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鋼鉄の血 ― 異世界のWar Thunder ―  作者: PGGG1214
第2部:Velindiaの地における対決
14/20

第11章 ― 内戦 II:都市への鎮魂歌

長い間お待ちいただき、本当にありがとうございます。


このアマチュア作品は、私自身の仕事も相変わらず忙しい中で、少しずつ完成へ向けて書き続けています(笑)。


アイデア自体はすでに用意してあるのですが、新しい章を一つ完成させるために必要な執筆時間は、これからも増えていくことになりそうです。


幸いなことに、主人公にとって大きな転機となるEdhen編については、ひとまず大まかな部分まで完成させることができました。



皆さんからの応援は、限られた執筆時間の中でも、これからも作品をより良いものへ仕上げていくための大きな原動力になります。


本当にありがとうございます。

第一部 ― 裏社会勢力、それぞれの盤上

冬の早朝の風が、城外から土埃を運び込み、Edhen南部、第4区画の近くにある廃倉庫の大広間へと吹き込んでいた。

だが、見た目に騙されてはいけない。

冷たい灰色の石床の下には、四千人以上を収容できる広大な地下拠点が存在していた。

黒い鎧を身にまとった戦士の像が、長い年月によってところどころ崩れ、ひび割れている。

その像たちは、まるで声なきまま、一つの会議を見届けていた。

Rune石から放たれる光は弱々しく、そして不規則に震えている。

それは、死の境界へ近づいた老人の呼吸のようだった。

厳しい夜間外出禁止令がこの街に導入されて以来、十年以上にわたって存在し続けてきた地下拠点。

その中心にある六角形の会議室。

そこに一人の中年男性が座っていた。

赤みを帯びた乱れた茶色の髭。

粗い石を削って作ったかのように隆起した顎。

そして、千人もの人間を虐殺してきた鋭く冷たい眼差し。

男の名はRusugt。

40歳を少し過ぎたように見える。

彼は裏社会組織「鉄の手」の首領であり、Velindia帝国の宰相Tharl Venctilの側近でもあった。

およそ12年前、彼はこの街へ潜入し、裏社会で勢力を築けという命令を受けた。

ただの下級兵士に過ぎなかった男が、今では宰相の右腕となっている。

両手の人差し指が、黒い石の机に積もったManaの粉塵を一定の間隔で叩く。

その音は、会議室の中でゆっくりと時を刻む砂時計のようだった。

待っているのは――敵対組織「清教連盟」を滅ぼすための作戦、その報告。

「閣下。『清教連盟』へ武器を供給していたXillem商会――表向きは信頼ある商会を装っていた、あの連中ですが……すでに綺麗に始末しました」

「まだ“使える”連中は奴隷として連れて行き、残りの死体は、閣下の“ペット”に腹いっぱい食わせてあります」

「よし、よし」

Rugustは指を止める。

そして、手を上げて数度叩いた。

いつもの仕草。

「Xillem商会は完全に潰れた。上出来だ」

「それで……あの壁、例の紹介された遮断装置はどうだ?」

報告役の男が答える。

「閣下、あれは本当に素晴らしい道具です」

「誰一人、近づくことができません。外にいる者から、中で何をしているのか知ることもできない」

「まだ何件か、奴らのために働いている商会がありますが、あれがあれば、都市政府ですら追跡できません」

「『清教連盟』へ潜入させている我々の密偵からも、こちらにとって有利な変化が始まっているとの報告が入っています」

「ほかには?」

Rugustが尋ねる。

「密偵から、さらに極めて良い知らせがあります」

「奴らは財政面で深刻な問題を抱え始めています」

「さらに、我々が冒険者たちから奪った銀貨10,000,000――金貨10,000枚相当ですが……あれは実質的に、外部から『清教連盟』へ送られた補給金でした」

その日の最高とも言える知らせ。

Rugustは大声で笑った。

「ハハハハハ……!」

「まさか、何十年もの間、『清教連盟』を名乗る連中がEdhenの裏社会を占領しているせいで、俺たちが平和条約を維持し続けなければならなかったとはな」

「今じゃ、奴らは自分たちの金すら守れない」

「一万二千人近い奴らが、八千人しかいない俺たちを相手に、今やどれほど役立たずになっていることやら……」

「奴らは、もうここから消える時だ」

「その銀貨は、今どこにある?」

Rugustが問う。

「閣下、第3基地の地下三階に隠してあります」

「奴らには発見できません」

Rugustは黙り込んだ。

何度も指を机に打ち付ける。

その仕草だけで、周囲の者たちは理解した。

――この男は、さらに何かを企んでいる。

Edhen全体を巻き込む縄張り争い。

言い過ぎではない。

この街では、これまでにも同じようなことが歴史上三度起きているのだから。

「よし。次は、お前に仕事を与える」

Rugustは先ほど報告を行った男の近くにいる、商人を装った服装の男へ視線を向けた。

「我々にあのRune装置を売り込んできた連中へ連絡しろ」

「遮断壁を大量に購入し、それと同時に、その商人がほかにどんな武器を売っているのかも聞き出せ」

「これから我々は、この裏社会の縄張りを奪い返す戦争を始める」

「奴らに、一切の機会を与えるな」

商人姿の男は嬉しそうに答えた。

「はい、閣下。すぐに手配します」

「売り手との交渉も、閣下がお望みなら、できる限り安く買い叩いてみせます」

「必要ない。効果があるなら、それでいい」

Rugustはそう答え、広げられた地図を指差した。

そこには赤い印が無数に記されている。

情報提供者から得た情報によって、「清教連盟」の倉庫、武器庫、Rune灯の保管庫、技術用地下施設、そして司令部の位置まで明確に示されていた。

勢力圏は二分されている。

北側――「清教連盟」。

南側――Rugust。

「敵の後方を塞ぐだけでいい」

「そうすれば、残った側は自然に崩れる」

「奴らは、すぐに動く」

Rugustは地図から目を離さずに言う。

「この状況で、大きな敵が存在しているというのに、奴らを袋小路へ追い込まない馬鹿なんていないだろう」

周囲では、他の構成員たちも慌ただしく準備を進めていた。

濃紺の外套をまとった者たちが、静かに頷く。

Rugustはさらに続けた。

「そして我々は中央の経路を押さえる」

「倉庫と、奴らに協力している者たちも攻撃する」

