83.薔薇の秘密
「…………………」
余りの美しさ、その荘厳な佇まいに声も出ずに立ちつくす。
気付くと、スタンリーとロイくんも呆然と薔薇を眺めていた。
きっとこの美しさに圧倒されているのだろう。
エリオットやデュランは此処へ来た事が有るのだろう、わたしたちの反応を楽しそうに眺めている。
「満開になったのは昨夜辺りからなんだ」
王太子がポツリと呟く。
『王室の薔薇が咲き誇る時奇跡が起こる』
以前、聞いた伝説を思い出した。
「これが王国の薔薇」
王太子は小さく頷いてわたしの手を取った。
「王国の薔薇が咲き誇る時奇跡が起こる、それはずっと我が国で言い伝えられてきた伝説だが、王家には別の言い伝えがあるんだ」
「別の言い伝え?」
「そうだ。
王国の薔薇が現れる時、王宮の薔薇は蕾をつける。
王宮の薔薇が咲き誇る時、王国に平穏と繁栄が訪れる」
「薔薇が咲き誇る時?」
「そう、王宮の薔薇は王国の薔薇の心のバロメーターで、王国の薔薇が幸福ならばいつまでも咲き誇るそうだ」
そんな不思議な事が有るんだ。
「王国の薔薇は即ちロージー、君だ。
だから、ロージーがずっと幸せならば、この国もずっと平穏だと言う事だ」
わたしの幸福がこの国全体を左右する?
そんな大それた事が有るのだろうか。
それに、この国の幸福や繁栄がわたしひとりに掛かっているだなんて、到底受け入れられない。
そんな、重責には耐えられない。
「国を背負うと言われたら困惑するのは最もだ。
俺も今は王太子として、やがては王として、この国を導いていかなくてはならないから、その重さは重々承知している。
だが、ロージー、君に望むのは、今のそのままのロージーでいてくれる事だ。
ロージーが笑って毎日を過ごせれば、それだけでいい」
それなら大丈夫。
ちょっとした事で怒ったり、妬いたり、泣いたりしても、皆んなが側に居てくれれば、わたしは必ず笑顔になれる。
「きっとそれなら大丈夫だよ。
皆んなが側に居てくれたら、わたしはそれだけで十分幸せだから」
王太子は優しく笑い、わたしの手をぎゅっと握った。
「ありがとう、ロージー。
我が王国の薔薇」
ぐっ、その二つ名は慣れないな。
「それにロージー、もし君がこの国の為、もっと頑張ってくれる気持ちがあるなら、良い方法がある」
王太子はわたしの手を更にぎゅっと握って笑う。
「わ、わたしに出来る事なら」
「そうか!
例えば、この国がどうすればもっと良くなるか一緒に考えたり、他国の要人に会って貰ったり、国民に寄り添って貰ったり、」
「おい、王太子!」
エリオットが何だか珍しく血相を変えているけど、一緒に考えたり、国民に寄り添ったりするのはわたしでも出来そう。
他国の要人に会う?のはちょっと無理だけど。
「他国の要人に会うのは無理だけど」
「ロージー!!」
言葉を遮るエリオットにビックリして、思わず固まる。
「エリオット?」
エリオットは慌ててわたしを背に隠し、王太子から遠ざけた。
「王太子!どういうつもりだ?
まさか」
「まさか、じゃないよ、リオ。
問題は解決したのだから、リオとロージーの仮初めの婚約劇も終了だ。
これからは、皆が同じスタートラインに並び、ロージーの寵愛を得たものこそが正式な婚約者だ」
「えっ?」
ちょっと何言っているか分からない。
確かに、最初はマーフィー伯爵の愛人にされそうだったから、取り敢えずエリオットが婚約者になってくれた。
でもそれは、本当は裏に大きな反乱の動きがあって、それからわたしを守る為に皆んなが考えてくれた事で。
あれ?
でもエリオットはいつもわたしを大切にしてくれて愛しく思ってくれてるよね。
「俺は何れはロージーをこの国の国母としたい」




