全員ではありません」

Brenは答える。

「Federationが崩壊したあと、彼らは以前と同じ領土にとどまったわけではありません」

「今、その土地はRussiaという名前に戻っています」

「俺はRussianではありません。

でも、俺が暮らしていた場所では……あなたのような人々を、今でも尊敬しています」

「国を守った人たちを」

Brenはさらに話を続ける。

「長い不安定な時代を経て、瓦礫のようになった国を、一人の有能なPresidentが率いました。

かつての輝きを完全に取り戻したわけではない。

それでも、その国を再び立ち上がらせた」

「そして――」

Brenは少し間を置く。

「戦争は、かつての土地で今も続いている。

かつてのAlliesが敵へ変わったことに対抗するために。

それが、彼らにとっての新しい敵との戦い方です」

「俺は、それが正しいとも、間違っているとも言いません。

俺自身、それが起きてほしかったわけでもない」

「でも……」

「1945年の兵士たちと同じ精神を持ち続けている人も、確かに存在しています」

「俺が生きている年は2025年。

Hammer and SickleのFlagはもうありません」

一拍。

「でも、Idealまで死んだわけじゃない」

Stepanovichはその場で動かなかった。

まるで身体そのものが石になったかのようだった。

やがて、老人はゆっくりと頭を下げる。

床に落ちたMosinを両手で拾い上げる。

そして身体を斜めに傾ける。

まるで、そこに見えない戦友が倒れているかのように――

敬礼した。

その行動に、Brenは戸惑った。

しばらくして、老人が静かに口を開く。

「ありがとう……」

「お前が俺たちを忘れていなかったことに、感謝する」

「この世界は信用できない。

でも……お前のおかげで、俺はもう一度、人を信じてみようと思える」

敬礼を終えると、Ste¬panovichは過去の話をそれ以上続けなかった。

そしてBrenの前に立ち、告げる。

「今日の午後までに、荷物をまとめろ。

俺のCargoはもう満杯だ」

「隣の女にも知らせろ。

そして……この話を秘密にできることを願う」

「二人とも、俺が暮らしている場所へ連れていく。

……地下のTownだ」

老人は少し考える。

「お前の話を、俺はまだ完全には信じられない。

Futureから来た人間だなんてな」

「だが、俺たちは家へ帰れなくても……お前を助けられる情報くらいは持っている」

「お前が……俺に希望をくれたからだ」

「向こうへ着いたら、もっと話そう」

Brenはただ頷いた。

その目が、少しだけ鋭くなる。

「分かりました。

すぐに準備します」

そして、ほんの少しだけ声を落とした。

「どうか……あなたが、俺の帰る道を見つける手助けをしてくれることを願います」

________________________________________

一方、Erika――現在

一晩中、森の中で身体を引きずるように進み――

ようやくYak-9Kの墜落地点へたどり着いた。

彼女がParachuteで降下した場所では、運悪く布が木に引っかかっていた。

だが、少し離れた場所からでも分かる。

煙がまだ細く立ち上っている。

Yak-9KとBf-109*が墜落した場所だった。

火災はすでに消えている。

それでも、ErikaはYak-9Kの位置を正確に把握していた。

彼女のStaffは背後へ引っかかってしまい、Safe Landingのために使うことができなかった。

墜落から意識を取り戻したErikaは、ParachuteのLineを切り、ようやく完全に地上へ降りた。

ドサッ。

「助かった……」

彼女は息を整える。

「Academy Uniformが軽いDamageなら耐えてくれた。

そうじゃなかったら……何本か骨が折れていたわね……」

しかし、降り立った彼女を待っていたものは別にあった。

数十メートル先。

Grade II Monster。

乾いた翼。

赤い目。

巨大なBatのような姿。

鋭い爪。

それが、木の上から彼女を狙っていた。

だがErikaの灰色の目は冷たいまま。

揺らがない。

足を引きずりながら一歩下がり、腰の刀へ手を置く。

ガサ……

Monsterが飛びかかる。

ギャッ、ギャッ……!

その瞬間――

ドォォン!!

ズバッ!