「だが、力で押し潰すわけではない」

「最初の三時間で、補給と交易情報の経路をすべて封鎖する」

「その前に、都市政府の連中を拘束しておく必要がある」

「そうすれば、奴らを処理した後、帝国側の人間とも交渉しやすくなる」

「『清教連盟』が崩壊した後にな……」

――

帝国の首都。

Edhenから千キロ以上離れた場所。

一人の男が、高級な輸入茶の香りを優雅に楽しんでいた。

今回の戦いに決定権を与えた人物。

ほかでもない、帝国の宰相だった。

彼は高台から遠くを見つめている。

その視線の先――遥か千キロ以上離れた場所には、Edhenという都市がある。

紫色の外套を身にまとい、彼はゆっくりと一口ずつ茶を飲んでいた。

まるで、何一つ大きな問題が起きていないかのように。

彼が知っていることはただ一つ。

まもなくEdhenは、再び自分の手へ戻る。

交易路。

そして裏社会の武器流通網。

それらを掌握すれば、Velindia全体の税収の20%にも及ぶ利益を生み出すことができる。

――Tharl Venctil。

「ほう……」

「今日の茶は、Edhenから届いたばかりのものだが、実に美味い」

「惜しいな。こんな茶葉を育てた奴らは、もういないのか」

「俺の財布は、まだまだ満たさなければならん」

「欲の悪魔というものは、決して眠らないな……」

Venctilは小さく呟いた。

――

北東部。

Edhen北門付近。

都市北東部の一角。

崩れかけた一軒の家を偽装として、その地下100メートル。

そこには巨大な地下洞窟施設が広がっていた。

Runeによる地下照明が、洞窟の奥を淡く照らしている。

その一室。

広い洞窟壁面を利用して作られた会議室に、一人の若い女性指揮官が立っていた。

名はAyla Kirmen。

「清教連盟」の指導者である。

彼女は八角形の石造りの台座の前に立っていた。

長い銀髪は背中へ流れ、斜めにRune文字が刻まれた札によって軽く留められている。

見た目は28歳ほど。

青空色の瞳には紫色の光が反射し、Manaによってのみ浮かび上がる特殊な隠しインクで書かれた暗号文が、一行ずつ彼女の視界へ映し出されていた。

「この一週間足らずの間に、我々は謎の勢力から攻撃を受けた」

「最初はXillem商会」

「次に、価値10,000,000銀にも及ぶ外部からの補給金」

「何者かが、独自の判断で攻撃しているという可能性は?」

「いいえ」

一人の男が答える。

「自発的な集団ではないと思います」

「最初から計画されていたのでしょう」

「我々は今、深刻な収入不足に陥っています」

「鉄血団は、かつて我々が支配していた縄張りを次々と奪っています」

「私は……」

何人かがまだ推測を重ねている中、Ayla Kirmenが立ち上がった。

「銀貨輸送車の襲撃と、Xillem商会への攻撃」

「どちらも、同じ組織によるものです」

「こんなことができるのは、ほかでもない――『鉄の手』です」

Ayla Kirmenは断言した。

責任者や各隊長たちも、その意見に同意する。

しかし、多くの者たちは疑問を抱いていた。

なぜ、この平穏な時期に攻撃を始めたのか。

それとも――。

「別の誰かが、裏から糸を引いているのではないか」

一人の隊長が口を開いた。

「しかし……なぜ奴らは攻撃してくる?」

「兵力は我々よりはるかに少ない」

「以前の戦意ですら、我々より下だったはずだ」

「それなのに、背後に誰かが……」

Ayla Kirmenはすぐに答えた。

「我々がまだ調査していない商人の集団がいる」

「奴らも外国人だ」

「だが、行動が謎に包まれている」

「おそらく、何らかの関係がある」

「ただし、Xillemとは違う」

「我々の人間は、いつも奴らを追跡できなくなる」

「まさか……我々の中に内通者がいるのでは?」

責任者が言った。

「可能性はある」

「だが、まだ誰なのか分からない」

「今はそれだけでいい」

「四人の古参将軍を連れて、第2地下施設へ向かえ」

「これから必要になるものがある」

「この状況なら、この街で戦争が始まっても、私はもう驚かない」

「了解しました、指揮官」

――

第2地下施設

Ameから密かに運び込まれた武器が、非常に高額な価格で「清教連盟」へ引き渡される場所。

布で覆い隠された巨大な兵器。

大きく、高く、機械油と金属、火薬の匂いを放っている。

この世界の住民にとっては見慣れない匂い。

しかし、Ameの人間にとっては馴染み深いものだった。

広い洞窟の一角。

Ameから密かに運び込まれた高価な兵器は、わずか四両。

Ayla Kirmenは指揮官用の制服を身にまとい、銀で装飾された剣の柄を強く握った。

それは三本しか存在しない、「聖器・霊階」と呼ばれる剣の一つ。

必要となれば、強大な魔力を爆発的に引き出すことができる。

その下では、老練な指揮官たちがすでに配置についていた。

「これが……Ameの兵器なのか」

「なんて巨大なんだ……」

「これを見るのは二度目だ」

「Ameには先進的な機械技術があるとは聞いていたが……」

「まるで移動する要塞のような兵器を、この目で見るのは初めてだ……」

老将たちが布で覆われた巨大な兵器を前に驚嘆する中、Ayla Kirmenは壇上に立った。

「本日、皆さんをここへ特別に呼んだのは、これから使用する兵器を見てもらうためです」

「この機械を扱う訓練の間、皆さんには優れた指揮官となってもらいたい」

「これから始まる戦いについては、皆さんも理解しているでしょう」

「我々は、『鉄の手』が我々の組織を脅かすことを、決して許さない!」

「了解しました、隊長……!」

「鉄の手だと?」

「奴らを粉々にしてやる……!」

「『鉄の手』を打ち破れ!」

「俺たちを襲った報いを受けさせろ!」

地下に、怒号が響き渡る。

Ameから運ばれてきた兵器の準備は整っていた。

覆いを剥がされ、巨大な鉄の車体が姿を現す。

車体側面には砲塔。

そして車体上部にも砲塔。

紹介板には、その鉄の機械の名前が記されていた。

M3 Lee

――M3 Lee ― Medium ― Rank II ― BR 2.7――

…………

二つの勢力は、どちらも必死になって準備を進めていた。

まるで、両者とも自分こそが先手を取っていると信じ、勝利を確信しているかのように。

一つ一つの動きは、まるでチェスを指すように計算されている。

盤上に置かれる駒。

しかし、それは相手を欺くためではない。

――両勢力の縄張りと生存そのものを賭けるためだった。

だが――。

地下200メートルの暗闇。

その深い地下施設の中で、一つの集団が忙しなく、街の中心部へ設置された「何か」を調整していた。

木箱に包まれた荷物が開封されている。

隅には、Runeの封印シールが残っていた。

そこにあったのは、小さな球体。

金属ではない。

この世界ではありふれたRune石から作られている。

しかし、その内部には――いつでも爆発し得る、無限とも思えるエネルギーが蓄えられていた。

白衣を着た一人の男が、紙へ式を書き込んでいる。

E=mc²

より正確な計算を行うためだ。

そして、すでに特殊な金属製の外殻へ収められたそのRune石を、注意深く観察している。

「フフフ……」

「この混沌としたゲームも、それが爆発する日には終わるだろう」

どこからともなく、名もなき者の声が響く。

白衣をまとった研究員とその仲間たちは、何かをミリ単位で細かく調整していた。

それこそが――Edhen全体の盤上を、本当に握っている者たちだった。

街を走り回る「実験用モルモット」たちに、偽りの希望を与える存在。

(Ramnarsと同じようなものになるだろう。ただし、基本的には実験段階に過ぎない……)

「先生……」

「この破壊の光を、誰よりも早く味わう機会を与えてくださり、感謝いたします」


第二部 ― 思索の中で

Edhenのギルド休憩室。

午後の日差しが、英雄として名を残す冒険者パーティーの像の傍らから、静かに差し込んでいた。

窓から差し込んだ光は、ゆっくりと斜めに伸び、噴水の水面を照らしている。

その光は、壁の一角に貼られた紙製の壁紙を照らしていた。

一枚だけ、角が少しずれている。

ギルドも閉鎖されているため、今日は何もすることがない午後だった。

女性ギルド会長のCelesとも連絡が取れない。

事件の調査が続いているため、行政区画へ近づくこと自体が禁止されているからだ。

――残り時間:44日。

――任務時間のカウントが開始されました。

「何とかして……先に会長へ知らせて、警戒してもらわないと……」

「でも、誰が信じてくれる?」

「自分には未来を予知する力があるなんて言ったところで、笑われるだけだろうな」

「まだ活動停止に至るほどの事態じゃない。せいぜい一週間程度の調査で、また再開すると思われている……」

「それに、この街をEに気づかれずに脱出する方法……本当に難しい」

「もっと早く出ることもできる。だけど……あの女は賢すぎる」

「人間なのに……むしろ怪物に近い」

「獲物が隙を見せるのを待ち、その瞬間に襲いかかってくる……」

Yilfenは古びた木製の机の前に座ったまま、じっと考え込んでいた。

その傍らには、Edhen全体の簡単な見取り図が描かれている。

彼の指が、鉛筆で引かれた線をなぞっていく。

そこには、これまでに通った道が一つずつ記されていた。

さらに、街の地図やギルドの位置。

そして、かつて違法商人が利用していた経路について、いくつかの情報も書き込まれている。

窓の隙間から吹き込む穏やかな風が、地図の端を小さく揺らしていた。

まるで、傷ついた人間の呼吸のように。

「ギルドから始めて、行政区を通る」

「そこから、さらに弧を描くような道を進む」

「その途中に、放棄された地下倉庫がある」

「地下倉庫から北東へ少し進めば、主要道路へ出られる」

「その先は、Xillem商会の建物に近い……」

「……待て」

Yilfenの思考が止まる。

「ここなら十分な広さがある」

「しかも放棄されている……なら、あれを置いても問題ないはずだ」

一つの考えが、徐々に形になっていった。

召喚兵器に関する使用禁止が、まだ有効であることは分かっている。

そのため、SPを使って先に車両を召喚しようとしても、余計な時間を消費してしまう。

それなら――。

「先に置いておけばいい」

「準備しておくくらいなら、遅くはない」

「そして、その時が来たらエンジンを始動させて、北門へ向かって一気に飛び出す」

「そうすれば、安全に逃げられる」

ただし――。

前回と同じ問題が残っていた。

45日目まで脱出できない状況になった場合、Yilfenは召喚する予定のT-34 1942で城門を破壊し、外へ出なければならない。

しかし、その脱出を阻む最大の脅威。

未来のシミュレーションで自ら姿を現した――E。

「……まだ駄目だ」

「早く逃げても、遅く逃げても……結局、あの女に捕まる」

ピピッ、ピピッ……

その時、Yilfenの左側に置かれていたLaptopが突然光った。

任務画面に警告が表示され、安全指針が展開される。

【追加警告:準備期間から45日目直前まで、安全上の理由により、都市外へ出ることを絶対に禁止します。

安全指針:都市南西部には、市街地の範囲内にある狭い通路が存在します。その先には一時倉庫があり、そこでは発見されることなく偵察または囮の設置が可能です……】

チャット画面に、一行の文字が浮かび上がる。

Yilfenはその文章を見つめ、少しずつ推測を組み立てていった。

「もし……」

「俺が街の外へ、一歩でも出た瞬間……」

「何らかの方法で、Eがとんでもない速度で俺のところまで来るとしたら……」

「シミュレーションの時みたいに……」

彼は思い出していた。

あの時、Eは南門にいた。

それなのに――。

この都市の半径は、およそ4.5~4.6km。

現実世界で言えば中規模都市に近い広さだ。

それにもかかわらず、わずか五分にも満たない時間で、いや、それ以上の短時間で、正確にYilfenの位置を把握し、追いついてきた。

「それだけの速度で動けるなら……最初から待ち伏せしていた可能性が高い」

「でも……俺がどの方向へ進もうとしても、東、西、南は全部死地だ」

「Eに捕まらなかったとしても……」

「内戦が始まれば、あの門を通ること自体が不可能になる」

「まだ試してはいないけど……」

「二度目の囮作戦か?」

Yilfenは考え込む。

「俺には、まだBackup車両がある……」

「でも、どうやって……」

「逃げるための時間を稼ぐ……?」

安全指針で示されていた南西部。

そこは、虎を森から誘き出すための囮を置くことができる場所だった。

Yilfenには、まだ第4倉庫に保管されているBt-5がある。

そして――。

Backup:2*

――BTR-152A(Anti-Air)