120mm Cannonの咆哮。

反対側の森から、砲弾が一発飛んできた。

空中へ飛び上がったMonsterの身体が、一撃で吹き飛ぶ。

まるで油Lampを握り潰したように爆散した。

内部から飛び散ったBloodは――

赤ではない。

不気味な青色だった。

「よくやった。

私のMachine」

Erikaが振り返る。

だが――

少しだけ失望した。

そこにいたのは――

Leopard 2A5。*

「2A6*じゃない……」

彼女は呟く。

「……召喚できるのは、ここまでってこと?」

ErikaはTurretを見つめ、唇を結ぶ。

空戦が終わってから、まだ十分に回復していない。

戦闘自体は、わずか5分ほどだった。

だが、その短い時間だけでも頭はまだ重かった。

一つの考えが、彼女の脳裏をよぎる。

無限に近いManaを持つ身体。

それでも、彼女自身がControlできるMana量には限界がある。

それが、Leopard 2A6をSummonできない理由だった。

それは彼女にとって――

Summoning Limit。

自分が「これで十分」と考えていた、自身の限界だった。

「もっと……強くならないと」

Erikaは拳を握る。

「彼と……向き合うために」

そして小さく笑った。

「本当に……簡単には死んでくれない男ね」

ErikaはTankへ乗り込み、MagicでMachineを操作する。

向かう先は――

Yak-9Kの墜落地点。

ブルルルル……

ヒュッ……

ガリ……ガリ……

Leopardは低木や若木を踏み潰しながら進んでいく。

黒く焦げた墜落地点へ一直線に向かう。

やがて到着すると――

焼け跡は一面に広がっていた。

中央にあるのは、まだ熱を残した鉄屑だけ。

夕日が沈みかける光を、その黒い金属へ投げかけている。

死体はない。

Bloodもない。

Cockpitの残骸さえ、はっきりとは確認できない。

――だが。

瓦礫の下から、音楽が聞こえた。

最初は、古い弦へ触れたような――

小さなClick。

そして。

もう死んだはずの場所から、旋律が流れ始める。

夢の中のように儚い。

それでも、壊れていない。

小さな音なのに、空間全体を貫いていく。

焼け落ちたYak-9Kの内部から――

音楽が流れていた。

Erikaは、その場に立ち尽くした。

「……取らなきゃ」

彼女の目が、音の発生源へ向く。

「それ……音楽なの?」

ErikaはTankを降りる。

両腕を垂らし、表情は動かない。

だが、その目が初めて――

何千という戦いを経験してきた中で、わずかに揺れた。

唇の力が抜ける。

眉も緩む。

灰色の瞳。

風に揺れる銀色の髪。

その姿はまるで――

熱い瓦礫へ杖を向け、静かにMagicを唱えるMageだった。

「飛べ。

邪魔だから、少し離れて……私が取る」

膨大なMagic Powerが噴き上がる。

周囲の残骸が、一斉に吹き飛ばされた。

その中心に残ったもの。

それは――

強化されたIron Box。

Erikaはまだ焦げた匂いの残る箱を、自分のもとへ引き寄せる。

Magicを使い、器用に蓋を開いた。

その中には――

古いRecord Player。

そして、回転し続けるVinyl Record。

それは、BrenがMerchant街のMarketで入手し、Yak-9Kへ一緒に積み込んでいた物だった。

Vinylはまだ回っている。

しかも、もう一度再生するように設定されていた。

Erikaはそれを持ち上げる。

同時に、奇妙な言語で書かれたSheet Musicも手に取る。

その文字を見つめた瞬間――

彼女の目から涙が落ち始めた。

「この音……」

「どうして……こんなにも悲しいの……?」

「私……どうして……涙を止められないの……」

ポタ……ポタ……

Erikaは――

ただ聴いていた。

この旋律は、最後の言葉だった。

記憶の音楽。

Yak-9Kを操縦していた者が、この世界へ残した――最後の痕跡。

この世界には存在しない古い言葉が、静かな音楽とともに響き続ける。

彼女は涙を抑えられなかった。

感情が擦り減ってしまったはずの顔。

その両頬を、二筋の涙がゆっくりと流れていく。

Не спеши, не спеши ко мне,

焦らないで……焦らないで、私のところへ来て。

Если я далеко, если мне тяжело,

もし私が遠くにいて、もし私が苦しみの中にいるなら――

……

旋律が終わる。

それは――

異世界から届いた一つの忠告のようだった。

幾千もの砲声と、あの空戦の後に残された――最後の休符。

ErikaはSheet Musicを一枚ずつめくる。

そこにはPencilで歌詞が書かれていた。

Yilfenはこの曲を携帯電話へ書き留めていた。

そして、MusicによってErikaの追跡を一時的に止められないかと考えていた。

その狙いは――

少しだけ、成功していた。

紙の一番下。

Latin Alphabetで書かれた、少し汚いPencilの文字。

Erikaにも、そこに書かれた名前だけは何となく読むことができた。

――Translation Lyrics: Cyran Yilfen――

Erikaの視線が、その名前で止まる。

しばらく黙っていた。

やがて、小さく呟く。

「あなたのように……簡単には死なない人間を追い続けても、無意味ね……」

Erikaは振り返る。

Leopardへ乗り込む。

Engineを始動する。

「まずはGrenmark中央交易都市へ戻ろう。

Disciplinary CommitteeのDeputyが私を待っている。

……どうやら、仕事ができたみたいね」

空を見上げる。

雪雲はすでに厚く、巨大なCotton Blanketのように広がっていた。

それでも、進むべき方向は分かっている。

Erikaは、このMusicをAcademyへ持ち帰る。

そして――

まだ答えのない質問も一緒に。

あの男は誰なのか。

Cyran Yilfenという名を持つ者は、一体何者なのか。

Leopardは中央交易都市へ向かって走り始める。

運んでいるものは――

一つのMusic。

そして――

まだ解けていない、一つの疑問。

________________________________________

「(もし……彼女を言葉だけで説得できないなら……)」

Brenは、そう考えていた。

「(Musicに……残りを任せるしかない)」

これが、Brenの考えだった。

この曲を聴いている間だけでも――

Eが人を追うのを止めてくれればいい。

それが、彼の願いだった。

________________________________________

そして――

Brenがこの世界へ来てから、ちょうど8か月が経った。

――第14章・完――

________________________________________

Chapter Summary

Currency:2 Gold 20 Silver 40 Coin(Velindia)

Vehicle:T-34 1942

76mm:BR-350A(MD-5 Fuse):30/100

OF-350M:12/100

D-350A:13/100(Temporary Disabled)

Free Fuel:200km

SL:643,700

Accumulated XP:2,250

Current SP:0

GE:?

GJN:?

War Thunder Version:Upgrade in Progress

Next Version:NEW POWER

Backup:2*

――BTR-152A(Anti-Air)

――All Vehicles



次回:外伝


次回更新予定:来週火曜日

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