――All vehicles

-1 Backup Air Rank III All Vehicles-

-1 Backup ZiS-30-

-1 Backup Gaaz - 7.62mm-

「一つの命で、一つの命を交換するようなものだ……」

「危険すぎる」

「まだ航空機を出す時じゃない」

「この権力争いは、俺の戦いじゃない」

「早く動くこともできない……」

「そうしなければ、藪をつついて蛇を出すことになる」

Yilfenは深く考え込んだ。

「そう考えるなら……45日目の18時30分頃」

「シミュレーションでは、爆発まであと二時間近く残っていた」

「そこが、この街から脱出するための答えなのかもしれない」

彼は心の中で、自分自身に語りかけるように考えていた。

「脱出に必要な時間は、おそらく一時間近く」

「そして車両をAIに自動操縦させるためには……」

「Eを誘導して、北門へ近づけさせないようにする必要がある」

Yilfenは身を屈め、アイテム庫のリストを開く。

その目が、ゆっくりと装備一覧を追っていく。

一つ。

また一つ。

彼は計画を組み直していった。

Edhenの街に夜が訪れる、その時まで。

そして――。

「……これでいい」

「これで準備は終わった」

「これからは、移動費を稼ぎながら状況を観察する」

「そして……会長に知らせる方法も探さないとな」


第三部 ― 戦火の火種

――それから二週間が過ぎた。

Yilfenは、別の仕事を見つけて一時的に働いていた。

今の彼は小さな商人だった。

扱っている商品は――鉛筆。

商人たちにとって、筆を使い続けるよりも、安定して連続して文字を書ける筆記具は非常に便利だった。

Yilfenは現在、Edhenで最初の鉛筆を作った職人、Brellへ資金を出し、鉛筆の製作と商人たちへの売り込みを続けてもらっていた。

「なかなか良いペンじゃないか。いくらだ?」

「50銀貨です。それと、この芯を削るための小さなヤスリも付いています。さらに、紙を消して再利用できる丸い消しゴムも一つ付いています」

商人は実際に使ってみた。

そして満足そうにBrellとYilfenを見てから、言った。

「いいだろう。買った」

「使い勝手が良ければ、他の連中にも紹介してやる」

「ありがとうございます。またお会いしましょう」

――残り時間:30日。

Edhenの冒険者ギルドは、長らく停滞していたが、ようやく再開された。

強盗事件の背後にいる者を発見できなかったことに加え、冒険者たちからの強い要望もあり、任務掲示板と受付業務が再び開放されたのだ。

ただし、現在も商会側から派遣された監視員による監視が続いている。

「今のところ、怪しい人物は見つかっていません。任務を受けた者は全員、明確な身分情報を持っています」

監視員その1が帳簿へ記録する。

「妙ですね。我々は関係者を全員調査したはずです」

「ですが、今になっても……あの輸送任務を受けた者たちの行方だけは、どうしても見つかりません……」

監視員その2が答えた。

「それだけの金額を失ったとなれば……我々が一生働いても、とても補填できませんね」

監視員その1が呟いた。

――

Edhenの主要交差点。

信頼ある商会Xillemが姿を消して以来、もともと張り詰めていた街の空気は、さらに重苦しいものとなっていた。

そして最近、もう一つの商会が消えた。

今度はXillemよりはるかに小さい商会。

所属していたのは、わずか五人にも満たない。

それでも――彼らは謎のまま姿を消した。

「今度は……Faret商会か?」

「終わった……俺が投資していた資金まで消えちまった……」

「ひどすぎる。商会の連中はいつだって約束ばかりする」

「それで最後は、まるで最初から別れなんてなかったみたいに、くだらない信用だけを残して消えるのか……」

一般市民の商売にも影響が広がっていた。

何が起きているのか、誰にも分からない。

ただし――「鉄の手」だけは、その理由を知っていた。

「清教連盟」は、Xillem商会の事件への報復として、Faret商会に潜ませていた情報網を破壊したのだ。

そして、その日。

新たな異変の兆候が現れ始めた。

地元住民ではない正体不明の集団が、個人情報を確認するための各所の検問付近に、点々と姿を現していた。

フードの奥に隠された彼らの目は、まるで刃物のようだった。

彼らは一枚の告知書を取り出した。

「本日、我々は声明を発表する」

「我々――『清教連盟』は、ここ数週間Edhenで起きている一連の事件とは一切関係ない」

「そして、お前たち――『鉄の手』と我々は、これまで通り締結した和平条約を遵守している……」

一方では――。

「本日、我々は声明を発表する」

「我々――『鉄の手』は、ここ数週間Edhenで起きている事件とは一切関係ない」

「お前たち――『清教連盟』と我々は、これまで通り締結した和平条約を遵守している……」

片方は「清教連盟」。

もう片方は「鉄の手」。

両勢力は同時に、和平を宣言する録音と、赤い印章が押された声明文を公開した。

Edhenで起きている一連の騒動には、一切関与していないと明確に主張したのである。

さらに、最近の異変についても、赤い印章の押された公文書を提示した。

ギルド。

商会。

そしてEdhenの都市政府。

そのすべてが、今回の失踪事件の背後にこの二つの裏社会勢力がいると疑っていた。

しかし――両者による和平声明は、その疑いを巧妙に逸らした。

そして、二つの組織は失踪事件の原因候補から外されることとなった。

そもそも、現在Edhenを守る戦力は5,000人にも満たない。

長年この街に存在し続けてきた二つの巨大な裏社会勢力と、同時に戦えるだけの戦力など、最初から存在していなかった。

しかし――。

地下に広がる各勢力の拠点では、まったく別の動きが始まっていた。

「鉄の手」側

「通信Rune石による通信を遮断。機密情報を暗号化中」

「通信Rune石による通信を遮断。機密情報を暗号化中」

「武器と食料を十分に準備」

「諜報情報を即時、リアルタイムで更新」

「『清教連盟』に関するすべての情報を総本部へ接続」

……

「清教連盟」側

「通信Rune石を遮断。機密情報を暗号化中」

「通信を遮断。機密情報を暗号化中」

「武器、食料を十分に準備。武器への燃料補給も準備完了」

「諜報情報を即時、リアルタイムで更新」

「『鉄の手』に関するすべての情報を総本部へ接続」

そして――。

ほぼ同時刻。

両勢力の首領が、偶然にも同じ命令を下した。

「戦争に備えろ」

「これから30日間が、決定的な時間になる!」

……

その日の午後。

Edhen北門近くの小さな市場。

Yilfenは新たな雑務を受けた後も、静かに周囲を観察しながら仕事を続けていた。

荷物の配達。

荷物の運搬代行。

資材箱の輸送。

時には、補給物資を収集所まで護送することもある。

街全体は以前より通行しやすくなっている。

だが、人々は息を潜めていた。

そして――。

今日中に、Celes会長へ何とか情報を伝えなければならない。

彼女自身が迫り来る危険へ対処できるようにするためだ。

「残り30日……」

「Brellのところで作った鉛筆も全部売り切れた」

「金も十分に貯まった」

「ここを出るために必要な、約10枚の金貨だ」

その時だった。

遠くの丘。

奇妙な塔がいくつも建っている場所で、小さな光が一瞬だけ瞬いた。

Yilfenは偶然、その光を見た。

直感的に――良くないものを感じる。

彼はすぐさま、人力で牽引されている荷車の陰へ身を隠した。

周囲では、何も知らない人々が普段通りに行き交っている。

誰もその光へ注意を向けていない。

「……くそっ」

「あの女だ」

街の反対側。

淡い光が見えた場所。

侵入防止用のRune塔の遺跡が交差する、約1kmほど先。

Eは高所に立っていた。

車両から取り外した潜望鏡を使い、地図とEdhenの街を直接観察している。

彼女の視線は、交差点を一つずつ。

地下施設を一つずつ。

そして、城門から出ていく住民たち一人一人を追っていた。

特殊な双眼鏡が、偶然一人の冒険者を捉える。

しかし――。

その方向からは、信号が発せられていない。

信号カードは今もギルドに置かれている。

Yilfenの位置情報を送ろうとしているが、都市に張られた防護機能が、まだ正常にその働きを続けていた。

「……どこにいる?」

「私が探している秘密を握る者よ……」

Eは歯の隙間から、かすかに呟いた。

手には魔法の杖。

その杖にはMana探知用の装置が取り付けられている。

木で覆われたRune石が探知器の先端に埋め込まれており、ギルドで管理されている銀色の出入用カードと同じ波長に反応して、ときおり淡い光を放っていた。

Yilfenは荷車の後ろにしばらく身を隠していた。

彼は何かに押し潰されるような感覚を覚えていた。

目で見たわけではない。

――これまでゲームの中で何度も死にかけた経験から来る、本能だった。

彼は慎重に周囲を観察する。

そして、遠くの丘へ目を向ける。

誰かの姿をはっきり確認することはできない。

それでも、背筋だけが冷たくなった。

そして、ようやく口にできたのは――。

「ゲーム用語で言えば……まだcampingしてるってことか」

「有利な場所をあらかじめ確保して、あらゆる進路を監視している」

「偶然の遭遇が原因で、俺はここに閉じ込められた」

「しかも、残り時間まで設定されている」

「まるで……あの女が、自分の手でロックを解除したがっている特殊キャラクターみたいだな……」

――

同じ頃。

Velindia帝国学院。

三階の書斎で、一人の教師が古い機密資料を開いていた。

「……ん?」

「Ramnarsについての記録か」

「12年ほど前の資料だな……」

「ここに置いていたとは、覚えていなかった」

教師は資料をめくる。

もともと彼は、音楽科の教師から頼まれ、翌年の祭典で使用する交響曲の資料を探すため、この部屋へ来ていた。

しかし、偶然にも十年以上もの間、埃をかぶっていた記録を見つけた。

時間にも余裕があった。

そこで彼は、かつて自分自身も調査に参加した、当時の資料を読み返すことにした。

「当時……」

「人々は、その情報が広まることを完全に禁止した」

「『女神が降臨し、魔王を罰した力』と呼ばれていたな」

「だが……」

教師は眉をひそめる。

「私は、どうしても何かがおかしいと感じている」

「本来なら、神によるただの一撃のようなものだったはずだ」

「それなのに、その力は有害な汚染を引き起こし、あの場所を死の中心地へ変えた」

「報告書によれば、百年後になっても、そこでは一匹の生物すら生きられない……」

資料の中には、さらにRune石によって記録された映像データが残されていた。

映像が再現される。

そこに映ったのは――。

巨大な鉄の鳥。

機体には青い星が描かれている。

奇妙な形状。

四基の巨大なエンジン。

大きく広げられた二枚の翼。

その影だけで、広大な一帯を覆い尽くすほどだった。

もちろん、教師はこれほど奇妙なものを見たことがない。

鉄の鳥という意味なら、Ameにも存在する。

だが――ここまで巨大ではない。

以前読んだAmeについての紹介書。

そこに掲載されていたものは「飛行機」と呼ばれていた。

木材で作られた、もっと小さく粗末なものだった。

「これが……あの獣なのか?」

「見れば見るほど……ドラゴンには見えない」

「黄金の鷲とも違う」

「鉄と鋼でできた、白と灰色の何か……」

「空を飛ぶ」

「Ramnarsの上空を飛んでいた……」

そして――。

「このものこそが、あの巨大都市を滅ぼした……」

「空を飛ぶ機械……」

黒く焼け焦げた記録帳の下部に、かすかな注記が残されていた。

――Ramnarsにて出現。

――危険度分類:未確認の怪物。

――魔法的特性が確認されなかったため、*分類なし。

――分類:戦術兵器。

――戦力区分:作戦級 ― 戦術級 ― 戦略級。

記録名:

――(Code:B-29☢️:特殊召喚級グループ ― 戦術破壊兵器)――

ゴォォォ……。

ブォォォォォン……。

外では、嵐の風が激しく吹き始めていた。

教師はもう長くここに留まって資料を読んでいるつもりはなかった。

時間はまだある。

しかし――雪が降り始め、周囲を白く覆い始めている。

「今日はここまででいいか」

「これは、校長先生に返して保管してもらった方がよさそうだな」

教師は資料を閉じた。

そして、探していた楽譜を見つけると、それを手に校長室へ向かった。


第四部 ― 禁止されたデータ

東から吹きつける風が雪混じりの雨を運び、帝国学院の西側に広がる枯れた竹林を撫でていく。

まるで、過去に隠された秘密を覆い隠すかのようだった。

――帝国学院・校長室。

「Merion校長先生。中央地域における、古い調査記録を発見しました。12年前の事件に関するものです……」

「ふむ……残されていた資料か」

「分かった。もう下がっていい」

「はい、校長先生」

教師が部屋から出ていく。

その後、校長Merion Halvarsはゆっくりと本棚の裏に隠された秘密の扉を開いた。

そして地下へ降りていく。

地下の資料保管室。

そこには幾重にも光と封印魔法が張り巡らされていた。

部屋の隅では、小さな薪ストーブが赤々と燃えている。

数時間前から残っていた熱が、まだ消えずに残っていた。

「悪くない。薪の質も十分だ」

「ただ……あの機密資料が完全に揃うまで、こんなにも時間がかかってしまったか」

黒曜石の机の上。

古びた資料の束が一つ置かれている。

その半分は焼け焦げていた。

周囲には記録用のRune石が並べられているが、最後の記録部分だけが空白になっていた。

【分類コード:最高機密 ― バックアップ禁止/いかなる形式での流布も禁止】

Merionは、資料に重ねられた符文を一枚ずつ確認していく。

最後の文字列が、ゆっくりと浮かび上がった。

【Code:B-29☢️:特殊召喚級グループ ― 戦術破壊兵器】

――資料欠損。

「ようやく……」

Merionは呟いた。

「Velindia最大の都市を破壊した戦い、その全貌が明らかになった」

(推定被害範囲:半径6.5km)

Merionは深く息を吸い込み、目を閉じた。

手元の記録装置が、かすかに震える。

そして――。

Rune安全装置が発する激しい振動音と混ざり合いながら、どこか不自然な声が再生された。

「……XXX2年5月18日――中央地域……」

「戦闘は中央地域、Ramnars市の領域内で発生」

「神聖級危険存在――古代魔王――が出現」

「同時に……金属によって構成された召喚獣の軍勢が確認された」

「それらの獣にはManaが存在せず、通常の魔法体系の影響を受けない」

――Rune記録1、終了。

続いて、Rune記録2が再生される。

「奴らは履帯、砲、鋼鉄の車体、そしてManaを発生させない無機質なエネルギーコアを保有している」

「特に、一部の個体は飛行可能」

「巨大な鳥のような姿をしている」

「魔王本人だけではない」

「この戦いには、彼の配下である使徒たちも姿を現した」

「そのため、魔王を討つことは絶望的な状況となった」

「Ramnars市は人質として利用され、魔王はVelindia帝国軍に対して脅迫を行った」

「Ramnars、そして魔王本人とその使徒たちへ干渉するな」

「さもなくば――すべてを破壊する」

Rune記録2が終了する。

そして、Rune記録3が続いた。

【移行記録 ― 殲滅命令、失敗】

「交渉中の魔王に対する暗殺作戦……失敗」

「複数の精鋭部隊が召喚された」

「しかし……」

「すべて、魔王の使徒たちによって壊滅」

「鉄と鋼でできた怪物たちに、ことごとく踏み潰された」

「その戦闘によって、空間そのものに亀裂が生じ始めた」

「そして――女神たちが降臨した」

「彼女たちは壊滅した部隊を蘇生し、英雄たちを再び戦場へ送り込んだ」

「こうして――Ramnarsを滅ぼす戦いが始まった」

――

最後の記録。

しかし、それも完全なものではなかった。

4番目の記録へ続く。

「魔王は、ほぼ討滅された」

「彼の配下にいた使徒たちも、女神たちの裁きの力によって次々と倒れた」

「魔王は、もはや最後の力しか残されていない」

「それでも彼は、残されたManaを凝縮し、自爆魔法を発動させようとしていた」

「だが――」

「魔法が完成した、その瞬間……」

――

ヒュゥゥゥゥゥ……。

長く、低く、まるで何かの出現を告げるような不気味な警告音。

Runeの記録片が捉えたのは――巨大な鉄の鳥。

それは、何か奇妙な物体を落とした。

次の瞬間――。

轟音。

そして、純白の光が爆発的に広がった。

「Ramnars全体が……消滅した」

「白い光が通過した場所では、すべての物質が消えていく」

「街全体が、魔王の自爆とともに消滅した」

「さらに、暴走したManaと未知の有毒物質が周囲を覆っている」

「Ramnarsに、生存者は存在しない」

「残された女神たちは、狂乱の中で街を見つめている」

「そして、漂う魂を回収している……」

「魔王は……消えた……」

「それ以来……」

ザー……ザー……。

「避難範囲を最大30kmまで拡大せよ」

「そうしなければ、遺体すら残らない」

「これより先――」

「ここは死者の土地となる……」

ザー……。

そこで、記録は途切れた。

4番目の記録の最後の部分は、複数の音声波形が重なり合ったノイズだけを残していた。

Merionは静かに資料を閉じる。

「……それだけなのか?」

「悲しい過去も、これで終わった」

「だが……」

彼は目を伏せた。

「どうやら、これがもう一度繰り返されようとしているらしい」

「この運命の糸は……いったい、どこへ続いているのだろうな」

――

Edhen――現在。

行政区画。

Edhen冒険者ギルド支部・会議室。

「現時点では、ひとまず問題ありません」

「ただ……また別の小規模商会が、一切の痕跡を残さず消えました」

「現在、冒険者たちが情報を集めています」

「何か分かれば、こちらから報告します」

しかし、商会側は待っている余裕などなかった。

彼ら自身の信用が揺らいでいる。

「分かりました」

「ですが、あなたたち冒険者ギルドには、これから一か月以内に、正式な説明をしてもらいます」

「失われた金額は非常に大きい」

「このままでは、Edhenの商会そのものに対する信用問題へ発展しかねません」

「都市商業組合としても、できるだけ早く失踪者を見つけ、失われた金を商会へ戻してもらいたい」

「……もし、それができなければ」

「このギルドの会長職は、別の者へ交代してもらうことになります」

Celes Arvenwaldは、評議会の戦略会議室にいた。

都市商業組合との間で行われている、捜索に関する緊急協議。

商会からの圧力を受けながらも、彼女は冒険者ギルドを守ろうとしていた。

商会だけではない。

都市商業組合からの圧力も、日に日に強くなっている。

失踪者の捜索任務は、今も続いている。

しかし――。

これ以上、何の情報も得られなければ。

彼女はEdhenを離れなければならない。

そして、冒険者ギルドの会長職も辞任する。

都市商業組合からの要求に従い、別の人間へその座を譲ることになる。

結局のところ――。

その時が来たのだ。

自分が席を下り、都市商業組合が新たな管理者を選ぶことで、冒険者ギルドそのものを守る。

その頃。

Yilfenは仕事を終え、行政庁舎の外でCelesを待っていた。

人々が出入りする流れの中に立ち、順番を待っている。

他にも、会長へ仕事の相談をするために並んでいる者たちが何人もいた。

「次の者……」

行政庁舎の門番Rylsantが、順番に呼び続ける。

Yilfenの前には、まだ数人が残っていた。

彼は胸の中で迷っていた。

「……会長は、本当に俺の話を信じてくれるだろうか?」

――Edhenが消滅するまで、残り30日。


第五部 ― 警告

午後の日差しが曇りガラスを斜めに横切り、赤いビロードのカーテンを透過して、部屋をまるで時間の帯に切り分けるような長い光の筋を作っていた。

冒険者ギルドの外にある時計が、午後4時を示す頃。

Yilfenはようやく行政区画へ入る許可を得た。

「会長は2階、行政区画のティールームにいます。あと……言葉には少し気をつけてください。都市商業組合の者が来て、かなり強い口調で脅してきています……」

「分かりました。教えてくれてありがとうございます」

――

2階・行政区画、ティールーム

Yilfenは部屋へ入った。

簡素な冒険者用の装備。

胸元にはギルドの徽章。

腰元には装備がぶら下がっている。

普段の平静な表情の奥には、鋭い眼差しが隠されていた。

彼は何度も会長との面会を申し込んでいた。

そして――ようやく最後の機会が訪れた。

「女性会長、Celes Arvenwaldさんにお会いしたいのですが」

そこにいたのは、最初に会った時と変わらない姿のCelesだった。

金色がかった橙色の髪をきれいに束ね、外側には金色の縁取りが入った青いRune外套を羽織っている。

灰色の瞳は、噂されているほど鋭くはない。

むしろ、湖面の奥で眠る無数の揺らぎのように、静かなものだった。

しかし、彼女はつい先ほどまで、失踪した資金の調査をめぐって商会側と激しく対立していた。

かなり疲れている。

それでも――見慣れた人物の姿を見た瞬間、彼女の表情はわずかに明るくなった。

「こんにちは、Celes会長」

「あなた……Yilfenなのね。今日はまた、どういう風の吹き回しで私のところへ?」

Yilfenはしばらく黙っていた。

そして、慎重に口を開く。

「いくつか、情報を交換したいことがあります」

「この部屋に部外者や録音装置がないことを確認してもいいですか?」

CelesはYilfenをしばらく見つめた。

そして、静かに答える。

「安心して。ここには誰もいないし、録音装置もないわ」

「ただ……私たちにはあまり時間がない」

「あなたは情報交換をしたいのでしょう?」

そう言いながら、Celesは精巧な陶器の急須から茶を注いだ。

Yilfenは頷く。

そして慎重に、一枚の紙を取り出した。

そこには、職人Brellに書いてもらった記録があった。

その前に、YilfenはBrellにも、将来起こる戦争を避けるため街を出た方がいいと勧めていた。

ただし――Edhenそのものが消滅することについては、一切話していない。

Brellはそれでも拒否した。

この場所は、先祖から受け継いできた最後の遺産だからだ。

彼はここを捨てたくなかった。

ただし、妻と子供だけは、すでに故郷である南の村へ戻っている。

「これが……俺から伝えたい情報です」

「近いうちにEdhenで起こることについて、少し情報があります」

Celesは鉛筆で書かれた紙を受け取った。

そして、一行ずつ読み進めていく。

そこに書かれていたのは――。

彼女が今まで一度も考えたことのなかった情報だった。

【Edhenでは内戦が発生する。原因は裏社会に存在する二つの勢力による縄張り争い。ギルド、都市商業組合、そして市庁舎は人質となる。】

Celesの表情が変わる。

「……これを、どこで?」

「秘密です」

「誰もが知っている情報ではありません」

「会長も、何か異常を感じていませんか?」

「いいえ」

Celesは答えた。

「二つの裏社会組織は、今回の事件とは無関係だと正式に声明を出している」

「今のところ、すべての疑いは正体不明の商会へ向いている」

「でも、私たちはその商会を突き止められていない」

「それで――あなたは何を望んでいるの?」

Yilfenは、冒険者ギルドに保管してある、あのカードの入った箱を指差した。

「このカードの複製を二枚、冒険者ギルドの徽章へ書き込んでほしい」

「俺には、それが必要なんです」

「この街を出るために……」

Celesは考えた。

もし本当に彼が、Edhenで何かが起こると知っているのなら――。

4か月以上先の出来事を、わずか30日後まで短縮して知らせてくる理由も理解できる。

しかし、そこには何かがある。

彼女自身にも、うまく言葉にできない違和感があった。

Celesはしばらく沈黙した。

部屋には、温かな茶の香りだけが残っている。

「警告してくれてありがとう」

やがて、彼女は静かに答えた。

「ただ……私も簡単にはこの街を離れられない」

「ギルドには、まだ私の管理が必要だから」

「それと、あなたが必要としている二枚のカード――その赤い印の付いたカードに記録されたコードを複製する件なら、手伝えるわ」

「でも、少なくとも一週間以上は必要になる」

「終わったら、あなたへ知らせる」

「分かりました。では、またお手数をかけます」

Yilfenは立ち上がった。

そして、部屋を出ようとする。

しかし――。

扉を通り抜けようとしたところで、Celesが呼び止めた。

「……あなたは、いつ出るつもりなの?」

Yilfenは振り返った。

「30日後です」

「今から数えて、30日後」

「もし会長が早く考えを変えるのなら……30日後の18時30分までにはEdhenを出ることを勧めます」

「何かが起こります」

「この街そのものを消し去るほどの、何かが……」

「信じてくれとは言いません」

「でも、できるなら……準備しておいてください」

そう言い残し、Yilfenは部屋を出ていった。

その背中を見送りながら、Celesの頭には一つの思考が残っていた。

――

一日の終わり・北門

空はすでに夜へ近づいていた。

Yilfenは第2監視所へ向かった。

Edhenを脱出するために、これからの計画を準備するためだ。

そこで彼は、かつて自分を街へ入れてくれた門番――Alven Drennと再会した。

Drennは石造りの手すりに腰を掛け、硬いパンをかじりながら、片手に持った双眼鏡で遠方を見つめていた。

「今日は商人が一人も来ないな」

「本当に妙だ……」

「こんにちは。今日もいつも通りですね」

「Yilfen?」

Drennが振り返る。

「どうしてこんな時間にここへ?」

「明日の仕事の準備を少ししておこうと思って」

「そうか……」

Drennはしばらく遠くを見た。

「実はな……俺も、もうすぐここを辞めるんだ」

「来週には新しい担当が来る」

「俺の唯一の家族である祖母がVoldaで病気になっていてな」

「ここで十分働いたし、そろそろVoldaへ戻って一緒に暮らそうと思ってる」

「両親もずいぶん前に亡くなっているから……祖母は俺にとって、一番大切な人なんだ」

「あ……悪い。話し込んじまったな。お前の時間を取ってしまった」

YilfenはDrennの話を聞いた。

Voldaへ戻るつもりなのか。

この男は責任感も強く、精神的にも芯のある人物だ。

そう判断したYilfenは答えた。

「Voldaへ戻るんですか?」

「それなら……これを渡しておきます」

Yilfenは門番所へ近づく。

そして、Brellに頼んで作ってもらった一枚の銀貨を取り出した。

獅子の姿が刻まれた銀貨。

その銀色の輝きが、Drennの頬を照らした。

「これは……?」

「詳しいことは言えません」

「でも、Voldaへ戻るなら――」

「EliraとDariosという名前の傭兵を、二人探してください」

「この銀貨を彼らへ渡して、『Yilfenからだ』と伝えてください」

「そして、こう伝えてほしい」

「俺はまだ無事だ、と」

「それから、倉庫にあるアイテムボックスを開けてもらってください」

「もし困ったことがあれば、彼らを訪ねてください」

「きっと、あなたの力になってくれます」

DrennはYilfenをしばらく見つめた。

そして、手を伸ばして銀貨を受け取り、上着のポケットへしまった。

「分かった」

「どうして俺がお前を信じているのか、自分でも分からない」

「だが……この品は、確実に二人へ届けよう」

――

夜・冒険者ギルド宿舎

Minhは、およそ二か月にわたって暮らしてきた部屋へ戻った。

窓の隙間から、風がかすかに唸っている。

彼はLaptopの表面へ手を滑らせ、装備品を一つずつ確認した。

「準備は終わった」

「囮も用意できた」

「あとは所定の位置へ持っていくだけだ」

「今回は三両の囮車両を使って時間を稼ぐ」

「カードの複製さえできれば、あの女を誘導できる」

「そして……Edhenそのものが消滅すれば、あの女も俺の痕跡を追えなくなる」

Yilfenは、任務画面に表示された残り日数を見つめる。

【残り30日】

彼は目を閉じ、暗闇に包まれた天井を見上げた。

心は、嵐の前に揺れる水面のようにぼんやりとしている。

街の外では、まだEdhenの灯りが輝いていた。

しかし――。

運命の旋律が、静かに鳴り始めている。

一つ一つの音が、仮初めの平穏へ刺さる針のようだった。

その頃、地下では――。

「鉄の手」に潜入していた内通者が逃亡していた。

だが、彼は「清教連盟」に追われていた。

「くそっ……!」

「『清教連盟』め……」

「どうして奴らが……あんな兵器を……」

「急いで総本部へ報告しなければ……!」

――

ドォンッ!

彼が何かするより先に――。

一発の砲弾がその身体を吹き飛ばした。

血肉が周囲へ飛び散る。

【内通者:撃破】

【これより30日後まで、奴らから情報を引き出すことは不可能です】

――

Yilfenがこの世界へ来てから、すでに6か月と19日。

Edhenが地図から消えるまで――残り30日。

第11章・完



次回予告:


第12章 ― 内戦 III ― Edhen脱出


あの子と出会ってから……。


確かに、私の心の中で何かが少しずつ揺れ始めている。


VoldaからEdhenへやって来て、この戦いへ巻き込まれた不思議な少年。


何度も彼と会ううちに、ギルドの職員たちはいつも言っていた。


「あなたと彼は、とてもお似合いですよ」と。


……言われてみれば、確かにそうなのかもしれない。


私たちが初めて出会った時から、私はずっと感じていた。


彼こそが――。


これまで長い間、私が探し続けていた人なのではないか、と。


たとえ、私の年齢が彼とは釣り合わないとしても。


そして、私がギルドの会長という立場にあるとしても。


それでも……私は、彼にこれだけは伝えなければならない。


「……あなたに、話したいことがあるの」

1-9-2026

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